転生して一歳児の俺が未来の大魔王として担ぎ上げられたんだけどこれなんて無理ゲー?

東赤月

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三歳児編

事件の顛末

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「そういうわけで、無事真犯人も逮捕されたよ」
 翌日の昼過ぎになってようやく現れたヘツェトは、我らが病院とやらに連れられていた間に何をしていたのか語り終えると、仮面のような笑みを浮かべた。見慣れているとは言え、やはり気に障る。
「ふん、ならその犯人をここに連れてくるが良い」
「どうするつもりだい?」
「顔に火傷をつけてやる。そやつが罪人であると生涯周りに示すためにな」
(おいレイズ、何もそこまでしなくても)
 心の中でカーネルが口を挟む。相変わらず甘い。
(黙れ。本来であれば火刑に処すところだ。これ以上譲歩しろと言うのか?)
(だけどほら、直接危害を加えたら罰せらるのはこっちなんだぞ?)
「うーん、それはできないね。こっちが悪者になっちゃう」
 内と外とで似たようなことを言われる。目の前にいる男から燃やしてやろうかとも思うが、現時点では相手の方が強い。我は仕方なく戯言に付き合ってやることにした。
「では何か? 危害を加えられた方は泣き寝入りしろと?」
「泣き寝入りじゃないよ。犯人にはちゃんと法に則って罰が下されるんだから」
「そんなもの、我らの与り知らぬ場所で行われているのなら同じようなものだ。自分たちがどのような相手に手を出したのか、それを骨の髄にまで教え込まなければ我らは満足せぬし、奴らはまた同じことを繰り返すぞ」
(俺は別に満足……)
(黙っていろ)
 まったく、話の腰を折ろうとするでない。
「そうさせないために、僕は今言ったような回りくどいことをしたんだけどねぇ」
「ふん、貴様も理解しているではないか。その法とやらに任せては罰が不十分であるとな」
「正確には、不十分である場合もある、ということを理解しているのさ。法は平等。ゆえにある程度の人数がそれなりの満足を得られるよう定められている。罪を犯した側も含めてね。だから被害者の方にはどうしても、物足りないって気持ちが出てしまうんだ」
「犯罪者にも配慮がされるだと? 笑わせる」
「仕方ないんだよ。そう決まってるんだから」
 肩をすくめるヘツェト。その苦笑いに火球をぶつけてやりたいという衝動をどうにか抑える。
(いやでも大事なことなんだよ、レイズ。ベルクのお父さんみたいに、騙されて犯罪の片棒担がされたって人もいるし、そうせざるを得ない状況にあったって人もいる。そういう人たちにやり直すチャンスを与えるためにも、一定の配慮は必要なんだ)
(ほう。では我々がその犯人に危害を加えても、一定の配慮がされるわけだな)
(いやそれはそうなんだけど……!)
「なら我らも罪を犯すとしよう。加害者側もそれなりの満足が得られる程度の罰なら、甘んじて受けてやろうではないか」
「残念ながら、魔物が罪を犯したら一発アウトだ。僕は君を退治しなくちゃならなくなる」
「ふざけるな。こちらは殺されかけたのだぞ? それに対し拳一つも返せないというのか?」
「そんなに殴りたいなら、僕を殴ればいい」
 言ったな。我は寝台の上に立つと右拳を振るう。当然強化魔法もかけた。
「やめろ!」
 しかし拳が届く直前、体を奪われてしまう。これも魔力の扱いを覚えてきた成果だろう。本来喜ばしいことなのだが、こういう時は複雑だな。
「……リンド君は殴らないのかい?」
「そんなことしても、いみ、ない」
「ふふ、そうだね。アルファよりも君の方が、よっぽどよく分かってるじゃないか」
 手も足も出せない我は、心の中でヘツェトを燃やす。
「それで、ゼラちゃんと、ベルクと、……オードくんは?」
「ゼラちゃんは、この件で遠くにいるお父さんが戻ってくるそうだから、独りになることはないよ。学校でのことも、お母さんから言われたことってことであまり大事にはならないはずさ。ベルク君は、昨日は家に帰らせたけど、暫くは警察で過ごすことになるんじゃないかな。でもお父さんもすぐに出られると思うから、こっちも心配ないよ。オード君も軽い魔力欠乏症で運ばれただけで問題なし。リンド君を刺しちゃったことも、悪気があってやったことじゃないっていうのは分かってるから、逮捕とかもされないよ」
「そっか」
 ほっと息をつくカーネル。やれやれ、全員我らに危害を加えた相手だというのにな。相変わらずこちらが心配になるくらいのお人好しだ。
「ただ、僕達はこれまで通りとはいかないけどね」
「えっ?」
 ヘツェトが聞き捨てならないことを言う。カーネルも警戒したようだ。まさか治療を通じて、我らの正体がバレたのではあるまいな?
「実は長期の仕事が入ってね。ここから離れなくちゃならないんだ。だからここの友達とはお別れしなくちゃならない」
「あ、そ、そう、なんだ……」
 カーネルの複雑な心情を感じ取る。我としては好ましいのだが、どうやらカーネルはそうではないらしい。オードの魔力が暴走することを危惧しているのだろうか? 今回の件で学校側にもオードの魔力は認知されるであろうから、心配する必要はないと思うが。
「それは、いつ?」
「明日」
「あした!?」
「すぐにでも発ちたいからね。傷ももう自然回復を待つのみだし、明日の退院と同時に出発するんだ。ごめんね」
「………………」
 考え込むカーネルに、我は尋ねてみることにした。
(何を考えておる? 級友との別れが辛いのか?)
(いやまあそれもあるけど、随分と急だなって。こういう時、レイズならどうする?)
(特にどうもせぬよ。別れなどその辺にいくらでも転がっておる。一々気にしていたら身が持たぬからな)
 昨日釜を囲んで談笑した相手が、今日にはいなくなっている。そんなことは日常茶飯事だった。
(そっか。俺もそうするべきかな?)
(なに、これは我の考え方だ。魔界の常識というわけではないから、合わせる必要はない。中には泣いて別れを惜しむ者もおったことだしな)
 そういった者から、とは言わないでおく。
(ありがとう。なら――)
「てがみ」
「うん?」
「てがみ、かいてもいいですか?」
 ヘツェトは何度か瞬きすると、にやりと笑って懐から紙とペンを取り出した。
「うん、勿論だよ! 何にも言えずお別れなんて寂しいもんね。ただ、悪いんだけど明日までに書いておいてくれるかな? 引っ越し先から送るとお金がかかっちゃうから」
「は、はい」
 ヘツェトから紙を受け取ったカーネルは、ももの上で書きづらそうに手紙を書く。ヘツェトは笑みを張り付けたままその様子を見ていた。
 しかし、手紙、か。その言葉に、ふと記憶を思い出した。確かあやつもかつて、手紙を遺したと言っておったな。既に消えてなくなっているやもしれぬが、あやつのことだ、そう簡単になくなってしまわぬよう細工を仕掛けたに違いない。
 カーネルには読ませぬようにしなければな。我はかつての約束を自分に言い聞かせ、そう意を決するのだった。
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