物理重視の魔法使い

東赤月

文字の大きさ
104 / 181
4. 変化

本気で勝負、です

しおりを挟む
「やっと戻ってこれたね。本当にありがとう、フルル」
「いえ、こちらこそ、ずっと後ろを警戒してくれて、ありがとうございました」

 センターオブジェクトまで私を運んでくれたフルルは、流石に息を切らしてはいたものの、疲れきっているわけではなさそうだった。どうやらフルルは見た目以上に体力があるみたいだ。

「エルナ、フルル、無事だったか」

 センターオブジェクトの防衛係を任されている、顔には見覚えのある男子が話しかけてくる。

「なんとかね。二人やられちゃったけど」
「こっちは三人倒せたんですけど、カーラさんとグレイスさんが脱落してしまったんです」

 ああ、そう言えばそんな名前だった。カインもそうだけど、よく他人の名前を覚えていられるなぁ。コツがあったら教えてもらいたいくらいだ。
 私が感心している間に、フルルが私たちに起きたことを男子に説明し終える。

「そうか……奴ら、かなり攻勢を強めてきているな」
「そっちはどんな感じ?」
「この辺りにはまだ姿を見せていないが、レフトとライトの近くには敵が潜んでいるみたいだ」
「そうですか……」

 確かその辺りは路地が入りくんでるんだったっけ。確実にフルルを意識しているね。私の迎撃を警戒して真っ直ぐ追って来なかったとはいえ、私を担いだフルルの足は決して速くはなかった。左右から回り込んでいたとしたら……もう配置につく頃かな。

「そろそろ一斉に攻めてくるかもね」
「そ、そうなんですか?」
『こちらライト!』

 噂をすれば、というやつか。ライトオブジェクトの防衛係から通信が入る。

『こちら三人に対し敵は五人! 至急応援を求む!』
『レフトが攻められている! 敵は四人で一人はユー』

 通信はそこで途絶えた。

「合計九人か。私たちを包囲しようとした奴らが丸々攻めてきたって感じだね」
「このままですと、挟み撃ちにされますね……」

 こっちは私たちを含めて六人。単純な頭数でも負けてるし、二方向から挟撃されるというかなり悪い状況だ。これは落とされるのを覚悟しとくかな。

「フルルはライト側お願い。私はレフト側でユートを抑えておくから」
「分かりました!」

 元気な返事をしたフルルは早速移動すると魔術式の準備を始める。頼もしい限りだね。

「俺たちは何をしたらいい?」
「ん? ああ、じゃあ探知魔法はそのままで、ライト側に二人、レフト側に一人の配置かな。最悪オブジェクトは守らなくていいから、とにかくやられないように」
「分かった」

 残りの四人も指示通り配置につく。さてと、どれだけもつかな。

「あ、来た!」
「みたいだね」

 レフトオブジェクトへと続く幅の広い道、緩く左へカーブしているその道の外側に面した建物の屋根を渡ってユートが近づいてきているのが見えた。どうやら姿を隠す気はないみたいだ。
 探知魔法で位置は知られると開き直ってるのかな。いい度きょ

「うん?」

 ユートが足を止めた。まだ百メートルくらいは離れている。そして何か動きを――

「まずい!」
「え?」

 私は作りかけの魔術式をかき消すと、体を低くして防御魔法の準備を急ぐ。ユートの手が高く上がるのが見えた。

 ドゴッ!
「うわぁっ!」
「……外した?」

 ユートが投げた石、恐らくどこかの戦いで剥がれた、道に敷き詰められていたものは、左隣に立つ男子の左前方約一メートルの場所に当たった。破片がいくつか男子の薄膜に当たるも、その程度では破られはしない。けれどもし直接当たったら、間違いなく破られると確信できる威力だ。

「なにぼさっとしてんの! 早く私の後ろで低くなってて!」
「は、はい!」

 男子が移動を終えたのとほぼ同時に、ユートが二撃目を放つ。

 ドゴッ!

 今度は私の右後方へと着弾する。仮に当たっても私の防御魔法は破られはしないけど、これで迂闊には動けなくなってしまった。

「防御魔法は?」
「え?」
「防御魔法の準備はできたのかって訊いてるの!」
「あ、うん。ちょっと待ってて」

 男子は慌てて魔術式の形成を始める。全く、一々行動が遅いなぁ。おっと、ぼやくなぼやくな。
 しかし、困った。まさかユートの射程がここまでとは。防御をこの男子に任せたとしても、これだけ距離があると攻撃魔法を向こうに届かせるのも一苦労だ。できなくはないけど、連射性に難があるから十分な牽制にはならない。いっそユートは無視する? ……いや、これだけの射程を持つ攻撃手段を持つ相手から目を離していたら、今度は別の味方が狙われる。攻撃を防ぐだけじゃなくて、あれ以上近づけさせないよう牽制もしないと。
 それができるとしたら……。

「エルナさん!」
「フルル!」

 頭に思い浮かべた相手が、応援にやってくる。

「そっちは!?」
「まだ来てません。今なら力になれると思って」

 その臨機応変さ、最高!

「まさに力が欲しかったとこだよ。フルルの魔法、あの建物の上にいるユートまで届く?」
「やってみます!」

 言うが早いか、フルルは翼も利用して魔術式の形成を始める。白と黒の羽が入り混じった翼から魔力の光が滲み出る光景は、何度見ても幻想的だった。

「行って、『アロー』!」

 早くも形成が終わった魔術式から、光の矢が放たれる。ユートの攻撃が終わった直後、防御魔法の陰から飛び出したフルルの魔法は、遠くにいるユートに向かって真っすぐ飛んでいく。ユートは攻撃動作を止めると、離れて身を低くした。
 隠れられたか……。でもこれで、暫く攻撃は来ない。

「探知魔法使ってる男子、レフト側に探知範囲を絞って! そこの男子は防御魔法でフルルを守ること!」
「はい!」
「フルル、悪いけどこっちは任せる。あそこまで離れられると私は何もできないから」
「分かりました!」

 フルルの快諾に満足して頷きを返すと、早速ライト側の方へと向かう。
 いやー、フルル本当にすごいな。前の試合でも大活躍だったし、もっと早くからあの翼を見せてくれればよかったのに。

「……そりゃ無理か」

 呟いて、自嘲する。飛び級って肩書きだけ見て、翼を出せないでいたフルルには目もくれなかったのが私たちだ。気にかけていたのはクラスのリーダーであるカインと、担任のジェンヌ先生くらいだっただろう。副リーダーとして支えてあげるべきだった私は、名前すらうろ覚えだった。
 本来なら味方であるはずのクラス内にほとんど味方がいない状態じゃ、コンプレックスらしい翼を曝け出すだなんて到底無理な話だ。
 だと言うのに、フルルは自分から翼を見せて、これまで実力を隠していたことを謝った。初めて聞いた時は怒りが湧いたけど、ジェンヌ先生の話を聞いているうちに、矛先が自分に向いた。実力を発揮できないフルルを、『お荷物』と蔑み、それを黙認した私たちこそ、謝るべきだった。
 だけどフルルは、一度も私たちを責めたりしなかった。私が謝った時も、笑顔で許してくれた。天使だと思った。
 そして今度こそ、フルルの、そしてクラスの皆の力になろうと思った。副リーダーとして相応しい存在になろうと思った。甘えるような奴は好きになれないけど、非力でもそれを自覚して成長しようと思う奴なら認めようと思えた。
 だから、以前の私なら投げやりになりそうな状況でも、多少はやる気を持って臨めた。

「ここは死守するよ!」
「おう!」

 連成した魔術式を構えながら、道路の先に見えるシルファたちにも聞こえるように、声を張り上げた。


 ◇ ◇ ◇


「フルル、二つ右の路地、そこからもうすぐ敵が顔を出す。引きつけてから攻撃してくれ」
「はい!」

 デールさんの指示に、私は魔術式を維持しながらゆっくり移動を始めます。ジェフリーさんの防御魔法からは離れてしまいますが、建物の陰に隠れているここならユートさんも攻撃できません。
 位置についた私はデールさんを振り返ります。デールさんは閉じていた目を開けると、大きく頷きました。

「『アロー』!」
「げっ!」

 それほど広くはない道の脇を歩いていた相手の方に向かって魔法を放ちます。相手の方は魔術式を構えていましたが、横に動いてかわしました。
 退こうとする相手の方に追撃し、四射目が当たりました。やっと一人です。

「来た! ユートだ!」
「っ!」

 ほっと一息つく間もなく、デールさんがユートさんの接近を報せます。私は建物の陰に隠れて今ある魔術式を霧散させると、左右の手それぞれに魔術式を形成し始めました。ユートさんに近づかれてしまっては、『アロー』はあまり有効じゃありませんから。

「こっちも来たよ!」

 レフトオブジェクトに続く道を見ているジェフリーさんも声を上げます。……困りました。『アロー』の魔術式が残っていれば迎撃できたのですが……。

「ジェフリーさん、相手が攻撃の準備を始めたら教えてください! デールさん、ユートさんはどこから!?」
「丁度フルルの正面方向から、建物の上を移動してきている!」
「ありがとうございます」

 私は建物から離れると、出来上がった二つの魔術式を屋根の上の方に向けました。これですぐに迎撃できます。

「今九つ先の建物から、八つ、七つ先の建物に」

 ふう、と息を吐きます。大丈夫です。倒せなくても、近づけさせなければ……。

「五、四、三、二、」

 大丈夫です。魔術式にも問題ありません。

「一!」

 魔力を注いだ魔術式が、光ります。

「なっ、方向を変えた! 左に!」

 左!? ということは――

「ジェフリーさん!」
「え、あ!」

 屋根から飛び出したユートさんは、壁を蹴ってほぼ真っ直ぐジェフリーさんに向かって落ちていきました。私の放った光弾は間に合わず、ユートさんがいたところを通り抜けていくだけです。

 ボボボン! パアン!

 ユートさんはジェフリーさんの右隣に着地すると、勢いそのままジェフリーさんを跳び越えて、頭上から光弾を放ちました。戸惑った様子のジェフリーさんの薄膜は破れ、脱落してしまいました。
 ジェフリーさんから見えていなければ、ユートさんはジェフリーさんの位置が分からなかったはずです。多分、ジェフリーさんが見た他の相手の方が、何か合図をしてユートさんに報せていたのでしょう。

「くう!」

 私は左手の魔術式から放つ光弾で、ユートさんがライト側に行かないよう牽制しつつ、右手の魔術式から放つ光弾で、直接ユートさんを狙います。我ながらかなりの数の光弾だと思いましたが、ユートさんは全て防ぐかかわすかしてやり過ごしてしまいます。

「あっ!」

 僅かな攻撃の合間に、ユートさんが石を投げて反撃しました。どうにか撃ち落とせましたが、その隙に体を低くしたユートさんが近づいてきます。

 ダッガッ!

 ユートさんに魔術式を向けた時には、ユートさんは地を蹴って跳んでいました。それを追った先では、壁を蹴ってさらに高く――

 ボボボン! ボボボン!
「あ……」

 跳び越えざま、ユートさんは光弾を落としていきました。振り返って見ると、折角魔術式を作り直したデールさんもやられてしまいました。

「………………」

 私は膝をついてから、その場に座り込みます。少し魔力を使いすぎてしまったようです。脱落者用の薄膜も、なかなか発現させられません。

「大丈夫か?」
「ユートさん……シルファさんたちに加勢しなくていいんですか?」
「ああ。もう終わったみたいだから」
「……そうですか」

 私は力なく笑みを浮かべます。やっぱりユートさんたちは強いです。

『そこまで! クラス・ジェンヌの勝利!』
「え?」
「……えへへ」

 でも、試合には勝てました。今はそれだけで、満足です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...