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それはおとぎ話のような⑫
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「エラノーラ、実をいうとお前の魔力を封じようと思っていた」
その父の言葉に、私はひやりとしながらも内心を悟られないように、平静を装って聞き返した。
「私が、二度と約束を破れないように、ですか?」
しかし、父は首を振って否定した。
「今回の件とは関係なく、ずっとそうするべきではないかと思っていた。お前には私のような目には会ってほしくないし、それには早く手を打つことにこしたことはないからな。気づかれてからでは遅い……」
私は父が続けるのを待った。父が私以上に、私のことを考えていたのだと思うと不思議な気分だった。普段、あまり話さず少し距離のあった父が、こんな風に私のことで思い悩んでいたのだとは考えてもみなかった。しかし、自分の魔力が父に封じられるとなると穏やかではない。この魔力はすでに私の一部だ。正直なところ、リスクがあると分かっていても、気軽に手放したいものではない。
「だが、その魔力はお前が自分を守ることのできる手段でもある。幼いうちからの訓練をしないと、いざというとき役に立つどころか危険になる。魔力の暴走事件は、訓練をしていた人間でも起こすことがあるからな。だから、基礎だけでも家庭教師をつけて学ばせるつもりだった」
「お父様、ひとつ報告を忘れていました」
それで私はもうひとつ、思い出した。
「その家庭教師、私のことを【王族並みの魔力の持ち主で、学園にいくべきだとお父様に進言する】といっていたので……その、そのようなカンチガイをされては迷惑なので【普通の魔力しかない】と記憶間違いを訂正して差し上げました」
父は少し眉を上げた。
「ほかに、報告忘れはないのか?」
私は肩をすくめた。
「ございません」
ふーっと父はため息をついた。
「さっきは指摘しなかったが【探検ごっこ】で【自分たちの姿がみえないようにした】と言っていたのは、つまり使用人やその区域にいた人間の視覚にかかる認知に干渉したということだろう」
私は視線を泳がした。嘘を言うつもりはなかったが、正直に言うとあいまいな表現で、そのへんをごまかしたい気持ちはあった。私の反応を見て、さらに父は脱力し、目を閉じて尋ねてきた。
「エラノーラ、それがどういうことか分かっているか?」
仕方がないので、なるべく申し訳なさそうに聞こえるように私は答えた。
「はい……、大衆の精神に作用する魔術の使用を無許可で行った者は、最悪死罪です……」
死罪とはかなり重い刑に聞こえるが、これは、以前そのような手段を使ったクーデター事件があったことを踏まえての量刑らしい。きっと、家庭教師もこういう場で教育の成果が発揮されているとは思ってもいないだろう。
「……戻ってきたとき、お前を見てどんなに私が驚いたか分かるか?」
重たい沈黙の末、父は口を開いた。
(きっと気づいただろうな、とは思ったけれど、驚いているようには見えなかったわよ。お父様……)
そう思うが、口には出せない。神妙な顔で聞く。
「生命維持ぎりぎりの魔力で、真っ白な顔で立っている娘を見て、一体何をしていたのかと……」
(そんなに、驚いていたの……?)
トテモ、ソンナフウニハ、ミエナカッタワ。本当だとしたら、どれだけポーカーフェイスなのだろう、この父は。
「だからといって、どこかに魔力を使った形跡もみられない。だが、挙動不審だったお前が何かをしたのは明らかだ。すぐにお前に聞けばよかったのだろうが、他人に聞かれていい話ではないし、私にも普段見張りがついているしな……。これは、言い訳だな。正直に言うと、どういう風にお前とこの件を話せばいいか分からなかった。こうして、お前から話してきてくれて助かったよ」
私も、話せてよかったと思っていた。いままでは、どこか遠い存在だったが、まぎれもなく生身の私の父だった。多分、この世で誰よりも私のことを気にかけてくれている存在なのかもしれないと実感できた。そんな父を裏切らないためにも、これからは軽率な行動はしないようにしよう。そう思えた。
その後、こまごまとした今後のことについて話し合った。といっても、制限時間が近づいてきてたので、駆け足での確認のようなものだった。家庭教師の授業は今後も続け、父に時間がある夜は、父に魔力コントロールについて教わり、普段身に着けることで魔力を隠せる道具をこれから用意してくれるということだった。
その父の言葉に、私はひやりとしながらも内心を悟られないように、平静を装って聞き返した。
「私が、二度と約束を破れないように、ですか?」
しかし、父は首を振って否定した。
「今回の件とは関係なく、ずっとそうするべきではないかと思っていた。お前には私のような目には会ってほしくないし、それには早く手を打つことにこしたことはないからな。気づかれてからでは遅い……」
私は父が続けるのを待った。父が私以上に、私のことを考えていたのだと思うと不思議な気分だった。普段、あまり話さず少し距離のあった父が、こんな風に私のことで思い悩んでいたのだとは考えてもみなかった。しかし、自分の魔力が父に封じられるとなると穏やかではない。この魔力はすでに私の一部だ。正直なところ、リスクがあると分かっていても、気軽に手放したいものではない。
「だが、その魔力はお前が自分を守ることのできる手段でもある。幼いうちからの訓練をしないと、いざというとき役に立つどころか危険になる。魔力の暴走事件は、訓練をしていた人間でも起こすことがあるからな。だから、基礎だけでも家庭教師をつけて学ばせるつもりだった」
「お父様、ひとつ報告を忘れていました」
それで私はもうひとつ、思い出した。
「その家庭教師、私のことを【王族並みの魔力の持ち主で、学園にいくべきだとお父様に進言する】といっていたので……その、そのようなカンチガイをされては迷惑なので【普通の魔力しかない】と記憶間違いを訂正して差し上げました」
父は少し眉を上げた。
「ほかに、報告忘れはないのか?」
私は肩をすくめた。
「ございません」
ふーっと父はため息をついた。
「さっきは指摘しなかったが【探検ごっこ】で【自分たちの姿がみえないようにした】と言っていたのは、つまり使用人やその区域にいた人間の視覚にかかる認知に干渉したということだろう」
私は視線を泳がした。嘘を言うつもりはなかったが、正直に言うとあいまいな表現で、そのへんをごまかしたい気持ちはあった。私の反応を見て、さらに父は脱力し、目を閉じて尋ねてきた。
「エラノーラ、それがどういうことか分かっているか?」
仕方がないので、なるべく申し訳なさそうに聞こえるように私は答えた。
「はい……、大衆の精神に作用する魔術の使用を無許可で行った者は、最悪死罪です……」
死罪とはかなり重い刑に聞こえるが、これは、以前そのような手段を使ったクーデター事件があったことを踏まえての量刑らしい。きっと、家庭教師もこういう場で教育の成果が発揮されているとは思ってもいないだろう。
「……戻ってきたとき、お前を見てどんなに私が驚いたか分かるか?」
重たい沈黙の末、父は口を開いた。
(きっと気づいただろうな、とは思ったけれど、驚いているようには見えなかったわよ。お父様……)
そう思うが、口には出せない。神妙な顔で聞く。
「生命維持ぎりぎりの魔力で、真っ白な顔で立っている娘を見て、一体何をしていたのかと……」
(そんなに、驚いていたの……?)
トテモ、ソンナフウニハ、ミエナカッタワ。本当だとしたら、どれだけポーカーフェイスなのだろう、この父は。
「だからといって、どこかに魔力を使った形跡もみられない。だが、挙動不審だったお前が何かをしたのは明らかだ。すぐにお前に聞けばよかったのだろうが、他人に聞かれていい話ではないし、私にも普段見張りがついているしな……。これは、言い訳だな。正直に言うと、どういう風にお前とこの件を話せばいいか分からなかった。こうして、お前から話してきてくれて助かったよ」
私も、話せてよかったと思っていた。いままでは、どこか遠い存在だったが、まぎれもなく生身の私の父だった。多分、この世で誰よりも私のことを気にかけてくれている存在なのかもしれないと実感できた。そんな父を裏切らないためにも、これからは軽率な行動はしないようにしよう。そう思えた。
その後、こまごまとした今後のことについて話し合った。といっても、制限時間が近づいてきてたので、駆け足での確認のようなものだった。家庭教師の授業は今後も続け、父に時間がある夜は、父に魔力コントロールについて教わり、普段身に着けることで魔力を隠せる道具をこれから用意してくれるということだった。
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