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3. 秘密
かつてのチーム
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「だから何度も言ってるでしょう? もう少し丁寧に魔術式を形成しないと、絶対いつか痛い目を見るって」
「だから何度も言ってるでしょ? 規模が大きければ魔法は当たるんだから、絶対早いほうがいいんだって」
グリマール魔法学院に編入したばかりの頃、他の生徒にどう声をかけていいか分からずまごついていた僕に、最初に声をかけてくれたのがシルファだった。
シルファは同い年とは思えないくらいしっかりしていて、知り合いのいなかった僕にとってはすごく頼れる存在だった。『暴君』の噂を聞いたのはその後で、ひどい言いがかりだと思っていた。
僕たちはすぐに打ち解けて同じチームになり、放課後は二人で魔法の練習をするのが日課になった。
シルファは魔法の技術もすごくて、僕はまだ一度も勝負で勝てたことがなかった。それでも僕を認めてくれるシルファは、すぐに僕の憧れになった。いつの日か同じくらい。いや、逆に頼られるくらい強くなって、胸を張ってシルファと一緒に戦えるようになりたいと思った。
編入して初めての対抗戦が迫るその日も、僕たちは中等部の魔法競技場で日が傾くまで練習していた。
「確かに大きければ当たるかもしれないけど、上手く制御できないんじゃ危なすぎるわよ。暴走したらどうするの?」
「そこまでひどい魔術式は作らないよ。前に攻撃できるなら、それで十分じゃないか」
「不十分よ。前に味方がいたらどうするの?」
「いやいや、普通魔法を使う時って、味方はその妨害をしないよう道を空けるってのが常識だろ?」
「切羽詰まって、移動が難しい場合もあるはずよ。そういう時ちゃんと魔法を制御できれば、危ない味方を助けることだってできるわ」
「そんなこと言ってたら、完璧な制御ができるまで魔法なんか使えないよ。ある程度は妥協しなきゃ」
寮までの道を歩きながらお互いの意見を言い合う。そんな時、ベンチに座ってお喋りする三人の女の子が目に入った。
「あ」
「っ……」
向こうも僕たちに気づいたようだった。二人は無表情になって僕たちを、いや、シルファに目を向け、間にいる水色の髪の一人は口だけで笑みを作る。シルファの表情が固くなった。
「シルファじゃない。今日も編入生と練習? 精が出るわね」
「アクアは練習しないのかしら? もうすぐ対抗戦なのに、随分と自信があるようね」
「今日は沢山の生徒がいたから、次の予約をして休むことにしたの。たまには息抜きしないと、肝心な時に実力を出せないかもしれないでしょ?」
「たまには、ね。どの程度の頻度か、参考までに聞かせて貰いたいわ」
アクアというらしい女子生徒とシルファの目線の間で、見えない火花が散ったようだった。二人の関係を知らない僕は、何も口出しできずにまごつく。
「アクア、もう行こうよ」
「そうそう。暗くなってきたしさ」
「そうだね。それじゃ、お互い頑張ろうね、『暴君』」
立ち上がりながらそう言うと、二人を連れたアクアは寮のある方へ歩いていく。シルファはため息をつくと、アクアたちが座っていたものの隣にあるベンチに腰かけた。今寮に向かうのは気まずいんだろう。
「えっと、アクアさんとは、何かあったの?」
「……私の元チームメイトよ」
立ったまま尋ねると、シルファは顔を上げずに答えた。
「私がリーダーだったんだけど、私とあの三人で衝突があってね。チームは解散。私は一人になって、三人はアクアをリーダーにした新しいチームを作ったわ」
「……その、衝突っていうのは?」
「彼女たちいわく、厳しすぎたそうよ。高すぎる理想を押しつけるなって言われたわ」
「高すぎる、理想……?」
僕は今までのシルファとの練習を思い出す。魔術式の正確さについては何度も突っ込まれてるけど、そこまで厳しい印象はなかったけどな。
「その時の話よ。今はそうでもない、わよね?」
「うん。特段厳しくは思わないかな」
実家の方がよっぽど厳しかったし。
「そう、良かったわ」
心なしか、シルファがほっとしたような表情をする。それを見て僕は気遣われていたことを悟り、嬉しく思うのと同時に、悔しさも感じた。
「ねえシルファ、僕にももっと厳しくしてよ」
「え?」
シルファが顔を上げる。僕は胸を張って続けた。
「折角親友になったんだからさ、お互いに遠慮とかしない方がいいと思うんだよね。だからもしシルファが僕を気遣って優しくしてくれているなら、僕は大丈夫だから厳しくしてほしいな」
「……親友? 私と、シイキが?」
「うん。あれ? 違った?」
実家にいた頃、同年代の友達なんてほとんどできなかった僕に、この地で初めてできた親友。それがシルファだ。僕はそう思っていたんだけど、シルファは違ったんだろうか?
そんなことを考えていると、シルファは何度か瞬きしてから、クスッと笑った。
「いいえ、違わないわ。けどそうね、親友か……」
シルファはその言葉を呑み込むように、ゆっくりと頷く。
「親友だって言うなら、一つ、約束して欲しいの」
「約束?」
「そう。お互いに、相手を裏切るような真似はしないって約束。……どう?」
上目遣いで尋ねるシルファ。きっとあの三人みたいに、僕が離れてしまわないか不安なんだろう。
そんなシルファを安心させるよう頷いた。
「いいよ。それじゃあ、約束しよっか」
小指を立てた右手を前に出す。それを受けたシルファは笑って、同じように右手を前に出した。
小指と小指が絡まる。約束が結ばれた。
「これで、僕たちは親友だ」
「そうね。私たちは親友よ」
指を解くと、シルファはベンチから立ち上がって、寮のある方に足を進めた。
「それじゃあ、明日から厳しくするわよ。ついてこれるかしら?」
「望むところさ」
いくら厳しいと言っても、実家以上ってことはないだろう。そう考えて、僕は強く頷いた。
そんな僕の見立てが甘かったことを知るのは、その翌日のことだった。
「さあ、次は魔術式の形成を繰り返し五十回!」
「ひいぃ!」
シルファの厳しさは予想以上だった。それでもシルファ自身が隣で同じように頑張っているのに、言い出しっぺの自分がサボるなんて情けなさすぎる。そんな使命感と、親友と一緒に努力することの喜びと、強くなるんだという向上心で、僕はどうにかシルファについていった。
「シイキ、遅れてるわよ?」
「ど、どして、ここまで、走んなきゃ……」
「魔導士になるためには体力も必要なのよ。考える余裕があるなら足を動かしなさい」
「それは、そだけど……!」
けど、ここの生徒にとってもシルファの特訓は厳しすぎるみたいで、突き放すようなシルファの言葉遣いも相まって、新しいメンバーはすぐにチームを離れていった。
「これはどういうことかしら? あなたは確かに、対抗戦までに成長すると言ったわよね?」
「……言いました、けど……」
「じゃあどうして全く進歩したように見えないの?」
「ま、まあまあ、マリンだって、頑張ってたじゃん」
「頑張ったことに満足して結果が出せないんじゃ本末転倒でしょ。もう対抗戦まで時間もないわ。これからはもっと厳しく――」
「いいです、もう。抜けます」
「ま、マリン?」
「……抜けるですって? こんな直前になって?」
「っ……そうよ。もう我慢の限界。私だって好きでついていけないんじゃない。私なりに必死で頑張ってる。それでもできないことだってあるのっ。なのにシルファは結果結果って……! 少しは私の気持ちを考えてよっ!」
対抗戦前は特に厳しかったから、暫く一緒にいてくれたメンバーもその時期に抜けて、結局いつも、対抗戦は二人だけで臨むことになった。
「シルファ、新しいメンバーは集めないの?」
「意識が低いメンバーはどうせ対抗戦前に抜けるのだし、闇雲に集めたところで意味がないわ。だからやる気と実力を兼ね備えている生徒じゃなきゃ、チームには入れないことにしたの」
「ええ!? ……いや、そういう方針ならそれでもいいんだけどさ、だったら尚更、気合いを入れて探さないといけないんじゃない? 場合によっちゃ、他のチームからスカウトするとか……」
「いいえ、こちらから誘うこともしない。断られるだけ時間の無駄だもの」
「こちらから誘うことはしないって……じゃあどうやってメンバーを増やすのさ?」
「簡単なことよ。私たちが強くなって、向こうからこのチームに入りたいと思わせればいいの。そうすればメンバー探しなんて余計なことをしなくて済むし、その分練習ができるから実力もついて、チームに入れてほしいって言ってくる生徒も出てくる。合理的でしょ?」
「……えっと、うん、そうだね……」
そんなに上手くいくわけがない。そう思ったけど、当時のシルファは目がぎらぎらしていて、とても否定できる雰囲気じゃなかった。それにその頃にはもうシルファの悪評が広まっていて、僕自身、普通に探したところでメンバーを集めることなんてできないと感じていたから、他にどうしようもないと自分を納得させた。
けれど結局二人だけじゃ限界があった。対抗戦は勝てないし、メンバーになりたいと言ってくる生徒も一人もいなかった。
「シイキ、何してるの?」
「あ、シルファ! ふふん、どう? シルファでもここまで大きな魔術式は作れないでしょ?」
「……大きさだけなら、そうね」
「だよね! この大きさの魔術式から魔法を発現できれば、四人相手にも勝てるでしょ? だから対抗戦に間に合うよう、今まで特訓して――」
「ふざけないで」
「……え?」
「何度も、何度も言ってるわよね? あなたはもう少し丁寧な形成を心掛けなさいって。それなのに大きさにばかり固執して……! 粗い魔術式じゃ余計に魔力を使うから、大きくても意味ないのよ!」
「い、意味ないことないよ! 少し非効率かもしれないけど、規模が大きければ問題ないって!」
「大ありよ! 問題は効率だけじゃないわ。そんな魔法が暴走したらどうなると思ってるの?」
「ぼ、暴走なんて、僕は一度も――」
「とにかく、そんな不安定な魔法は実戦じゃ使えないわ。連携方法を考える以前の問題よ」
「……うるさいっ! シルファのバカ! そんなんだから皆チームを抜けるんだろ!」
「ちょっと、シイキ!?」
二人だけでも勝てるようになるために練習してきたものを否定されて、僕の気持ちを踏みにじられたように感じて、ついには喧嘩にまで発展したこともあった。
それでも僕は、シルファから離れようとは思わなかった。
「私の言い方がきつかったことは謝るわ。けれど分かってほしいの。今のあなたの魔術式じゃ、失敗する公算の方が大きい。私たちはただでさえ勝率が低いのに、博打みたいなことはできないわ。分かってくれる?」
「……分かったよ」
なぜならシルファは親友で、口調は激しいけど間違ったことは言ってなくて、僕の知っている誰よりも勝利を求めていて、その厳しさの中にいればきっと強くなれると思えて、どことなく友達がいなかった時の僕と重なって。
そして、いつか僕の秘密を打ち明けられる相手だと感じていたから。
「だから何度も言ってるでしょ? 規模が大きければ魔法は当たるんだから、絶対早いほうがいいんだって」
グリマール魔法学院に編入したばかりの頃、他の生徒にどう声をかけていいか分からずまごついていた僕に、最初に声をかけてくれたのがシルファだった。
シルファは同い年とは思えないくらいしっかりしていて、知り合いのいなかった僕にとってはすごく頼れる存在だった。『暴君』の噂を聞いたのはその後で、ひどい言いがかりだと思っていた。
僕たちはすぐに打ち解けて同じチームになり、放課後は二人で魔法の練習をするのが日課になった。
シルファは魔法の技術もすごくて、僕はまだ一度も勝負で勝てたことがなかった。それでも僕を認めてくれるシルファは、すぐに僕の憧れになった。いつの日か同じくらい。いや、逆に頼られるくらい強くなって、胸を張ってシルファと一緒に戦えるようになりたいと思った。
編入して初めての対抗戦が迫るその日も、僕たちは中等部の魔法競技場で日が傾くまで練習していた。
「確かに大きければ当たるかもしれないけど、上手く制御できないんじゃ危なすぎるわよ。暴走したらどうするの?」
「そこまでひどい魔術式は作らないよ。前に攻撃できるなら、それで十分じゃないか」
「不十分よ。前に味方がいたらどうするの?」
「いやいや、普通魔法を使う時って、味方はその妨害をしないよう道を空けるってのが常識だろ?」
「切羽詰まって、移動が難しい場合もあるはずよ。そういう時ちゃんと魔法を制御できれば、危ない味方を助けることだってできるわ」
「そんなこと言ってたら、完璧な制御ができるまで魔法なんか使えないよ。ある程度は妥協しなきゃ」
寮までの道を歩きながらお互いの意見を言い合う。そんな時、ベンチに座ってお喋りする三人の女の子が目に入った。
「あ」
「っ……」
向こうも僕たちに気づいたようだった。二人は無表情になって僕たちを、いや、シルファに目を向け、間にいる水色の髪の一人は口だけで笑みを作る。シルファの表情が固くなった。
「シルファじゃない。今日も編入生と練習? 精が出るわね」
「アクアは練習しないのかしら? もうすぐ対抗戦なのに、随分と自信があるようね」
「今日は沢山の生徒がいたから、次の予約をして休むことにしたの。たまには息抜きしないと、肝心な時に実力を出せないかもしれないでしょ?」
「たまには、ね。どの程度の頻度か、参考までに聞かせて貰いたいわ」
アクアというらしい女子生徒とシルファの目線の間で、見えない火花が散ったようだった。二人の関係を知らない僕は、何も口出しできずにまごつく。
「アクア、もう行こうよ」
「そうそう。暗くなってきたしさ」
「そうだね。それじゃ、お互い頑張ろうね、『暴君』」
立ち上がりながらそう言うと、二人を連れたアクアは寮のある方へ歩いていく。シルファはため息をつくと、アクアたちが座っていたものの隣にあるベンチに腰かけた。今寮に向かうのは気まずいんだろう。
「えっと、アクアさんとは、何かあったの?」
「……私の元チームメイトよ」
立ったまま尋ねると、シルファは顔を上げずに答えた。
「私がリーダーだったんだけど、私とあの三人で衝突があってね。チームは解散。私は一人になって、三人はアクアをリーダーにした新しいチームを作ったわ」
「……その、衝突っていうのは?」
「彼女たちいわく、厳しすぎたそうよ。高すぎる理想を押しつけるなって言われたわ」
「高すぎる、理想……?」
僕は今までのシルファとの練習を思い出す。魔術式の正確さについては何度も突っ込まれてるけど、そこまで厳しい印象はなかったけどな。
「その時の話よ。今はそうでもない、わよね?」
「うん。特段厳しくは思わないかな」
実家の方がよっぽど厳しかったし。
「そう、良かったわ」
心なしか、シルファがほっとしたような表情をする。それを見て僕は気遣われていたことを悟り、嬉しく思うのと同時に、悔しさも感じた。
「ねえシルファ、僕にももっと厳しくしてよ」
「え?」
シルファが顔を上げる。僕は胸を張って続けた。
「折角親友になったんだからさ、お互いに遠慮とかしない方がいいと思うんだよね。だからもしシルファが僕を気遣って優しくしてくれているなら、僕は大丈夫だから厳しくしてほしいな」
「……親友? 私と、シイキが?」
「うん。あれ? 違った?」
実家にいた頃、同年代の友達なんてほとんどできなかった僕に、この地で初めてできた親友。それがシルファだ。僕はそう思っていたんだけど、シルファは違ったんだろうか?
そんなことを考えていると、シルファは何度か瞬きしてから、クスッと笑った。
「いいえ、違わないわ。けどそうね、親友か……」
シルファはその言葉を呑み込むように、ゆっくりと頷く。
「親友だって言うなら、一つ、約束して欲しいの」
「約束?」
「そう。お互いに、相手を裏切るような真似はしないって約束。……どう?」
上目遣いで尋ねるシルファ。きっとあの三人みたいに、僕が離れてしまわないか不安なんだろう。
そんなシルファを安心させるよう頷いた。
「いいよ。それじゃあ、約束しよっか」
小指を立てた右手を前に出す。それを受けたシルファは笑って、同じように右手を前に出した。
小指と小指が絡まる。約束が結ばれた。
「これで、僕たちは親友だ」
「そうね。私たちは親友よ」
指を解くと、シルファはベンチから立ち上がって、寮のある方に足を進めた。
「それじゃあ、明日から厳しくするわよ。ついてこれるかしら?」
「望むところさ」
いくら厳しいと言っても、実家以上ってことはないだろう。そう考えて、僕は強く頷いた。
そんな僕の見立てが甘かったことを知るのは、その翌日のことだった。
「さあ、次は魔術式の形成を繰り返し五十回!」
「ひいぃ!」
シルファの厳しさは予想以上だった。それでもシルファ自身が隣で同じように頑張っているのに、言い出しっぺの自分がサボるなんて情けなさすぎる。そんな使命感と、親友と一緒に努力することの喜びと、強くなるんだという向上心で、僕はどうにかシルファについていった。
「シイキ、遅れてるわよ?」
「ど、どして、ここまで、走んなきゃ……」
「魔導士になるためには体力も必要なのよ。考える余裕があるなら足を動かしなさい」
「それは、そだけど……!」
けど、ここの生徒にとってもシルファの特訓は厳しすぎるみたいで、突き放すようなシルファの言葉遣いも相まって、新しいメンバーはすぐにチームを離れていった。
「これはどういうことかしら? あなたは確かに、対抗戦までに成長すると言ったわよね?」
「……言いました、けど……」
「じゃあどうして全く進歩したように見えないの?」
「ま、まあまあ、マリンだって、頑張ってたじゃん」
「頑張ったことに満足して結果が出せないんじゃ本末転倒でしょ。もう対抗戦まで時間もないわ。これからはもっと厳しく――」
「いいです、もう。抜けます」
「ま、マリン?」
「……抜けるですって? こんな直前になって?」
「っ……そうよ。もう我慢の限界。私だって好きでついていけないんじゃない。私なりに必死で頑張ってる。それでもできないことだってあるのっ。なのにシルファは結果結果って……! 少しは私の気持ちを考えてよっ!」
対抗戦前は特に厳しかったから、暫く一緒にいてくれたメンバーもその時期に抜けて、結局いつも、対抗戦は二人だけで臨むことになった。
「シルファ、新しいメンバーは集めないの?」
「意識が低いメンバーはどうせ対抗戦前に抜けるのだし、闇雲に集めたところで意味がないわ。だからやる気と実力を兼ね備えている生徒じゃなきゃ、チームには入れないことにしたの」
「ええ!? ……いや、そういう方針ならそれでもいいんだけどさ、だったら尚更、気合いを入れて探さないといけないんじゃない? 場合によっちゃ、他のチームからスカウトするとか……」
「いいえ、こちらから誘うこともしない。断られるだけ時間の無駄だもの」
「こちらから誘うことはしないって……じゃあどうやってメンバーを増やすのさ?」
「簡単なことよ。私たちが強くなって、向こうからこのチームに入りたいと思わせればいいの。そうすればメンバー探しなんて余計なことをしなくて済むし、その分練習ができるから実力もついて、チームに入れてほしいって言ってくる生徒も出てくる。合理的でしょ?」
「……えっと、うん、そうだね……」
そんなに上手くいくわけがない。そう思ったけど、当時のシルファは目がぎらぎらしていて、とても否定できる雰囲気じゃなかった。それにその頃にはもうシルファの悪評が広まっていて、僕自身、普通に探したところでメンバーを集めることなんてできないと感じていたから、他にどうしようもないと自分を納得させた。
けれど結局二人だけじゃ限界があった。対抗戦は勝てないし、メンバーになりたいと言ってくる生徒も一人もいなかった。
「シイキ、何してるの?」
「あ、シルファ! ふふん、どう? シルファでもここまで大きな魔術式は作れないでしょ?」
「……大きさだけなら、そうね」
「だよね! この大きさの魔術式から魔法を発現できれば、四人相手にも勝てるでしょ? だから対抗戦に間に合うよう、今まで特訓して――」
「ふざけないで」
「……え?」
「何度も、何度も言ってるわよね? あなたはもう少し丁寧な形成を心掛けなさいって。それなのに大きさにばかり固執して……! 粗い魔術式じゃ余計に魔力を使うから、大きくても意味ないのよ!」
「い、意味ないことないよ! 少し非効率かもしれないけど、規模が大きければ問題ないって!」
「大ありよ! 問題は効率だけじゃないわ。そんな魔法が暴走したらどうなると思ってるの?」
「ぼ、暴走なんて、僕は一度も――」
「とにかく、そんな不安定な魔法は実戦じゃ使えないわ。連携方法を考える以前の問題よ」
「……うるさいっ! シルファのバカ! そんなんだから皆チームを抜けるんだろ!」
「ちょっと、シイキ!?」
二人だけでも勝てるようになるために練習してきたものを否定されて、僕の気持ちを踏みにじられたように感じて、ついには喧嘩にまで発展したこともあった。
それでも僕は、シルファから離れようとは思わなかった。
「私の言い方がきつかったことは謝るわ。けれど分かってほしいの。今のあなたの魔術式じゃ、失敗する公算の方が大きい。私たちはただでさえ勝率が低いのに、博打みたいなことはできないわ。分かってくれる?」
「……分かったよ」
なぜならシルファは親友で、口調は激しいけど間違ったことは言ってなくて、僕の知っている誰よりも勝利を求めていて、その厳しさの中にいればきっと強くなれると思えて、どことなく友達がいなかった時の僕と重なって。
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