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三歳児編
オードくんの魅了
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「リンドくん、すごかったね!」
放課後、奇しくも帰り道が同じだったオードくんと一緒に、あまり整備されているとは言い難い通学路を歩く。魔界の小学校では一年生にも長く授業を受けさせるようで、学校を出る頃には、日はかなり傾いていた。
それでも他の生徒と条件は同じのはずで、他にも帰る生徒がいるのではないかと思ったが、周りに他の生徒はいない。どころか通行人すらいなかった。近くにも余り家はないし、この辺りは町の郊外のような場所なのだろう。
「なんのこと?」
「サケルカトルだよ! あ、じゅぎょうのときももんだいにこたえられててすごかったけど、でもやっぱりたいいくのじゅぎょうのときがいちばんすごかった!」
オードくんは興奮しているように声を弾ませている。教室にいる時とは大分様子が違うな。これが素なんだろうか。
「でも、とってもつかれちゃって、にかいめはまけちゃったよ」
「でもリンドくんはぼくよりちっちゃいのに、ベルクくんたちをアウトにしたんだよ? ぜったいすごいよ!」
俺のことなのに否定されたのが嫌だったのか、オードくんは少し口を尖らせる。今日会ったばかりの相手に、真正面からこうも褒められるとは。魔界ではこれが普通だったりするのだろうか?
(子供であるからこそ、距離を詰めるのも早いのではないか?)
(あー、前世でも子供の頃はそうだったかもな)
時空の彼方に消えた過去を懐かしむ。あの頃は一度遊んだだけでも親友になれたもんなぁ。いつからそうじゃなくなったんだっけ。
「それにリンドくんは、ベルクくんにたおされたときも、ぼくがさしちゃったときもなかなかったし、せんせいともちゃんとはなせるし、それにそれに――」
「う、うん。わかったよ。ありがとう」
ちょっと考えている間にもヒートアップしていったオードくんを半ば強引に止める。ちょっと熱が入り過ぎなんじゃないか? いや、褒めてくれるのは嬉しいけども。
(こ奴にとってお主は恩人だからな。何か運命のようなものを感じたのではないか?)
(運命て)
大袈裟な。恋愛漫画じゃないんだから。そもそも俺たちは男同士で――
「……ねえ、また、て、つないでもいいかな?」
「……ああ、うん」
いや、分かってる。オードは男だ。髪が綺麗で長いけど男だ。女の子みたいな顔をしているけど男だ。何かいい匂いがするけど男だ。顔を赤らめて躊躇いがちに手を伸ばす仕草は大変可愛らしいものであったけど、男だ。だから手を繋ぐことに何も恥ずかしがる理由なんてない。
自分でもなんでしたのかよく分からない言い訳を心の中で早口でまくし立ててから、オードくんの手を握る。するとオードくんは、とても幸せそうに顔を綻ばせた。
「ありがとう。ボク、こうやってだれかとてをつないであるくこと、ゆめだったんだ」
えへへ、と笑うオードくん。……可愛い。
「ねえ、て、いたくない?」
「……うん」
「よかった。やっぱりボク、リンドくんとならへいきみたい」
「……そう」
俺は何故だか途中からオードくんの顔を見ることが怖くなって、前を向いたまま答えた。
いやいや、前を向いて歩かないと危ないからだろ。何変なことを考えているんだか。ほら、こうして横を見ても何の問題も――
「あ、……えへへ」
目が合ったオードくんが、はにかむ。
(なあレイズ)
(どうした?)
(俺はどこかおかしくなったみたいだ。どうしたら正気に戻る?)
(ほう、自分で気が付くとは大したものだ。流石は我の契約者だな)
(褒めてないで助けてくれ。なんていうか、父性が抑えられないというか、保護欲みたいなのがかき立てられているんだ。このままじゃマジでどうにかなる)
(安心しろ。本当に危うくなれば助けてやる)
(いやだからもう危ないんだって! どうして今助けてくれないんだ!?)
(なに、これも一種の精神鍛錬になると思ってな。このまま理性を失わぬよう耐えてみよ。さすれば今後、我の素晴らしい功績を聞き流すなどということはなくなるであろうからな)
(武勇伝忘れてたこと根に持ってるだけじゃないか! そんな細部まで覚えてられないって!)
(おっと、我としたことが。こうして話に付き合ってしまうと気を紛らわせてしまうな。我は黙るゆえ、頑張るのだぞ)
(ちょ、おい、黙るな、俺を一人にするなぁああ!)
その後、俺はオードくんの家に辿り着くまで、正気と狂気の狭間を彷徨うこととなった。
放課後、奇しくも帰り道が同じだったオードくんと一緒に、あまり整備されているとは言い難い通学路を歩く。魔界の小学校では一年生にも長く授業を受けさせるようで、学校を出る頃には、日はかなり傾いていた。
それでも他の生徒と条件は同じのはずで、他にも帰る生徒がいるのではないかと思ったが、周りに他の生徒はいない。どころか通行人すらいなかった。近くにも余り家はないし、この辺りは町の郊外のような場所なのだろう。
「なんのこと?」
「サケルカトルだよ! あ、じゅぎょうのときももんだいにこたえられててすごかったけど、でもやっぱりたいいくのじゅぎょうのときがいちばんすごかった!」
オードくんは興奮しているように声を弾ませている。教室にいる時とは大分様子が違うな。これが素なんだろうか。
「でも、とってもつかれちゃって、にかいめはまけちゃったよ」
「でもリンドくんはぼくよりちっちゃいのに、ベルクくんたちをアウトにしたんだよ? ぜったいすごいよ!」
俺のことなのに否定されたのが嫌だったのか、オードくんは少し口を尖らせる。今日会ったばかりの相手に、真正面からこうも褒められるとは。魔界ではこれが普通だったりするのだろうか?
(子供であるからこそ、距離を詰めるのも早いのではないか?)
(あー、前世でも子供の頃はそうだったかもな)
時空の彼方に消えた過去を懐かしむ。あの頃は一度遊んだだけでも親友になれたもんなぁ。いつからそうじゃなくなったんだっけ。
「それにリンドくんは、ベルクくんにたおされたときも、ぼくがさしちゃったときもなかなかったし、せんせいともちゃんとはなせるし、それにそれに――」
「う、うん。わかったよ。ありがとう」
ちょっと考えている間にもヒートアップしていったオードくんを半ば強引に止める。ちょっと熱が入り過ぎなんじゃないか? いや、褒めてくれるのは嬉しいけども。
(こ奴にとってお主は恩人だからな。何か運命のようなものを感じたのではないか?)
(運命て)
大袈裟な。恋愛漫画じゃないんだから。そもそも俺たちは男同士で――
「……ねえ、また、て、つないでもいいかな?」
「……ああ、うん」
いや、分かってる。オードは男だ。髪が綺麗で長いけど男だ。女の子みたいな顔をしているけど男だ。何かいい匂いがするけど男だ。顔を赤らめて躊躇いがちに手を伸ばす仕草は大変可愛らしいものであったけど、男だ。だから手を繋ぐことに何も恥ずかしがる理由なんてない。
自分でもなんでしたのかよく分からない言い訳を心の中で早口でまくし立ててから、オードくんの手を握る。するとオードくんは、とても幸せそうに顔を綻ばせた。
「ありがとう。ボク、こうやってだれかとてをつないであるくこと、ゆめだったんだ」
えへへ、と笑うオードくん。……可愛い。
「ねえ、て、いたくない?」
「……うん」
「よかった。やっぱりボク、リンドくんとならへいきみたい」
「……そう」
俺は何故だか途中からオードくんの顔を見ることが怖くなって、前を向いたまま答えた。
いやいや、前を向いて歩かないと危ないからだろ。何変なことを考えているんだか。ほら、こうして横を見ても何の問題も――
「あ、……えへへ」
目が合ったオードくんが、はにかむ。
(なあレイズ)
(どうした?)
(俺はどこかおかしくなったみたいだ。どうしたら正気に戻る?)
(ほう、自分で気が付くとは大したものだ。流石は我の契約者だな)
(褒めてないで助けてくれ。なんていうか、父性が抑えられないというか、保護欲みたいなのがかき立てられているんだ。このままじゃマジでどうにかなる)
(安心しろ。本当に危うくなれば助けてやる)
(いやだからもう危ないんだって! どうして今助けてくれないんだ!?)
(なに、これも一種の精神鍛錬になると思ってな。このまま理性を失わぬよう耐えてみよ。さすれば今後、我の素晴らしい功績を聞き流すなどということはなくなるであろうからな)
(武勇伝忘れてたこと根に持ってるだけじゃないか! そんな細部まで覚えてられないって!)
(おっと、我としたことが。こうして話に付き合ってしまうと気を紛らわせてしまうな。我は黙るゆえ、頑張るのだぞ)
(ちょ、おい、黙るな、俺を一人にするなぁああ!)
その後、俺はオードくんの家に辿り着くまで、正気と狂気の狭間を彷徨うこととなった。
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