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8.朝食、カルドネの説明

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補正された礼服を着て、食堂に向かう。
使用人たちが私に頭を下げるを見て、何とも言えない気分になる。
ここが例えば高級ホテルならば(利用した経験はないが)仕事として頭を下げられることに何とも思わないだろうが、ここが元いた自分のいた世界とは全く違う身分制度の社会だと思うと恐怖に似た感情が沸いてくる。元いた世界でも、歴然とした格差はあったが、建前上、全ての国民は人権を保障されていた。罪を犯せば貴賎関係なく同等に裁かれる…という建前があった。疑わしきは罰せず。人権万歳だ。  

三百年ぶりに召喚された聖女として、この世界のヒエラルキーの上部にいちおう今は位置しているのだろうが、こんなのはかりそめのものだろう。

その肩書きがなくなったら、私は何も持たない、どこにも属さない、弱者だ。この世界のセーフティネットに引っかかれるとも思えない。

(せめて、聖女なら何か超能力的なのがあればお守りにできるんだけどね…)

今のところ、聖女的な何かが自分に付与されている感じはしないが…もしかしたら、試してないだけで実は何某かの超能力が身についているかもしれない。そうであって欲しい。

そんなことを思っているうちに食堂に到着した。

既に中央教会の長であるカルドネと、トートニス領主イルカ、その妻子がテーブルについている。

「お早うございます。お待たせ致しました」
と言って案内されたテーブルにつく。給仕がイスを引き、ケイトが後ろに控えた。

朝食をとりながら、カルドネが口を開く。

「今日は王都へ向かいます。既に一報は昨日のうちに飛ばしてします。三百年ぶりの聖女様をお迎えすることができ、皆喜んでいることでしょう」

えーと、はい…、私を見てもその喜びが削がれることがなければ良いのですけど。なんか緊張するね。

「トートニス領主長男のソラが第一王子の騎士団に所属しています。聖女様付きに配置転換して頂けるようにとりはかるようにしましょう。トートニスの者が傍付きになるのは慣習ですので」

「しばらくは慌ただしくなりそうですな、何しろ久方ぶりの召喚の儀の成功ですから。あれこれの調整が落ち着くまでは聖女様とゆっくりお話しできる時間もとれないでしょうから、簡単にこれまでの聖女様についてお話ししましょう。これから聖女ユラノ様に関わることは前例をなぞることになりますので、参考になると思います」

それからカルドネが話し始めた、最初の聖女から前回の聖女までの歴史は聞いていて気絶しそうだった。意識を保てた自分は本当にえらいと思う。

要約すれば、その時代ごとに困難に直面していたこの世界に、異世界から乙女がやってきて、あれこれあって平和と安定が訪れた、ついでに王子様と結婚して幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。

…という話だ。遠のいた意識をかき集めたらそんな感じだったと思う。

…いや、参考になるか?どのあたりを参考にすればいいのだ?あんまり考えたくないが、私に世界を救って、王子と結ばれるヒロインを演じろということか?いやいや…



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