52 / 72
三歳児編
オードくんの魔法
しおりを挟む
(オードと言ったか。あやつ、強化魔法を使っていたぞ)
オードくんの無事を確かめた後に行われた第二試合の初め、レイズがあの時起きたことを教えてくれた。
(やっぱりか。間に合うはずなかったもんな)
再び外野に配置された俺は、ボールを後ろに転がさないよう注意しつつ、レイズに応える。
(もしかして今も使っていたりするのか?)
(いや、試合中に見せたのはあの一度きりだな。身軽なのは元からだろう)
(どうしてもっと使わないんだろう? もしかしてオードくんも何かと契約しているのかな? それがバレたくないから……)
(いや、その場合わざわざお主を守るために魔法を使ったりはせぬだろうよ。ベルク共に絡まれている時に使わなかった理由がない)
(それは、例えばそうだな、平和主義な契約相手だったとか)
(どんな契約相手であれ、契約主を守るのに魔法を使わないというのはまずあり得ぬ。先程の行動にしても、お主を守ったことでオードは傷ついたのだ。何かと契約しているという可能性は皆無だろうな)
(となると、魔力を節約したいから、とかかな? 家に帰ったら魔法の訓練をしなくちゃいけないから、とか)
(あの程度の魔法、一度や二度使ったところでさして問題あるまいよ。余計な怪我でもする方が余程訓練に影響がある)
(それもそうか。じゃあ、うーん、一体どんな理由なんだ?)
(我が思うに、あの魔法は無意識に発現させたものであろうな。故に本人も、自分が魔法を使ったなどとは思っておらぬ。もしくは再現方法が分からぬのだ。そのため魔法を使わないでいる。いや、使えないでいる、と言った方が正しいか)
(無意識に? そんなことありえるのか?)
強化魔法習得にかなり苦労した俺からしたら、あれを無意識にやってのけるということが理解できない。そもそも魔法自体、誰にだって扱えるってものじゃないみたいなのに。
(ありえぬ話ではないな。我も初めは、無意識に魔法を使ったものだ)
(ええっ!?)
(だがそれは魔力をそのままぶつけるだけの、魔法と呼ぶのがおこがましいほど拙いものだった。しかし先ほどの奴の魔法は、未熟とは言え魔法と呼んでも差し支えないレベルのものだ。もしあれが初めてのものであるならば、魔法のセンスは我を凌ぐであろうな)
(う、ウソだろ……?)
伝説の大魔王を凌ぐ才能を、オードくんが……!?
(まあ、我よりも魔法の扱いに長けた者は、昔にもそれなりにいたものだ。オードもその内の一人であったということなのだろう)
(え、そうなの? それでよく大魔王になれたな)
(魔法の扱いで勝負が決まるわけではないからな。そういった相手には魔力の絶対量で押し切る戦い方をしたものだ。逆もまた然りで、魔力量が我よりも多い相手に対しては、魔法の扱いで対抗した)
(へえ)
流石は伝説の大魔王。色々と工夫して勝利を重ねてきたんだなぁ。
(ところで、今の説明は我の武勇伝の中でも述べたはずなのだが?)
(え、いや、それは……)
「おっと」
丁度いいところでボールが来た。危ない危ない。やっぱり考え事しながらじゃサケルカトルは難しいな。試合に集中しないと。
俺はボールを内野に返すと、試合の流れを目で追うことに意識を向けた。
「おい、おまえもあてろよ!」
「むり。つかれた」
今回は同じチームになったアドラたちの怒声を聞き流す。さっきの試合で仕返しするという目的は達したし、これ以上魔法を使う理由もない。それにあまり魔法を多用すると事情を知っている先生からも変に目をつけられそうだしな。慣れない魔法を使った反動で普段以上に疲れている、なんて思わせた方がいいだろう。
ちらとジュディ先生に目を向けると、どこかホッとした表情をしているように見えた。それを見て俺も安心する。
(であれば、我との会話を続けることもできるな?)
(あー、疲れた振りをするのは大変だなー)
そんなわけで、全力で手を抜いて臨んだ第二試合は、あっさりと敗北した。
オードくんの無事を確かめた後に行われた第二試合の初め、レイズがあの時起きたことを教えてくれた。
(やっぱりか。間に合うはずなかったもんな)
再び外野に配置された俺は、ボールを後ろに転がさないよう注意しつつ、レイズに応える。
(もしかして今も使っていたりするのか?)
(いや、試合中に見せたのはあの一度きりだな。身軽なのは元からだろう)
(どうしてもっと使わないんだろう? もしかしてオードくんも何かと契約しているのかな? それがバレたくないから……)
(いや、その場合わざわざお主を守るために魔法を使ったりはせぬだろうよ。ベルク共に絡まれている時に使わなかった理由がない)
(それは、例えばそうだな、平和主義な契約相手だったとか)
(どんな契約相手であれ、契約主を守るのに魔法を使わないというのはまずあり得ぬ。先程の行動にしても、お主を守ったことでオードは傷ついたのだ。何かと契約しているという可能性は皆無だろうな)
(となると、魔力を節約したいから、とかかな? 家に帰ったら魔法の訓練をしなくちゃいけないから、とか)
(あの程度の魔法、一度や二度使ったところでさして問題あるまいよ。余計な怪我でもする方が余程訓練に影響がある)
(それもそうか。じゃあ、うーん、一体どんな理由なんだ?)
(我が思うに、あの魔法は無意識に発現させたものであろうな。故に本人も、自分が魔法を使ったなどとは思っておらぬ。もしくは再現方法が分からぬのだ。そのため魔法を使わないでいる。いや、使えないでいる、と言った方が正しいか)
(無意識に? そんなことありえるのか?)
強化魔法習得にかなり苦労した俺からしたら、あれを無意識にやってのけるということが理解できない。そもそも魔法自体、誰にだって扱えるってものじゃないみたいなのに。
(ありえぬ話ではないな。我も初めは、無意識に魔法を使ったものだ)
(ええっ!?)
(だがそれは魔力をそのままぶつけるだけの、魔法と呼ぶのがおこがましいほど拙いものだった。しかし先ほどの奴の魔法は、未熟とは言え魔法と呼んでも差し支えないレベルのものだ。もしあれが初めてのものであるならば、魔法のセンスは我を凌ぐであろうな)
(う、ウソだろ……?)
伝説の大魔王を凌ぐ才能を、オードくんが……!?
(まあ、我よりも魔法の扱いに長けた者は、昔にもそれなりにいたものだ。オードもその内の一人であったということなのだろう)
(え、そうなの? それでよく大魔王になれたな)
(魔法の扱いで勝負が決まるわけではないからな。そういった相手には魔力の絶対量で押し切る戦い方をしたものだ。逆もまた然りで、魔力量が我よりも多い相手に対しては、魔法の扱いで対抗した)
(へえ)
流石は伝説の大魔王。色々と工夫して勝利を重ねてきたんだなぁ。
(ところで、今の説明は我の武勇伝の中でも述べたはずなのだが?)
(え、いや、それは……)
「おっと」
丁度いいところでボールが来た。危ない危ない。やっぱり考え事しながらじゃサケルカトルは難しいな。試合に集中しないと。
俺はボールを内野に返すと、試合の流れを目で追うことに意識を向けた。
「おい、おまえもあてろよ!」
「むり。つかれた」
今回は同じチームになったアドラたちの怒声を聞き流す。さっきの試合で仕返しするという目的は達したし、これ以上魔法を使う理由もない。それにあまり魔法を多用すると事情を知っている先生からも変に目をつけられそうだしな。慣れない魔法を使った反動で普段以上に疲れている、なんて思わせた方がいいだろう。
ちらとジュディ先生に目を向けると、どこかホッとした表情をしているように見えた。それを見て俺も安心する。
(であれば、我との会話を続けることもできるな?)
(あー、疲れた振りをするのは大変だなー)
そんなわけで、全力で手を抜いて臨んだ第二試合は、あっさりと敗北した。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる