夢の中の雪

東赤月

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模索

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「ど、どうしたのよ?」
 転がるようにかまくらに入った僕を、深谷さんが驚きをもって迎える。
「せ、雪像が、動いてたんだ……」
「雪像?」
 知らないのか? 一瞬躊躇って、口にする。
「五人の女の子の雪像。……心当たり、ある?」
「……っ!」
 ギリ、と深谷さんの奥歯が鳴る。
「その雪像が作りかけのかまくらを壊そうとしていて、止めようとしたら僕の方に向かってきたんだ。それで逃げ帰ってきた」
「そう、あいつらが……」
 深谷さんが暗い笑みを浮かべた。
「これだから外は嫌なのよ。どうせいくら頑張ったところで、あいつらに邪魔されるんだし」
「何か試してみたの?」
「予想してただけ。けどほら、やっぱりそうだった。私は間違ってなかったわ。出ようとしても妨害されるなら、最初からここにいた方がマシだったのよ」
「…………」
 僕は大きく息をついてから、かまくらの外へと向かう。
「どこ行く気?」
「外」
「なんで? 雪像がいるんでしょ?」
「だから、それを壊しに」
「はあ!?」
 深谷さんが驚愕の声を上げる。僕はそれに構わず外に出た。
「何考えてるのよ! 無理に決まってるじゃない!」
 かまくらの中から深谷さんの声が届く。僕は吹雪の中、かまくらを振り返って言った。
「そういうの、自分でやってから言いなよ」
「やってから、って……」
「どうして無理って決まってるの? そういう風にできてるの? そうと分かったのはなんで?」
「…………」
 返事がない深谷さんを置いて、自分が作りかけのかまくらへと向かう。そこには変わらず、雪像が群がっていた。深谷さんのいるかまくらまでは来ないのか来れないのか、何にしろ雪像たちの目的は僕の妨害みたいだ。
「やめてよ」
 自分の周りを十分に踏み固めてから、雪像たちに声をかける。雪像たちはまた、一斉に僕の方に向くと、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。
 やっぱり怖い。けれど動きが遅いなら、捕まらずに行動できるはずだ。
 雪像たちに雪玉をぶつけようとして、この雪像たちは深谷さんの暗い過去の象徴みたいなものだろう。それに対し、僕が手を出していいのだろうか。深谷さんに、何か悪い影響を与えてしまう可能性もあるのではないか。
 逡巡している間に、一体がすぐ近くにまで寄ってくる。
「……ごめん!」
 覚悟を決めて、至近距離から雪玉を投げつけた。雪玉は顔と胸のあたりに当たるも、雪像は特に気にした様子もなく近づいてくる。
 そこそこ強度はあるみたいだ。ならばと僕は素早く屈んで足払いをかける。
 ボゴッ!
 少しでも体勢を崩せればと思い放った蹴りは、予想に反して雪像の足を砕いてしまった。雪像に触れた僕の足も、氷水の中を通ったかのように冷たくなる。
「うわっ」
 倒れた雪像から慌てて距離をとる。どうやら壊そうと思えば壊せるみたいだけど、これで深谷さんに何か起きたらどうしよう。
 そんな心配をするのも束の間。崩れた足の近くにある雪が吸い込まれるように足元へと動き、見る見るうちに足を作り直してしまう。
「えっ!? そんなのあり!?」
 流石は夢の世界だ。なんて思っている間に、他の雪像たちも近づいてくる。
「くっそ!」
 雪像とは言え女の子の形をしたものを攻撃することに多少の罪悪感を覚えながら、迫りくる雪像を次々と破壊する。
 しかし何度壊しても、どこを崩しても、雪像はすぐに再生してしまう。
 ある程度試すことのできた僕は、動けなくなる前に引き返すことにした。振り向くと、雪像たちは暫くは追ってきたけれど、やがて諦めたかのように引き返していった。
 やっぱり深谷さんのいるかまくらには近づこうとしないらしい。そんな収穫を持って、かまくらへと戻った。
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