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三歳児編
オードくんの魔法
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(オードと言ったか。あやつ、強化魔法を使っていたぞ)
オードくんの無事を確かめた後に行われた第二試合の初め、レイズがあの時起きたことを教えてくれた。
(やっぱりか。間に合うはずなかったもんな)
再び外野に配置された俺は、ボールを後ろに転がさないよう注意しつつ、レイズに応える。
(もしかして今も使っていたりするのか?)
(いや、試合中に見せたのはあの一度きりだな。身軽なのは元からだろう)
(どうしてもっと使わないんだろう? もしかしてオードくんも何かと契約しているのかな? それがバレたくないから……)
(いや、その場合わざわざお主を守るために魔法を使ったりはせぬだろうよ。ベルク共に絡まれている時に使わなかった理由がない)
(それは、例えばそうだな、平和主義な契約相手だったとか)
(どんな契約相手であれ、契約主を守るのに魔法を使わないというのはまずあり得ぬ。先程の行動にしても、お主を守ったことでオードは傷ついたのだ。何かと契約しているという可能性は皆無だろうな)
(となると、魔力を節約したいから、とかかな? 家に帰ったら魔法の訓練をしなくちゃいけないから、とか)
(あの程度の魔法、一度や二度使ったところでさして問題あるまいよ。余計な怪我でもする方が余程訓練に影響がある)
(それもそうか。じゃあ、うーん、一体どんな理由なんだ?)
(我が思うに、あの魔法は無意識に発現させたものであろうな。故に本人も、自分が魔法を使ったなどとは思っておらぬ。もしくは再現方法が分からぬのだ。そのため魔法を使わないでいる。いや、使えないでいる、と言った方が正しいか)
(無意識に? そんなことありえるのか?)
強化魔法習得にかなり苦労した俺からしたら、あれを無意識にやってのけるということが理解できない。そもそも魔法自体、誰にだって扱えるってものじゃないみたいなのに。
(ありえぬ話ではないな。我も初めは、無意識に魔法を使ったものだ)
(ええっ!?)
(だがそれは魔力をそのままぶつけるだけの、魔法と呼ぶのがおこがましいほど拙いものだった。しかし先ほどの奴の魔法は、未熟とは言え魔法と呼んでも差し支えないレベルのものだ。もしあれが初めてのものであるならば、魔法のセンスは我を凌ぐであろうな)
(う、ウソだろ……?)
伝説の大魔王を凌ぐ才能を、オードくんが……!?
(まあ、我よりも魔法の扱いに長けた者は、昔にもそれなりにいたものだ。オードもその内の一人であったということなのだろう)
(え、そうなの? それでよく大魔王になれたな)
(魔法の扱いで勝負が決まるわけではないからな。そういった相手には魔力の絶対量で押し切る戦い方をしたものだ。逆もまた然りで、魔力量が我よりも多い相手に対しては、魔法の扱いで対抗した)
(へえ)
流石は伝説の大魔王。色々と工夫して勝利を重ねてきたんだなぁ。
(ところで、今の説明は我の武勇伝の中でも述べたはずなのだが?)
(え、いや、それは……)
「おっと」
丁度いいところでボールが来た。危ない危ない。やっぱり考え事しながらじゃサケルカトルは難しいな。試合に集中しないと。
俺はボールを内野に返すと、試合の流れを目で追うことに意識を向けた。
「おい、おまえもあてろよ!」
「むり。つかれた」
今回は同じチームになったアドラたちの怒声を聞き流す。さっきの試合で仕返しするという目的は達したし、これ以上魔法を使う理由もない。それにあまり魔法を多用すると事情を知っている先生からも変に目をつけられそうだしな。慣れない魔法を使った反動で普段以上に疲れている、なんて思わせた方がいいだろう。
ちらとジュディ先生に目を向けると、どこかホッとした表情をしているように見えた。それを見て俺も安心する。
(であれば、我との会話を続けることもできるな?)
(あー、疲れた振りをするのは大変だなー)
そんなわけで、全力で手を抜いて臨んだ第二試合は、あっさりと敗北した。
オードくんの無事を確かめた後に行われた第二試合の初め、レイズがあの時起きたことを教えてくれた。
(やっぱりか。間に合うはずなかったもんな)
再び外野に配置された俺は、ボールを後ろに転がさないよう注意しつつ、レイズに応える。
(もしかして今も使っていたりするのか?)
(いや、試合中に見せたのはあの一度きりだな。身軽なのは元からだろう)
(どうしてもっと使わないんだろう? もしかしてオードくんも何かと契約しているのかな? それがバレたくないから……)
(いや、その場合わざわざお主を守るために魔法を使ったりはせぬだろうよ。ベルク共に絡まれている時に使わなかった理由がない)
(それは、例えばそうだな、平和主義な契約相手だったとか)
(どんな契約相手であれ、契約主を守るのに魔法を使わないというのはまずあり得ぬ。先程の行動にしても、お主を守ったことでオードは傷ついたのだ。何かと契約しているという可能性は皆無だろうな)
(となると、魔力を節約したいから、とかかな? 家に帰ったら魔法の訓練をしなくちゃいけないから、とか)
(あの程度の魔法、一度や二度使ったところでさして問題あるまいよ。余計な怪我でもする方が余程訓練に影響がある)
(それもそうか。じゃあ、うーん、一体どんな理由なんだ?)
(我が思うに、あの魔法は無意識に発現させたものであろうな。故に本人も、自分が魔法を使ったなどとは思っておらぬ。もしくは再現方法が分からぬのだ。そのため魔法を使わないでいる。いや、使えないでいる、と言った方が正しいか)
(無意識に? そんなことありえるのか?)
強化魔法習得にかなり苦労した俺からしたら、あれを無意識にやってのけるということが理解できない。そもそも魔法自体、誰にだって扱えるってものじゃないみたいなのに。
(ありえぬ話ではないな。我も初めは、無意識に魔法を使ったものだ)
(ええっ!?)
(だがそれは魔力をそのままぶつけるだけの、魔法と呼ぶのがおこがましいほど拙いものだった。しかし先ほどの奴の魔法は、未熟とは言え魔法と呼んでも差し支えないレベルのものだ。もしあれが初めてのものであるならば、魔法のセンスは我を凌ぐであろうな)
(う、ウソだろ……?)
伝説の大魔王を凌ぐ才能を、オードくんが……!?
(まあ、我よりも魔法の扱いに長けた者は、昔にもそれなりにいたものだ。オードもその内の一人であったということなのだろう)
(え、そうなの? それでよく大魔王になれたな)
(魔法の扱いで勝負が決まるわけではないからな。そういった相手には魔力の絶対量で押し切る戦い方をしたものだ。逆もまた然りで、魔力量が我よりも多い相手に対しては、魔法の扱いで対抗した)
(へえ)
流石は伝説の大魔王。色々と工夫して勝利を重ねてきたんだなぁ。
(ところで、今の説明は我の武勇伝の中でも述べたはずなのだが?)
(え、いや、それは……)
「おっと」
丁度いいところでボールが来た。危ない危ない。やっぱり考え事しながらじゃサケルカトルは難しいな。試合に集中しないと。
俺はボールを内野に返すと、試合の流れを目で追うことに意識を向けた。
「おい、おまえもあてろよ!」
「むり。つかれた」
今回は同じチームになったアドラたちの怒声を聞き流す。さっきの試合で仕返しするという目的は達したし、これ以上魔法を使う理由もない。それにあまり魔法を多用すると事情を知っている先生からも変に目をつけられそうだしな。慣れない魔法を使った反動で普段以上に疲れている、なんて思わせた方がいいだろう。
ちらとジュディ先生に目を向けると、どこかホッとした表情をしているように見えた。それを見て俺も安心する。
(であれば、我との会話を続けることもできるな?)
(あー、疲れた振りをするのは大変だなー)
そんなわけで、全力で手を抜いて臨んだ第二試合は、あっさりと敗北した。
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