私が悪役令嬢になるまでの物語

千代乃

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それはおとぎ話のような⑤

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【お母さまの羽を探す】

というミッション遂行のために、私たち姉弟は城の中の探検を始めた。ミッションは極秘なので、私たちは名目上探検ごっこをしていた。私はそんな子供っぽいことはしたくないけど、お姉ちゃんだから、弟の世話をしないといけないのよ、という態度をとっていたつもりだ。

私は遊びのつもりだったけれど、弟は大まじめのようだった。それはもう真剣に、忍び込んだ部屋のひきだしや、長持ちの中を丹念に探していた。あまりにも真剣すぎて、わたしがその横顔に見とれていることにも気づいていないようだった。

──真剣に探しているわ。真剣な顔もとてもかわいいのね。

胸を熱くしながら弟の光り輝く金髪や、柔らかくて小さな体を愛でていたが、

「ルース、あなたはお母さまの羽がどういうものか分かるの?」

と頃合いを見計らって聞いてみた。羽というのがどういうものか、私には母から詳しくきいた記憶はなかった。私は勝手に白鳥の羽のようなものを想像していたが、それってつけ外しできるものなのだろうか。それとも羽というのは、何かの比喩なのだろうか。いずれにせよ、その羽なるものがこの城にはないことは確信していたものの、弟がどういったものを探しているつもりなのかは知りたいと思った。

「分からないよ!」

ルースはにっこりと答えて、当然その愛くるしい顔に私はしばらく息をのんでしまった。


──分からないって!ルースったら、そんな笑顔で言うことじゃないのに。そこを笑顔で言い切るところがさすがルースね、悪魔的にかわいいんだから!

「分からないって……だったら、もし目の前にあっても気づかないんじゃないの?」

つとめて呆れた風に私がいうと、弟は、

「でも、きっと見たら分かるよ!」

と自信たっぷりに言い切った。

──その自信になんの根拠もないのだろうけど、お前のかわいさはこの国いちばんよ!お姉ちゃん、どこまでも付き合うからね!

私は心の中で誓いを立てながら、ため息をついた。長時間弟のそばにいるのは、体に悪い。胸が痛くなり、息苦しくなってしまう。そんなことは、可愛い弟の近くにいるうえで何の問題でもないのだけれど。




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