転生して一歳児の俺が未来の大魔王として担ぎ上げられたんだけどこれなんて無理ゲー?

東赤月

文字の大きさ
上 下
65 / 72
三歳児編

質問

しおりを挟む
「これから会う奴は、僕達を同じ魔族として見なしていない」
 シヅレアに会いにいく道中で、僕はベルク君にそう言った。
「だから平気で悪さをさせる。悪魔族はそういう生き物だと信じこんでいるからね」
「そういう、いきもの?」
「お金さえ払えば、汚れ仕事でも何でも平気でする生き物ってことさ。そんなわけないのにね。そういう仕事をするのは、そうせざるをえないから、他に選択肢がないからって理由が殆どだと思うよ」
 お父さんのことを思い出したのだろう。ベルク君は黙っては下を向く。
「まあ中には進んで傭兵になるような、血の気の多い奴もいるけどね。そんなのはほんの一部だ。僕達だって進んで争いたいわけじゃない。……君もそうだろう?」
「えっ」
 振り返って、ベルク君に笑いかける。
「周りから疎まれたら、反発して当然さ。自分の身を護るために、自分の居場所を作るために、自分の優位性を周囲に押し付けるのは恥ずべきことじゃない。程度はあるけどね」
「……おれのこと、おこってないのか?」
「怒ってはいたさ。でもあまり強くはなかった。僕も昔はそうだったからね。そして調子に乗っていたところを叩き潰されて、大人になったんだ」
「……よく、わかんねえ」
「ははは、きっといつか分かるよ」
 おっと、話しが逸れちゃった。僕は軽く咳払いして、悪い奴の話に戻る。
「そういうわけだから、そいつは今回の事件の犯人、君のお父さんを含む雇われた悪魔族のことなんか、これっぽっちも気にしていない。悪いことをさせたことも、その結果警察に捕まえられたことだって、なんとも思ってない。どうなろうと、興味がないんだ」
「………………」
 ベルク君が強く拳を握りしめる。うんうん、ムカつくよね。僕はその頭をぽんぽんと軽く叩いた。そしてこっちを向く彼に、にやりと笑って見せる。
「だからそこを利用する」
「りよう? なにするんだ?」
「簡単なことだよ。君のお父さんが犯人の一人だってことを黙ったまま話を進めるのさ。まあ、上手くいけば、大きな証拠に繋がる。だから僕が話している間は、何があっても静かにしておいてね」
「……しずかにしてたら、そいつにしかえしできんのか?」
「うん。そして僕が君に話を振ったら、こう言うんだ」

「おまえのせいで、おやじは……!」
 悪魔族の子供の純粋な怒りを受けたシヅレアは、見て分かるくらいに動揺した。今まで忘れていた存在を急に意識したことによる混乱、子供だからこそ何をしでかすか分からないという恐怖もあるのだろう。
 彼女は冷静さを欠いたまま、とにかく向けられた怒りを逸らそうと自分の弁護を始める。
「わ、私は何の関係もないと言っているでしょう!? あなたの親が罪を犯したのも、全部この男が勝手に――」
「おや、おやおやおや?」
 そして、決定的な一言を放ったのだった。
「シヅレアさん、今何と仰いましたか? ベルク君の親が罪を犯したと?」
「い、言いましたけど、それが何か?」
「おかしいですね? 僕は今まで一言も、ベルク君の親が犯人であったなどとは話しておりませんが」
「っ……!」
 シヅレアが息を呑む。ようやく自分の認識がおかしいことに気付いたようだ。
「どうしてあなたが知っているのでしょうか? 今日起きたこの事件の概要は、その場に居合わせた者か警察くらいにしか知られていないはずですが?」
「し、知りませんわよ! あなたがそう思い込ませたのでしょう!?」
「はてさて、そんなつもりはありませんでしたが。僕のどういった発言がそう思わせてしまったのか、参考までにお教えいただけますか?」
「そ、それは……」
「思い返してみれば、あなたの言動にはおかしな点が多々ありました。被害者は僕の息子一人であると決めつけていたり、写真の男が実行犯であることが信じられないといった振る舞いを見せたり、ああ、そう言えばこの写真を見せた時も、随分と慌てていましたよね」
 二の句を継げないシヅレアに、僕は容赦なく言葉をぶつけていく。シヅレアは何かを口にしようとして、しかし言葉にできないのか、唇を震わせるだけだった。
「さてシヅレアさん、ここでこの事件最大の問題に立ち返りましょう。どうして僕の息子が襲われたのか、という問題です。自慢ではありませんが、僕の息子はとてもしっかりしていましてね。大人の方に恨まれるような所業などまずしない性格です。しかしそんな息子にも、一方的に悪意を向けてくる奴がいたそうです。それも、ベルク君達のように直接的ではなく、間接的に悪さを仕掛けてくるような輩がね。息子が教えてくれましたよ」
 ベルク君に微笑みを向けると、ばつが悪そうに顔を逸らした。まあ彼の悪さに対してはリンドが直接仕返しをしたし、終わったこととして片付けられる。
 だけど、こっちはそうもいかない。僕は笑みを張り付けた顔をシヅレアに向ける。
「どうもその子は目立ちたがり屋のようで、自分より目立ちかねない息子を事あるごとに敵視していたようです。しかし彼女は絶対に自分から手を下さず、クラスメイトの中にいる立場の弱い子をけしかけて息子にちょっかいをかけていたと聞いてます。その迂遠さ、今回の事件と似ているとは思いませんか?」
 シヅレアに反応はない。血の気の引いた顔のまま突っ立っていた。言い訳を組み立てようとしているのか、先にこちらの言い分を聞き出そうとしているのか。どちらでも構わない僕は、続けますね、と断ってから言葉を重ねる。
「その子には息子を害そうとする理由がありました。子供ですからね。ちょっと気に食わないというだけでも十分理由足りえます。しかしクラスメイトを使った陰湿な手口では上手くいかなかったようでしてね。つい昨日のことですが、その時も息子は誰かに陥れられそうになったものの、上手くかわしたみたいです。それだけではありません。なんとその件で学校も動きましてね、今まで息子を陰でいじめてきた犯人が暴かれそうになったと聞きます。こうなってはもう、クラスメイトを利用した手段は使えなくなってしまったも同然です。そこで」
 トン、と写真を指で叩く。
「あなたが人を雇って息子を襲わせた。こう考えれば筋が通ると、そう思いませんか?」
「……同じことを何度も言わせないでいただきたいですわね。私は、この男のことなんて、覚えておりません」
 この期に及んでしらを切るつもりか。やれやれ、往生際が悪いね。
「ではこの写真をどう説明されますか?」
「さてね。道でも尋ねられたのではなくて?」
「ふむ、それ以外でお心当たりは?」
「覚えてないと言っているでしょう!」
 声を荒らげるシヅレアに、僕は懐からさらに一枚、写真を取り出す。
「ではこの写真をどう説明されますか?」
「それ、は……!」
 シヅレアの肩が震える。咄嗟に写真に手を伸ばそうとして、どうにか抑えたようだ。
 シヅレアが写真の男に金を渡している写真、シヅレアが絶対に撮られてほしくない瞬間が収まっている証拠をひらひらさせながら、底意地の悪い質問を繰り返す。
「答えてください。道を尋ねられた程度で金銭の受け渡しをしたのですか? これだけの支払いを行った事実を覚えていないというのですか? どちらにせよ、町議会の役員としては相応しくないと言えますね」
「ね、捏造、捏造よ! 誰かが魔法で私に化けて、こんな悪質な写真を!」
「確かに、写真だけなら捏造の可能性もありますね。しかしこの男が捕まり、あなたとの関係を認めたのならば、身辺調査はされるでしょうね。最近の行動やお金の流れなども調べられるはずです。やましいことがなければ、当然受け入れられますよね?」
「な、な……!」
「ああそれと、今までの会話は魔法石で録音してあります」
 コートのポケットから取り出した拳大の結晶を机の上に乗せると、シヅレアは驚愕に見開く。
「傭兵ごときが持っているとは思いませんでしたか? 残念ながら、あなたの不自然な言動もばっちり録ってあります。これだけの証拠があれば、警察本部に召喚されてもおかしくないですね。ご存じかもしれませんが、あそこには特殊な設備がありまして、嘘はすぐ見抜かれてしまうそうですよ?」
 バキィン!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...