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気になる用途
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「待たせたのう。今のは気にせず、席に着くがよい」
「いや、気にしないわけないじゃないですか!」
僕は叫ぶも、彼女はにこにことしている。
「ていうか、何で盗撮なんかしたんですか?」
「盗撮とは人聞きが悪いのう。あれは防犯用のカメラじゃ。いかがわしいものを撮る目的は無き故、言葉が過ぎるぞ」
「けど、俺達にはその存在を知らせずに撮ったってことじゃないですか」
「後々説明するはずだったのじゃよ。撮った後とはいえ、その存在も明かしたのじゃから、許してくれぬかのう?」
口では謝っているものの、表情は相変わらずにやけた顔のまま僕と広太の抗議はあっさりと返された。そんなに嬉しいものが撮れたのだろうか?
「この紐を仕掛けたのも貴女ですか?」
僕は足下から、床とほぼ同じ色の紐を拾う。紐の一端は本棚の後ろから、もう一端は掃除用具を入れるロッカーの後ろから、それぞれ伸びていた。手繰り寄せると、床をするすると這っていく何かが見受けられる。そしてそれはどちらも、彼女の足下から動いていた。恐らく、それぞれ本棚とロッカーの後ろから紐をまわし、手で持って、僕が一歩足を踏み出した瞬間に手を引くことで紐を張ったのだろう。僕はまんまとそれに引っかかり転倒してしまったというわけだ。
つまりカメラも防犯目的というのはただの口実で、僕達のように入ってきた人間の醜態を収めるために仕掛けたのだろう。
「知らぬなぁ。この部室は演劇部の大道具などの保管場所にもなっておる故、それもまたその一つではないかの?」
しかし彼女は全く揺るがなかった。確かに、物的証拠があっても実際に彼女がそれを行っていたことを示す証拠が無い以上、彼女の行動を証明することはできないのだ。それが可能だったのは彼女しかいないとしても、実は僕が何もないところで転倒しただけだったという可能性は無くすことができない。
僕は反論できず黙ってしまう。
「その映像、何に使うんですか?」
広太が話題を変えた。彼もまた彼女に非を認めさせることは難しいと判断したのだろう。
あのカメラには僕と広太の転倒シーンの一部始終が映っているはずだ。あまり大多数の人に見られたいものではない。とはいえ、見られても少し恥ずかしいだけで大きな実害はないはずだ。ないはずなのだが、しかし、彼女の喜びようを見ると、とても嫌な結果を招くような使い方をする気がしてならない。その映像をどういった場所で何の目的で誰が見るのかは大きく気になった。
「先にも言った通り、防犯目的のカメラじゃからのう。特に不審な人物などが映っていないかどうかを確認し、その限りでなければ映像は破棄するのじゃ」
「あ、そうなんですか」
それを聞いて広太は安心したように息をつくが、僕は食い下がる。
「先輩、さっき予想外の収穫だとかなんとか言っていましたよね? あれはどういう意味ですか?」
「はて、そんなことを言ったかのう?」
あからさまに惚けてみる彼女を見て、嫌な予感が津波のように押し寄せてくる。
「教えて下さい。その映像、本当は何に使うんですか?」
「儂は嘘を言ったわけではないぞ。詳しく言わなかっただけじゃ」
「撮られた当人たちに十分な情報開示をしないのはどうかと思いますが」
「大したことではないからのう。話す必要は無いと思ったのじゃ」
「それは僕達が判断することです」
「ふうむ、仕方がないのう」
やれやれといったように彼女は肩をすくめた。
「いや、気にしないわけないじゃないですか!」
僕は叫ぶも、彼女はにこにことしている。
「ていうか、何で盗撮なんかしたんですか?」
「盗撮とは人聞きが悪いのう。あれは防犯用のカメラじゃ。いかがわしいものを撮る目的は無き故、言葉が過ぎるぞ」
「けど、俺達にはその存在を知らせずに撮ったってことじゃないですか」
「後々説明するはずだったのじゃよ。撮った後とはいえ、その存在も明かしたのじゃから、許してくれぬかのう?」
口では謝っているものの、表情は相変わらずにやけた顔のまま僕と広太の抗議はあっさりと返された。そんなに嬉しいものが撮れたのだろうか?
「この紐を仕掛けたのも貴女ですか?」
僕は足下から、床とほぼ同じ色の紐を拾う。紐の一端は本棚の後ろから、もう一端は掃除用具を入れるロッカーの後ろから、それぞれ伸びていた。手繰り寄せると、床をするすると這っていく何かが見受けられる。そしてそれはどちらも、彼女の足下から動いていた。恐らく、それぞれ本棚とロッカーの後ろから紐をまわし、手で持って、僕が一歩足を踏み出した瞬間に手を引くことで紐を張ったのだろう。僕はまんまとそれに引っかかり転倒してしまったというわけだ。
つまりカメラも防犯目的というのはただの口実で、僕達のように入ってきた人間の醜態を収めるために仕掛けたのだろう。
「知らぬなぁ。この部室は演劇部の大道具などの保管場所にもなっておる故、それもまたその一つではないかの?」
しかし彼女は全く揺るがなかった。確かに、物的証拠があっても実際に彼女がそれを行っていたことを示す証拠が無い以上、彼女の行動を証明することはできないのだ。それが可能だったのは彼女しかいないとしても、実は僕が何もないところで転倒しただけだったという可能性は無くすことができない。
僕は反論できず黙ってしまう。
「その映像、何に使うんですか?」
広太が話題を変えた。彼もまた彼女に非を認めさせることは難しいと判断したのだろう。
あのカメラには僕と広太の転倒シーンの一部始終が映っているはずだ。あまり大多数の人に見られたいものではない。とはいえ、見られても少し恥ずかしいだけで大きな実害はないはずだ。ないはずなのだが、しかし、彼女の喜びようを見ると、とても嫌な結果を招くような使い方をする気がしてならない。その映像をどういった場所で何の目的で誰が見るのかは大きく気になった。
「先にも言った通り、防犯目的のカメラじゃからのう。特に不審な人物などが映っていないかどうかを確認し、その限りでなければ映像は破棄するのじゃ」
「あ、そうなんですか」
それを聞いて広太は安心したように息をつくが、僕は食い下がる。
「先輩、さっき予想外の収穫だとかなんとか言っていましたよね? あれはどういう意味ですか?」
「はて、そんなことを言ったかのう?」
あからさまに惚けてみる彼女を見て、嫌な予感が津波のように押し寄せてくる。
「教えて下さい。その映像、本当は何に使うんですか?」
「儂は嘘を言ったわけではないぞ。詳しく言わなかっただけじゃ」
「撮られた当人たちに十分な情報開示をしないのはどうかと思いますが」
「大したことではないからのう。話す必要は無いと思ったのじゃ」
「それは僕達が判断することです」
「ふうむ、仕方がないのう」
やれやれといったように彼女は肩をすくめた。
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