27 / 53
部長の姿
しおりを挟む
「儂は専門家じゃ。大船に乗った気でおるがよい」
「それでも、僕より一つしか年が違わない、女の子じゃないですか」
「ほう」
部長は再び足を止めて振り返った。僕が視線を戻すと、その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
「儂じゃ不服か?」
「そういうわけじゃないですよ。ただ……」
少しの間、口籠る。僕が言おうとしている言葉は素人意見そのもので、部長にとっては煩わしいものかもしれないから躊躇った。けれども、僕は自分の気持ちを伝えたかった。
「部長から見れば、深谷さんから僕を守ることは、当然のことをしているだけかもしれませんが、僕にとっては、部長に命を救われているも同然なんです。そんな、助けられるだけの何も知らない第三者としては、部長はとても凄い人のように思えます。ですが、同時にとても大変なことも当然のように受け止めて、それを平気だと言えてしまう、そんな危なっかしさを感じるんです。全部自分だけで引き受けてしまうような、独力のみで解決しようとするような、そんな人に映ってしまうんです。だからその、おこがましいと思われるかもしれませんが、無理はしないで欲しいんです。僕程度が何をしたって微力にすらならないかもしれませんが、何か協力がしたいんです。助けられるだけじゃ嫌なんです。可能な限り、貴女の力になりたいんです」
緊張からか、饒舌になってしまった。言わなくていいことまで言ってしまった気がする。
少しばかり後悔している僕に対し、部長は一つ頷いて言った。
「確かにおこがましいな」
ぐさ、と僕の心に言葉のナイフが刺さる。覚悟はしていたつもりだったけれど、中々こたえた。
「儂が自分の力だけで無理してでも物事を解決しようとしていると思い込むのは自由じゃが、何の力を持たない人間が下手に手伝うと逆効果を生む可能性があることは知っておろう。自分の非力を自覚してまで手伝いたいと言うのは、非力でも何か出来ると勘違いしている愚か者だけじゃ」
部長の言葉に、僕は何も返すことができない。貸せるほどの力を持たない僕は、全てを部長に任せるしかない。当然だ。
分かっていたはずなのに、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。他人に頼ってばかりいる自分を、自尊心が許せなかったのだろうか。誇れるほどの力も持たないくせに。
「すみませんでした」
深々と頭を下げる。このまま置いて行かれても文句は言えないと思った。僕は、馬鹿だった。
「謝らずともよい。お主の善意は嬉しいぞ」
ふふふっ、と笑う部長はいつもと同じだった。まるで動じない理由を部長の過去に見た気がして、益々申し訳なく思う。
僕のような素人の的外れな意見を、部長は何度も言われてきたのだろう。その度に今のような反応をして、一般人と自分との見解の違いを悟っていったのだろう。
僕は部長にとって、どうしようもなく一般人になってしまった。見限られて、しまった。
「それに、儂はお主を非力じゃとは思っておらぬよ」
「えっ」
驚き、頭を上げる。
「でなければ儂の仕事につき合わせたりはせぬさ」
「あ……」
今更ながら、僕は今自分がどこに向かおうとしているのか思い出す。そうだ。僕は部長の手伝いをするために、今ここにいるのだった。それは、僕の力が少ないながらも部長の助けになると認めてくれたからだろう。囮としてではあるが、手助けには変わりないはずだ。
「さあ、いつまでも落ち込んでいる場合ではないぞ。まだ問題は解決しておらん。謝罪も後悔もその後にするのじゃな」
「……はい。ありがとうございます」
僕はもう一度、大きく頭を下げた。
申し訳なさと、感謝を込めて。
「それでも、僕より一つしか年が違わない、女の子じゃないですか」
「ほう」
部長は再び足を止めて振り返った。僕が視線を戻すと、その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
「儂じゃ不服か?」
「そういうわけじゃないですよ。ただ……」
少しの間、口籠る。僕が言おうとしている言葉は素人意見そのもので、部長にとっては煩わしいものかもしれないから躊躇った。けれども、僕は自分の気持ちを伝えたかった。
「部長から見れば、深谷さんから僕を守ることは、当然のことをしているだけかもしれませんが、僕にとっては、部長に命を救われているも同然なんです。そんな、助けられるだけの何も知らない第三者としては、部長はとても凄い人のように思えます。ですが、同時にとても大変なことも当然のように受け止めて、それを平気だと言えてしまう、そんな危なっかしさを感じるんです。全部自分だけで引き受けてしまうような、独力のみで解決しようとするような、そんな人に映ってしまうんです。だからその、おこがましいと思われるかもしれませんが、無理はしないで欲しいんです。僕程度が何をしたって微力にすらならないかもしれませんが、何か協力がしたいんです。助けられるだけじゃ嫌なんです。可能な限り、貴女の力になりたいんです」
緊張からか、饒舌になってしまった。言わなくていいことまで言ってしまった気がする。
少しばかり後悔している僕に対し、部長は一つ頷いて言った。
「確かにおこがましいな」
ぐさ、と僕の心に言葉のナイフが刺さる。覚悟はしていたつもりだったけれど、中々こたえた。
「儂が自分の力だけで無理してでも物事を解決しようとしていると思い込むのは自由じゃが、何の力を持たない人間が下手に手伝うと逆効果を生む可能性があることは知っておろう。自分の非力を自覚してまで手伝いたいと言うのは、非力でも何か出来ると勘違いしている愚か者だけじゃ」
部長の言葉に、僕は何も返すことができない。貸せるほどの力を持たない僕は、全てを部長に任せるしかない。当然だ。
分かっていたはずなのに、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。他人に頼ってばかりいる自分を、自尊心が許せなかったのだろうか。誇れるほどの力も持たないくせに。
「すみませんでした」
深々と頭を下げる。このまま置いて行かれても文句は言えないと思った。僕は、馬鹿だった。
「謝らずともよい。お主の善意は嬉しいぞ」
ふふふっ、と笑う部長はいつもと同じだった。まるで動じない理由を部長の過去に見た気がして、益々申し訳なく思う。
僕のような素人の的外れな意見を、部長は何度も言われてきたのだろう。その度に今のような反応をして、一般人と自分との見解の違いを悟っていったのだろう。
僕は部長にとって、どうしようもなく一般人になってしまった。見限られて、しまった。
「それに、儂はお主を非力じゃとは思っておらぬよ」
「えっ」
驚き、頭を上げる。
「でなければ儂の仕事につき合わせたりはせぬさ」
「あ……」
今更ながら、僕は今自分がどこに向かおうとしているのか思い出す。そうだ。僕は部長の手伝いをするために、今ここにいるのだった。それは、僕の力が少ないながらも部長の助けになると認めてくれたからだろう。囮としてではあるが、手助けには変わりないはずだ。
「さあ、いつまでも落ち込んでいる場合ではないぞ。まだ問題は解決しておらん。謝罪も後悔もその後にするのじゃな」
「……はい。ありがとうございます」
僕はもう一度、大きく頭を下げた。
申し訳なさと、感謝を込めて。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
白い彼女は夜目が利く
とらお。
キャラ文芸
真夏の夜、涼しい風が吹くその場所で、彼女を見つけた。
何の変哲もない男子高校生、神埼仄は小学生の頃一目惚れした少女を忘れられずにいた。
そんなある日、一人の少女がクラスに転校してくる。
その少女は昔一目惚れしたその少女とそっくりで……。
それからだった。
彼の身の回りでおかしなことが起こり始めたのは。
◆ ◇ ◆ ◇
怪異に恋する現代和風ファンタジー。
貴方はそれでも、彼女を好きだと言えますか?
毎週水・土曜日、20時更新予定!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
千里香の護身符〜わたしの夫は土地神様〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
ある日、多田羅町から土地神が消えた。
天候不良、自然災害の度重なる発生により作物に影響が出始めた。人口の流出も止まらない。
日照不足は死活問題である。
賢木朱実《さかきあけみ》は神社を営む賢木柊二《さかきしゅうじ》の一人娘だ。幼い頃に母を病死で亡くした。母の遺志を継ぐように、町のためにと巫女として神社で働きながらこの土地の繁栄を願ってきた。
ときどき隣町の神社に舞を奉納するほど、朱実の舞は評判が良かった。
ある日、隣町の神事で舞を奉納したその帰り道。日暮れも迫ったその時刻に、ストーカーに襲われた。
命の危険を感じた朱実は思わず神様に助けを求める。
まさか本当に神様が現れて、その危機から救ってくれるなんて。そしてそのまま神様の住処でおもてなしを受けるなんて思いもしなかった。
長らく不在にしていた土地神が、多田羅町にやってきた。それが朱実を助けた泰然《たいぜん》と名乗る神であり、朱実に求婚をした超本人。
父と母のとの間に起きた事件。
神がいなくなった理由。
「誰か本当のことを教えて!」
神社の存続と五穀豊穣を願う物語。
☆表紙は、なかむ楽様に依頼して描いていただきました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる