93 / 139
4. 変化
悔しさの向け先
しおりを挟む
「少しは頭も冷えたかしら?」
朝のランニングの終着点、高台の小さな休憩所まで歩いてきた私は、さっきからずっと黙っているカールに声をかける。幸い私たちの他に人影はなく、周りを気にせず質問を投げかけることができた。
「………………」
「カール……」
入場許可証を握って立ち尽くしたまま、相変わらず何も口にしないカールに、私はため息をつく。
「ならそうね、あなたの気持ちを代弁してみましょうか」
「はっ?」
「魔導器さえあれば勝てる、最低でもいい勝負ができるだろうと高を括っていたら、挑発した相手にボロ負けして、あまつさえ頼みの魔導器にすらダメ出しされて、悔しさを抑えきれずに逃げ出したのに、どうしてその元凶がつきまとってくるんだ。負け犬なんか放っておけよ。……なんて、そんなところかしら?」
「お前……!」
「ちょ、カール! やめて!」
図星だったのか、カールは空いている手で私の首の近く、ブレザーの上衿を掴んでくる。止めようとするリンに悪いと思いつつ、私はせせら笑った。
「暴力にでも訴えるつもり? だとしたら救いようがないわね。せめて理性ある人間らしい反応が欲しかったわ」
「っ!」
「カール!」
魔導器を持っている方の腕をリンが掴む。振り上げるとでも思ったのだろう。流石にそこまでされたらこちらとしても防衛行動をとらざるを得なかったけれど、カールも理性を失っているわけではなさそうで、握る力が強くなっただけだった。
「……お前に何が分かるんだ」
「あなたがどんな思いであんな態度をとっていたのかなんて、私に分かるわけがないわ。けれどああいう態度が、自分も周りも不幸にするってことくらいは分かっているつもりよ」
「シルファ……」
「………………」
カールは暫く私を睨みつけると、やがてブレザーから手を離した。
「……説教のつもりかよ」
「説教。そうね、そう捉えてもらって構わないわ。我ながら押し付けがましいとは思うけど、勝者からの言葉ならあなたも素直に聞けるでしょう?」
「チッ」
カールは舌打ちしてそっぽを向いた。正面から言い返してこないあたり、ある程度は私の言葉を呑み込んだようだ。
「……シルファ、怒ってる?」
口を閉ざしたカールに代わり、今度はリンが控えめに声を発した。
「怒ってる? 何に?」
「えっと、ほら、折角案内してもらったのに、カールはその、憎まれ口たたいたじゃん? その時のこと、怒ってるのかなって……」
ああ、そんなこともあったわね。私は軽く目を閉じて、案内していたときのことを思い出す。
「……それもあるかもしれないわね。あの場で謝るべきだったカールがだんまりでいたことには、多少ムッときたわ」
「ご、ごめんなさい! ほら、カールも謝って!」
「俺は事実を言っただけだ」
「カール!」
「リン、大丈夫よ。無理に謝ってほしいわけじゃないわ。寧ろ本人が悪く思ってないのに形だけの謝罪をされても、尚更こちらの気分が悪くなるだけよ」
「あう……ごめんなさい……」
「あなたが謝ることじゃないわ」
リンの表情がどんどん暗くなっていく。……悪いわね、リン。あなたを困らせるのは本意じゃないのだけど、でも――
「……偉そうにしやがって。グリマール魔法学院の奴らは、負けた相手には何言っても許されるって考えなのか?」
「そんなわけないでしょう? それを言うなら、マシーナ学院の生徒は、訪問先の学院の生徒に喧嘩腰で接してもいいって考えなのかしら?」
「ぐっ……この……!」
「もうやめて!」
ついにリンが私たちの間に入り、制止の声を上げた。そしてすがるような視線をこちらに向ける。
「お願い、シルファ。気分を悪くさせちゃったなら、いくらでも謝るから、だから、もうやめて、ください」
「………………」
悲痛さを滲ませた声に、カールも視線を落とす。その雰囲気は、話を切り上げさせるには十分だった。
「……ごめんなさい、リン」
深く頭を下げる。ほっとリンが息をついたのが分かった。
「ううん、こっちこそ――」
「そうじゃないわ」
「え」
私は顔を上げて、声を詰まらせるリンを正面から見つめ、はっきりと声に出す。
「有耶無耶にしたまま、口論を終わらせる気はないってことよ」
「そんな……!」
「……何だってんだよ。俺に土下座でもさせたいってのか?」
カールが声を荒げる。私は首を横に振った。
「謝ってほしいわけじゃないと言ったでしょう?」
「じゃあ何がしたいんだよ!」
「これもさっき言ったことだけど、説教よ。続きがあるから、黙って聞きなさい」
「………………」
ようやく二人が口を閉じた。私は小さく息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「カール、繰り返しになるけど、私はあなたが私たちに対してどういう気持ちを抱いているかなんて分からないわ。だけどそれを態度や行動に出すのはやめなさい。特に今のように、よく知らない場所で悔しさを隠さずに単独行動するなんてもっての他よ」
「……大袈裟なんだよ。魔物が出るわけでもないだろ」
「そうね。だけど問題はそこじゃないわ。チームのメンバーに迷惑をかけていることが問題なのよ」
「迷惑だと?」
「ええ。自覚がないとは言わせないわよ。マシーナ学院の品位を貶めるような発言をして、他のチームメンバーに謝らせて、挙げ句の果てには感情のままに姿をくらませようとする。あなたのそういった言動が、周りにどんな目で見られるか、他のチームメンバーにどんな影響を与えるか、想像してみたことはある?」
「………………」
カールが視線を落とす。多少は後ろめたい気持ちもあるようだ。それについては指摘しないまま言葉を続ける。
「私たち魔法使いがチームとしての行動を推奨されている理由の一つは、身の安全のためよ。一人では対処できない魔物が現れた時も、他のチームメンバーがいれば対処できる。不意に命の危機に晒された時も、仲間が助けてくれる。そういった助け合いがあるから、半人前の私たちでも大きな怪我をすることなく成長できるの。だけどその助け合いも、互いの信頼関係があってこそ。あなたの傍若無人な振る舞いからは、信頼関係を築こうという意思が感じられないわ」
「……俺は別に、一人でも平気だ」
「カール……」
「ふざけないで」
自分でも冷えきった声だと思った。リンの肩が震えるのが見える。落ち着け、私。
「一人でも平気? よく言えたものね。本気でそう思っているのなら、一人でチームを相手に勝ってみなさい。なんなら、私やユートと一対一でもしてみる?」
「それは……」
「あなたが大規模魔法を連成するまでに時間を稼いでくれたのは誰? そもそもその魔導器自体、完全にあなた一人で造ったものなの? あなたはこれまで誰からも支えられてこなかったの? ……今私が言った質問を、自分自身に問いかけたことはある?」
「……っ!」
カールは何か言おうとして、けれど結局何も口にしなかった。そんなカールを見て、リンは眉根を寄せて視線を落とす。
「あなたの傲慢な態度は、チームメンバーからの信頼を失わせるだけじゃない。私のように、他の魔法使いを不快にさせることだってある。もしそれが複数のチームで受けている依頼の最中に起きたとしたら、空気の悪さから生じる連携の不足が依頼の失敗に、ひいては何の関係もない一般人の被害につながるかもしれないわ。そうなったら、あなた責任とれる?」
「………………」
カールは黙って俯いた。その表情は悔しさよりも反省の色が強いように見える。少しは心に響いてくれただろうか。もしそうなら、慣れないことをした甲斐も少しはあったかな。私は小さくため息をつく。
「以上、とりあえず説教は終わりよ。何か言いたいことはあるかしら?」
私の問いかけに、カールは俯いたまま反応さず、リンも無言のまま首を横に振った。
「そう。それならそろそろ戻りましょう。これ以上他の皆に心配をかけるのは良くないわ」
私は先導するように来た道を引き返す。ついてこなかったらどうしようかと思ったけど、二人の足音が続いてきたので内心ホッとした。
「……シルファ、その、ありがとう」
隣に並んだリンが感謝を口にする。私は軽く髪を払った。
「お礼を言われるようなことはしてないわ。差し出がましい真似をして悪く思っているくらいよ」
「そんなことないよ! こっちこそ、ホントならあたしたちが言うべきことなのに、シルファに言わせちゃって、……ごめん」
「構わないわ。私は私の言いたいことをぶつけただけだから」
「……そっか」
私の言葉をどう受け取ったのか、リンは困ったような笑みを浮かべた。
恐らくリンは、チーム内の空気を必要以上に悪くしたくなかったのだろう。私とカールの口喧嘩を止めようとしたことからも、チーム内に不和が生じることを嫌う性格のように思える。チームとして行動する上でそういった姿勢は悪くないのだけれど、そのせいかチームの誰もカールと本気でぶつかったことはないようだった。その証拠に、案内の時、カールに身内からの言葉はあまり響いていなかった。ムードを険悪にさせないための優柔不断な態度が、カールを増長させてしまったのだ。
多分今まで、カールの態度はそこまで大きな問題にまでは発展しなかったのだろう。だけど発展してからでは遅い。だからこそ、今ここで部外者の私がぶつからないといけなかった。同年代の、目の敵にされている私が、勝者として上に立ち、説教する必要があった。
傲慢な考えだと思う。けれどきっと、これで良かったはずだ。
「……どうしてわざわざ、説教なんかしに来たんだよ。優越感にでも浸りたかったのか?」
「カール、いい加減に――!」
「リン。……私は平気よ」
立ち止まって、振り返る。カールは睨みつけるように、上目でこちらを見ていた。
つくづく、似ているわね。
その目には見覚えがあった。心を落ち着かせるためにゆっくりと息を吐いてから、質問に答える。
「……あなたみたいな奴を知っているのよ」
「俺みたいな、奴?」
「ええ。自分に落ち度はない。自分は一人でもできる。そんな考えで自分勝手に振る舞って、いつしか仲間にも見放され、一人で受けた依頼で命を落としかけた、そんな愚か者のことよ」
「……それって、まさか……」
リンが視線でも向けたのか、その言葉でカールも理解したようだった。私は気にせず続ける。
「今のあなた、そいつにそっくりなの。だから同じような失敗をする前に教えておこうか、なんて気まぐれを起こした。ただそれだけよ」
話し終えた私は背中を向け、歩みを進めた。ややあって、二人の足音がついてくる。
それから戻るまでの間、誰も言葉を発することはなかった。
朝のランニングの終着点、高台の小さな休憩所まで歩いてきた私は、さっきからずっと黙っているカールに声をかける。幸い私たちの他に人影はなく、周りを気にせず質問を投げかけることができた。
「………………」
「カール……」
入場許可証を握って立ち尽くしたまま、相変わらず何も口にしないカールに、私はため息をつく。
「ならそうね、あなたの気持ちを代弁してみましょうか」
「はっ?」
「魔導器さえあれば勝てる、最低でもいい勝負ができるだろうと高を括っていたら、挑発した相手にボロ負けして、あまつさえ頼みの魔導器にすらダメ出しされて、悔しさを抑えきれずに逃げ出したのに、どうしてその元凶がつきまとってくるんだ。負け犬なんか放っておけよ。……なんて、そんなところかしら?」
「お前……!」
「ちょ、カール! やめて!」
図星だったのか、カールは空いている手で私の首の近く、ブレザーの上衿を掴んでくる。止めようとするリンに悪いと思いつつ、私はせせら笑った。
「暴力にでも訴えるつもり? だとしたら救いようがないわね。せめて理性ある人間らしい反応が欲しかったわ」
「っ!」
「カール!」
魔導器を持っている方の腕をリンが掴む。振り上げるとでも思ったのだろう。流石にそこまでされたらこちらとしても防衛行動をとらざるを得なかったけれど、カールも理性を失っているわけではなさそうで、握る力が強くなっただけだった。
「……お前に何が分かるんだ」
「あなたがどんな思いであんな態度をとっていたのかなんて、私に分かるわけがないわ。けれどああいう態度が、自分も周りも不幸にするってことくらいは分かっているつもりよ」
「シルファ……」
「………………」
カールは暫く私を睨みつけると、やがてブレザーから手を離した。
「……説教のつもりかよ」
「説教。そうね、そう捉えてもらって構わないわ。我ながら押し付けがましいとは思うけど、勝者からの言葉ならあなたも素直に聞けるでしょう?」
「チッ」
カールは舌打ちしてそっぽを向いた。正面から言い返してこないあたり、ある程度は私の言葉を呑み込んだようだ。
「……シルファ、怒ってる?」
口を閉ざしたカールに代わり、今度はリンが控えめに声を発した。
「怒ってる? 何に?」
「えっと、ほら、折角案内してもらったのに、カールはその、憎まれ口たたいたじゃん? その時のこと、怒ってるのかなって……」
ああ、そんなこともあったわね。私は軽く目を閉じて、案内していたときのことを思い出す。
「……それもあるかもしれないわね。あの場で謝るべきだったカールがだんまりでいたことには、多少ムッときたわ」
「ご、ごめんなさい! ほら、カールも謝って!」
「俺は事実を言っただけだ」
「カール!」
「リン、大丈夫よ。無理に謝ってほしいわけじゃないわ。寧ろ本人が悪く思ってないのに形だけの謝罪をされても、尚更こちらの気分が悪くなるだけよ」
「あう……ごめんなさい……」
「あなたが謝ることじゃないわ」
リンの表情がどんどん暗くなっていく。……悪いわね、リン。あなたを困らせるのは本意じゃないのだけど、でも――
「……偉そうにしやがって。グリマール魔法学院の奴らは、負けた相手には何言っても許されるって考えなのか?」
「そんなわけないでしょう? それを言うなら、マシーナ学院の生徒は、訪問先の学院の生徒に喧嘩腰で接してもいいって考えなのかしら?」
「ぐっ……この……!」
「もうやめて!」
ついにリンが私たちの間に入り、制止の声を上げた。そしてすがるような視線をこちらに向ける。
「お願い、シルファ。気分を悪くさせちゃったなら、いくらでも謝るから、だから、もうやめて、ください」
「………………」
悲痛さを滲ませた声に、カールも視線を落とす。その雰囲気は、話を切り上げさせるには十分だった。
「……ごめんなさい、リン」
深く頭を下げる。ほっとリンが息をついたのが分かった。
「ううん、こっちこそ――」
「そうじゃないわ」
「え」
私は顔を上げて、声を詰まらせるリンを正面から見つめ、はっきりと声に出す。
「有耶無耶にしたまま、口論を終わらせる気はないってことよ」
「そんな……!」
「……何だってんだよ。俺に土下座でもさせたいってのか?」
カールが声を荒げる。私は首を横に振った。
「謝ってほしいわけじゃないと言ったでしょう?」
「じゃあ何がしたいんだよ!」
「これもさっき言ったことだけど、説教よ。続きがあるから、黙って聞きなさい」
「………………」
ようやく二人が口を閉じた。私は小さく息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「カール、繰り返しになるけど、私はあなたが私たちに対してどういう気持ちを抱いているかなんて分からないわ。だけどそれを態度や行動に出すのはやめなさい。特に今のように、よく知らない場所で悔しさを隠さずに単独行動するなんてもっての他よ」
「……大袈裟なんだよ。魔物が出るわけでもないだろ」
「そうね。だけど問題はそこじゃないわ。チームのメンバーに迷惑をかけていることが問題なのよ」
「迷惑だと?」
「ええ。自覚がないとは言わせないわよ。マシーナ学院の品位を貶めるような発言をして、他のチームメンバーに謝らせて、挙げ句の果てには感情のままに姿をくらませようとする。あなたのそういった言動が、周りにどんな目で見られるか、他のチームメンバーにどんな影響を与えるか、想像してみたことはある?」
「………………」
カールが視線を落とす。多少は後ろめたい気持ちもあるようだ。それについては指摘しないまま言葉を続ける。
「私たち魔法使いがチームとしての行動を推奨されている理由の一つは、身の安全のためよ。一人では対処できない魔物が現れた時も、他のチームメンバーがいれば対処できる。不意に命の危機に晒された時も、仲間が助けてくれる。そういった助け合いがあるから、半人前の私たちでも大きな怪我をすることなく成長できるの。だけどその助け合いも、互いの信頼関係があってこそ。あなたの傍若無人な振る舞いからは、信頼関係を築こうという意思が感じられないわ」
「……俺は別に、一人でも平気だ」
「カール……」
「ふざけないで」
自分でも冷えきった声だと思った。リンの肩が震えるのが見える。落ち着け、私。
「一人でも平気? よく言えたものね。本気でそう思っているのなら、一人でチームを相手に勝ってみなさい。なんなら、私やユートと一対一でもしてみる?」
「それは……」
「あなたが大規模魔法を連成するまでに時間を稼いでくれたのは誰? そもそもその魔導器自体、完全にあなた一人で造ったものなの? あなたはこれまで誰からも支えられてこなかったの? ……今私が言った質問を、自分自身に問いかけたことはある?」
「……っ!」
カールは何か言おうとして、けれど結局何も口にしなかった。そんなカールを見て、リンは眉根を寄せて視線を落とす。
「あなたの傲慢な態度は、チームメンバーからの信頼を失わせるだけじゃない。私のように、他の魔法使いを不快にさせることだってある。もしそれが複数のチームで受けている依頼の最中に起きたとしたら、空気の悪さから生じる連携の不足が依頼の失敗に、ひいては何の関係もない一般人の被害につながるかもしれないわ。そうなったら、あなた責任とれる?」
「………………」
カールは黙って俯いた。その表情は悔しさよりも反省の色が強いように見える。少しは心に響いてくれただろうか。もしそうなら、慣れないことをした甲斐も少しはあったかな。私は小さくため息をつく。
「以上、とりあえず説教は終わりよ。何か言いたいことはあるかしら?」
私の問いかけに、カールは俯いたまま反応さず、リンも無言のまま首を横に振った。
「そう。それならそろそろ戻りましょう。これ以上他の皆に心配をかけるのは良くないわ」
私は先導するように来た道を引き返す。ついてこなかったらどうしようかと思ったけど、二人の足音が続いてきたので内心ホッとした。
「……シルファ、その、ありがとう」
隣に並んだリンが感謝を口にする。私は軽く髪を払った。
「お礼を言われるようなことはしてないわ。差し出がましい真似をして悪く思っているくらいよ」
「そんなことないよ! こっちこそ、ホントならあたしたちが言うべきことなのに、シルファに言わせちゃって、……ごめん」
「構わないわ。私は私の言いたいことをぶつけただけだから」
「……そっか」
私の言葉をどう受け取ったのか、リンは困ったような笑みを浮かべた。
恐らくリンは、チーム内の空気を必要以上に悪くしたくなかったのだろう。私とカールの口喧嘩を止めようとしたことからも、チーム内に不和が生じることを嫌う性格のように思える。チームとして行動する上でそういった姿勢は悪くないのだけれど、そのせいかチームの誰もカールと本気でぶつかったことはないようだった。その証拠に、案内の時、カールに身内からの言葉はあまり響いていなかった。ムードを険悪にさせないための優柔不断な態度が、カールを増長させてしまったのだ。
多分今まで、カールの態度はそこまで大きな問題にまでは発展しなかったのだろう。だけど発展してからでは遅い。だからこそ、今ここで部外者の私がぶつからないといけなかった。同年代の、目の敵にされている私が、勝者として上に立ち、説教する必要があった。
傲慢な考えだと思う。けれどきっと、これで良かったはずだ。
「……どうしてわざわざ、説教なんかしに来たんだよ。優越感にでも浸りたかったのか?」
「カール、いい加減に――!」
「リン。……私は平気よ」
立ち止まって、振り返る。カールは睨みつけるように、上目でこちらを見ていた。
つくづく、似ているわね。
その目には見覚えがあった。心を落ち着かせるためにゆっくりと息を吐いてから、質問に答える。
「……あなたみたいな奴を知っているのよ」
「俺みたいな、奴?」
「ええ。自分に落ち度はない。自分は一人でもできる。そんな考えで自分勝手に振る舞って、いつしか仲間にも見放され、一人で受けた依頼で命を落としかけた、そんな愚か者のことよ」
「……それって、まさか……」
リンが視線でも向けたのか、その言葉でカールも理解したようだった。私は気にせず続ける。
「今のあなた、そいつにそっくりなの。だから同じような失敗をする前に教えておこうか、なんて気まぐれを起こした。ただそれだけよ」
話し終えた私は背中を向け、歩みを進めた。ややあって、二人の足音がついてくる。
それから戻るまでの間、誰も言葉を発することはなかった。
0
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
素直になる魔法薬を飲まされて
青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。
王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。
「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」
「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」
わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。
婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。
小説家になろうにも投稿しています。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
異世界帰りの最強勇者、久しぶりに会ったいじめっ子を泣かせる
水無土豆
ファンタジー
学校でイジメを受けて死んだ〝高橋誠〟は異世界〝カイゼルフィール〟にて転生を果たした。
艱難辛苦、七転八倒、鬼哭啾啾の日々を経てカイゼルフィールの危機を救った誠であったが、事件の元凶であった〝サターン〟が誠の元いた世界へと逃げ果せる。
誠はそれを追って元いた世界へと戻るのだが、そこで待っていたのは自身のトラウマと言うべき存在いじめっ子たちであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる