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三歳児編
目立たなくちゃ
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「ただいま……」
今日も、ママはまだかえってきてない。パパはとおくでおしごとだ。
わたしは手をあらうと、じぶんのへやでべんきょうをはじめる。
「ただいま。はぁあ、疲れた」
あ、ママかえってきた! でも今日も、あんまりきげんはよくなさそう……。
「おかえり、ママ」
「あら、ゼラちゃん。お勉強してたの?」
「うん!」
「偉いわねぇ。流石私の娘だわ。あんな役立たず共とは大違い」
はあ、っていきをはくママ。やっぱりきげん、よくないみたい。
「それじゃあ、ご飯作るから、出来上がるまでお勉強してて」
「はい」
わたしは言われたとおりに、ママがごはんを作ってくれるまでべんきょうをつづけた。
「ご飯できたわよ」
「うん、今行く」
テーブルの上には、パンとスープとお肉がならんでいた。つかれてるのにちゃんとごはんを作ってくれるママは、とってもえらい。
「いただきます」
「いただきます」
ママといっしょにいただきますして、できるだけしずかにごはんを食べる。……今日は上手くできた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
ごはんを食べおわったら、あとかたづけ。……よかった。これもちゃんとできた。
「それでゼラちゃん、学校はどうだった?」
「うん! えっとね、じゅぎょう中先生に、このもんだいとける人はってきかれて、わたし手を上げてね、きちんとこたえられたの! 先生も、すごいってほめてくれて」
「そう。他には」
「え、あ、あとテストでまんてんとれたの!」
「あら、見せてくれる?」
「うん!」
やった! やっぱりママはテストなら、ちゃんと見てくれる。わたしはじぶんのへやにおいたかばんから、テストをだしてもってくる。先生がとくべつに、赤いペンでえがおをかいてくれたテストだ。
「ほら! ね? まんてんでしょ?」
ママがテストを手にもった。これでママはわたしをほめて――
「はあ」
グシャ
「え、ママ……え?」
どうして、テスト、丸めちゃうの……?
「やっぱりこの程度のレベルなのね。これじゃどんどん差が開くばかりだわ」
「……ねえ、ママ、どうして……?」
「どうしてですって? そんなことも分からないの?」
「ひっ」
ママが、かたをつかんできて、かおが、ちかくて。
「いい? こんな簡単なテストで満点取るのは当たり前なの。都にいる貴族の子達は、もっと難しいテストを受けているのよ? こんなので喜んじゃ駄目なの!」
「ご、ごめんなさい……」
「はあ。まあいいわ。それで、満点とった子は他にもいた?」
「う、うん。一人……」
「何ていう子?」
「……リンド」
「ちっ。またそいつなのね。悪魔族の養子が、忌々しい」
ママの顔がこわくなる。でも真っすぐ見なくちゃおこられちゃう。
こわい、こわいよ、ママ……。
「ちゃんと言われたとおりにしたの?」
「し、したよ……。でも、あいつぜんぜん気にしてなくて」
「そう。やり方が甘かったかしらね。今度はもっと、学校に行けなくなるくらいにしないと……」
「そこまでしなくても……」
「そんな甘いことを言うんじゃありません!」
ママのこわいかおがわたしに向けられる。わたしは目をつぶりそうになって、何も言えなくなる。
「いい? ゼラちゃん。何度も言うけれど、来月学校に、都から偉い人たちが来るわ。その人たちに認められたら、あんなところよりもっとレベルの高い学校に行けるの。あなただって、頭のいい学校に行きたいでしょう?」
「う、うん……」
頭のいい学校に行けたら、ママがほめてくれるから……。
「でもそのリンドって奴は、あなたのその夢を邪魔しようとしているのよ? 敵なの。敵に情けを書ける必要なんてないわ。もっと徹底的にやりなさい」
「う、うう……」
「返事は!?」
「はい!」
泣きそうな声で答えると、ママはようやくこわい顔をやめてくれた。
「頼んだわよ。さ、話は終わり。勉強してきなさい」
「……はい」
わたしは走ってへやにもどると、つくえのまえにすわった。
ママは、あんなテストじゃよろこんでくれない。もっとがんばらなきゃ。もっとむずかしいもんだいをとかなきゃ。もっと先生にほめられなきゃ。もっと――
「あ……」
ノートが、ぬれた。ぽつぽつって、雨みたいに。
……わたし、泣いてるの?
「う、く」
ダメ。泣くな、泣くな。こんなんで泣いてちゃ、ママがまたこわいかおになっちゃう。
ママによろこんでもらうんだ。そのためにも、もっと目立たなくちゃいけない。
でも、あいつは、リンドは、わたしよりも目立とうとしている。わたしのじゃまをしている。ママをこわい顔にしている。そんなの、ゆるせない。
「リンドさえ、いなければ……!」
クシャ
ぬれたノートに、しわができた。
今日も、ママはまだかえってきてない。パパはとおくでおしごとだ。
わたしは手をあらうと、じぶんのへやでべんきょうをはじめる。
「ただいま。はぁあ、疲れた」
あ、ママかえってきた! でも今日も、あんまりきげんはよくなさそう……。
「おかえり、ママ」
「あら、ゼラちゃん。お勉強してたの?」
「うん!」
「偉いわねぇ。流石私の娘だわ。あんな役立たず共とは大違い」
はあ、っていきをはくママ。やっぱりきげん、よくないみたい。
「それじゃあ、ご飯作るから、出来上がるまでお勉強してて」
「はい」
わたしは言われたとおりに、ママがごはんを作ってくれるまでべんきょうをつづけた。
「ご飯できたわよ」
「うん、今行く」
テーブルの上には、パンとスープとお肉がならんでいた。つかれてるのにちゃんとごはんを作ってくれるママは、とってもえらい。
「いただきます」
「いただきます」
ママといっしょにいただきますして、できるだけしずかにごはんを食べる。……今日は上手くできた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
ごはんを食べおわったら、あとかたづけ。……よかった。これもちゃんとできた。
「それでゼラちゃん、学校はどうだった?」
「うん! えっとね、じゅぎょう中先生に、このもんだいとける人はってきかれて、わたし手を上げてね、きちんとこたえられたの! 先生も、すごいってほめてくれて」
「そう。他には」
「え、あ、あとテストでまんてんとれたの!」
「あら、見せてくれる?」
「うん!」
やった! やっぱりママはテストなら、ちゃんと見てくれる。わたしはじぶんのへやにおいたかばんから、テストをだしてもってくる。先生がとくべつに、赤いペンでえがおをかいてくれたテストだ。
「ほら! ね? まんてんでしょ?」
ママがテストを手にもった。これでママはわたしをほめて――
「はあ」
グシャ
「え、ママ……え?」
どうして、テスト、丸めちゃうの……?
「やっぱりこの程度のレベルなのね。これじゃどんどん差が開くばかりだわ」
「……ねえ、ママ、どうして……?」
「どうしてですって? そんなことも分からないの?」
「ひっ」
ママが、かたをつかんできて、かおが、ちかくて。
「いい? こんな簡単なテストで満点取るのは当たり前なの。都にいる貴族の子達は、もっと難しいテストを受けているのよ? こんなので喜んじゃ駄目なの!」
「ご、ごめんなさい……」
「はあ。まあいいわ。それで、満点とった子は他にもいた?」
「う、うん。一人……」
「何ていう子?」
「……リンド」
「ちっ。またそいつなのね。悪魔族の養子が、忌々しい」
ママの顔がこわくなる。でも真っすぐ見なくちゃおこられちゃう。
こわい、こわいよ、ママ……。
「ちゃんと言われたとおりにしたの?」
「し、したよ……。でも、あいつぜんぜん気にしてなくて」
「そう。やり方が甘かったかしらね。今度はもっと、学校に行けなくなるくらいにしないと……」
「そこまでしなくても……」
「そんな甘いことを言うんじゃありません!」
ママのこわいかおがわたしに向けられる。わたしは目をつぶりそうになって、何も言えなくなる。
「いい? ゼラちゃん。何度も言うけれど、来月学校に、都から偉い人たちが来るわ。その人たちに認められたら、あんなところよりもっとレベルの高い学校に行けるの。あなただって、頭のいい学校に行きたいでしょう?」
「う、うん……」
頭のいい学校に行けたら、ママがほめてくれるから……。
「でもそのリンドって奴は、あなたのその夢を邪魔しようとしているのよ? 敵なの。敵に情けを書ける必要なんてないわ。もっと徹底的にやりなさい」
「う、うう……」
「返事は!?」
「はい!」
泣きそうな声で答えると、ママはようやくこわい顔をやめてくれた。
「頼んだわよ。さ、話は終わり。勉強してきなさい」
「……はい」
わたしは走ってへやにもどると、つくえのまえにすわった。
ママは、あんなテストじゃよろこんでくれない。もっとがんばらなきゃ。もっとむずかしいもんだいをとかなきゃ。もっと先生にほめられなきゃ。もっと――
「あ……」
ノートが、ぬれた。ぽつぽつって、雨みたいに。
……わたし、泣いてるの?
「う、く」
ダメ。泣くな、泣くな。こんなんで泣いてちゃ、ママがまたこわいかおになっちゃう。
ママによろこんでもらうんだ。そのためにも、もっと目立たなくちゃいけない。
でも、あいつは、リンドは、わたしよりも目立とうとしている。わたしのじゃまをしている。ママをこわい顔にしている。そんなの、ゆるせない。
「リンドさえ、いなければ……!」
クシャ
ぬれたノートに、しわができた。
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