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どうぞ!!! 世にも真白な花をあなたに。
幸福の行方
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・幸福の行方・
一方、ソフィレーナの休暇届を手に、ケルッツアは暫く総館長作業部屋の中に立ち尽くしていた。明るい総館長作業部屋の中、ケルッツアは、突然の、嵐のような出来事に頭も体もついていかない。
ソフィレーナが結婚するのはただ一人だという。そして休暇届を見るに、ソフィレーナは三日国立図書館を休むらしいので、先程の会話で、明日から三日間で結婚の準備を進めるのだとは、ケルッツアにも分かった。
ソフィレーナの立ち去る前、何やら何故か指を突き付けられて言い逃れは出来ない、と言われたが、彼女曰く頑迷で自信のない子供っぽいそのお相手に対する事との事だったので、まるで自身に言われたかのような気分は錯覚だろうと思った。
ソフィレーナが結婚するという。
既にお相手からプロポーズも済んでいるという。
お相手にその気があるのかは分からないそうだが、少なくともソフィレーナはその人と結婚する気なのだという事はケルッツアにも分かった。けれど、というか、当然といおうか。ケルッツアはソフィレーナのお相手に全く心当たりがない。
今、ケルッツアを満たしているのは悲しみと遣る瀬無さだった。
それはソフィレーナがケルッツアの及びもつかない所で結婚を決めていたということに起因する。
(もう少しだけは傍にでいて欲しいと言ったのに)
ケルッツアの中で、この言葉がぐるぐると渦を巻いて出口を失っていた。それは、彼が思う中で一番マシな、ソフィレーナと彼との未来の姿だった。だから異世界に行けなかった遺跡の前で、ソフィレーナにそう懇願した。
(そうすれば……もう少しは一緒に居られると思ってた・・・・・・)
(結婚なんて大それたことは望まないから、もう少しだけは傍に居たかった)
それが、ケルッツアの紛れもない本音だった。今朝には今度の食事の約束もしたばかりなのに、ケルッツアは遠い意識でそんな事を思ったが、その一連のケルッツアの望みと、ソフィレーナの結婚――――彼女が結婚しても仕事を辞めないのであれば、それらが矛盾しない事もまた事実だった。
そんな事に、今更ながら、ソフィレーナが結婚するという事実を突きつけられてはじめて、ケルッツアは気づかされた。
(ソフィレーナさんは、結婚する……)
(僕以外のひとと……当たり前だ、それでいいと思ってた筈じゃないか・・・)
それでいいと思っていた事だったのに、ケルッツアはいざその場に臨んで初めて、諦観というには余りに強い念に駆られていた。考えないでみないではなかった、と思い返すものの、それは、いつかという曖昧な輪郭を伴って、確かに覚えていた筈の痛みを薄れさせる夢想でしかなかったと、今更ながら思い知らされた。
(もう少し・・・・・・先の事だと思っていた…………)
(そんな保証なんて、どこにもなかったのに)
そういう場に臨んでみて初めて、ケルッツアはソフィレーナと本当はどうなりたかったのか、骨身に沁みて解った。その本当の望みは、彼と彼女の年齢差や身分差を考えるにどれ程も大それだ事だと分かっていたが、それでも、ケルッツアは本当のほんとうは。
(僕は、ほんとうは・・・・・・・・・・・)
ケルッツアは国外外出旅行の日の事を思いだす。その日の朝方に見た夢の中で、リュシカ――――確かに父代わりだった男に指摘された事が今更ながら重く圧し掛かってきた。
その時は、そして、こうなってしまった今も、ソフィレーナに自分と結婚の意思があるかどうかなどと、ケルッツアはそんな大それたことは聞けないと思っている。
本当は、遺跡の前で、ソフィレーナの額にキスしたかった。”メルリッツ”と言って、ソフィレーナの額に口づけられたならどれ程幸せだっただろうかと、今は思わずにいられない。
遺跡に行く前に見た、流民の、しかも蒼き流砂の使途の花嫁衣裳だって、本当の所を言えば着て欲しかった。国境の町にそんなものが出てくること自体、砂漠の神の祝福だとさえ思えた。
けれど、返す返すもソフィレーナとの年齢差が足を引っ張った。
貝殻を贈ってしまったのは未練以外の何物でもなかった。砂漠では貝殻の加工品は滅多に手に入らない。だから特別な人に送るのが習わしだった。そんな事はソフィレーナは知らないだろうから、だからそれで自分の気持ちを収めようとした。ただ、それだけの保身だった。
結婚を切り出さなかった事も、明るい将来が待っているソフィレーナのその来歴に汚点を残すような事をしたくなかったからだった。
ただ、今は。ケルッツアは思う。リュシカの、父代わりの男の死して尚の忠告を受け入れられなかったのは、そして、こうなってからも一向にソフィレーナに自分との結婚の意思があるか聞いてみる気が起きないのは。
(拒絶されるのが……こわいから、だ)
(こんな親子ほども歳が離れた相手に結婚を申し込まれて、気味悪がられない保証がどこにある?)
第一、聞いてみるまでもなく、ソフィレーナには心に決めた人がいる、とケルッツアはもう知っている。遺跡の前で例え、例え結婚を申し込んだところで、それは上手くいかないだろうという事は火を見るより明らかだった。
(だから、あれで良かったんだ)
(これで……いいんだ)
確かに覚えた諦観が、視界の色を薄れさせる頃。ケルッツアは立ちっぱなしで痛くなった足を蒼い対置きソファーに落ちつけた。こういう時有用なのは酒と、少しのタバコだと、彼はもう知っている。ケルッツアが思っていたいつか、は遠い未来の事だったが、それが速足でやってきただけに過ぎない。
もう慣れっこになった色彩の褪せた感覚は酷いスランプの時によく似ていたが、やはりどこかが違っていた。けれどそれも錯覚だろう。この頃はなかった明度の落ちた世界がまたやってきただけ。
ケルッツアは、寂寞と諦めがなじむまで、永い事蒼いソファーから動かなかった。
酒を飲んで、少しタバコを吸えば、明日の朝には元通り。ケルッツアはそう自身に言い聞かす。
けれど、ソフィレーナの結婚という事実は、そんな程度の憂さ晴らしでは利かないほどケルッツアを深く傷つけていた。
翌日も、翌翌日も。ケルッツアは、良く見える視界が健在だろうと、逃げる様に取り掛かった図書館業務の傍ら鬱々とした時間を過ごしていた。幸いにもその間友人たちとは出くわさなかったので、無駄に事情を聞かれる事もなかった。
そんな折、休暇中であるソフィレーナがケルッツアの元を訪ねてきた。
急なソフィレーナの来訪に、ケルッツアは驚きに驚いた。
ソフィレーナは、真っ白なワンピース姿で、一重咲きのロームエッダの花を髪に挿してケルッツアの前に現れた。腕にはいつもの通勤用のピンクのバッグではなくロームエッダの花を覗かせた小さな編籠を持っていた。
そのいでたちが余りに春の宴の時の格好と似通っていたので、ソフィレーナの姿を見たケルッツアは数瞬息を忘れた。一瞬、あまりにひどい落ち込みに幻覚でも見ているのではないかと思う程だった。
「え? あ、ソフィレーナさん。ど、どどど…どうしたの?」
国立図書館最上階禁書庫で作業をしていたケルッツアの元にやってきたソフィレーナに、ケルッツアはどもりも動揺も酷く応じた。
対するソフィレーナはといえば、それはもうにっこりと音が付きそうな程の笑顔でケルッツアに応じた。その頬が若干赤味を帯びているのは化粧のなせる業か否か。
「ドクターに、どうしても書いて頂きたいものがあってやって来ました。ここではなんですから、少し、作業部屋の方に来ていただけませんか?」
そんなことを赤々と頬を染めた笑みで提案してきたソフィレーナに、ケルッツアは動揺半分驚きと、諦め交じり寂しさとでぐちゃぐちゃな心情に、どんな顔をしていいか分からず、とりあえず急ぎの用でもなかった作業を中断するとソフィレーナに応じることにした。
「いいよ。
書く? えと……け、…結婚式の、スピーチとか?」
ケルッツアは、作業部屋に移動しがてらそんな事を聞いてみる。ソフィレーナが休みを取っているのは結婚の準備の為なのだから、この訪問もその一環だろうとケルッツアは思った。自分に出来ることと言えば、せいぜいが結婚式のスピーチ位だろうとも。
ケルッツアは、ソフィレーナの、ダリル家の末姫の結婚がどのぐらいの規模で行われる物なのか想像出来なかったが、その役に抜擢されたのだとしたら誇らしいものなのかもしれない、とも思った。 同時に心のどこかでは、嫌だな、とも思っていた。
しかし、ケルッツアが懸念していた事はあっさりと否定される。
「いいえ。違いますよ」
そう言ったソフィレーナはケルッツアの横に並んで作業部屋へと向かっていた。
ケルッツアは、結婚式のスピーチが否定されたことに大幅に安心した。
それでも、ソフィレーナの、ダリル家の末姫の式がどれ程の規模の物なのか考えてみる。貴族や王族、と言ってもエメラルグラーレンの結婚式と、グルラドルンの結婚式に呼ばれた事のあるケルッツアは、その壮麗さを思い返した。教会に行って誓いを立て、その後披露宴が盛大に続けられた筈だった。それはもう抜け出すのに苦労するぐらい絢爛でいて華やかな席だった。
と、思い返している間に総館長作業部屋に着いた。
するとソフィレーナは、ケルッツアの横手から彼を振り仰ぎ、にっこりと笑った。
「ドクター、ちょっとソファーに座って頂けませんか?」
また有無を言わせぬ――――それは休暇届を提出した日のような雰囲気で、ソフィレーナはケルッツアに蒼い対置きソファーの上座に手を向ける。
ケルッツアは、作業部屋に来ればてっきりソフィレーナから、その何やら”書いて欲しい”書類を渡されるものとばかり思っていたが、その話は何処へ消えたか、ソフィレーナは前よりもっと赤い顔でニコニコするばかりで書類の話が出てこなかったことに、内心、拍子抜けしていた。
「え? うん、いいけど……」
ケルッツアは言われるがまま、蒼い対置きソファーの上座に座る。
と、立ったままのソフィレーナが、何故がロームエッダの花を一輪手に持って、彼に近づいてきた。
「ああ、これなら丁度いいですね。私でも届くわ」
そう言って――――ソフィレーナは赤々と震える指先で、ケルッツアの右のこめかみの辺りにロームエッダの花をそっと差し込んだ。
ケルッツアは驚いた。
「……え? えええ????」
急な事に、固まってしまったケルッツアを尻目に、顔から首元、花を持っていた手の指先までも赤々と震えさせて、ソフィレーナは、頑迷なドクター、とケルッツアに有無を言わせず語り掛ける。
「いいから話を聞いて下さいね。
この国では、花嫁は結婚式に自分の家の象徴花を髪に飾って嫁いでいくんです。そして嫁ぎ先で、その上から相手の家の象徴花を髪に挿します。
でも、近年では、花婿も象徴花を髪に飾る式も増えているんですよ。
転じて、自分の家の象徴花を相手の髪に挿す行為は、男女共にプロポーズと同義です」
「は、はい????」
ケルッツアは、ソフィレーナの言った事についていけない。勿論、行われた行為にも。書いて欲しい書類があるからと作業部屋に来た。ら、自分の頭にダリル家の――――ソフィレーナの実家の象徴花を飾られた。それは、ソフィレーナが言うにはこの国ではプロポーズと同義なのではないか。
ソフィレーナがケルッツアにプロポーズした。それはなぜか。ソフィレーナには心に決めたひとが一人いるのではなかったか。
ケルッツアの混乱をよそに、今や顔と言わず全身を真っ赤に染め上げて、ソフィレーナは、それと、と口火を切った。
「ダリル家の娘の髪にロームエッダの花を飾る行為も、プロポーズなんですよ!!!」
若干怒っているような口調で、ソフィレーナは、春の宴の時を忘れたなんて言わせません、と早口にまくしたてる。
ここに来てケルッツアは、やっと、もう五か月も前の春の宴の日、ソフィレーナの髪にロームエッダの白い花を添えた事が、意図せずプロポーズの意味を持っているのだと知るに至った。今まで誰も彼に――――ダリル家の面々は知っているだろうという前提で話していた上、当人のソフィレーナは、何度か教えようと思った物の、あまりの恥ずかしさにとうとう今の今まで言いだせなかったという理由付で、おまけに当たり前と言えば当たり前、ケルッツアは友人にもソフィレーナの髪にロームエッダの花を飾った事を言っていなかった為、発覚がこんなにも遅くなってしまったのだった。
ケルッツアは自分がとっくの疾うに大それたことをしでかしていた事を今この瞬間知った。
同時に、ダリル家の元当主と現当主が、お立場やら、抗議やらと言っていた事や、ダリル家側の国外外出許可印がなぜあんなにあっさりと出たのかにも、年齢差や身分差を考えれば信じられない事だが、得心が行った。
ケルッツアは蒼くなったり赤くなったり年甲斐もなく大慌てした。
「え? ええええ??!!! あ、僕は、な、ななななんてことを!?!?」
ケルッツアの動揺など知らぬ存ぜぬ、今やニコニコ顔も怖いソフィレーナは、私言いましたよね、と粛々と言葉を放っていく。
「自信がなくて子供っぽいドクター。
ロームエッダの花の暗喩は、知らなかったじゃ済まされません。
貴方が先にプロポーズなさったのだから、私のプロポーズも受け入れて下さいますよね?」
ソフィレーナはそう言うと、ロームエッダの花が覗く編籠の中から、折りたたまれた紙を一枚取り出した。そしてそれをケルッツアの前に広げて見せる。それは、花嫁の欄が埋まった結婚誓約書だった。
ケルッツアは、それを恐る恐る褐色の手に取り、困った、今にも泣きそうな顔でソフィレーナを見返す。
「君は、――――君の結婚相手が、こここ…こんな、おお…老いぼれでいいの?」
全ての情報が提示されて初めて、ケルッツアはソフィレーナが心に決めたひとがケルッツア自身なのだと気づいた。頑迷で自信がなくて子供っぽい相手、なるほど、確かに頑迷で自信がない事は自分に良く当てはまっている。子供っぽい、と言われてしまうのも、食べ物の好き嫌いの面や感情の好悪を表に出しやすい、と言った意味でそうかもしれなかった。
それにしても、である。ケルッツアは、飛び上がってしまいそうな程嬉しい事は嬉しいが、やはり年齢差が気になった。こんな老いぼれを結婚相手に選んで、ソフィレーナは本当に幸せなのだろうか。
もしや、春の宴の日に、知らないとはいえプロポーズしたから、優しいソフィレーナがそれに応えてくれているだけなのではないか。だとしたら自分はソフィレーナの未来の可能性をどれ程も潰してしまっているのでは――――ケルッツアはそう、不安で一杯になりながらソフィレーナを見つめる。
対するソフィレーナは、真っ赤な顔で――――少し前の怖い顔ではなく、優しげな眉の線を更に困ったように八の字にした本当に柔らかな笑みで、歳は関係ありません、ときっぱりと言い放った。
「歳は関係ないんです。私は、貴方が良いの!!!
――――それでもサインして下さらないなら、私結婚なんて一生しないわ」
ソフィレーナはそう言うと、赤々と震える指先を、ケルッツアの持つ結婚誓約書にたずさえた。それから、彼の持つ褐色の手の上から、ソフィレーナ自身の手をゆっくりと添わせる。
ケルッツアは、自身の手に添えられた赤々とした小さな手の温もりに、泣きたくなった。それは、ソフィレーナに、何よりも傍に居て欲しい者に、一等望まれているという現実を――――夢のような現実を確かな物にしていた。
それでも、ケルッツアは聞かずにおれない。ソフィレーナはまだ若く、若気の至りという可能性だって否定できないのだ。この先ケルッツアと結婚を決めてしまった先の事を思うと、まだケルッツアは喜びきれなかった。
「本当に、いいの……? 僕から君を拒絶するなんてことは、ないよ。
でも、君はまだ若い。この先の将来、僕よりもっといい人が現れた時……後悔しない?」
年若く、明るい将来を持った者が、今や年老いて後は枯れてゆくばかりの者を伴侶に選んだ時、当然起こりうる可能性を、ケルッツアはソフィレーナに尋ねてみた。ケルッツアは、将来ソフィレーナに捨てられるのが堪らなく怖かった。
けれど、ケルッツアの不安を聞いても、ソフィレーナは揺るぎない。
「居ない人の事を言っても仕方がありません。
後悔なんてしませんよ。むしろ、貴方と結婚しない方が、私は後悔するわ」
そう言って赤々とした顔で微笑むソフィレーナは、本当に幸せそうで、ケルッツアは、腹の底から、堪らなく熱く、嬉しくなった。将来の事は分からない、けれど、ここまでソフィレーナが望んでくれるのならば、ケルッツアにはもう言葉はない。
だからケルッツアは、前かがみに持っている結婚誓約書に額を付けて、ソファーの上で丸まり、大きく、息を吐いた。
そして、万感の思いを込めてソフィレーナを仰ぎ見る。
「夢、みたいだ……本当に、僕は……僕も、本当は――――君と、結婚したかった」
ケルッツアの感慨に満ちた言葉に、良かった、と、柔らかな応えが返った。それは、ケルッツアのすぐ横に寄り添う、白い花の姿。
「私も――――うれしい」
ソフィレーナの温かな言葉に、ケルッツアは、結婚誓約書を目の前の足の短い机の上に置くと、遺跡の前でしたのと同じように、ソフィレーナの赤々と震える両手を取って褐色の額に押し頂いた。メッシュラメルリッツと呟くと、今度は、ソフィレーナの真っ赤な顔に手を伸ばし、その頬を片手で包み込む。そして、もう片方の手で、真っ赤なまま顔を寄せてきたソフィレーナの美しい栗色の前髪を払うと、額にキスをした。
「メルリッツ ソフィレーナ」
そう言って、ケルッツアはソフィレーナと額を合わせようとしたが、その前に、ソフィレーナによってケルッツアの灰色の前髪が払われる。驚き固まるケルッツアに、ソフィレーナは笑顔で、メルリッツ、と言うと、ケルッツアの褐色の額に口づけた。
「メルリッツ ケルッツア」
そう言って、今度こそケルッツアと額を合わせる。
ケルッツアはどもりも酷く、ソフィレーナがケルッツアの故郷の儀式の続きを知っている事に驚いた。
対してソフィレーナは、やっと、自身の見た夢がどうやら根拠のある事だったのだと安心した。ソフィレーナは、ケルッツアと額をくっつけたまま夢に見た事をケルッツアに告げる。
「貴方と国外旅行に行った夜、夢に、褐色の肌に目元が切れ長の美人な女の人が現れて――――メルリッツの意味を歌で教えてくれたんですよ。
儀式のやり方、合ってましたか?」
「あああ、…合ってる……。サルッサロッツさんまで、来てたなんて…………」
呆然とするケルッツアに、それがお母様の名前? とソフィレーナが聞いた。
ケルッツアはゆっくりと深く頷くと、僕を育ててくれた人の名前だ、と、感慨深げに目を閉じる。その左目から、一粒、涙をこぼした。
一方、ソフィレーナの休暇届を手に、ケルッツアは暫く総館長作業部屋の中に立ち尽くしていた。明るい総館長作業部屋の中、ケルッツアは、突然の、嵐のような出来事に頭も体もついていかない。
ソフィレーナが結婚するのはただ一人だという。そして休暇届を見るに、ソフィレーナは三日国立図書館を休むらしいので、先程の会話で、明日から三日間で結婚の準備を進めるのだとは、ケルッツアにも分かった。
ソフィレーナの立ち去る前、何やら何故か指を突き付けられて言い逃れは出来ない、と言われたが、彼女曰く頑迷で自信のない子供っぽいそのお相手に対する事との事だったので、まるで自身に言われたかのような気分は錯覚だろうと思った。
ソフィレーナが結婚するという。
既にお相手からプロポーズも済んでいるという。
お相手にその気があるのかは分からないそうだが、少なくともソフィレーナはその人と結婚する気なのだという事はケルッツアにも分かった。けれど、というか、当然といおうか。ケルッツアはソフィレーナのお相手に全く心当たりがない。
今、ケルッツアを満たしているのは悲しみと遣る瀬無さだった。
それはソフィレーナがケルッツアの及びもつかない所で結婚を決めていたということに起因する。
(もう少しだけは傍にでいて欲しいと言ったのに)
ケルッツアの中で、この言葉がぐるぐると渦を巻いて出口を失っていた。それは、彼が思う中で一番マシな、ソフィレーナと彼との未来の姿だった。だから異世界に行けなかった遺跡の前で、ソフィレーナにそう懇願した。
(そうすれば……もう少しは一緒に居られると思ってた・・・・・・)
(結婚なんて大それたことは望まないから、もう少しだけは傍に居たかった)
それが、ケルッツアの紛れもない本音だった。今朝には今度の食事の約束もしたばかりなのに、ケルッツアは遠い意識でそんな事を思ったが、その一連のケルッツアの望みと、ソフィレーナの結婚――――彼女が結婚しても仕事を辞めないのであれば、それらが矛盾しない事もまた事実だった。
そんな事に、今更ながら、ソフィレーナが結婚するという事実を突きつけられてはじめて、ケルッツアは気づかされた。
(ソフィレーナさんは、結婚する……)
(僕以外のひとと……当たり前だ、それでいいと思ってた筈じゃないか・・・)
それでいいと思っていた事だったのに、ケルッツアはいざその場に臨んで初めて、諦観というには余りに強い念に駆られていた。考えないでみないではなかった、と思い返すものの、それは、いつかという曖昧な輪郭を伴って、確かに覚えていた筈の痛みを薄れさせる夢想でしかなかったと、今更ながら思い知らされた。
(もう少し・・・・・・先の事だと思っていた…………)
(そんな保証なんて、どこにもなかったのに)
そういう場に臨んでみて初めて、ケルッツアはソフィレーナと本当はどうなりたかったのか、骨身に沁みて解った。その本当の望みは、彼と彼女の年齢差や身分差を考えるにどれ程も大それだ事だと分かっていたが、それでも、ケルッツアは本当のほんとうは。
(僕は、ほんとうは・・・・・・・・・・・)
ケルッツアは国外外出旅行の日の事を思いだす。その日の朝方に見た夢の中で、リュシカ――――確かに父代わりだった男に指摘された事が今更ながら重く圧し掛かってきた。
その時は、そして、こうなってしまった今も、ソフィレーナに自分と結婚の意思があるかどうかなどと、ケルッツアはそんな大それたことは聞けないと思っている。
本当は、遺跡の前で、ソフィレーナの額にキスしたかった。”メルリッツ”と言って、ソフィレーナの額に口づけられたならどれ程幸せだっただろうかと、今は思わずにいられない。
遺跡に行く前に見た、流民の、しかも蒼き流砂の使途の花嫁衣裳だって、本当の所を言えば着て欲しかった。国境の町にそんなものが出てくること自体、砂漠の神の祝福だとさえ思えた。
けれど、返す返すもソフィレーナとの年齢差が足を引っ張った。
貝殻を贈ってしまったのは未練以外の何物でもなかった。砂漠では貝殻の加工品は滅多に手に入らない。だから特別な人に送るのが習わしだった。そんな事はソフィレーナは知らないだろうから、だからそれで自分の気持ちを収めようとした。ただ、それだけの保身だった。
結婚を切り出さなかった事も、明るい将来が待っているソフィレーナのその来歴に汚点を残すような事をしたくなかったからだった。
ただ、今は。ケルッツアは思う。リュシカの、父代わりの男の死して尚の忠告を受け入れられなかったのは、そして、こうなってからも一向にソフィレーナに自分との結婚の意思があるか聞いてみる気が起きないのは。
(拒絶されるのが……こわいから、だ)
(こんな親子ほども歳が離れた相手に結婚を申し込まれて、気味悪がられない保証がどこにある?)
第一、聞いてみるまでもなく、ソフィレーナには心に決めた人がいる、とケルッツアはもう知っている。遺跡の前で例え、例え結婚を申し込んだところで、それは上手くいかないだろうという事は火を見るより明らかだった。
(だから、あれで良かったんだ)
(これで……いいんだ)
確かに覚えた諦観が、視界の色を薄れさせる頃。ケルッツアは立ちっぱなしで痛くなった足を蒼い対置きソファーに落ちつけた。こういう時有用なのは酒と、少しのタバコだと、彼はもう知っている。ケルッツアが思っていたいつか、は遠い未来の事だったが、それが速足でやってきただけに過ぎない。
もう慣れっこになった色彩の褪せた感覚は酷いスランプの時によく似ていたが、やはりどこかが違っていた。けれどそれも錯覚だろう。この頃はなかった明度の落ちた世界がまたやってきただけ。
ケルッツアは、寂寞と諦めがなじむまで、永い事蒼いソファーから動かなかった。
酒を飲んで、少しタバコを吸えば、明日の朝には元通り。ケルッツアはそう自身に言い聞かす。
けれど、ソフィレーナの結婚という事実は、そんな程度の憂さ晴らしでは利かないほどケルッツアを深く傷つけていた。
翌日も、翌翌日も。ケルッツアは、良く見える視界が健在だろうと、逃げる様に取り掛かった図書館業務の傍ら鬱々とした時間を過ごしていた。幸いにもその間友人たちとは出くわさなかったので、無駄に事情を聞かれる事もなかった。
そんな折、休暇中であるソフィレーナがケルッツアの元を訪ねてきた。
急なソフィレーナの来訪に、ケルッツアは驚きに驚いた。
ソフィレーナは、真っ白なワンピース姿で、一重咲きのロームエッダの花を髪に挿してケルッツアの前に現れた。腕にはいつもの通勤用のピンクのバッグではなくロームエッダの花を覗かせた小さな編籠を持っていた。
そのいでたちが余りに春の宴の時の格好と似通っていたので、ソフィレーナの姿を見たケルッツアは数瞬息を忘れた。一瞬、あまりにひどい落ち込みに幻覚でも見ているのではないかと思う程だった。
「え? あ、ソフィレーナさん。ど、どどど…どうしたの?」
国立図書館最上階禁書庫で作業をしていたケルッツアの元にやってきたソフィレーナに、ケルッツアはどもりも動揺も酷く応じた。
対するソフィレーナはといえば、それはもうにっこりと音が付きそうな程の笑顔でケルッツアに応じた。その頬が若干赤味を帯びているのは化粧のなせる業か否か。
「ドクターに、どうしても書いて頂きたいものがあってやって来ました。ここではなんですから、少し、作業部屋の方に来ていただけませんか?」
そんなことを赤々と頬を染めた笑みで提案してきたソフィレーナに、ケルッツアは動揺半分驚きと、諦め交じり寂しさとでぐちゃぐちゃな心情に、どんな顔をしていいか分からず、とりあえず急ぎの用でもなかった作業を中断するとソフィレーナに応じることにした。
「いいよ。
書く? えと……け、…結婚式の、スピーチとか?」
ケルッツアは、作業部屋に移動しがてらそんな事を聞いてみる。ソフィレーナが休みを取っているのは結婚の準備の為なのだから、この訪問もその一環だろうとケルッツアは思った。自分に出来ることと言えば、せいぜいが結婚式のスピーチ位だろうとも。
ケルッツアは、ソフィレーナの、ダリル家の末姫の結婚がどのぐらいの規模で行われる物なのか想像出来なかったが、その役に抜擢されたのだとしたら誇らしいものなのかもしれない、とも思った。 同時に心のどこかでは、嫌だな、とも思っていた。
しかし、ケルッツアが懸念していた事はあっさりと否定される。
「いいえ。違いますよ」
そう言ったソフィレーナはケルッツアの横に並んで作業部屋へと向かっていた。
ケルッツアは、結婚式のスピーチが否定されたことに大幅に安心した。
それでも、ソフィレーナの、ダリル家の末姫の式がどれ程の規模の物なのか考えてみる。貴族や王族、と言ってもエメラルグラーレンの結婚式と、グルラドルンの結婚式に呼ばれた事のあるケルッツアは、その壮麗さを思い返した。教会に行って誓いを立て、その後披露宴が盛大に続けられた筈だった。それはもう抜け出すのに苦労するぐらい絢爛でいて華やかな席だった。
と、思い返している間に総館長作業部屋に着いた。
するとソフィレーナは、ケルッツアの横手から彼を振り仰ぎ、にっこりと笑った。
「ドクター、ちょっとソファーに座って頂けませんか?」
また有無を言わせぬ――――それは休暇届を提出した日のような雰囲気で、ソフィレーナはケルッツアに蒼い対置きソファーの上座に手を向ける。
ケルッツアは、作業部屋に来ればてっきりソフィレーナから、その何やら”書いて欲しい”書類を渡されるものとばかり思っていたが、その話は何処へ消えたか、ソフィレーナは前よりもっと赤い顔でニコニコするばかりで書類の話が出てこなかったことに、内心、拍子抜けしていた。
「え? うん、いいけど……」
ケルッツアは言われるがまま、蒼い対置きソファーの上座に座る。
と、立ったままのソフィレーナが、何故がロームエッダの花を一輪手に持って、彼に近づいてきた。
「ああ、これなら丁度いいですね。私でも届くわ」
そう言って――――ソフィレーナは赤々と震える指先で、ケルッツアの右のこめかみの辺りにロームエッダの花をそっと差し込んだ。
ケルッツアは驚いた。
「……え? えええ????」
急な事に、固まってしまったケルッツアを尻目に、顔から首元、花を持っていた手の指先までも赤々と震えさせて、ソフィレーナは、頑迷なドクター、とケルッツアに有無を言わせず語り掛ける。
「いいから話を聞いて下さいね。
この国では、花嫁は結婚式に自分の家の象徴花を髪に飾って嫁いでいくんです。そして嫁ぎ先で、その上から相手の家の象徴花を髪に挿します。
でも、近年では、花婿も象徴花を髪に飾る式も増えているんですよ。
転じて、自分の家の象徴花を相手の髪に挿す行為は、男女共にプロポーズと同義です」
「は、はい????」
ケルッツアは、ソフィレーナの言った事についていけない。勿論、行われた行為にも。書いて欲しい書類があるからと作業部屋に来た。ら、自分の頭にダリル家の――――ソフィレーナの実家の象徴花を飾られた。それは、ソフィレーナが言うにはこの国ではプロポーズと同義なのではないか。
ソフィレーナがケルッツアにプロポーズした。それはなぜか。ソフィレーナには心に決めたひとが一人いるのではなかったか。
ケルッツアの混乱をよそに、今や顔と言わず全身を真っ赤に染め上げて、ソフィレーナは、それと、と口火を切った。
「ダリル家の娘の髪にロームエッダの花を飾る行為も、プロポーズなんですよ!!!」
若干怒っているような口調で、ソフィレーナは、春の宴の時を忘れたなんて言わせません、と早口にまくしたてる。
ここに来てケルッツアは、やっと、もう五か月も前の春の宴の日、ソフィレーナの髪にロームエッダの白い花を添えた事が、意図せずプロポーズの意味を持っているのだと知るに至った。今まで誰も彼に――――ダリル家の面々は知っているだろうという前提で話していた上、当人のソフィレーナは、何度か教えようと思った物の、あまりの恥ずかしさにとうとう今の今まで言いだせなかったという理由付で、おまけに当たり前と言えば当たり前、ケルッツアは友人にもソフィレーナの髪にロームエッダの花を飾った事を言っていなかった為、発覚がこんなにも遅くなってしまったのだった。
ケルッツアは自分がとっくの疾うに大それたことをしでかしていた事を今この瞬間知った。
同時に、ダリル家の元当主と現当主が、お立場やら、抗議やらと言っていた事や、ダリル家側の国外外出許可印がなぜあんなにあっさりと出たのかにも、年齢差や身分差を考えれば信じられない事だが、得心が行った。
ケルッツアは蒼くなったり赤くなったり年甲斐もなく大慌てした。
「え? ええええ??!!! あ、僕は、な、ななななんてことを!?!?」
ケルッツアの動揺など知らぬ存ぜぬ、今やニコニコ顔も怖いソフィレーナは、私言いましたよね、と粛々と言葉を放っていく。
「自信がなくて子供っぽいドクター。
ロームエッダの花の暗喩は、知らなかったじゃ済まされません。
貴方が先にプロポーズなさったのだから、私のプロポーズも受け入れて下さいますよね?」
ソフィレーナはそう言うと、ロームエッダの花が覗く編籠の中から、折りたたまれた紙を一枚取り出した。そしてそれをケルッツアの前に広げて見せる。それは、花嫁の欄が埋まった結婚誓約書だった。
ケルッツアは、それを恐る恐る褐色の手に取り、困った、今にも泣きそうな顔でソフィレーナを見返す。
「君は、――――君の結婚相手が、こここ…こんな、おお…老いぼれでいいの?」
全ての情報が提示されて初めて、ケルッツアはソフィレーナが心に決めたひとがケルッツア自身なのだと気づいた。頑迷で自信がなくて子供っぽい相手、なるほど、確かに頑迷で自信がない事は自分に良く当てはまっている。子供っぽい、と言われてしまうのも、食べ物の好き嫌いの面や感情の好悪を表に出しやすい、と言った意味でそうかもしれなかった。
それにしても、である。ケルッツアは、飛び上がってしまいそうな程嬉しい事は嬉しいが、やはり年齢差が気になった。こんな老いぼれを結婚相手に選んで、ソフィレーナは本当に幸せなのだろうか。
もしや、春の宴の日に、知らないとはいえプロポーズしたから、優しいソフィレーナがそれに応えてくれているだけなのではないか。だとしたら自分はソフィレーナの未来の可能性をどれ程も潰してしまっているのでは――――ケルッツアはそう、不安で一杯になりながらソフィレーナを見つめる。
対するソフィレーナは、真っ赤な顔で――――少し前の怖い顔ではなく、優しげな眉の線を更に困ったように八の字にした本当に柔らかな笑みで、歳は関係ありません、ときっぱりと言い放った。
「歳は関係ないんです。私は、貴方が良いの!!!
――――それでもサインして下さらないなら、私結婚なんて一生しないわ」
ソフィレーナはそう言うと、赤々と震える指先を、ケルッツアの持つ結婚誓約書にたずさえた。それから、彼の持つ褐色の手の上から、ソフィレーナ自身の手をゆっくりと添わせる。
ケルッツアは、自身の手に添えられた赤々とした小さな手の温もりに、泣きたくなった。それは、ソフィレーナに、何よりも傍に居て欲しい者に、一等望まれているという現実を――――夢のような現実を確かな物にしていた。
それでも、ケルッツアは聞かずにおれない。ソフィレーナはまだ若く、若気の至りという可能性だって否定できないのだ。この先ケルッツアと結婚を決めてしまった先の事を思うと、まだケルッツアは喜びきれなかった。
「本当に、いいの……? 僕から君を拒絶するなんてことは、ないよ。
でも、君はまだ若い。この先の将来、僕よりもっといい人が現れた時……後悔しない?」
年若く、明るい将来を持った者が、今や年老いて後は枯れてゆくばかりの者を伴侶に選んだ時、当然起こりうる可能性を、ケルッツアはソフィレーナに尋ねてみた。ケルッツアは、将来ソフィレーナに捨てられるのが堪らなく怖かった。
けれど、ケルッツアの不安を聞いても、ソフィレーナは揺るぎない。
「居ない人の事を言っても仕方がありません。
後悔なんてしませんよ。むしろ、貴方と結婚しない方が、私は後悔するわ」
そう言って赤々とした顔で微笑むソフィレーナは、本当に幸せそうで、ケルッツアは、腹の底から、堪らなく熱く、嬉しくなった。将来の事は分からない、けれど、ここまでソフィレーナが望んでくれるのならば、ケルッツアにはもう言葉はない。
だからケルッツアは、前かがみに持っている結婚誓約書に額を付けて、ソファーの上で丸まり、大きく、息を吐いた。
そして、万感の思いを込めてソフィレーナを仰ぎ見る。
「夢、みたいだ……本当に、僕は……僕も、本当は――――君と、結婚したかった」
ケルッツアの感慨に満ちた言葉に、良かった、と、柔らかな応えが返った。それは、ケルッツアのすぐ横に寄り添う、白い花の姿。
「私も――――うれしい」
ソフィレーナの温かな言葉に、ケルッツアは、結婚誓約書を目の前の足の短い机の上に置くと、遺跡の前でしたのと同じように、ソフィレーナの赤々と震える両手を取って褐色の額に押し頂いた。メッシュラメルリッツと呟くと、今度は、ソフィレーナの真っ赤な顔に手を伸ばし、その頬を片手で包み込む。そして、もう片方の手で、真っ赤なまま顔を寄せてきたソフィレーナの美しい栗色の前髪を払うと、額にキスをした。
「メルリッツ ソフィレーナ」
そう言って、ケルッツアはソフィレーナと額を合わせようとしたが、その前に、ソフィレーナによってケルッツアの灰色の前髪が払われる。驚き固まるケルッツアに、ソフィレーナは笑顔で、メルリッツ、と言うと、ケルッツアの褐色の額に口づけた。
「メルリッツ ケルッツア」
そう言って、今度こそケルッツアと額を合わせる。
ケルッツアはどもりも酷く、ソフィレーナがケルッツアの故郷の儀式の続きを知っている事に驚いた。
対してソフィレーナは、やっと、自身の見た夢がどうやら根拠のある事だったのだと安心した。ソフィレーナは、ケルッツアと額をくっつけたまま夢に見た事をケルッツアに告げる。
「貴方と国外旅行に行った夜、夢に、褐色の肌に目元が切れ長の美人な女の人が現れて――――メルリッツの意味を歌で教えてくれたんですよ。
儀式のやり方、合ってましたか?」
「あああ、…合ってる……。サルッサロッツさんまで、来てたなんて…………」
呆然とするケルッツアに、それがお母様の名前? とソフィレーナが聞いた。
ケルッツアはゆっくりと深く頷くと、僕を育ててくれた人の名前だ、と、感慨深げに目を閉じる。その左目から、一粒、涙をこぼした。
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