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それはおとぎ話のような⑦
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分かっていたことではあるが、【秘密のミッション】の進捗ははかばかしくなかった。ないものを探しているのだから当然ではある。しかし弟が、
「今日も見つからなかったね。エラお姉ちゃん。つきあってくれたのにごめんね」
としょんぼりする姿は可哀そうでありつつも、そのかわいさに毎回胸が締め付けられ、キュン死しそうだった。
──ルースったら!もう、ぜんぜんあやまらなくていいのよ!お前のそのかわいい姿が見られるだけで、お姉ちゃんは幸せなんだから!でも、しょんぼりしている姿もかわいいわっ!何回みてもドキドキしちゃうっ!
鼻血が出ていないかそっと確かめつつ、動悸する胸を深呼吸でなだめながら私は平静を装って、
「お母さまが一生懸命探しても見つからなかったんだから、そう簡単に見つかるわけがないわよ。ここにはないって分かっただけでも良かったじゃない」
となんでもないことのように言うと、思った通りルースは、
「そうかな、そうだよね!お姉ちゃんっ、ありがとう!!」
と抱き着いてくる。金髪の柔らかな髪が私の頬をなで、ふんわりとしたいい匂いが鼻腔をくすぐる。
私は反射的に片手で鼻を押さえた。鼻血が出ている。素早くハンカチを鼻に押し当てて、強い心でもって理性をかき集め、弟の体を自分から引き離し背を向けた。私はクールで頼れるお姉ちゃんなのだ。弟に抱きつかれて興奮して鼻血を出したりはしない。かわいい弟に鼻血を出している間抜けな姿を見られたなら、きっと私は恥ずかしさのあまり死んでしまうだろう。
「さ、そろそろ魔術を解かないといけないわ。素早く撤退するわよ、ルース」
「はい!リーダー!」
なんだかんだ言って、私もノリノリであった。
「ねえ、お姉ちゃん今日は北の塔に……」
ある日、弟がそわそわと近づいてくるのを、私は悲しい思いで見つめた。
「今日からは、しばらく【宝探し】はできないわ、ルース」
それは、魔術の連発で私が疲労しているためではなかった。【秘密のミッション】では、対象区域に何重にも魔術網を張ったり、ミッション中は魔術をフル稼働して非常に消耗するため、連日はさすがにキツイものがあったが、それでも弟のためなら平気だった。弟のためなら、どんな無茶しても死なないという根拠のない自信すらあった。だが、今回ばかりは弟と二人っきりのお楽しみの時間を我慢しなければならなかった。
「どうかしたの、お姉ちゃん?」
心配そうに弟は寄ってきて、私の顔を見上げる。その天使のようなあどけない顔ときたら。目に入れても痛くはないだろうし、食べちゃいたいくらいかわいくてよだれが出そうだ。そう、この大切な弟との時間を守るためにも、しばらく【秘密のミッション】を自制しなければならない。わたしは、つい先ほど執事が母に伝えているのを盗み聞きしてしまったのだ。
「来週、お父様がお戻りになるのよ。お父様がまた城からいなくなるまでは【宝探し】はできないわ」
わずかな魔術の気配も残すわけにはいかなかった。数日たてば自然に魔術の痕跡は消えるとはいえ、鋭い父のことだ。わずかな残り香のような痕跡でも気づく恐れがある。戻ってくるまでに徹底的にクリーニングしておかなくてはならない。
「今日も見つからなかったね。エラお姉ちゃん。つきあってくれたのにごめんね」
としょんぼりする姿は可哀そうでありつつも、そのかわいさに毎回胸が締め付けられ、キュン死しそうだった。
──ルースったら!もう、ぜんぜんあやまらなくていいのよ!お前のそのかわいい姿が見られるだけで、お姉ちゃんは幸せなんだから!でも、しょんぼりしている姿もかわいいわっ!何回みてもドキドキしちゃうっ!
鼻血が出ていないかそっと確かめつつ、動悸する胸を深呼吸でなだめながら私は平静を装って、
「お母さまが一生懸命探しても見つからなかったんだから、そう簡単に見つかるわけがないわよ。ここにはないって分かっただけでも良かったじゃない」
となんでもないことのように言うと、思った通りルースは、
「そうかな、そうだよね!お姉ちゃんっ、ありがとう!!」
と抱き着いてくる。金髪の柔らかな髪が私の頬をなで、ふんわりとしたいい匂いが鼻腔をくすぐる。
私は反射的に片手で鼻を押さえた。鼻血が出ている。素早くハンカチを鼻に押し当てて、強い心でもって理性をかき集め、弟の体を自分から引き離し背を向けた。私はクールで頼れるお姉ちゃんなのだ。弟に抱きつかれて興奮して鼻血を出したりはしない。かわいい弟に鼻血を出している間抜けな姿を見られたなら、きっと私は恥ずかしさのあまり死んでしまうだろう。
「さ、そろそろ魔術を解かないといけないわ。素早く撤退するわよ、ルース」
「はい!リーダー!」
なんだかんだ言って、私もノリノリであった。
「ねえ、お姉ちゃん今日は北の塔に……」
ある日、弟がそわそわと近づいてくるのを、私は悲しい思いで見つめた。
「今日からは、しばらく【宝探し】はできないわ、ルース」
それは、魔術の連発で私が疲労しているためではなかった。【秘密のミッション】では、対象区域に何重にも魔術網を張ったり、ミッション中は魔術をフル稼働して非常に消耗するため、連日はさすがにキツイものがあったが、それでも弟のためなら平気だった。弟のためなら、どんな無茶しても死なないという根拠のない自信すらあった。だが、今回ばかりは弟と二人っきりのお楽しみの時間を我慢しなければならなかった。
「どうかしたの、お姉ちゃん?」
心配そうに弟は寄ってきて、私の顔を見上げる。その天使のようなあどけない顔ときたら。目に入れても痛くはないだろうし、食べちゃいたいくらいかわいくてよだれが出そうだ。そう、この大切な弟との時間を守るためにも、しばらく【秘密のミッション】を自制しなければならない。わたしは、つい先ほど執事が母に伝えているのを盗み聞きしてしまったのだ。
「来週、お父様がお戻りになるのよ。お父様がまた城からいなくなるまでは【宝探し】はできないわ」
わずかな魔術の気配も残すわけにはいかなかった。数日たてば自然に魔術の痕跡は消えるとはいえ、鋭い父のことだ。わずかな残り香のような痕跡でも気づく恐れがある。戻ってくるまでに徹底的にクリーニングしておかなくてはならない。
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