ヤンヤンデレデレデレ

山椒

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07:ヤンデレヒロインの逆襲。

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 椿先輩は生徒会の仕事があるとかで俺にもう一度公衆の面前でキスをして去ったことで俺はそそくさとクラスへと戻っていく。

 だが顔写真が張り出されていることで、学校中で俺に視線が向けられることになっているからどうしようもなかった。

 何とかクラスに戻っても、クラスメイトたちも俺の方に視線を向けており、モブである俺に対して疑惑・嫉妬・嫌悪など様々な言葉が飛び交っていた。

 もうこれはどうにもできないのではないかと思ってしまっているわけで、スキルか魔道具で記憶操作しないとどうにもできないところまで来ている。

 だがスキルについては、すべての人が習得できるスキルしか習得できない体質だから記憶操作のスキルは覚えれない。

 だからどうにかして魔道具を見つけないといけないけど、そういう攻撃に特化していない魔道具は滅多に出てこない。

 どうしても攻撃特化や防御特化の魔道具が占めているのは、ダンジョン攻略でそれが有効だからだ。

 絡めてや幻覚を見せてくるモンスターはいるにはいるが、結局はステータス値が高ければ効かないし攻撃力が高ければそれだけで脅威になる。

 もちろん技術は必要だが、技術だけではどうにもできない圧倒的なパワーが存在する場合は、こちらも圧倒的なパワーを出せなければ負ける。

 話がそれたが、つまりはこの状況をどうにかするためには、ダンジョンに入り浸って滅多に出ない記憶操作系の魔道具を見つけることをしないと俺のモブライフは戻ってこないということだ。

 ただ、それをするためには邪魔をする人が椿先輩以外にもいるということを考えていないといけないということで。

「おはよう、レンくん」

 負の視線しか向けられていない俺に声をかけてきたのは、俺と同じクラスの日向だった。

「お、おはよう。……日向、だったか?」

 クラスでは日向と全く話していなかったから、こうして初対面のフリをしないと。

「レンくんと私は一緒の家に住んでいるんだから、何でそんなことを今更聞くの?」

 あ……あああぁっ、あああああー……もうダメだ! ダンジョンに行こう!

 俺と日向の会話に耳を傾けていた周りは、日向がそんなことを言い放ったことでざわついている。

 さっきの椿先輩の件も学校中に広まっているから、もうこの話も広まることは目に見えている。

「レンくん、少し椅子を引いて」
「あ、あぁ……」

 何をしてくるのかと身構えながら、椅子を引いて立ち上がる準備をしていると、俺の膝の上に日向がまたがってきたではないか。しかも俺の方を向いて。

「あの……日向さん?」
「どうしたの?」
「どうしたのはこちらのセリフなのですが……」
「これくらい普通だよ?」
「普通だったらこんなに周りがざわついていないでしょうよ。しかも近いんですが」

 こちらに向いているし、顔を近づけてくる日向に頭を後ろにそらすがそれも限界がある。

「さっき、冬花先輩とキスしてたよね? それなら私もキス、しないと」
「い、いやいやいやいやいや! 何でだよ!?」
「あんな女とキスしたんだから、汚いよ? きっと他の男ともキスしてるから」

 それはそれで椿先輩に捨てられるという状況でもまあアリか。

 でもここで日向とキスをしたら俺は二又野郎の称号を与えられてしまうのだからそれだけは避けなければ!

「こんなところではやる必要はないだろ!?」
「……冬花先輩はよくて、私はよくない?」

 あー、背筋が凍えるなぁ。でもここで断らないと本格的にヤバいことになりそうなんだよねぇ。

「い、いや学校はそういうことをするところじゃ――」
「うるさい」

 説得しているところで日向に唇を重ねられた。

「これでモブじゃないね」
「……最悪だ」
「そんな気分を吹き飛ばすくらいにしてあげる」

 日向からキスを何度も落とされ、椿先輩とはまた違った方向でヤバい。まあキスされたことなんか今までなかったから比較なんてできないんだけどね。

 今すぐにでも日向から離れてダンジョンに行きたいのだが、日向はAランク冒険者だからそんな彼女から逃れたという時点でSランク冒険者を認めているようなものだ。

 ゲームヒロインから逃げようと思えば、Sランク冒険者が邪魔をしてくるとか、本当にどうしようもなくないか?

 本当に隙をついてダンジョンに潜らないと後戻りができなくなる。

 だがここはゲームヒロインから逃げてSランク冒険者を取った方がいいような気がするのだが……何だかそれだと寒気が止まらないんだよな。

「ふふっ、もう元気になってるよ?」
「やめろぉぉぉぉぉっ!」

 こんなことをされていたらある一部が元気になるのは分かり切っていることだ。だって童貞だし。

 そしてそんな俺の元気な下半身くんに、またがっている日向が動いてくるから必死で止める。

 朝のホームルームのため担任の先生が来たことで何とか日向を止めてくれたが、こんなことが起こっていたらもうなりふり構っていられないぞ。

 そもそも記憶操作系の魔道具が手に入ればもろもろ記憶を操作すればいいだけなんだから、ここで好き放題やってもいいんじゃないのか?

 ……いや、もしも手に入らなかった時が目も当てられない。

 ☆

 あー……昼休みになるまでの休み時間の間、ずっと日向が俺の膝の上にまたがっていたんだが、どうにかなりませんか?

 周りからの視線をビンビン来るし、ビンビンだし、日向はずっと甘えて来るし、もうどうしたらいいのか分かりません!

 だが昼休みになると日向はどこかへと消えていった。

 昼休みくらいは落ち着けということなのだろう。そうじゃなければもう誰の制止も聞かずにダンジョンに潜っていたところだ。

 いや、今から潜った方がいいのではないか?

 よし、そうと決まれば――

「レンくん! お昼ご飯食べよ!」

 元気よく教室に入ってきたのは佐倉で、俺の前に小走りで来た。

 まあ何となく予想していたからすぐに出ようとしたが間に合わなかった。

「ごめん、少しお腹が空いてないから」
「そう? 今日はレンくんが大好きな唐揚げだよ?」

 モブらしく好きなものが唐揚げという俺の体はよく分かってくれている。

 だけどお弁当箱を開けて美味しそうな唐揚げを見てお腹を鳴らすのは本当にやめてほしいな。

「食べるよね?」
「……もらう」

 ま、まぁ? せっかく作って来てもらったんだから食べないと失礼だよな。うん。

「せんぱーい! お昼ご飯を一緒に食べましょー!」

 佐倉からお弁当箱を受け取ったところで、教室にさっきと同じようなことを言いながら入ってくる奴がいた。

 うん、先輩は俺以外にもいくらでもいるから俺ではないよな。無視しよ、無視だ。例え聞き覚えのある声だとしても。

「も~、何で無視するんですか~? せんぱーい」

 甘ったるい声で俺に近づいてきて、キスしそうな距離で顔を近づけてきたのは予想通り木間だった。

 もうキスがトラウマになりつつあるからすぐに顔を後ろにそらした。

 こうしてお昼休みに来るのはこの二人のどちらかだと思っていたから、木間が来ても驚きはしない。だがこうしてゲームヒロインが二人来るのは初めてだ。

「あれ~? 春香先輩もいたんですね!」
「うん、そうだよ! 由美ちゃんはどうしてここにいるの?」
「朝作りすぎちゃってレン先輩に食べてもらおうと思って!」
「そうなんだ。それなら仕方がないね」
「はい!」

 にこやかに会話しているはずなのに……何だかこの場にいたくないんだが。すぐにでもこの場から離れろと俺の第六感が叫んでいる。

「……ここで食べるのか? 屋上で良くないか?」

 佐倉と木間がお弁当を俺の机の上に置いたからそう問いかけた。

「えっ? いつも食べている屋上が良かった?」
「屋上で食べるよりこっちで食べた方が机があっていいですよ?」

 はい出ました。いつもという言葉が付いてきたらこの状況が常日頃からあったものだと言っているようなものだ。

 もう……俺のモブライフはゼロよ? 誰か……助けてくれ……そ、そうだ、男主人公はどこにいるんだ。いねぇ……いたところでどうにもできないだろうけど。

「レン先輩、少し寄ってくださいよ」
「えっ、何で?」
「寄ってくれないと私が座れないじゃないですか~」
「……佐倉みたいに他の人の椅子を借りればいいんじゃないか?」
「下級生の私がそんなことできるわけないですよ~。それに邪魔になりますから、ほらほら」

 木間に押されて俺は仕方がなく椅子を半分明け渡してやることにした。ここで断って日向みたいに膝の上を占拠された方がヤバいからな。

 椅子は本来二人で座ることを想定されていないから、俺も木間もお尻がはみ出している。しかも必然的にピッタリと引っ付かないといけないから周りの視線もすごくなってる。

 もうここでは素直にお弁当を食べようと思ったら、前の席の椅子を借りて俺の前に座っている佐倉から何かが壊れる音が聞こえてきた。

「あっ、折れちゃった。ヒビが入ってたのかな……」

 佐倉の手には折れたお箸があった。

 お箸が折れるということがあるんだな。あれ? 佐倉がお弁当を持ってきてくれて、木間もお弁当を持ってきてくれたということは、俺には二つのお弁当が用意されているということなのか?

「レン先輩! 私が愛情込めて作ったお弁当ですよ!」
「あー、うん……ありがとう」

 せっかく作って来てくれたお弁当なんだからどっちも食べないと失礼というわけで、木間のお弁当も受け取る。

 木間のお弁当も開けると、俺の好きな物や色を考えている、佐倉と同じく料理が上手で女子力が高い女の子のお弁当だ。

「作りすぎたって言う割には、気合が入っているお弁当だね」
「そうですか~?」

 まあいつも通り美味しそうで女子力が高いお弁当だ。

 そしてゲームヒロインが一緒にいると気が気じゃなくて困るんだが。仲良く話しているように見えるのに刃物を向け合っているような感じがするのは俺の気のせいなのか?

「あれ? 俺のお箸はないのか?」

 お弁当を渡されても肝心のお箸がなかった。佐倉と木間は持っているのに。

「あっ、ごめんねレンくん! さっき私が折っちゃったから一本しかないや!」
「あっ、ごめんなさーい! 私は忘れちゃいました!」

 折れた、忘れたなら仕方がないと言うしかないよな。でもそれならどうやって食べるんだ?

 うん、すごく嫌な予感がするからすぐさま手を打つ。

「食堂で箸を借りれないか聞いてくる」

 立ち上がろうとしたが、隣にいる木間に腰に腕を回され固定され、極めつけは前にいる佐倉が素早く俺の両肩に両手を置いて立ち上がれなくする。

 すごくいいコンビネーションですね。さすがにこの状態で動こうとは思わないから大人しく座る。

「あー……手で食べるのか?」
「ううん、そんなことをするよりもこうする方が早いよ?」

 俺の前にあるお弁当を引っ込めて、そのお弁当から唐揚げをお箸で取って俺に差し出してきた佐倉。

「はい、あーん」

 そんなことをすれば、クラスメイト以外でも俺を見に来たであろう廊下にいる野次馬どもが騒ぎ始める。

「や、やらないといけないのか……?」
「いつもやってるのに恥ずかしがるの?」
「ここでやるのとは違うだろ……!」
「はい、あーん。早くしないと時間がないよ?」

 昼休みが終わっても絶対に食べさせ続けると察した俺は、佐倉から差し出されている唐揚げを食べる。

「……おいしい」
「ありがとう! まだあるからね」

 佐倉のこんな笑顔を見ていたら、というかゲームヒロインたちと接していたらすべてがどうでもよくなりそうなんだが、俺は自分を見失わない。

 そしてさっきから俺の臀部や太ももをセクハラ親父のように撫でまわすのをやめてほしいのですが? 木間さんや。

「おい木間」
「次は私ですね!」
「無言で撫でまわすな」
「触っていいですか?」
「いいわけないだろ? しかも非常に手つきがいやらしい」
「私は先輩が大好きな私のだし巻き卵を食べさせてあげますね!」
「ねぇ、聞いて?」

 さすがに食べさせてくれる時は俺の臀部から手を放してくれた木間。

 だが綺麗に作られているだし巻き卵を、木間は俺ではなく自身の口に持っていく。

 ようやくやめてくれるのかと思ったのもつかの間、半分ほどだし巻き卵をくわえた状態で俺に顔を近づけてきた木間。

「えっ、あの、木間、さん……?」

 無言の木間は俺が後ろに下がろうとしても逃がさないとばかりに腰に腕を回してきた。

「それはさすがにヤバいですよ!? それはキスよりもヤバいと思いますしこんなところでやれると木間さんだって困るんですよ!?」

 そんな俺の言葉の抵抗も聞いていない目をしている木間に、俺は諦めてそのだし巻き卵を食べることにした。

 よく考えれば、木間の唇に触れなければいいだけの話だ。太くて短いポッキーゲームだと思えば何のこともない。

 できるだけ先端を食べるようにしようと口を開けたところ、木間にだし巻き卵を突っ込まれて唇を重ねられた。

 だし巻き卵を押し込まれるように木間の舌も俺の口内を犯そうとしたため、それはさすがにダメだと思ってだし巻き卵だけを引き取った。

「どうですか? 私の味がするだし巻き卵は?」
「……卑猥で……おいしい」

 くっ! 後輩にこんなに手玉に取られるとか不覚だっ……!

 さらに何だか前方から何やら危ない雰囲気を感じ取って、チラリとそちらを見ると、佐倉が目を見開いて表情を失くしてこちらを見ていた。

 ……うん、怖いんだけど。そしてなぜ佐倉は机の下から俺の太ももを撫でまわしているんだよ。

「次は私だね! 唐揚げの次はご飯だね!」

 まあそうだよね、次が来るよね。でも佐倉はあーんをさせてくれるだけだから、木間よりもインパクトは少ないから良しとしよう。

 まさかあーんの方がマシだと思える日が来るとは思わなかったな……。

 あれ? 佐倉さん? どうしてその白ごはんを口の中に入れているんですか?

「佐倉が食べるんかい」

 思わずそうツッコんでしまったが、佐倉は数度咀嚼した後に口を開いてきた。

「ふぁい」
「いや……いやいやいやいやいやいやいやいや!?」

 咀嚼された白ごはんを俺に食べさせようとしてくる佐倉。

 さすがにそれは許されませんよ!? てか俺の胸倉をつかんで逃げられないようにしているし!

「どんなプレイだよ!? 普通にあーんでいいだろ!? そこまで変態プレイに、こんな大衆の面前でやることはないだろ!?」

 俺が訴えかけるが、特に通じるわけもなく胸倉から顔に手を固定した佐倉によって、俺の唇は塞がれ、さらには咀嚼している白ごはんを流し込まれて行く。

 ここで口を閉じていたら服に垂れるかもしれないから、仕方なくその流動食を受け止める。そうだ、流動食だと思えば何ともないな。

 ただ温かくてごはんの味も全くしないのに下半身に来る味がしているのは確かだ。

「ぷはっ、おいしい?」
「……変態で……おいしい」

 まだ俺三口しか食べてないのにお腹いっぱいだよ? もういいかな、もういいよね?

「あー、もうこれくらいでお腹が――」
「まだあるから食べてね!」
「絶対に逃がしませんからね!」
「やめ、やめろぉぉぉっ!」

 次はどんな手で来るんだろうかと思ってしまうあたり、俺は受け入れてしまっているんだと俺に絶望してしまった。
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