転生して一歳児の俺が未来の大魔王として担ぎ上げられたんだけどこれなんて無理ゲー?

東赤月

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三歳児編

反問

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 床に叩きつけられた結晶が派手な音を立てて四散する。
「お、おまえ……!」
 証拠を消して一息つくシヅレアに、ベルク君が責めるように指を向ける。しかし当の本人は開き直ったのか、薄ら笑いを浮かべて震える指を見ていた。
「さあ、とっとと出て行ってください」
「ふざけんな! おま、おまえ、いしをこわしやがって!」
「あら、そんな証拠がどこにあるのかしら? 言いがかりをつけてくるなんて、流石は悪魔族ね」
「んだと!?」
「ベルク君、落ち着くんだ。……これは弁償してもらえるんでしょうね?」
 笑みを消した僕とは対照的に、シヅレアは益々笑みを深める。
「弁償? 妙な石ころを持ってきて、壊して床を汚したのはあなたじゃない。最近はこういう押し売りが流行っているのね」
「あなたは何を言っているのですか? どうして僕がそんなことしなくちゃならないのです?」
「はあ。おつむが足りませんのね。では今までの話をおさらいしましょうか」
 勝ちを確信した者の目で、シヅレアは上から言葉を落とす。
「内密に宝石を欲しがる私に怪しげな石ころを持ってきて、本物かどうか疑わしいと何度断っても受け入れず、挙句の果てに自ら壊して弁償を強いてきた。こう言えば、どちらに非があるか、悪魔族のあなたたちでも理解できるのではなくて?」
「ぜんぜんちげぇよ!」
 今にも飛び掛かりそうなベルク君の肩を押さえる。成程、そういうことにしようってことか。
「……僕達が伺ったのは、今日起きた事件の容疑者としてあなたから話を聞くためです。先ほどまでそういった話をしていたはずですが」
「あらあら、今度はありもしない話をでっちあげるのね。往生際が悪いのではなくて?」
 シヅレアはにやにやしながら肩をすくめた。ギリ、と僕の奥歯が鳴る。
「誤魔化せるのも今の内だけですよ。この写真があれば、どちらの言い分が正しいかはっきりしますから」
「ああ、私が宝石商を名乗る男に騙された件ですわね。そんなものを使って脅そうとしても無駄ですわ。怪しげな男に金を渡してしまった罪に関しては、受け入れるつもりですもの」
「……よくよく、頭が回るお人ですね。さっきの今で、そんな言い訳を思いつくだなんて」
「ふふん、軽々しく証拠を広げるあなたたちとは出来が違いますのよ」
「奥様、ご無事ですか!?」
 その時、玄関が開く音と共にそんな声が聞こえた。
「出迎える前に、念のため通信魔法で警護の者を呼んでおりましたの」
 こちらが問う前に、先回りしてシヅレアが答えたところで、応接室に二人の男が入ってくる。人魔族のようだが比較的体が大きい。二人は僕とベルク君に敵意の込められた視線を向けてから、シヅレアに尋ねる。
「奥様、この二人は」
「押し売りです。外に出してください」
「はっ」
「さあ、とっとと出て行け!」
「ま、まてよ! ちげぇよ!」
「言い訳するな!」
「まあまあ、皆さま落ち着いて」
 詰め寄ってくる男たちに手のひらを向ける。警戒した男たちの足が止まったのを確認してから、僕はシヅレアに向き直る。
「シヅレアさん、本当にこのまま、僕たちを押し売りということにして追い出すおつもりですか?」
「何を言いたいのか理解しかねますが、ええ、その通りです」
「そうですか」
 言って、コートのポケットから淡く光る魔法石を取り出す。
「では、今までの会話を証拠として警察に渡しておきますね」
「んなっ!」
 シヅレアの表情が崩壊する。僕はすぐに魔法石を元のポケットに戻すと、コートを羽織る。
「お待たせしました。さあ、行きましょうか」
「あなたたちっ! 今すぐその男を捕まえて! それは私の宝石よ!」
「は、はい!」
「この盗人が!」
 こんな時でも言い訳を思いつくシヅレアに呆れを通り越して感心しつつ、男の拳を手のひらで受ける。魔法の使い手ではないな、と直接触れて確信する。
「うおあっ!?」
 触れたところから相手の体に魔力を流し込むと、男は手を押さえて退いた。後遺症が残るようなことにはしていないが、肘くらいまでに体内で虫が這ったような感触を味わったことだろう。すかさずもう一人の男が腹に向かって蹴りを放つ。
「ぎえっ!」
 避けると同時に膝周りを両手で包み軽く間接を外してやると、もう一人の男も倒れた。まあこんなものかな。
「お二人では僕に勝てません。外に出て、警察を呼んできてください」
 戦意を削がれた男たちに、あくまで優しく、笑みを浮かべて告げる。支え合うようにして立った二人は訝し気な表情を浮かべながらも、黙って応接室から出て行った。うんうん、ちゃんと戦力差が理解できたね。偉い偉い。
「な、なに逃げてるのよあなたたち! 金を貰ってるんでしょう!? だったら命を懸けて命令に従いなさい!」
「いえいえ、敵わないと悟った相手からは距離を置くのが賢明ですよ。死んだら応援も呼べませんから」
 応接室の扉を閉めながら、傭兵に理解のなさそうなシヅレアに教えてやる。
「おや、魔力が切れてしまった」
 そしてポケットから魔法石を取り出すと、録音を停止させた。……これでようやく、思うがままに振る舞える。
「座れ」
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