星屑オペラッタ ~もしもケルッツアが異世界に行けなかったら~

境 美和

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ようこそ! おおよそは麗しき女神たちの館!!

オヒメサマは憂鬱

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・オヒメサマは憂鬱・ 







 白いレースのカーテンが調えられた窓辺には、青い花が飾られていた。大きく半楕円に切り取られた白い窓枠に、同色よりは少し柔らかな壁や天井、クリーム色の絨毯が敷かれたそこは、彼女にとって懐かしさを覚える実家の自室に続きの寝室。 

 身に着けるサテンの淡い青色をしたセミロングドレスの肩口や裾には、細やかなプリーツが施されている。その繊細さを無下にして豪奢な天蓋付きのベッドの上に寝そべり、真っ白な枕に顔をうずめれば、ゆったりと空気の抜ける音が耳に優しい。柔らかな肌触りの枕にそっとほお擦りをして、ソフィレーナはひとつ、息を吐いた。 

 視界の端に、真っ青な色が落ちる。 

「あ・・・」 

 見れば、鮮やかな青の花弁が二、三枚布団にかかり落ちていた。枕に埋めていた頭を持ち上げれば、また、はらり、と音もなく花弁が散る。 

 今朝の、庭の片隅で露をまとい、冷たい静寂の中でみずみずしく輝いていた青い花の姿を思い出し、彼女はそっと、その自身の容姿の中で唯一手放しに褒められる、美しい栗色の短髪の頭に挿された花飾りに手をやると、優しい動きで髪から外した。柔らかな短い髪に絡めるようにして挿してあったせいだろう、曲げられ、所々が濃い緑色に痛んだ黄緑の茎を白い指先で撫で、かわいそうに、と誰にともなく呟く。 



(私の髪なんか飾らなきゃ、もっと長く、きれいに咲いていられたのに )



 茎を無惨にされ、花弁の幾つかを散らせた青い花飾りは、元の美しさからずいぶん色褪せた姿で彼女の手の中にある。もっとも、こんなに早く部屋に引き返してこなければ、又は大人しく椅子にでも座っていれば、花飾りはこうも痛まなかった。今更遅いとは思うけれど、と。 

 ソフィレーナはベッドから起きあがり、柔らかな光沢を持つセミロングドレスと揃いの淡い青色の布靴に足を通した。底の浅い入れ物に水差しで水を張り、花弁に水がつかないよう花飾りを生ける。心なし生気を取り戻した青さに肩の力を抜き、ベッドの脇のテーブルに飾ると、後は億劫、とばかり横手のベッドに身を投げた。押しつぶされた空気が布団から逃げる音も盛大に、柔らかく体を受け止める蒲団と、スプリングに身を任せる。視界の端に、今度はひどく皺の寄った淡い青色のセミロングドレスが引っかかったが、それを脱ぐ気力まではないと、目を閉じた。 

 静寂。 

 静寂を割って、にぎやかしい人の音が聞こえてくる。 

 その音に、ますます彼女の顔は白くなる。傷める花もない栗色の、そこだけは美人ぞろいのダリルの血に相応しい美しさを持つ短髪を乱暴に枕に打ちつけた。一瞬掻き消えた、人の、パーティー会場から漏れ聞こえていた音は、彼女の平静を待つ間もなく、また蘇る。 

 無意識、その中に吃音の有無を探し、ソフィレーナは自嘲に醜悪なほど顔を歪めた。 



(何やってるんだろ? この頃はドクター、ちゃんと話せるようになっていたでしょうに?) 



 受け答えに困ってないかしら、これ見よがしなあてつけを受けてないかしら、又寂しげに笑ってないかしら。浮かぶ心配を自身で嘲って、彼女はベッドの上に身を起こすと、すっかり乱れた淡い青色のセミロングドレスを、ぼさぼさになってなお艶やかに光を弾く美しい栗色の髪を、直すでもなく、気だるげに窓からの高い日差しを見上げた。 

 いつも通り、夜だけ実家に帰ってくれば良かった、ダリルの直系に特徴的な、一等上質な紫水晶の濃さに下から栗色の煙る色合の虹彩が、虚ろに瞬いた。 



(私がいなくちゃドクターが可哀想だなんて、とんだ思い上がりなのに。 )



 私は一体、ドクターをなんだと思っていたのだろう? 自嘲で自問し、ソフィレーナは膝を抱く。パーティー会場から階も部屋数も離れた自室のベッドの上で小さく縮こまると、楽しげな外の音の中、硬く目を閉じた。 



 瞼の裏に、眩く輝く蜜色の長髪が揺らめいた。老いて尚輝きを失わない長髪を結い上げた、パーティーの副主催者たる自身の母の後姿は、一式整えられた繊細にして華やかな作りのこげ茶色のドレスと合わせても、マリアーナ・ド・ダリルの後姿、というだけで既に美しい。 

 そんな母が向かい合っているのは、この日の為にきっちりと助手がアイロンを掛けておいたワイシャツと正式なものよりはラフな紺色が基調のタキシードに、この頃少し白髪の目立ち始めた灰色の頭、この国の者が持たぬ褐色の肌の壮年近い男性。 

 廊下の角でちらりと横目に見た彼らの姿が、彼女の心に焼き付けられ、濃く暗い影を作っていた。背の高い彼を見上げる母の顔は見えない。 

 けれど、向かい合う男性の顔は。 

 ソフィレーナは更にきつく目を閉じた。部屋に戻る前に焼き付けられた光景を、闇で押し潰そうとする。 



美姫だもん。結婚して年老いて、子供が四人いたとしても、元でも。 

美姫だもん。蜜色の髪に、皺の形さえ麗しい透き通るような白さの肌。建国神も大概美しい容姿だと伝えられているけど、それに並び立つと謳われるほどの、生きた女神。 



仕方が無い。勝負にならない。いいえ、勝負と思うことすら、赦されないでしょうに? 



 まぶたも眉間も痛みさえ訴えている。眼球にまで圧力をかけて作り出した闇の中でも尚、よそ行きの格好をした灰色の短髪の、褐色の肌をした壮年近い三白眼の男、ケルッツア・ド・ディス・ファーンの笑みが消えない。 



 目頭の熱さを知って、ソフィレーナは愕然と、悄然とした。ばかみたいだと唇に乗った言葉は、耳で聞き取るより速く惨めさを誘う。ついで漏れるは否に軽い哄笑のかけら。 

 声ともつかない息の音に押され、彼女は膝を抱いたまま天井を見上げる。真っ白な天井に明るい灰色の影が揺れていた。その様を見ながら気だるげに、姿勢を開きながら背から布団に逆戻りすれば、ドレスのひらりとした袖から伸びる力の抜けた腕がもんどりうって、柔らかな布団の上に人形のような無機質さで投げ出された。 

 拍子に零れでた涙を拭うでもなく、ソフィレーナは特徴的な虹彩を窓辺から背ける。 



(ばかみたいだ。)





 遅れて動いた腕で、瞑った両目を隠した。 



(ばかみたいだ。) 



 長い睫を濡らし、盛り上がる涙を腕に滲ませ。 



(あの頃は。) 



 潰れぼやけた視界の端に入り込む栗色の髪は、今の彼女には鬱陶しい程鮮やかにある。 

 兄や姉達と比べても、肌の色は健康的で眉の線は流麗ではなく優しげ、長い栗色の睫に縁取られた大きな一対の目は紫より栗色の占める割合が高く、見目に奇麗ではない。鼻筋は通っていても高さが足りない、と。平均よりはまあいいだろう容姿しかない彼女が唯一手放しで褒められていた栗色の艶髪が、五年前までは腰まであった事に軽く苦笑を零すと、ソフィレーナは口元に淡い笑みを刷く。 

 しゃくり上げそうになる肩を意地で押さえつけ、朧な過去に意識を沈ませていく。 





(出会った時は、こんな風に想うときがくるなんて……)

(ぜんぜん、わかんなかった。 )









『へ、……え? 

 あ、あああああああああああああ!?!?!!!!! っお、こ、お、おおおおおおおんな、のこ?』 

 晩秋からそろ冬に向かおうかという、比較的寒い日だった。 

 それでもソフィレーナには暑い程暖房の入れられた部屋の中で、部屋の主、否、これから勤める場所での最高責任者、という肩書きにある筈の男性は、厚手のセーターを着込んだ格好で両手で持った書類と目の前に立つ小柄な女性を交互に見ながら、そんな事を喚いていた。 

 酷い吃音と大の大人、総館長という割に情けない表情、何より書類の不備による性別、名前の間違えに、ソフィレーナはこの時、大変、気分を害している。 

 おち零れ、と言われていても人の噂に過ぎない、会ってみれば違うかもしれない、と。そんな事を思い、髪型も図書館業務に腰までの長髪は邪魔だろう、いっそすっきりと、と短髪にし、服装も目上の人への敬意を表し新人に相応しい格好をしてきたソフィレーナは、顔見せ初日にしてのこの扱いに、総館長、という人物の評価をどん底まで叩き落とした。面接官だった、第二図書館長と、第三図書館長は、会ってみればいい人、と口々に言うものだから、そんなものだろうと思っていたがちっともそんな事はなかった、と。 

 そんな事も原動力になり、勤め始め一日目にして、彼女は自身の直属上司である総館長の事を、酷く見下した目で見ていた。 

 その顔に気付いた総館長は。 



(寂しげに、笑った、のだわ。きっと。)







 その顔に、その時は何の感慨も抱かなかった、と、ソフィレーナは記憶の狭間、天井を見上げる。 

 その書類の不備ですら、彼の所為ではなく彼を良く思わない人間達による嫌がらせだったのだと。そんな事にも気付けず、早く博士資格を取って辞めてやろうと意気込んでさえいたことを思い出し、笑う。今思えばなんて馬鹿で浅はかだったのかと。皇家の姫という地位に生まれてきた彼女は、例え皇家としては落ちこぼれでも、その地位に似合いの矜持を、彼女が気付かない間に見につけていた。 

 その事を自覚していない当時の自分が、ソフィレーナは兎角おかしい。 



(でも、それも変わった……。) 



 仕事始めから丁度数えで一週間たった日の。 

 その日の、夕方から夜にかけての記憶を思い出すと、ソフィレーナは、まるで咲き誇る前の蕾のように顔を赤らめた。 

 視線を天井から逸らし、長い睫も伏せがちに波打つ柔らかな布団へと向ける。日差しから更に更に逃れるよう横を向き、深く枕に沈みこみ。頬に当たる柔らかな感触にぐずる子供のように頬擦りを繰り返していたが、それも途中で止めると両膝を立て、忙しなく起き上がった。 

 優しげな眉の線は、左右対称に綺麗な八の字を描いている。 

 ほんのりと色づいたほおのまま、立てた膝に視線を落としていたソフィレーナは、やがておずおずとベッドから降りると、半円を描く鏡付きのドレッサーの前へと歩み寄った。ドレッサーの左に一つ、右に五つ重ねられた引き出しの、右の一番下に当たる鍵穴の隠れた鍵付きの取っ手へと右手を滑らせ、鍵穴を隠す留め金を外した。 

 追う様に動くサテンのセミロングドレスの裾を気にしつつもしゃがみこみ、添えつけの椅子の、クッションの下へと白い左腕を伸ばすと、手を差し入れ、指の感触で中の数字鍵を合わせるとかちりと音。指先の動きで椅子の隠し箱に閉まってあった引き出しの鍵を取り出す。 

 右手に持ち替え、引き出しの鍵を開け、奥へと手を差し入れて板を一枚取り出し、その奥、視覚で確認できない鍵穴を指先で辿ると、外した板に挟んでおいた鍵を引き出しの奥の奥の鍵穴へと差し込んだ。もう一枚板を外し、更に奥、本当に小さな小箱を取り出す。 

 小箱の数字をあわせ、そっと蓋を開けると、赤いビロウド張りの箱の内には、滑らかな光沢を持った絹のハンカチが、畳まれるにしてはやや不自然な形状で鎮座している。 

 ソフィレーナは、その不自然な形のハンカチを両手で取り出すと、後生大事に胸元に抱きしめた。 

 両手で包み持つそれは、温かい。 

 それが錯覚だと知っていても、ソフィレーナにとって、熱は本物。 



(これが、全ての始まりだ。) 

(否、これが、私にかかっていたまやかしを、吹き飛ばした。)



 湧き上がってくる言い得ない激情に、彼女は目を閉じた。じっと、胸元に抱く熱を全身で感じ取る。絹のハンカチの、その中にくるまれたものはどうということもない、熱など持っていない物。 

 意を決した彼女が柔らかな手触りのハンカチを開いてゆくと、掠れて乾いた音がした。 







『……ゴミすらきちんとゴミ箱へ入れられないのかしら…?』 

 最上階のゴミの収集を進めていたソフィレーナは、最後、総館長専用作業部屋と呼ばれるこぢんまりとした部屋のゴミ箱の前で、あからさまな溜め息をついた。彼女の視線の先にはゴミ箱と、無残に床の青く毛足の長い絨毯へと散らばった紙くずが数にして三つほど落ちている。白よりはわら半紙色に傾いた色のそれは、ぐしゃぐしゃに丸められて尚薄い罫線が見えることから大層質の悪いノートだと分かった。罫線にそって、何やら手書きの書き込みがなされているよう。そういえば、残業で他館の手伝いをしてたここ数日、総館長の部屋の明かりもずっとついていたような。 

 そんな事を頭の片隅に思い出し、論文投稿でも考えていたのかしら? 総館長付きの助手用の服だと支給された茶色のブレザーに同色のベストと白いワイシャツ、ブレザーと同色のスラックス、革靴、という、男装と身間違えられるような格好で片手に収集用の大きな袋を持ったソフィレーナは、両手を腰に当てるとその三つのゴミをうんざりとした目で見つめた。暫く見つめていたがおもむろにもうひとつ、大きな、呆れたようなため息をつくと、拾い上げ、収集用の袋へと投げ込む。 

 つもりだった。 

『……。』 

 ソフィレーナは無言で、手のひらに持ったゴミを見つめている。少し右上がりの奇麗な字と、図形のようなものが書かれた、丸められた紙。皺の度合いは酷く、激情に任せてその辺に放ったのだろう事は、その場にいなかった彼女にも容易に想像がついた。 

 そんな状態でさえ。 

『きれい・・・』 

 ぽつりと呟いた言葉は、彼女の頭蓋骨を伝っただけで空気を震わせはしない。"おちこぼれ"、"くずれ"等と渾名されている筈の人物の書き込みは、彼女の予想に反して、酷く奇麗で簡潔だった。 

 ノートはそのままその人の頭の中を表す。 

 同じ講義を受けていても、頭の整理が下手なものはノートも自然汚く、否、無駄な書き込みが多くなる。 

 反対に、頭の整理がついているものは、簡潔で無駄のない書き込みしかしない。 

 それは彼女の、十九年という短い人生の中で生まれた、彼女独自の理論だった。 

 浅い経験則と言われればそれまでだが、ソフィレーナは、総館長という人物が、後者の、頭の整理がついているノートを描き出している事に不可解さを覚えた。何の根拠や実績があってだろうか、酷く見下していた相手のノートは、紛れも無く彼女が生きてきた中で見てきた、天才、鬼才、と呼ばれる類の人間が描くものと良く似ている。 

 似ているどころか。 

 がしゃりと、紙屑の入ったビニール製の袋が床に落ちた音がした。 

 ソフィレーナは、ゆっくりと手に持つ紙くずを開いてゆく。人の捨てたものを勝手に見るなど、全く褒められた事じゃない。そう判っていて尚、彼女はその手を止められなかった。 

 開いたノートの切れ端には、彼女の予想通り、否、それより遥かに判りやすく、かつ簡素な論が展開されていた。走り書きの図形は美しく、まるで、無駄の極力省かれた公式のよう。目で追う理論は、心が震えるほど簡潔。正直、彼女がこの論の提唱者であれば、嬉々として論文雑誌に投稿しているだろう、そういうレベルで、総館長は論を展開させていた。 

 それが、ぐしゃぐしゃに丸められ、ゴミ箱の傍に打ち捨てられている。 



(気に入らないんだ。) 



 もはや両手で支え持つ、皺の伸ばされた、ゴミ屑、を唖然と見ながら、ソフィレーナはひとり立ち尽くす。 



こんなに、奇麗な論理なのに。 

『捨てちゃうの?』 



 唇に乗せた声が思いのほか響いた事に、彼女は我に返ると、総館長の捨てたゴミを収集袋に入れようとした。 

 手が止まる。 



(読みたい。) 

(しりたい。) 



 どくり、心臓の収縮する音が、耳の中で一際大きく響いた錯覚。可笑しな浮遊感と恐ろしいまでの罪悪感がせめぎあい、彼女を翻弄する。手にあるものは、ゴミ。破棄すべきもの。以前に、人のノートを勝手に盗み見るなんて、どれだけはしたない行為だろう。早く手を離そう。 

 ソフィレーナは手のひらの下にゴミ袋を配置すると、指先の力を、ゆっくりと抜いていった。小指の力を抜く。薬指の力を抜く。中指の力を、抜き、人差し指の力を抜けば、三枚のゴミは手のひらからすべり落ちる。ごみが落ちる。紙くずが落ちる。 

 支えを失ったそれは、はらりと口を開けたゴミ袋の中へまっさかさま。 



(論理が落ち) 



 ばさばさ、という音がした。その音が、落下中だった紙束を両手でなんとか掴んだ自分の手から響いていた事に、ソフィレーナは。 



(……ごめんなさい……。捨てられ、ません。) 



 うなだれ、前髪の影に顔を隠したソフィレーナの唇は、頑なにつぐまれ、震えていた。 

 ごめんなさい、と。口に出さないまでも、前髪の影、今にも泣き出しそうな目は困惑と謝罪を、しわくちゃな三枚の紙へと向けている。 

 正確には、その紙の先にいる、ケルッツアへと。 

 欲望。正にその名が相応しい駄々が、ノートの切れ端を胸元へと押し付けた。大切な、大切な宝物を押し抱くように、ソフィレーナは、総館長にとってのゴミ屑を抱きしめる。 



(もっと、ちゃんと……。) 



 責任は持つ、その言葉を建前に、否、言い訳に、彼女は素早く三枚のノートの切れ端を奇麗に折りたたみ、スラックスのポケットの中へ滑り込ませた。頬の火照りは前髪を乱す事で隠し、後は、機械的にゴミを纏め、最後は禁書庫のダストシュートに放り込んだ。 

 元がゴミだったものが助手のポケットの中にある事など、空になったゴミ箱の前では何人も気付かない。最上階のゴミ箱が綺麗に片付けられている事から見ても、助手がゴミをまとめ、ダストシュートに入れたのだと、そういう理由付けが容易だった。 

 無論、彼女の、無駄に高い矜持に似た意地は、品性にもとる行為をした為の動揺等という表情の変化を許さない。 





 それから一時間後、ソフィレーナは暖房のよく効いた最上階の総館長専用作業部屋で帰りの支度をしていた。 

 視界の端で、総館長が、ちらり、ちらと黒く分厚いセーターの背中越しに視線を投げて寄越しているのが分かる。壮年近いその顔は、手入れも疎かな口ひげの下、口は噤んでいるものの、三白眼も見開き気味、明らかに驚いているようだった。 

 その視線を殆ど無視、ついには背中で感じながら、総館長の動揺もわからないではない、と、ソフィレーナはそんな事をうそぶいていた。今まで極力総館長との接触を避けていた助手が、何食わぬ顔で彼の居る部屋へ現れ、平然としているのだから、と。 

 見ない振りで窺う総館長の様子は、何がしか言葉をかけようか否か迷っているよう。彼は、振り向きかけ、やめ、しかし珍しいものを見るような視線は向かってくる。口を開きかけ、やめ。そのうちついには視線をさまよわせ、手を頭に置くと、肩を落とした。そのまま下を向き。 

 ゴミ箱に目を留め、体の力を、安堵の仕草に似た動きで抜いていた。僅かにこけた頬の線が緩んでいる。前髪から覗く眉は、ほっとしているようだった。 

 そんなケルッツアの姿に、ソフィレーナは。 



(本当に。)



『あの。』 

 コートのボタンを留めながら出た声は、彼女自身で驚くほど硬くそっけなかった。そのことに無意識眉をしかめ、僅かでも愛想を混ぜたほうがいいかと、ソフィレーナは逡巡、しかし結局はその思考を切り捨てている。 

 要因は。 

 助手の心境など知らず、総館長は、ソフィレーナの、助手の発した言葉が自分に向けられたものだということに、優に三秒程経ってから気づいた。 

『え? あ、ぼぼぼぼ、…ッぼ、僕? 

 な、なななに、かね?』 

 彼は慌てて灰色の、白髪も混じった口ひげをふがふが言わせ、きつい吃音混じりで彼女に答え返す。今まで背を向け、肩越しに振り返るだけだった体は、いまや完全に彼女の方を向いていた。 

 そんな事を、ちら、と。総館長、ケルッツアにも判る様な角度で振り見たソフィレーナは、目元もきつめに、つっけんどんな言葉を返す。 

『ゴミ箱の中身、捨てましたけど、なにか、計算式みたいなの書いた紙、ありましたけど。』 

 一息に吐き出した言葉の羅列は冷たい棘で覆われている。ソフィレーナは、又、もう少し柔らかさを心がけたほうが、と、困惑したが、しかし、彼女のうちにある感情が、それをどうにも許さない。胸のむかむかするような。 

 ソフィレーナの視線を受け、ケルッツアは、傍目から見て可哀想なほど動揺した。吃音はより酷さをまし、殆ど音の羅列と化す。 



『あ、え? み、みみみみみ』 

『見えただけです。このごろ、机に向かっているようでしたから。なにか、投稿でもなさるのかと。』 



 彼のそんな状態が、少しだけ、彼女の良心を掠った。無意識、ソフィレーナは総館長の吃音をさえぎる様に話を続ける。向けていたきつい視線を正面に戻し、コートのボタンを留め終えて尚、次の動作に移らない。 

 ケルッツアは、そんな彼女に、慌て、また吃音を繰り出した。 

『あああ、……あれは、もういいんだよく、…屑の、どうしようもないものしか、 

 …かかれてないから』 

 そう言った。 その声には、慌てて吃音の酷い前半に比べ、後半は吃音が酷くない分囁くような、緩い、深い水底の絶望が滲んでいた。 

 ソフィレーナは、帰りの支度を止めたまま、もう一度、今度は僅か体ごと総館長を見た。 

 彼女の視線を知ってから知らず、高い背を無下に縮め、肩を落としたケルッツアは、何をみるでもない、床に視線を落としていた。そのうち、頭に手をやると、緩慢な、否、哀しそうな仕草で髪をかき始める。 

 その姿に、彼女は。 



(あれだけの理論を。) 



 彼を見つめるソフィレーナの視線には、ほんの僅かな憐憫と。 

 ソフィレーナは、口を開く。 

『…………そうですか。いらないものなんですか』 

 答えるケルッツアは、顔をあげると、にっこり。いっそ朗らかさが胸に痛い笑みを浮かべた。 

 満面の笑み。 

『うん。……つまらないものだ。 

 あああああ、…ありがとう。すす、…捨ててくれて』 

 満面の絶望。 



 ソフィレーナは。 



(本当に、あれが、恥ずかしいものだって思ってるんだわ!!!!! )



『別に。仕事ですんで。 

 じゃあお疲れさまでした』 

 圧倒的な嫉妬が顔に滲む前に、総館長に背を向けた。唇が震えていた。声が震える。喉も震えた。肩のいかりは羨望を混ぜた憤怒からだった。 

 学者を目指す者として、ソフィレーナは今、総館長、ケルッツア・ド・ディス・ファーンに矜持を酷く酷く傷つけられていた。彼の放った無意識の刃は、彼女のプライドを深く、深く抉り切り裂いてゆく。あれほどの理論を結論がないからとはいえ、屑と言い切り、ゴミ箱に叩きつける。それが出来るのは、それ以上の理論を生み出す事が出来る者の特権。 



(ああっ!!) 

(あああああッ!!!!! ) 

(なんてっ!!! なんてッッッ!!!!!! )



 それでも、ソフィレーナがケルッツアにかけた声には、僅かばかり険が欠けていた。 



(アレ以上のものを、生み出せる、人。) 



 複雑な感情に揺れる彼女に対し、言葉をかけられた総館長は、ぱ、と。喜ぶ犬のように顔を上げ、大声で吃音も酷く、明るく返した。 

『あ、ああああ!!!!!  う、うん。うん!!! ・・・おつかれさまー』 

 自身の助手に初めてかけられた退勤の挨拶に愛想よく振舞う総館長を無視し、ソフィレーナは鞄を引っつかむと総館長作業部屋のドアへ足早に向かう。彼女は、これ以上総館長に時間を割く気はなかった。 

 ドアノブを捻り、足が止まる。 

『・・・・・・・・・今日は』 

 逡巡の末漏れた声が、彼女の思う以上に高く、優しい。 

『え?』 

 ドアのところで足を止め、こちらを見た助手の姿に、声に。ケルッツアは呆けた声をひとつ。 

 間抜けな顔をした総館長に、ソフィレーナは言葉を続けいていた。 

『今日は夜、冷え込むそうですから・・・。 

 あまり、夜更かしはおすすめしませんよ?』 

 言い切ると、素早くドアを閉め、後はわき目も振らず禁書庫の白く塗られた巨大な鉄扉を目指す。 

『え? あ! うん!!!! うん!ききき、きみも』 

 明らかに浮かれた声が背中にかかった気もするが、頬の熱さと共に無視をした。 

 頬が熱かった。反吐が出そうだった。今までつっけんどんに扱っていた相手に、急に手のひらをかえした対応をしていた自分に。 



(すごい人だって、判った途端ッッ!!!!! )



 なんて現金、ソフィレーナは、己の心情の変化が浅ましくてならない。涙まで滲んでくる矜持からの羞恥を、石畳の階段を段飛ばしで急く事で散らし、逃げるように帰路を急ぐ。馬鹿にしていた人、歯牙にもかけていなかった人、尊敬も、敬愛も抱けなかった、抱く気もなかった人が、凄いものを持っていると知った途端、態度を軟化させている自分。 

 そもそも、何を持って、総館長を馬鹿にしていたのだろうかと。 



(馬鹿にするだけの何が、私にあったというの? )



 何も知らない。何も見えていなかった。そんな己に、ソフィレーナはともかく泣き出しそうだった。切る様な夕刻の寒さの中、人気なく雑多と物ばかり溢れた石畳の階段を下階へと必要以上に急ぐ。吐き出される白い息、苦しいほどの息切れの狭間から、己の未熟さを責める心の声が漏れ聞こえてくる。 



(いったい、わたしは、なんだったって・・・?) 



(ねえ? ソフィレーナ・ド・ダリル。) 

(あなたは、なにさまのつもりだったの? )



 気管の痛む音に、ソフィレーナはついに冷たい石の壁に手を着き、足を止めた。見回せば、一階までは後少しある。人の気配が近くにないことに安堵すると、溢れ出る涙をハンカチの影に隠し、しゃがみこんだ。 

 ハンカチを取るときに、ポケットの中で擦れた紙の音。 

 その存在に、彼女は震え、慄く。 



(コレ以上のものを生み出せる人。) 



 その紙と真正面から向き合えば、己の未熟さに更に打ちのめされる。 

 その理論と真正面から向き合えば、己の無知をより鮮明に思い知る。 



(その、頭脳と真剣に向き合えば、私は、ただ打ちのめされる、だけ。) 



 そう、判っていて尚、ソフィレーナはそのノートの切れ端を読まずにいられなかった。圧倒的な悪寒は、悪寒と知って尚、恐ろしいまでの求心力があった。悪寒に混ざる、えもいわれぬ高揚がそれに更なる拍車をかける。 

 乱れた呼吸と涙の跡は矜持を引っ被ることで隠し、ソフィレーナは普段どおりの顔で国立図書館から自身の借りる寮に戻って自室に引っ込むなり、ポケットからノートの切れ端を取り出していた。おちこぼれ、といわれている学者のノートの切れ端を見ることに、天地のひっくり返ったような畏怖と、較べられないほどの歓喜を抱いている自分を、困惑して受け止めている。 

 下手したら、好きな論文雑誌の発売日より楽しみにしていると、緩む頬に困った眉を抱えつつ、綺麗に畳んだ切れ端を見つめ、後生大事に机の上に置いた。殆ど上の空で暖房をいれ、着替えて食事を摂った後、電話線を抜くと、お目当ての切れ端を持って自室の隣、研究部屋に籠もり。 

 そして。 

 彼女が生きてきた中では見たことのない、美しい理論は忽ち彼女を思考の世界へと誘った。始めのうちは、簡潔な言葉で語られる仕組みを読み解く事に躍起になっていたソフィレーナは、途中から、その思考を放棄した。 

 目の前の、たった三枚のノートの切れ端が持っていた世界は、彼女の思考など追いつかないほど、突飛でいて、易く、故に難解。一見関係のないものを次々と並べ立て、見事に一本の線で繋げてしまう。その論は暴論と極論の狭間を縫って正論足らしめていた。 

 気の違えた者が紡いだかのような理論は、読み手をめちゃくちゃに振り回し、綺麗に収束を見せる。ソフィレーナは、夢中になった。 

 夢中に、その先を読み進め。 



 彼女は、三枚のノートの切れ端を胸に、長い睫の柵からぼろぼろと大粒の涙を零していた。悔しさと遣る瀬無さが同居し、心はぼろきれのよう。痛みだけは酷く鮮明で、それ以外の感覚は麻痺しているようだった。 

 もっとも、その痛みは決して彼女の物ではなかったけれど。 

『どうして……?』 

 漏れた声は、こぢんまりとした研究室の無機質な蛍光灯に掻き消える。ノートの切れ端でしかない紙を胸に押し当て、彼女は途方もない哀しみを、涙として捨てていた。それしか彼女に残された手立てはなかった。 

 美しい曲線を描き収束を見せていた論は、突如暴走し、詰まった。 

 そこで、終わり。後はない。どれ程紙をひっくり返しても、探しても、そこで唐突に理論は終わる。今まで振り回されていたソフィレーナは、振り回されたまま投げ出され、迷子になった。 

 続きが無い。 

 結論が無い。 

 それは、恐らく彼の中にもないのだろう。ソフィレーナは、壊れた涙腺のまま、そっと、紙の、理論の捨てられた経緯に思いを馳せた。 

 美しい世界に取って代わったのは、思わず目を背け、出来れば耳を視界を潰してしまいたくなるほどの、人智を超えた、惨苦。 

 美しい論が捨てられた事を、彼女は悲しんだ。 

 それを覆い狂わす酷い辛苦を、彼女は憎んだ。 

 ケルッツアの苦患を、ソフィレーナは哀しんだ。 

 これ以上ないほど深く。 

 論の完成は誰にも出来ないだろうと、過ぎた感情を涙として落としながら、ソフィレーナは悟っていた。論の完成は、彼以外の誰にも出来ない。 



(このひと以外、その者の一生を捧げても、おそらくは。)



 その理解は、冷たい、啓示に似ていた。 

 過ぎた感情は苦痛でしかない。それが己の辛さでないとしても、ソフィレーナは途方もない無気力を涙として捨てる行為を続けている。蛍光灯の無機質さが、否に目に痛かった。乾いた唇から零れる息は不釣合いなほど熱を孕んでいる。唇の薄い皮膚が訴える痛みを、そんなこと、と認識しながら、彼女は泣いた。 



『』 

(このひとは、おちこぼれなんかじゃない。) 



 音は、空気も彼女の耳朶すらも震わせない。このひとを落ち零れと呼ばしめるなら、世に言う天才はみんな落ち零れだ。ぽろぽろと零れる熱い涙を拭う事もせず、彼女は時折生理的に瞬き、部屋の光景を眼球に映している。人智を超えた鬼才。ひとじゃないもの。 



(ひとを超えているもの。) 



ソフィレーナは、自身の身に起きている幸運を、幸運が過ぎて辛い、けれど不運とだけは呼べない巡り合せに、次第、歓喜すら。 



(おちこぼれなんかじゃない……。) 

(私は、すごい人の助手になったんだ。) 



 静かな狂喜は、空恐ろしい認識を伴って訪れる。この国は、恐ろしいほどの天才を飼い殺している。人間じゃない。越えている。 



(バケモノ、だ。) 



 そんな天才に対して今まで彼女自身でしてきた事が、次に彼女を責め立てた。 

 見下し、極力関わりを持たないよう行動してきた。出勤しても、朝の挨拶どころか、帰りの挨拶すらしない。彼の気配を感じると、出会わないよう計算して動いた。声をかけられても返事はつっけんどん。助手という立場が聞いて呆れる。 

 彼女は、彼女が予想したとおり、己の矮小さと真正面から向かい合った。己の愚かさと。醜さと。汚さ。名前を間違えられた、評判が芳しくない、その二点だけで総館長を下に見ていた愚かさに、彼女の矜持が詰問を繰り出す。それを静かに受け止め、ソフィレーナは空虚に泣いた。 

 涙は止まらない。総館長の論の、結論のないことを悲しみ、天才の不運を哀しみ、己の愚鈍に、身勝手さに苛烈な炎を向ける。 

 止まらない涙のまま、ソフィレーナは、ノートの切れ端をきつく抱きしめている。天才だとわかった途端手のひらを返すのか、そもそも、何の根拠があってお前はその人を見下していたのか、矜持は重く問いかける。低く重く、絶対の厳しさを持って彼女に問いかけている。 

 その前に立つ彼女は、うなだれて顔を上げられない。 







 まばゆい記憶の海から浮かび上がったソフィレーナは、後悔の追体験で零れた眦の涙を静かに拭い、また深くに戻ってゆく。 

 彼女が彼に冷たい態度を取っていた期間は約一週間。 関係修復に乗り出してからも、直接的な態度が軟化していたかは、思い返しても疑問の残る事だった。顔を見れば罪悪感で、つい、つっけんどん、に返していた。そうだ何かお菓子を作って行こうか? それで茶席を設けて、そこから。そんな事も考えてみたが、総館長を物で釣っている気がして失礼だと思えて、彼女の隠れて無駄に高い矜持が実行の邪魔をした。 

 だいたい、そもそも。嫌っていた相手に対してすぐに打ち解けた行動など、出来ない。 

 結局、総館長を馬鹿にする人物と極力距離を取る、又、件の彼には朝と夕の挨拶は欠かさない、それまでは嫌々来ていた助手の制服もきちん着込んで出勤・退勤するという、遠回りの方法しか取れなかった、と、回想は止まらない。 

 後悔。後悔。自分を責め立て落ち込む日々。何故、私はあのひとを馬鹿にしていたの? 私はあのひとの何を知っていたの? 表面上何事もなく過ぎた、ゴミ窃盗事件からの毎日は、いい加減、総館長ケルッツア・ド・ディス・ファーンとの関係修復という目的に行き詰まりを感じ始めていた、そんな時に。 

 紅茶の香が鼻先を掠めた錯覚に。ソフィレーナの意識は、掠れた記憶に飛ぶ。 







 勤め始めて二週間程たった日のことだっただろうか。 

 古い匂いが、やけに甘ったるい紅茶の香に混じって、その、こげ茶色の木目の壁で出来た部屋を満たしていた。晩秋の終わりだったか、季節に対し、部屋の温度は僅か釣り合いが取れていない。 

 国立図書館二階、第二図書館の隅、第二館長テェレル・ド・イグラーンに割り当てられた総館長作業部屋より広い室内は、満遍なく暖房の熱が行き渡り、個人所有にしてはそれなりである本の山と、深海の生物として知られる魚類の模型等が雑多と犇いている。 

 湯気を立てて注がれる紅茶の甘ったるい匂いに、自然、今しがた入ってきたばかりの扉側へとソファーの居場所を変えつつ、助手服の上着も脱がないまま、ソフィレーナは甘くない笑みを黄緑色の絨毯へと落としていた。 



(この空間に潜むはかりごとは、下心という名前。) 



 頭の片隅が、彼女に緩い警告を与えている。ただ、下心と一口に言ってもいくつか系統がある。有体に、貞操の危機は、招いた部屋の主の性別を考慮すれば不思議という事になるのだろうか、感じない分、別の系統での、高度にして野蛮な学術的はかりごとの上にいると、そんな事を思った。 



(この人は、採用面接のときの面接官だった人。) 



 確か、総館長を擁護する立場を取っていた筈。思考が、僅かにして微妙な外因的要因に溶かされてゆく。淹れられた紅茶の香は奇妙なほど甘ったるく、頭の芯を揺らしほぐす効果でもあるかのようだった。 

 この国の者に似合いの白さの肉々しい指が、見た目とは裏腹、繊細に真っ白なカップとソーサーを差し出す。 

 砂糖とかはないんだよ、という声に、お気遣いなく、と返し、紅茶の柔らかな光彩に目を細め、礼を述べた後、ソフィレーナは白いカップの縁を唇に触れさせ、気持ち、口内を湿らせた。向かいの、茶色い一人掛けソファーにどっかりと、横に大柄な体型に似合いの動作で座った、白いワイシャツと赤いベストとこげ茶のスラックスという格好の、薄金色の短髪の男性に、静かな目を向ける。 

 そんな視線を受け、彼女をこの場に招いた人物、テェレル・ド・イグラーンは、でっぷりとついた肉に邪魔されて尚、長さが窺える睫に切れ長の眦をにっこりと細めた。 

『さて、……なんて呼んだらいいのかな、んー…そうだなぁダリル嬢? 

 何でボクが、ここにきみを呼んだか、検討とか、ついてますか?』 



 その時の第二図書館長、テェレルは、今のソフィレーナが思い返しても十分に胡散臭かった。和やかな声は人の良さそうな人相と相まって彼の印象をやわらかく見せていたはずだが、彼女が彼に対する警戒を解いたのは、結局滞在時間の半分を過ぎた頃。 

 思い返す今も前半は何を話したか大して覚えてもいないので、当たり障りのない毒にも薬にもならない話題だったのだろうと彼女は思っている。確かめた事は無いが当のテェレルの認識も似たようなものだろうと。 

 本題は、後半に集約されているのだから。 



 白いカップに残る紅茶も半分を過ぎていた。 

 最初の一口で何も盛られていない事を確認したソフィレーナは、礼儀としてこのカップを飲み干してから席を立とうと考えていた。目の前のご立派な体系を有した第二図書館長とは、にこにこと、本題と呼べるものもなく無為な時間を共有しているばかりで、居心地が悪いかと言われればそうでもないが良いかと言われれば決して良くはない。 

 そろ退室、と彼女がテェレルに目を向けた時だった。 

『総館長を嫌うも、好くも、まあ嬢の勝手なんだけどね。』 

 唐突に、彼は言った。視線を彼女に求めることなく、今までの笑みを消し、空色の目も半眼、彼の横にある、黄緑に輝く尾ひれらしき飾りを持った深海魚の模型に顔を向けている。左手に持ったソーサーから、カップを離し、一口。 

『君はほら、やつの助手という職にあるわけだから、ちゃんとした判断材料が必要かなって。 

 …………やつが、ゲールッセッテ主席だったってハナシ、知ってる?』 

 そう言って、ちら、とだけソフィレーナに視線を寄越した。 

 ソフィレーナは、僅かに変わった空気の質に、今まで緩みがちだった認識を覚醒させる。紅茶の香で満たされた空間に、張り詰めた糸が張られた錯覚。ゆっくりと思考を巡らせ、総館長について言われる事を一通り頭の中で浚った。 

『はい。存じております』 

 目当ての記憶を引っ張り出し、答える。 



『じゃあ、テュフィレ受賞者だったって事は?』 

『……聞いたことが、あります。』 



 間髪入れず繰り出される質問に、英知を表す花に準えた賞のあらましや、噂などを思い出し、答える。 

 うんうん、と。向かいの第二館長は、相変わらず黄緑の魚に頷いていた。 

 ひたと、彼女に、その奇麗な空色の目を向け。 



『…………賢者の称号を、持っているって事は?』 



 その場の時間が、確実に止まった。 

『・・・・・・しりま、せん。』 

 止まった時に呆け、すぐさま記憶をひっくり返した彼女は、ぽつり、とその言葉を落としている。視線はもはやテェレルから外れる事は無く、顔の歪みですらコントロールを忘れていた。どういうことだ? どういうこと? 左の耳に右の耳に、頭の中に、疑問の声が渦巻いている。そんなこと、……だってでも、そんなこと。 

 ワイズレッテッティス、賢者の称号、それは何年に一度か必ず選ばれるという類のものではなかった。最後の賢者は、二百二十年前を最後に一度として選ばれていない。彼女は少なくとも、そう聞いている。 

 否、聞いていた。 

 助手の明らかに取り乱した様子に、テェレルは軽く、諦めたような色合いの息をつく。 

『やっぱりね。 

 やつ、正式に任じられたんだけどねー。……取り消されてもないんだけど、まあ、人の口には上らないんだよね』 

 穏やかに諦めを語るテェレルに、ソフィレーナの低い声が続いた。 

 彼女は美しい栗色の前髪の影に目元を隠し、もう一度、同じ言葉を発する。 

『どうして』 

 ソフィレーナの見やる先、テェレルは今度こそ、海洋生物の模型から彼女に向き直り、真っ白なカップの中身を見ている。揺れ動く紅茶の赤みがかったまるい輪郭から顔をあげ、空色の虹彩になんとも複雑そうな光を乗せて彼女を見た。 

 ソフィレーナの頭上に、理不尽な理解が、現実味を帯びて染み渡る。ああ。曰く、この国の生まれじゃないから。ゲールセッテ時代に主席で、テュフィレ賞までとっていたものが、崩れたのだもの。羨望はやっかみも生む。 



(それらの、対象だから。) 



 か、と。臓腑に火でも付けられたかのような熱さが、彼女の中に渦巻いた。 

 その激情のままにテェレルを見ると、彼はソフィレーナから顔を背けた。 

 テェレルは、独り言のように呟く。 

『嬢はやっぱり、ダリル家の直系だねぇ。 

 ……――――畏とうとい。』 

 彼の言葉に怪訝な顔をした彼女は、少し考え、出された紅茶を嚥下する。共に、渦巻いていた憤怒をおさめた。目の前に居る人物にその目を向けるのはお門違いだろう、と、くすぶるものも宥めにかかる。 

 その様子を見ていたか、テェレルは彼女に向き直った。 

『まあね、そんな経歴も持ってるわけね。ケルズ、ケルッツア、…ボクの友達は。 

 で、やつを好くも嫌うもホントに嬢の勝手なんだけど――――ボクはやつの友達だからさ、嬢にも、あんまりやつを嫌って欲しくないわけ。口で頼んでも嬢は賢い。きっと当たり障りのない返答でごまかしちゃうと思うのね。それだと意味がない。 

 ねえ、嬢?』 

 一息。故意に一息置いたあと、テェレルは挑むような視線をソフィレーナに向ける。 



『賢者の論文、読みたくない?』 



 ぞくり、と。ソフィレーナの背が震えた。 



(あのひとの、完成された論。)



 エゴという名の傲慢な知識欲が、読みたい、知りたいとすぐさま声を上げる。その声を密かに無駄に高い矜持で押し留め、彼女は何食わぬ顔で紅茶を胃に落とした。 

『それを拝読したら……私が、総館長の味方につくと?』 

 冷静さを持って響いた言葉とはうらはら、既に、彼女は紅茶の味が分からない。 

 そんな状態のソフィレーナを、知ってか知らず、テェレルは天井へ向かい開けっぴろげに続ける。 

『それはやってみなくちゃわかんないなぁ。やつを嫌う人たちの中には、やつのヒーローッぷりからの転落が許せない、ってひともいる。 

 嬢がその中に入っちゃう可能性も、無きにしも非ず。 

 でも、ボクは、……ボクとマルス、マーロルサース第三図書館長は、上手くいくんじゃないかって、思ってる』 

 うそぶくなかで、その空色の目だけが彼女を捕らえ、笑っていた。 

 対し、彼女の口は即座に疑問を紡ぐ。 

『根拠は?』 

 何故、助手は大丈夫だと感じているのか、ソフィレーナの思考は巡った。信頼にしては、助手として勤めている期間が短すぎる、第一そんな信用を寄せてもらえるような態度を、この助手は今も尚総館長へ取れていないではないか。ソフィレーナは、疑問というより疑惑に近い心境の中、探るような視線でテェレルを見据えた。スラックスのポケットの中に、綺麗に折りたたまれた紙の感触が蘇り、消えない。ばれる筈は無い、と、自身でも気付かないうちに呼吸を制限し。 

 ソフィレーナの真剣な目に、テェレルはそっと嘆息した。何かを計るように天井を眺め、紅茶を一口。 

 と、彼女へ、にっこり。裏表のなさそうな顔でこう言った。 

『それを言っちゃうとね、嬢をいじめちゃう気がするんだよ。ボクは別にそういう趣味はないし、嬢のコト責めるつもりも無い。 

 ……どっちかっていうと、やつの一番身近にいることになる分、助手の子はやっぱり味方に引き入れたかったから、ボク達にしたらラッキーだったのね。 

 にしても、ケルズってば、ちょっとはお馬鹿のケが戻ってきてるってことだよねぇ……? 

 あ、奴はなーんも気付いてないから。言ってないし。安心してね』 

 嬉しそうな声と空色の目だけが、言外に彼女に語りかける。一週間で態度変えたもんね。なんかあったんだろうなー、やつが気づいていないことなら…論文前の考察ノートでもみたんかなー、ぐらい察しつくって。 

 幻聴としか思えないその声なき声に、ソフィレーナは唖然とし、長いこと沈黙のまま目を見開いていたが。 

『…………。拝見、させてください。』 

 顔を真っ赤にして緩く髪を乱すと、小さく、本当に小さな声で、テェレルにそう伝えていた。 

 そんな総館長の助手に。 

『うん。素直で宜しい。』  

 と、第二館長はあっけらと返した。 





 その後、"賢者の論文"が投稿された雑誌を第二館長から数冊借り、何事も無く図書館業務をこなした後、ソフィレーナは帰宅するなり三枚の紙くずを読んだときと同様の処置を取った。 

 電話線も切った小さな研究部屋の中で、結論のある論に感嘆し、感動し、酷く打ちのめされて陶酔。 

 それでも。 

 不思議な事にソフィレーナは、その論文を読み終えた後でも、三枚のノートの切れ端の方に、より多く、心を砕いている。美しい論、完成された論理は確かに素晴らしいが、それは彼女にとって、それだけでしかない。 



(今でも。) 









 記憶から返ってきた彼女は、そっと、大切な元ゴミ屑であった三枚の紙切れを胸元から離し、又、丁寧に、丁寧に隠した。ドレッサー用の背もたれの無い椅子を窓辺に寄せ、淡い青色のセミロングドレスに気を使って腰掛ける。 

 窓を開ければ深緑の風が心地よいだろう季節の吉日に、陽光は陰ることもなく柔らかく、気だるい午後の部屋を照らしていた。 

 宴の気配は、自室の窓を閉じていても尚漏れ聞こえてくる。穏やかな音楽。歓談の声。著名人を招いて開かれる、ダリル家主催の立食パーティーは楽しげに続いているようだった。 

 楽曲からしてワルツならば、踊りだす者もいるだろう。男女で仲良く手を取って、二人輪になり花のように朗らかに。 

 落ち零れじゃなくなった総館長にも、柔らかな手が伸びるはずだ。一曲踊っていただけますか? 

 ソフィレーナは、淡青の靴のつま先で絨毯の毛足を撫で、笑った。 

 完成されない論。結論の無い理論。そこに滲む苦悩。 



(さみしく笑う、彼。)



 もう一つ、靴で絨毯を撫でる。 

 声を、思い出した。 









 斜め横手から見下ろすくたびれた灰色の前髪、そこから覗き見える三白眼の目元は涼しげだった。総館長の迫力に、反対者は、押されたように席に戻る。 

 それは、彼女が始めて総館長の助手として、国立図書館の月一会議に参加した時の事だった。 

 その時審議されていた案の内容は、図書館業務の効率化を図った、電子系統の改善についてだった。やたらと瑣末な事にケチをつけ、廃案に追い込もうとしていた者が何人かいた事を覚えている。 

 ソフィレーナは総館長付きの助手の服装で総館長の左隣に立って、そんな者達の姿を顔には出さず呆れ半分で見ていたが。 

 何をとち狂ったか。思い返す今でさえ、彼女はそう思う。その者達は、その場を取り仕切る総館長の人格否定までし始め、彼が総館長に相応しくないと、会議の席をめちゃくちゃにする暴論を吐いた。 

 流石に憤怒を覚えた助手が前に乗り出し、何か言う前に。 

 彼女の目の前に、す、と。くたびれたスーツの腕が差し出される。総館長を見る助手の視線に答えず、彼は落ち着き払い、こう言った。 



『感情論は結構です。 

 ……この案を棄却するに、足る、自明な根拠をお願いします』 



 しん、と。その場が静まり返り、そこから先、落ち零れ、崩れと馬鹿にされている筈の人間が、完全に会議の場を支配した。彼は、食い下がる反論者を、その涼しげな三白眼で、老いて尚澄んだ瞳で見据え、反論には全て正論をぶつけ、最終的にはその案を満場一致で通していた。 

 会議が終われば、総館長はいつもの吃音、弱気に戻っていた。しぶしぶ賛成側に回った者がこれ見よがしに悪態を、嘲笑を投げつても、仕方が無い、と寂しく笑う老学者の背は、会議の時の彼と酷い乖離を見せ、ソフィレーナの心をざわつかせた。どうして、あれほどの事をやってのける人間が、そんなに寂しく笑うのか。 

 いつの間にか、彼女は、その総館長の笑みを酷く気にするようになっていた。またあんな顔をしていないだろうかと、気付けば、特徴的な虹彩には彼が映り込んでいる。 

 その中で、総館長という人間が、控えめで、温厚だという事を知った。そのくせ、一度決めた事は頑として譲らず、何を言われてもされても、通してしまうという事も、知った。 

 真っ直ぐな目をする時、涼しげな三白眼の、灰色の虹彩が澄み切って奇麗な事も。 

 時折零れ落ちる、彼の持つ矜持が美しい事も。 

 味覚や仕草が子供ぽいことも。無邪気な事も。食に感心が無く、不摂生の常習犯で良く倒れるという事も。 

 彼女が見つけ出した、総館長、ケルッツア・ド・ディス・ファーンは、いつの間にか、ソフィレーナにとって魅力的な人物になっていた。 

 彼の生み出す論以外に、その人柄そのものにまで、彼女は惹かれていった。 

 それは、時を経た今も尚、ソフィレーナの中で変わらない。 







(だから、そんなひとだからこそ。) 



 ソフィレーナはひとつ、瞬きをした。 



(世間でバカにされているのが、どうしたって許せなかった。)



 椅子に座って外を見る。穏やかな初夏に傾く春の空は雲ひとつ無く、良く晴れ渡っている。その光景を見る彼女の目は、又、僅かに潤み、歪み。 

 ソフィレーナは、そっと俯くと、口元に笑みを刻んだまま窓辺を辞した。部屋の奥、乱れたベッドへと身を投げだす。真っ白なシーツの冷たい感触にほお擦りをして、ドレスの皺も気にせず、ベッドの上に丸まった。 

 彼女は、本当にもう、彼に寂しく笑って欲しくなかった。 

 その顔を見るのは嫌だと、だから、そんな顔をさせないように動き、一昨年に至っては、栄えある試験を受ける気概が湧くよう振舞ったのだと、ソフィレーナは自白する。決して、ケルッツアの為ではない、自分の為だと思い返す事実は苦い。 

 総館長は、そんな我侭な助手の要求を、受け入れてくれたに過ぎない。だからこの結果はこの痛みは。 



(自業自得だわ。) 



 ソフィレーナは、くすり、と喉から声を漏らした。一人の部屋に偲んだ笑い声が一つ、頼りなく響き、後から後から、弦楽器を弾いたような声は消えない。 

 当然の帰結だった。 

 彼女の脳裏に、母の顔や、嬉しそうな総館長の顔が浮かぶ。その周りに沢山の人が集まってくる幻想。 

 彼に自信がつけば、元来総館長は申し分ない人だ。ソフィレーナは笑った。人が寄ってくるだろう、もっと、本当に優しくて器量のある女性の目にも止まるだろう。 

 ぽろぽろと落ちる涙は落ちたそばから白いシーツに染み込んでゆくが、ソフィレーナは知らないふりをした。もともとの認識が間違っていただけ。傷つくのは可笑しい。矜持が彼女を諌め、訴えている。顔を整えよ、服を整えよ。宴の間だからといって人が来ないとは限らない。その者に、例え家族でもその者に、こんなみっともない姿を晒す気か。 



(だけど、心のどこかで、私だけのものだと、思ってた。) 



 矜持の影から、隠れていたソフィレーナが、そっと囁く。彼女は、その小さな声にうなずき、湿って熱を孕んだ吐息と共に唇を震わせた。ばかだなぁ。声は掠れ、彼女の耳朶にしか響かない。耐えていた嗚咽が喉から零れ落ちた。その音を皮切りに、ぐしゃりと、笑みが、顔が歪む。 



(あのひとは、本当は、とてもすごい人なのに。それに、みんな気づいただけなのに。) 



 酷い慟哭にぐらぐらと揺さぶられ、とうとう彼女は静かに泣き崩れた。声だけは布団の陰に殺し、薄く施した化粧などは剥げ落ちるだろう程の嗚咽で喉を嗄らし泣く。 

 ベッドが汚れるだろう。そうしたら使用人に何を推測されるものか。瞼も赤く腫上がり、平均よりはまあ良い程度の顔が、かなり酷くなるのは目に見えていた。 

 腕に口元を押し付けて、泣き止もうとするが自制が効かない。落ちる涙はとめどなく、湧き出る感情もとめどなかった。哀しい悲しい寂しい酷いどうしようもない醜い酷い我侭自分勝手最低最悪悲しい悲しい悲しいあのひとはわたしの。 



(わたしだけのものだなんて、どのくちがのたまうの。) 



 酷い耳鳴りと頭痛の中、遠くで惨めな声がした。引き攣り、苦しげに吐き出される息に混じって、情けない嗚咽の音がしていた。 

 遠く、とおくの認識。 





 引き攣れるように跳ね上がる肩を遊ばせて、ソフィレーナは今、自室のベッドの上で虚ろに宙を眺めている。いまだ掠れた視界に、涙の気配を残した吐息と鼻をすする音だけが時折生まれては消えていった。 

 ワルツの音が漏れ聞こえてくる。人の笑い声が途切れ途切れ、消える事は無い。彼女は苦しい息の中から、安堵を零した。それでいい、と酷く腫れた瞼で朗らかに笑う。生まれた時より王臣から外され、その為に春の宴に参加できないダリルの末姫が泣いている等と宴の参加者に思われた日には、堪った物ではないのだから。 

 そんな事で、心を乱している訳ではない。ソフィレーナは、自嘲して、拍子に又一つ二つ、涙を零した。 



(あのひとは、プロフェッサー・ディム・ゲール足る資格を得た。) 



 だから、栄えある者として、母が、そして現在当主である彼女の二番手の姉が、かの有名な”春の宴”に招いた。その事実を、ソフィレーナは正しく受け止めている。 

 泣き疲れ、だるさの残る思考の片隅、二つの声が、微かに響いていた。 



(ドクターにはもう二度と、寂しく笑って欲しくなかった。これは本当のこと。) 







(でも、あのひとは私のものだと。)



(思っていたのも本当のこと。) 









(なんて、醜く愚かなソフィレーナ)
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