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始まりの鐘。
オリヴァ―と少女たち②。
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バオル町が見えなくなり、しばらく黙って歩いているとモモネが話しかけてきた。
「これから王都に帰るんしょ?」
モモネの言葉に頷く。
「で? それからどうするん?」
「さぁな」
「さぁなって、オリヴァーは何か目標はないの?」
目標と言われても俺は今まで生きるためにクエストを受けたりしていただけで、考えたことはない。ただ闇の勇者としての宿命はあるがな。
「特に考えたことはない。目下の目標がレベル上げだけだ」
「ふーん。何かないん? 魔王を倒すとか、国を乗っ取るとか」
「前者は良いとしても、後者は王都で絶対に言うなよ。・・・目標と言われても、特にこれと言ったものはないな。死なないようにレベルを上げるくらいしか今までしてこなかったからな」
それと、誰とも仲良くならないように。忌み嫌われている故に、人間らしいことが何もされていなかった人生なんてこんなものだろう。
「そういうモモネたちは何か目標があるのか?」
俺がそう聞くと、モモネが少し悩んだ挙句、俺に待ったをかけてカンナとミユキの元へと寄って行った。そして止まって何かコソコソと話している。コソコソしていてもこの距離なら、スキル≪六感強化Lv.10≫があるから聞こえるのだが、聞こえないようにしておこう。
話し合いが結構かかりそうだったから、どのスキルを習得しようかとスキル一覧を見ていると、どうやら話が終わったようで三人そろってまじめな顔をして俺を見てきた。俺も画面を消して聞く態勢に入る。
「終わったか?」
「うん、終わった」
モモネが話すようだった。
「実は・・・あたしたちは別の世界から来た人間、いわゆる異世界転移してきた人間なの」
「あぁ、知ってる」
「信じてくれるとは思って・・・・・・え?」
俺の言葉を理解できていないようでモモネは俺の顔を凝視してくる。
「し、知ってるって、あたしたちが異世界転移してきたことを?」
「あぁ、そうだな」
「え、最初から知ってたの? もしかして王都の人間なの?」
「いや、違う。昨日出会った時は転移者だと知らなかったが、言葉の端々からこの世界の人間じゃないと言っているように聞こえたからな。それに俺のお得意先の情報屋が、数日前にこの世界に転移者が現れたという情報をくれたから三人がその転移者である可能性がよぎっていた。言葉の綾の可能性があったから俺からは何も言わなかったが、やはりそうだったのか」
「え・・・そんなに露骨だった?」
「だいぶ露骨だったぞ。俺がお前たちを異世界人だと知っている体で話していたくらいだ」
「マジ? でもすぐに信じるほど、こっちでは転移者は珍しくないの?」
「いや、異世界転移者や異世界転生者自体見るのは初めてだが、そういう人間がいることは伝説級に言い伝えられている。言い伝えがあるくらいだから、脚色されていてもいるんだろうと思っていたからな。信じるのは容易い」
「そう、なんだ。それは事細かく話す必要がなくてよかったし・・・それより、異世界転移者のあたしたちの目標は、あたしたちが住んでいた元の世界に戻ること」
「ほぉ、それは随分と大それた目標だな。で? それを俺に言ってどうするつもりだ?」
別の世界ということは次元移動が必要なのだろうから、そういうスキルを持っているやつを見つけるか、もしくは神にでも頼むか。
「オリヴァーが何か別の世界について戻る方法を知らないかと思っただけ。・・・でも、異世界転移者のことについてあまり知らなかったんなら、知らないよね?」
「あぁ、知らない。別次元の存在すら知らなかったからな」
だが、確かどこかにありとあらゆる知識を知れる図書館があると聞いたが、不確定だから伏せておこう。
「そ。でもあたしたちの目標はそういうことだから、何か情報が入ってきたら教えてほしいんだけど、良い?」
「構わないぞ。情報が手に入れば教えよう」
「マジで助かる! あんがと。助けられたのがオリヴァーで良かったとマジで思うわ」
闇ノ神の情愛のおかげで怒り・嫉妬・疑惑・裏切りなどの負の感情には敏感だが、こいつらからは負の感情は一切感じ取れない。つまりこいつらは俺を全面的に信用している。こんな簡単に人を信用しようとするんじゃない。だから三股もかけられるんだ、と俺は心の中で思った。
彼女たちの元の世界のことを話しながら王都に向かうが、日が暮れてきたため川に面している場所で夜営をすることにした。そこら辺の木の枝を燃料として炎魔法で火を起こし、容量拡張袋に入れていた湯を沸かすためのポットセットを出す。ポットに水を入れて沸騰させている間、俺はとある質問をする。
「モモネたちはどうやってバオル町まで行ったんだ?」
「どうって、今と同じように歩いてきたけど、それがどうしたん?」
モモネがさも当然かのように話すが、普通はしない。俺は普通じゃないから良いんだけど。
「王都からなら馬車があるだろ。馬車で来なかったのか?」
俺の言葉に三人はまた暗い顔になっていた。て言うか、次はなんだ?
「国王が使えないやつに出す金はないってさ」
カンナが代表して答えてくれた。
「国王? ・・・あぁ、この世界には国王に召喚されたのか。だが、召喚されたからにはこの世界に必要だったから呼んだんだろう。なのに何故使えないと言われたんだ?」
「えっと・・・何か私たちがいた世界で、英雄と成り得る可能性を持った人がまとまっている場所に狙いを定めてその範囲に召喚魔法を使ったらしいよ。だから私たちみたいな可能性がなくて力のないか弱い女子高生が巻き込まれたわけ」
「なるほど、それは迷惑極まりないことだ。その上面倒を見ないとは、さすがあの国王だ。性根が腐っている」
話を聞きながら、沸騰した湯が入っているポットの中に乾燥させたニガクナイツというハーブを入れて煮だし始める。
「オリヴァーも何か国王にされたの?」
「あの国王は、俺が闇の勇者と知った途端、この国に居ずらくなるような噂を流したり国が運営している商店を利用できなくなったりと、この国から追い出そうとしたことがあった」
「ほんっと、偉そうな奴は嫌い」
「まぁ、大体の王があんな感じだから気を付けておいたほうがいい」
しかし、王の中では実力主義で俺を買っている例外な王もいるがな。
「力がないということはスキルは何も持っていないのか?」
「いや、それぞれが一つずつスキルを持っているけど、どれも使えないと言われたスキルだよ」
「使えないスキル? どんなスキルだ?」
スキルのことについて言うのは、本来頭の可笑しいことだ。自身のステータスを晒しているのと同じ行為なんだからな。スキルのことを聞いた瞬間、それを思い出してカンナが言おうとした時に手を出して一旦止めた。
「喋るのは良いが、よく考えて喋るんだ。本来ステータスやスキルを言うのは、自分の弱点を言っているようなものだから、そこを突かれて奴隷にされた、なんて笑えないからな。会って数日の俺に喋るのもあまりお勧めしない」
「確かに。でも、私たちはオリヴァーのことを信用しているから、別に話しても良いと思っているから大丈夫」
カンナは俺の言葉を理解してもなお、俺に話そうとしている。
「どこからそんな信用が生まれるんだ。もし俺がお前らを騙して奴隷にしようとしていたらどうするんだ」
「え? 奴隷にするつもりなの?」
「するつもりはないが、そこで“はい”と答えるやつがいるわけがないだろ」
「大丈夫。私のスキルは≪真偽の加護≫だから、信用できるよ」
≪真偽の加護≫とは驚いた。この加護は相当レアな部類に入るスキルだ。裁判などかけるときに重宝されるスキルだ。≪真偽の加護≫のレベルを上げていけば、対人戦において強力なスキルへと派生していく。
「それは随分とレアなスキルだな」
「レアなスキルでも、戦闘では使えないクズスキルだって。確かに今のところこれと言って使えているところなんてないから、クズスキルなんだろうけど」
カンナは自嘲しながら暗い笑みを浮かべている。
「だが、そのスキルがあれば、元彼氏の言動に嘘があるか確認できていたんじゃないのか? そもそもスキル自体、元の世界で持っていたものなのか?」
「スキルはこっちの世界に来てから発現したよ。・・・で、元彼氏だけど、恋している相手には何が見えていても何も不思議には感じない、まさに恋は盲目」
「大体のやつがそうだろう。気にすることはない」
「・・・慰めてくれるの?」
「慰めじゃない。そもそも、お前たちは話を投げかけたら一々、暗い雰囲気を醸し出してくるからこっちが暗い雰囲気になる。少しくらい彼氏のことで暗くなるのはやめろ。笑い話に変えるくらいにしろ」
「・・・そうだね。暗い雰囲気になるとオリヴァーにまで迷惑がかかるからね」
「別に迷惑だとは言っていない。俺にどんな迷惑をかけても構わない。お前たちの面倒を見ている時点でそれは覚悟している。だがな、抱え込むのだけはやめろ。それが最大の迷惑だ」
抱え込む辛さは、抱え込んできた俺が一番知っている。それよりも、傷心の少女たちに漬け込んでいるとは、とんだ男だな、俺は。
俺の言葉にカンナは俺の方を見てしばらく瞬きをしているだけだったが、目をそっとそらして口を尖らしながら反応した。
「・・・傷心の乙女に、それは染みる」
「そうか。ならたっぷりと染みこませて耐性を作れ。で、モモネとミユキのスキルも聞いていいのか?」
話題を変えるべく、二人にもスキルを聞く。
「はい! 私は≪精神回復≫というスキルです」
ミユキが元気よくスキルを言ったが・・・これまた珍なスキルだな。回復系統で言えば、≪体力回復≫と≪魔力回復≫がある。
「≪精神回復≫か。確か治癒魔法では治せない心の傷を治すスキルだったな」
「そうです。私も戦いでは使えないスキルだ! って言われました」
ミユキも少し笑顔に暗さを感じる。だが、≪精神回復≫は結構使えるスキルだ。≪精神回復≫から派生するスキルで≪超精神力強化≫がある。ここ最近で使える場面と言えば、彼氏に捨てられた少女たちにかければそんなこと気にしないようになるとか、仲間が目の前でモンスターに殺されても、仲間の屍を越えていく! と言わんばかりに立ち上がる。いわゆる超ポジティブ洗脳と言えよう。今の≪精神回復≫でも前者はできる。
「国王は本当に見る目がない。≪精神回復≫も使えるスキルだ。自信を持て」
「本当ですか!? 良かったぁ~、モモネちゃんとカンナちゃんの足を引っ張りたくなかったから、本当に良かったぁ」
ミユキはすごく安堵しているのが分かるくらいにリラックスした態勢に入る。
「残りはモモネだな」
俺がモモネの方を見てそう言うと、目をそらして言いたくなさそうにしていた。
「言いたくないならそれで構わない。ただの興味本位だしな」
「・・・いや、言うし。あたしだけ一番使えないと思われるのが嫌だっただけだし」
「それは聞いて判断することだ」
「・・・あたしのスキルは≪透視≫。ほら、使えないでしょ?」
・・・・・・≪透視≫? いや、≪透視≫か。≪透視≫・・・≪透視≫!? ≪透視≫は派生しなくても使えるスキルのはずだ。もちろん、≪透視≫から派生するスキルで強力なものはあるが、≪透視≫は知られていないだけで使えるスキルのはずだ。
「黙っているってことは、かける言葉もないってことでしょ?」
俺が考え込んでいると、何を勘違いしたのか一層暗い顔をしている。
「喜べ、お前のスキルが一番使えるぞ」
「どうせ、使えな過ぎての慰めっしょ?」
俺が喜べと言っているのに、嘘だと決めつけて暗い顔をしているモモネにイラッとしてモモネの元へと行き頬をつねってやる。
「いふぁい!」
「俺がお前を慰める言葉をかける必要がどこにある。俺は言いたいことはハッキリと言うから安心して言葉を受け止めて喜べ」
俺の言葉にすごく頷いているため、頬を離す。話の腰が折れたため、ニガクナイツが丁度煮えたハーブティを四人それぞれのコップに注いで一息入れる。
「ふぅ。でだ、モモネ。お前の≪透視≫は相当レアなスキルだが、概念解釈でスキルを使える相当使えるスキルだ」
「・・・概念解釈? つまりどういうことだし」
モモネは俺の言葉にまだ疑問を抱いているようだった。
「つまり、広く解釈できるってことだ。≪透視≫で言えば、物理的に服を透かしたり壁を透かしたりということ以外にも、相手のステータスを透かして見ることや、極めれば何でも見えることのできる、使えるスキルだ」
「でも、それって戦いには使えないじゃん」
「戦いがすべてとは言わないし、戦いに使えるかどうかはそのスキルを保持している使い手次第だ。使い手が変われば、弱いスキルと言われているスキルだろうと強いスキルへと化けることだってある。≪伐採≫スキルは一見、木を切ることだけしかできないと思われがちだが、あれは常時筋力が大幅にアップしているスキルだ。斧を振ればとてつもない攻撃力を出せる。逆に≪斬撃≫という攻撃を飛ばせるスキルは、剣のスキルや腕が伴っていないと意味のない攻撃になってしまう。要は使えるかどうかは使い手の技量にかかっている」
「じゃ、じゃあ! あたしの≪透視≫はどんなことに使えんの!?」
「そうだな。例えば、視力や集中力を上げる≪眼力≫スキルと併せ持てば、筋肉の動きを≪透視≫と≪眼力≫で見て相手の動きを読んだりと色々できる」
「・・・何か色々とやる気が出てきた」
さっきまで暗かったのが嘘かのように、モモネは生気を取り戻した顔をしている。
「スキルは良いが、それよりもレベルはいくつなんだ?」
大前提としてレベルの恩恵を受けていないと、スキルが良くても意味がない。
「え、1だけど」
「同じく1」
「私も1です!」
・・・聞き間違いか? 1と聞こえたんだが。
「1?」
「だから1だって」
これは至急レベル上げから始めないとどうにもならない。いやしかし、もしかしたら初期ステータス値が高いのかもしれない。
「ステータス値は?」
俺がそう言うと三人はステータス画面を開くような素振りをしている。もちろん他の人には何をしているかなんて分からないような仕様になっている。
「あたしからね。筋力:101・物理耐久力:151・速力:105・技術力:130・魔法耐久力:127・魔力:209」
「じゃあ次は私。筋力:98・物理耐久力:107・速力:113:技術力:140:魔法耐久力:153・魔力:164」
「最後は私ですね。筋力:131・物理耐久力:208・速力:118:技術力:116:魔法耐久力:199・魔力:87です」
モモネ・カンナ・ミユキの順に教えてくれたが・・・レベル1にしては高い方か。大体が100を超えてからFランク冒険者、つまり冒険者になれる。だが、心がステータス値に追いついていないのだろう。だから上手く動けない。ここまでの道のりでモンスターが出現しても逃げ回っているだけだった。元の世界だと平和だと聞いているから、それも要因かもしれない。
「あたしたちは教えたんだから、オリヴァーも教えてくれないと不公平だよね?」
モモネが最ものことを言ってくる。
「教えても良い。だが、練習がてらその≪透視≫スキルで俺のステータスを覗き見ればいい」
「え・・・どうやってやんの?」
「どうやってって、俺はそのスキルを持っていないから分からないが、自分のステータスを出す感じで俺のステータスも出したら良いんじゃないのか?」
「・・・分かったし」
モモネは分かったような分かっていないような顔をしながら、俺の方を目力を入れて凝視してくる。しばらく待っても一向に見えたという反応がない。
「あぁっ! どうやっても見えないんだけど!」
「怒るな。俺がステータス画面を出していた方が見えやすいのかもしれない」
俺は自分のステータスを可視化した。
『名前:オリヴァー・バトラー
種族:人間
年齢:二十二
職業:闇の帝王
称号:闇夜深める帝王
≪スキル≫
≪闇ノ神の情愛≫・≪闇落ち≫・≪帝王従属≫・≪重力操作≫・≪言語共有≫・≪明鏡止水≫・≪六感強化Lv.10≫・≪身体能力上昇Lv.10≫・≪超速再生Lv.10≫・≪魔力察知≫・≪気配察知≫・≪気配遮断≫・≪気配追尾≫・≪気迫Lv.10≫・≪騎乗Lv.10≫・≪体術Lv.10≫・≪武装術Lv.10≫・≪魔力武装≫・≪魔力纏身≫・≪魔力回収≫・≪全物理耐性Lv.10≫・≪全属性耐性Lv.10≫・≪全物理反射Lv.10≫・≪全魔力反射Lv.10≫・≪背水の陣≫・≪採取Lv.10≫・≪調合Lv.10≫・≪錬成LV.10≫』
『オリヴァー・バトラー Lv.193
筋力:244536(+100000)
物理耐久力:242916(+100000)
速力:251006(+100000)
技術力:250808(+100000)
魔法耐久力:243166(+100000)
魔力:259097(+100000)』
「あ、ようやく見え・・・・・・た」
どうやらモモネの今の段階では本人がステータスを出していないと見えないようだが、モモネは俺のステータスを見て固まっている。
「何だしこのステータス!? それにレベルも桁違いじゃん!」
急に大きな声を出したモモネに他の二人はビックリしていた。カンナがモモネの方を少し睨めつけているように見ながら問いかける。
「大きな声を出して何?」
「だって、え、何これ? スキルがいっぱいあるし、レベルが193で、ステータス値が全部・・・25万代になってる」
「・・・は? 25万って、そんなわけない。数え間違えじゃない?」
「・・・ううん、間違いないし」
「あぁ、間違えていない。俺のステータスはすべて25万前後だ」
俺がそう言うと、モモネとカンナはまたしても固まっていたが、ミユキが手を挙げて発言した。
「はいはい、ステータス値によって冒険者ランクの基準がありましたよね? 25万ってどの部類に入るんですか?」
「あるが、どの部類に入るか、か」
一般的に言えば、1~100までが一般人。101~1000がFランク~Cランク冒険者。1001~10000がBランク~Aランク冒険者。そして10000からがSランク冒険者で、人間の基本ステータスの上限が100000とされている。つまりSランク冒険者の括りは10000~100000ということになる。ここで、俺がどの部類に入るかだが・・・あえて部類分けするのならSランク冒険者の括りを越えているがSランク冒険者だろう。
「10000からがSランク冒険者と言われるから、Sランク冒険者だな」
「へぇ~、すごいんですね。・・・でも、そのお若いのにそんなにレベルが上がるものなのですね。確か一生でレベル100行けばいい方と誰かが言っていましたけど、どうしてそこまでレベルが上がっているのですか?」
「それは俺の≪闇ノ神の情愛≫のスキルのおかげだ」
「≪闇ノ神の情愛≫、ですか? レベルが上がりやすくなるとか、経験値アップとかそういう効果なのですか?」
「いや、そんな単純なものではない。このスキルを所有していると俺はモンスターなどを倒しても経験値は入らないようになっている」
「えっ!? じゃあどうやってレベルを上げているのですか?」
「それはこのスキルのおかげだ。このスキルを持っていると経験値を一切得られない代わりに、どんな英雄足り得る事柄だろうと、どんな些細な事柄だろうと、闇ノ神が気まぐれでレベルの上りが左右される。気まぐれだから、レベル54の時に一人でSランクのモンスターを倒してもレベルは上がらなかった。逆に新しい戦い方をして低レベルのモンスターを倒した時にレベルが上がったりと本当に気まぐれだ」
このスキルでこのレベルまで上がったが、このスキルの真骨頂はこれではない。だが、真骨頂は使わないと決めている。それを使ってしまえば、俺は闇ノ神の思い通りになり面白くない。
「お前たちは元の世界に変える方法を探しているんだったな?」
「はい、そうです!」
「そうだし」
「そう」
俺の問いかけにミユキとモモネとカンナはすぐさま答えた。
「なら、この世界を己の力で生き延びなければならない。弱いものは淘汰されるこの世界で。平和に生きていたというお前らにそれができるか? できなければ今のうちに言っておけ、俺はできないやつの面倒を見るほど優しくはないぞ」
三人に覚悟を問うと、すぐにカンナが返事をした。
「できる。早く帰って、お風呂に入って、テレビを見て、ベットに入って惰眠をむさぼりながら電話をしたりして元の生活に戻りたいから」
「そうか。だが、お前たちが今日逃げ回っていたモンスターに立ち向かわなければならないんだぞ? それでもできるのか?」
「たぶんできる。スキルもあるし、何よりオリヴァーもいる。甘えたことを言うけど、危なくなったらオリヴァーが助けてくれるんでしょ?」
「確かに甘えたことだが、死なれたら困るからな。さて、モモネとミユキはどうだ?」
すぐに返事をしなかった二人を見るが、二人とも何かに引っかかっているようだった。ミユキは何かを悩んでいる顔をしており、モモネは渋い顔をしている。
「う~ん。私って、みんなから遅いとか緩いって言われているので、モンスターを倒せるかどうかが分からないのですけど、私にもできますか?」
悩んでいたのはそこか。
「大丈夫だろう、必死にやれば。だが、必死にやってもできなければ他の方法を試せばいい。自分がしっくりとくる方法を探せばいいだろう。近接がダメなら・・・そうだな。例えば≪精神回復≫を敵に対して使い、精神異常をきたすとか方法は色々とある。要はやる気があるかの問題だ」
「それならあります。どすどかと襲ってくるゴブリンを返り討ちに合わせてやるんだから」
ミユキのやる気は十分のようだ。・・・残りの一人はどうだろうか。
「最後はモモネだが?」
「・・・あたし、無理かも」
「どうしてだ?」
「モンスターって言っても、生き物でしょ? 生き物を殺すなんて、できない」
「生き物と言っても、俺たちを殺しにかかっているんだぞ? 先のゴブリンのように。それとも殺したくないから殺さないでくださいとか殺してくださいとか言っているのか?」
「そうじゃないけど・・・やっぱり生き物を殺すとなると、どうにも踏み切れない」
こいつの中身は本当に甘ったれている。見た目だけなら三人の中で一番殺しに積極的に見えるが、本当のところ、一番積極的なのはミユキだな。
「お前だけ生き物を殺したくないから、手を汚さずにいると? 甘えるな。お前らの仲だ、お前が殺したくないと言っても二人はそれを許容し、元の世界に帰れる方法が分かると何もしていないお前も一緒に帰らせてくれるんだろうな。まだお前が一切モンスターと戦えないというのなら他の補助要員として生きられるだろう。だがな、お前らは立派に戦える力を持っているんだろうが。・・・お前が二人の足を引っ張って何も思わないと思うのなら、話は別だがな」
俺の言葉にモモネは俺の方を睨めつけたが、すぐにそらして目を力を込めて閉じた。
「別にモモネができないって言うなら、私たちで頑張るよ? それにカンナのスキルでサポートしてくれた方が戦いやすいと思うから、どちらでも良いよ」
「そうだよ。私がこうやって明るく喋れるのはモモネのおかげなんだから、ここで私に恩返しさせて?」
カンナとミユキがモモネに優しい言葉を投げかける。モモネはしばらく目を閉じていたが、目を開けると決心がついた力強い瞳でこちらを見てきた。
「やるし。あたしだけ逃げなんて格好悪いから」
「よし、良いだろう。明日からしばらく俺が面倒を見よう。明日のために今日はしっかりと食べて休むぞ」
俺は袋から保存していた肉と肉焼きセットを取り出し、適当に晩飯をふるまい、寝袋を人数分取り出して三人は就寝した。俺は周りを監視しておかないといけないから、その日はずっと起きたままであった。
「これから王都に帰るんしょ?」
モモネの言葉に頷く。
「で? それからどうするん?」
「さぁな」
「さぁなって、オリヴァーは何か目標はないの?」
目標と言われても俺は今まで生きるためにクエストを受けたりしていただけで、考えたことはない。ただ闇の勇者としての宿命はあるがな。
「特に考えたことはない。目下の目標がレベル上げだけだ」
「ふーん。何かないん? 魔王を倒すとか、国を乗っ取るとか」
「前者は良いとしても、後者は王都で絶対に言うなよ。・・・目標と言われても、特にこれと言ったものはないな。死なないようにレベルを上げるくらいしか今までしてこなかったからな」
それと、誰とも仲良くならないように。忌み嫌われている故に、人間らしいことが何もされていなかった人生なんてこんなものだろう。
「そういうモモネたちは何か目標があるのか?」
俺がそう聞くと、モモネが少し悩んだ挙句、俺に待ったをかけてカンナとミユキの元へと寄って行った。そして止まって何かコソコソと話している。コソコソしていてもこの距離なら、スキル≪六感強化Lv.10≫があるから聞こえるのだが、聞こえないようにしておこう。
話し合いが結構かかりそうだったから、どのスキルを習得しようかとスキル一覧を見ていると、どうやら話が終わったようで三人そろってまじめな顔をして俺を見てきた。俺も画面を消して聞く態勢に入る。
「終わったか?」
「うん、終わった」
モモネが話すようだった。
「実は・・・あたしたちは別の世界から来た人間、いわゆる異世界転移してきた人間なの」
「あぁ、知ってる」
「信じてくれるとは思って・・・・・・え?」
俺の言葉を理解できていないようでモモネは俺の顔を凝視してくる。
「し、知ってるって、あたしたちが異世界転移してきたことを?」
「あぁ、そうだな」
「え、最初から知ってたの? もしかして王都の人間なの?」
「いや、違う。昨日出会った時は転移者だと知らなかったが、言葉の端々からこの世界の人間じゃないと言っているように聞こえたからな。それに俺のお得意先の情報屋が、数日前にこの世界に転移者が現れたという情報をくれたから三人がその転移者である可能性がよぎっていた。言葉の綾の可能性があったから俺からは何も言わなかったが、やはりそうだったのか」
「え・・・そんなに露骨だった?」
「だいぶ露骨だったぞ。俺がお前たちを異世界人だと知っている体で話していたくらいだ」
「マジ? でもすぐに信じるほど、こっちでは転移者は珍しくないの?」
「いや、異世界転移者や異世界転生者自体見るのは初めてだが、そういう人間がいることは伝説級に言い伝えられている。言い伝えがあるくらいだから、脚色されていてもいるんだろうと思っていたからな。信じるのは容易い」
「そう、なんだ。それは事細かく話す必要がなくてよかったし・・・それより、異世界転移者のあたしたちの目標は、あたしたちが住んでいた元の世界に戻ること」
「ほぉ、それは随分と大それた目標だな。で? それを俺に言ってどうするつもりだ?」
別の世界ということは次元移動が必要なのだろうから、そういうスキルを持っているやつを見つけるか、もしくは神にでも頼むか。
「オリヴァーが何か別の世界について戻る方法を知らないかと思っただけ。・・・でも、異世界転移者のことについてあまり知らなかったんなら、知らないよね?」
「あぁ、知らない。別次元の存在すら知らなかったからな」
だが、確かどこかにありとあらゆる知識を知れる図書館があると聞いたが、不確定だから伏せておこう。
「そ。でもあたしたちの目標はそういうことだから、何か情報が入ってきたら教えてほしいんだけど、良い?」
「構わないぞ。情報が手に入れば教えよう」
「マジで助かる! あんがと。助けられたのがオリヴァーで良かったとマジで思うわ」
闇ノ神の情愛のおかげで怒り・嫉妬・疑惑・裏切りなどの負の感情には敏感だが、こいつらからは負の感情は一切感じ取れない。つまりこいつらは俺を全面的に信用している。こんな簡単に人を信用しようとするんじゃない。だから三股もかけられるんだ、と俺は心の中で思った。
彼女たちの元の世界のことを話しながら王都に向かうが、日が暮れてきたため川に面している場所で夜営をすることにした。そこら辺の木の枝を燃料として炎魔法で火を起こし、容量拡張袋に入れていた湯を沸かすためのポットセットを出す。ポットに水を入れて沸騰させている間、俺はとある質問をする。
「モモネたちはどうやってバオル町まで行ったんだ?」
「どうって、今と同じように歩いてきたけど、それがどうしたん?」
モモネがさも当然かのように話すが、普通はしない。俺は普通じゃないから良いんだけど。
「王都からなら馬車があるだろ。馬車で来なかったのか?」
俺の言葉に三人はまた暗い顔になっていた。て言うか、次はなんだ?
「国王が使えないやつに出す金はないってさ」
カンナが代表して答えてくれた。
「国王? ・・・あぁ、この世界には国王に召喚されたのか。だが、召喚されたからにはこの世界に必要だったから呼んだんだろう。なのに何故使えないと言われたんだ?」
「えっと・・・何か私たちがいた世界で、英雄と成り得る可能性を持った人がまとまっている場所に狙いを定めてその範囲に召喚魔法を使ったらしいよ。だから私たちみたいな可能性がなくて力のないか弱い女子高生が巻き込まれたわけ」
「なるほど、それは迷惑極まりないことだ。その上面倒を見ないとは、さすがあの国王だ。性根が腐っている」
話を聞きながら、沸騰した湯が入っているポットの中に乾燥させたニガクナイツというハーブを入れて煮だし始める。
「オリヴァーも何か国王にされたの?」
「あの国王は、俺が闇の勇者と知った途端、この国に居ずらくなるような噂を流したり国が運営している商店を利用できなくなったりと、この国から追い出そうとしたことがあった」
「ほんっと、偉そうな奴は嫌い」
「まぁ、大体の王があんな感じだから気を付けておいたほうがいい」
しかし、王の中では実力主義で俺を買っている例外な王もいるがな。
「力がないということはスキルは何も持っていないのか?」
「いや、それぞれが一つずつスキルを持っているけど、どれも使えないと言われたスキルだよ」
「使えないスキル? どんなスキルだ?」
スキルのことについて言うのは、本来頭の可笑しいことだ。自身のステータスを晒しているのと同じ行為なんだからな。スキルのことを聞いた瞬間、それを思い出してカンナが言おうとした時に手を出して一旦止めた。
「喋るのは良いが、よく考えて喋るんだ。本来ステータスやスキルを言うのは、自分の弱点を言っているようなものだから、そこを突かれて奴隷にされた、なんて笑えないからな。会って数日の俺に喋るのもあまりお勧めしない」
「確かに。でも、私たちはオリヴァーのことを信用しているから、別に話しても良いと思っているから大丈夫」
カンナは俺の言葉を理解してもなお、俺に話そうとしている。
「どこからそんな信用が生まれるんだ。もし俺がお前らを騙して奴隷にしようとしていたらどうするんだ」
「え? 奴隷にするつもりなの?」
「するつもりはないが、そこで“はい”と答えるやつがいるわけがないだろ」
「大丈夫。私のスキルは≪真偽の加護≫だから、信用できるよ」
≪真偽の加護≫とは驚いた。この加護は相当レアな部類に入るスキルだ。裁判などかけるときに重宝されるスキルだ。≪真偽の加護≫のレベルを上げていけば、対人戦において強力なスキルへと派生していく。
「それは随分とレアなスキルだな」
「レアなスキルでも、戦闘では使えないクズスキルだって。確かに今のところこれと言って使えているところなんてないから、クズスキルなんだろうけど」
カンナは自嘲しながら暗い笑みを浮かべている。
「だが、そのスキルがあれば、元彼氏の言動に嘘があるか確認できていたんじゃないのか? そもそもスキル自体、元の世界で持っていたものなのか?」
「スキルはこっちの世界に来てから発現したよ。・・・で、元彼氏だけど、恋している相手には何が見えていても何も不思議には感じない、まさに恋は盲目」
「大体のやつがそうだろう。気にすることはない」
「・・・慰めてくれるの?」
「慰めじゃない。そもそも、お前たちは話を投げかけたら一々、暗い雰囲気を醸し出してくるからこっちが暗い雰囲気になる。少しくらい彼氏のことで暗くなるのはやめろ。笑い話に変えるくらいにしろ」
「・・・そうだね。暗い雰囲気になるとオリヴァーにまで迷惑がかかるからね」
「別に迷惑だとは言っていない。俺にどんな迷惑をかけても構わない。お前たちの面倒を見ている時点でそれは覚悟している。だがな、抱え込むのだけはやめろ。それが最大の迷惑だ」
抱え込む辛さは、抱え込んできた俺が一番知っている。それよりも、傷心の少女たちに漬け込んでいるとは、とんだ男だな、俺は。
俺の言葉にカンナは俺の方を見てしばらく瞬きをしているだけだったが、目をそっとそらして口を尖らしながら反応した。
「・・・傷心の乙女に、それは染みる」
「そうか。ならたっぷりと染みこませて耐性を作れ。で、モモネとミユキのスキルも聞いていいのか?」
話題を変えるべく、二人にもスキルを聞く。
「はい! 私は≪精神回復≫というスキルです」
ミユキが元気よくスキルを言ったが・・・これまた珍なスキルだな。回復系統で言えば、≪体力回復≫と≪魔力回復≫がある。
「≪精神回復≫か。確か治癒魔法では治せない心の傷を治すスキルだったな」
「そうです。私も戦いでは使えないスキルだ! って言われました」
ミユキも少し笑顔に暗さを感じる。だが、≪精神回復≫は結構使えるスキルだ。≪精神回復≫から派生するスキルで≪超精神力強化≫がある。ここ最近で使える場面と言えば、彼氏に捨てられた少女たちにかければそんなこと気にしないようになるとか、仲間が目の前でモンスターに殺されても、仲間の屍を越えていく! と言わんばかりに立ち上がる。いわゆる超ポジティブ洗脳と言えよう。今の≪精神回復≫でも前者はできる。
「国王は本当に見る目がない。≪精神回復≫も使えるスキルだ。自信を持て」
「本当ですか!? 良かったぁ~、モモネちゃんとカンナちゃんの足を引っ張りたくなかったから、本当に良かったぁ」
ミユキはすごく安堵しているのが分かるくらいにリラックスした態勢に入る。
「残りはモモネだな」
俺がモモネの方を見てそう言うと、目をそらして言いたくなさそうにしていた。
「言いたくないならそれで構わない。ただの興味本位だしな」
「・・・いや、言うし。あたしだけ一番使えないと思われるのが嫌だっただけだし」
「それは聞いて判断することだ」
「・・・あたしのスキルは≪透視≫。ほら、使えないでしょ?」
・・・・・・≪透視≫? いや、≪透視≫か。≪透視≫・・・≪透視≫!? ≪透視≫は派生しなくても使えるスキルのはずだ。もちろん、≪透視≫から派生するスキルで強力なものはあるが、≪透視≫は知られていないだけで使えるスキルのはずだ。
「黙っているってことは、かける言葉もないってことでしょ?」
俺が考え込んでいると、何を勘違いしたのか一層暗い顔をしている。
「喜べ、お前のスキルが一番使えるぞ」
「どうせ、使えな過ぎての慰めっしょ?」
俺が喜べと言っているのに、嘘だと決めつけて暗い顔をしているモモネにイラッとしてモモネの元へと行き頬をつねってやる。
「いふぁい!」
「俺がお前を慰める言葉をかける必要がどこにある。俺は言いたいことはハッキリと言うから安心して言葉を受け止めて喜べ」
俺の言葉にすごく頷いているため、頬を離す。話の腰が折れたため、ニガクナイツが丁度煮えたハーブティを四人それぞれのコップに注いで一息入れる。
「ふぅ。でだ、モモネ。お前の≪透視≫は相当レアなスキルだが、概念解釈でスキルを使える相当使えるスキルだ」
「・・・概念解釈? つまりどういうことだし」
モモネは俺の言葉にまだ疑問を抱いているようだった。
「つまり、広く解釈できるってことだ。≪透視≫で言えば、物理的に服を透かしたり壁を透かしたりということ以外にも、相手のステータスを透かして見ることや、極めれば何でも見えることのできる、使えるスキルだ」
「でも、それって戦いには使えないじゃん」
「戦いがすべてとは言わないし、戦いに使えるかどうかはそのスキルを保持している使い手次第だ。使い手が変われば、弱いスキルと言われているスキルだろうと強いスキルへと化けることだってある。≪伐採≫スキルは一見、木を切ることだけしかできないと思われがちだが、あれは常時筋力が大幅にアップしているスキルだ。斧を振ればとてつもない攻撃力を出せる。逆に≪斬撃≫という攻撃を飛ばせるスキルは、剣のスキルや腕が伴っていないと意味のない攻撃になってしまう。要は使えるかどうかは使い手の技量にかかっている」
「じゃ、じゃあ! あたしの≪透視≫はどんなことに使えんの!?」
「そうだな。例えば、視力や集中力を上げる≪眼力≫スキルと併せ持てば、筋肉の動きを≪透視≫と≪眼力≫で見て相手の動きを読んだりと色々できる」
「・・・何か色々とやる気が出てきた」
さっきまで暗かったのが嘘かのように、モモネは生気を取り戻した顔をしている。
「スキルは良いが、それよりもレベルはいくつなんだ?」
大前提としてレベルの恩恵を受けていないと、スキルが良くても意味がない。
「え、1だけど」
「同じく1」
「私も1です!」
・・・聞き間違いか? 1と聞こえたんだが。
「1?」
「だから1だって」
これは至急レベル上げから始めないとどうにもならない。いやしかし、もしかしたら初期ステータス値が高いのかもしれない。
「ステータス値は?」
俺がそう言うと三人はステータス画面を開くような素振りをしている。もちろん他の人には何をしているかなんて分からないような仕様になっている。
「あたしからね。筋力:101・物理耐久力:151・速力:105・技術力:130・魔法耐久力:127・魔力:209」
「じゃあ次は私。筋力:98・物理耐久力:107・速力:113:技術力:140:魔法耐久力:153・魔力:164」
「最後は私ですね。筋力:131・物理耐久力:208・速力:118:技術力:116:魔法耐久力:199・魔力:87です」
モモネ・カンナ・ミユキの順に教えてくれたが・・・レベル1にしては高い方か。大体が100を超えてからFランク冒険者、つまり冒険者になれる。だが、心がステータス値に追いついていないのだろう。だから上手く動けない。ここまでの道のりでモンスターが出現しても逃げ回っているだけだった。元の世界だと平和だと聞いているから、それも要因かもしれない。
「あたしたちは教えたんだから、オリヴァーも教えてくれないと不公平だよね?」
モモネが最ものことを言ってくる。
「教えても良い。だが、練習がてらその≪透視≫スキルで俺のステータスを覗き見ればいい」
「え・・・どうやってやんの?」
「どうやってって、俺はそのスキルを持っていないから分からないが、自分のステータスを出す感じで俺のステータスも出したら良いんじゃないのか?」
「・・・分かったし」
モモネは分かったような分かっていないような顔をしながら、俺の方を目力を入れて凝視してくる。しばらく待っても一向に見えたという反応がない。
「あぁっ! どうやっても見えないんだけど!」
「怒るな。俺がステータス画面を出していた方が見えやすいのかもしれない」
俺は自分のステータスを可視化した。
『名前:オリヴァー・バトラー
種族:人間
年齢:二十二
職業:闇の帝王
称号:闇夜深める帝王
≪スキル≫
≪闇ノ神の情愛≫・≪闇落ち≫・≪帝王従属≫・≪重力操作≫・≪言語共有≫・≪明鏡止水≫・≪六感強化Lv.10≫・≪身体能力上昇Lv.10≫・≪超速再生Lv.10≫・≪魔力察知≫・≪気配察知≫・≪気配遮断≫・≪気配追尾≫・≪気迫Lv.10≫・≪騎乗Lv.10≫・≪体術Lv.10≫・≪武装術Lv.10≫・≪魔力武装≫・≪魔力纏身≫・≪魔力回収≫・≪全物理耐性Lv.10≫・≪全属性耐性Lv.10≫・≪全物理反射Lv.10≫・≪全魔力反射Lv.10≫・≪背水の陣≫・≪採取Lv.10≫・≪調合Lv.10≫・≪錬成LV.10≫』
『オリヴァー・バトラー Lv.193
筋力:244536(+100000)
物理耐久力:242916(+100000)
速力:251006(+100000)
技術力:250808(+100000)
魔法耐久力:243166(+100000)
魔力:259097(+100000)』
「あ、ようやく見え・・・・・・た」
どうやらモモネの今の段階では本人がステータスを出していないと見えないようだが、モモネは俺のステータスを見て固まっている。
「何だしこのステータス!? それにレベルも桁違いじゃん!」
急に大きな声を出したモモネに他の二人はビックリしていた。カンナがモモネの方を少し睨めつけているように見ながら問いかける。
「大きな声を出して何?」
「だって、え、何これ? スキルがいっぱいあるし、レベルが193で、ステータス値が全部・・・25万代になってる」
「・・・は? 25万って、そんなわけない。数え間違えじゃない?」
「・・・ううん、間違いないし」
「あぁ、間違えていない。俺のステータスはすべて25万前後だ」
俺がそう言うと、モモネとカンナはまたしても固まっていたが、ミユキが手を挙げて発言した。
「はいはい、ステータス値によって冒険者ランクの基準がありましたよね? 25万ってどの部類に入るんですか?」
「あるが、どの部類に入るか、か」
一般的に言えば、1~100までが一般人。101~1000がFランク~Cランク冒険者。1001~10000がBランク~Aランク冒険者。そして10000からがSランク冒険者で、人間の基本ステータスの上限が100000とされている。つまりSランク冒険者の括りは10000~100000ということになる。ここで、俺がどの部類に入るかだが・・・あえて部類分けするのならSランク冒険者の括りを越えているがSランク冒険者だろう。
「10000からがSランク冒険者と言われるから、Sランク冒険者だな」
「へぇ~、すごいんですね。・・・でも、そのお若いのにそんなにレベルが上がるものなのですね。確か一生でレベル100行けばいい方と誰かが言っていましたけど、どうしてそこまでレベルが上がっているのですか?」
「それは俺の≪闇ノ神の情愛≫のスキルのおかげだ」
「≪闇ノ神の情愛≫、ですか? レベルが上がりやすくなるとか、経験値アップとかそういう効果なのですか?」
「いや、そんな単純なものではない。このスキルを所有していると俺はモンスターなどを倒しても経験値は入らないようになっている」
「えっ!? じゃあどうやってレベルを上げているのですか?」
「それはこのスキルのおかげだ。このスキルを持っていると経験値を一切得られない代わりに、どんな英雄足り得る事柄だろうと、どんな些細な事柄だろうと、闇ノ神が気まぐれでレベルの上りが左右される。気まぐれだから、レベル54の時に一人でSランクのモンスターを倒してもレベルは上がらなかった。逆に新しい戦い方をして低レベルのモンスターを倒した時にレベルが上がったりと本当に気まぐれだ」
このスキルでこのレベルまで上がったが、このスキルの真骨頂はこれではない。だが、真骨頂は使わないと決めている。それを使ってしまえば、俺は闇ノ神の思い通りになり面白くない。
「お前たちは元の世界に変える方法を探しているんだったな?」
「はい、そうです!」
「そうだし」
「そう」
俺の問いかけにミユキとモモネとカンナはすぐさま答えた。
「なら、この世界を己の力で生き延びなければならない。弱いものは淘汰されるこの世界で。平和に生きていたというお前らにそれができるか? できなければ今のうちに言っておけ、俺はできないやつの面倒を見るほど優しくはないぞ」
三人に覚悟を問うと、すぐにカンナが返事をした。
「できる。早く帰って、お風呂に入って、テレビを見て、ベットに入って惰眠をむさぼりながら電話をしたりして元の生活に戻りたいから」
「そうか。だが、お前たちが今日逃げ回っていたモンスターに立ち向かわなければならないんだぞ? それでもできるのか?」
「たぶんできる。スキルもあるし、何よりオリヴァーもいる。甘えたことを言うけど、危なくなったらオリヴァーが助けてくれるんでしょ?」
「確かに甘えたことだが、死なれたら困るからな。さて、モモネとミユキはどうだ?」
すぐに返事をしなかった二人を見るが、二人とも何かに引っかかっているようだった。ミユキは何かを悩んでいる顔をしており、モモネは渋い顔をしている。
「う~ん。私って、みんなから遅いとか緩いって言われているので、モンスターを倒せるかどうかが分からないのですけど、私にもできますか?」
悩んでいたのはそこか。
「大丈夫だろう、必死にやれば。だが、必死にやってもできなければ他の方法を試せばいい。自分がしっくりとくる方法を探せばいいだろう。近接がダメなら・・・そうだな。例えば≪精神回復≫を敵に対して使い、精神異常をきたすとか方法は色々とある。要はやる気があるかの問題だ」
「それならあります。どすどかと襲ってくるゴブリンを返り討ちに合わせてやるんだから」
ミユキのやる気は十分のようだ。・・・残りの一人はどうだろうか。
「最後はモモネだが?」
「・・・あたし、無理かも」
「どうしてだ?」
「モンスターって言っても、生き物でしょ? 生き物を殺すなんて、できない」
「生き物と言っても、俺たちを殺しにかかっているんだぞ? 先のゴブリンのように。それとも殺したくないから殺さないでくださいとか殺してくださいとか言っているのか?」
「そうじゃないけど・・・やっぱり生き物を殺すとなると、どうにも踏み切れない」
こいつの中身は本当に甘ったれている。見た目だけなら三人の中で一番殺しに積極的に見えるが、本当のところ、一番積極的なのはミユキだな。
「お前だけ生き物を殺したくないから、手を汚さずにいると? 甘えるな。お前らの仲だ、お前が殺したくないと言っても二人はそれを許容し、元の世界に帰れる方法が分かると何もしていないお前も一緒に帰らせてくれるんだろうな。まだお前が一切モンスターと戦えないというのなら他の補助要員として生きられるだろう。だがな、お前らは立派に戦える力を持っているんだろうが。・・・お前が二人の足を引っ張って何も思わないと思うのなら、話は別だがな」
俺の言葉にモモネは俺の方を睨めつけたが、すぐにそらして目を力を込めて閉じた。
「別にモモネができないって言うなら、私たちで頑張るよ? それにカンナのスキルでサポートしてくれた方が戦いやすいと思うから、どちらでも良いよ」
「そうだよ。私がこうやって明るく喋れるのはモモネのおかげなんだから、ここで私に恩返しさせて?」
カンナとミユキがモモネに優しい言葉を投げかける。モモネはしばらく目を閉じていたが、目を開けると決心がついた力強い瞳でこちらを見てきた。
「やるし。あたしだけ逃げなんて格好悪いから」
「よし、良いだろう。明日からしばらく俺が面倒を見よう。明日のために今日はしっかりと食べて休むぞ」
俺は袋から保存していた肉と肉焼きセットを取り出し、適当に晩飯をふるまい、寝袋を人数分取り出して三人は就寝した。俺は周りを監視しておかないといけないから、その日はずっと起きたままであった。
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