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一歳児編
おやすみなさい
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「改めまして、はじめまして、となりますかな? 大魔王様」
「あまりへりくだらないでくれ。今の我はレイズだ。大魔王などではない」
「……そう言ってもらえると助かるな」
ベッドが一つあるだけにしてはやや広い部屋で、我はカーネルの体を借り、初めて直接ガイアと話す。ガイアは我の言葉に、ふっと肩の力を抜いたようだった。
「レイズさん、あの子は、カーネルは無事なんですか?」
カーネルの母ウィンは、小さく、しかしはっきりとした声で尋ねた。我は目を閉じると、確かに存在が感じ取れるカーネルの意思に語りかける。返事はない。
「診断の通りだ。大量の魔力を使ったことが原因で、カーネルの心は深き眠りについている。起きるのがいつになるかは分からぬが、生きているという意味では無事だ」
「………………」
ウィンは複雑そうな表情を浮かべる。もしこのままずっと目を覚まさなければ、などと悪い想像を浮かべているのが手に取るように伝わってきた。そんなウィンに、我は小さく笑って見せる。
「安心しろ。絶対に帰ってくると、カーネルは我と約束したのだ。このまま永遠に目を覚まさないということはない」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。カーネルは強い。我が保証しよう。ウィンもカーネルを信じてやってくれ」
「……そうですね。母親の私が一番に信じてあげませんと」
頷くウィンの顔から不安の色が消え、決意を固めた者が見せる、迷いのない表情が浮かんだ。強い女だ。恐らく誰よりもカーネルの身を案じているだろうに。
「さてガイアよ。今回の事件、誰が何の目的で行ったものなのか、知っていることを全て語れ」
ガイアに救われ医療施設に運ばれたカーネルの体は、治療後こことは別の部屋で安静にさせられていた。そしてガイアとウィンが二人きりの状況を見計らい、カーネルの体を借りた我が、秘密裏に話がしたいと持ちかけたのだった。
リスクはあったが、カーネルがいつ目を覚ますのか分からぬ以上、我が行動するのはそこしかなかった。結果カーネルの体はガイアの計らいにより、音や魔力が遮断されているという特別な部屋に移され、三人だけで話ができる状況となったのだった。
「申し訳ないが、それについては未だ調査中だ。調査に関しても、今のところ手懸かりは少なく、魔法石を仕掛けた実行犯は既に国外へ逃亡している可能性もある。カーネル殿らを襲った盗賊は、誰かから依頼を受けたというわけではなく、何者かによって流された情報に飛びついただけのようだったしな。進展はあまり期待できないだろう」
「………………」
ウィンが無言で俯く。事前に聞かされていたのか、動揺は小さいように見えた。
「ならばガイアの想像する主犯の動機を答えよ。多少の心当たりはあるはずだ」
「いくつか考えられるが、……失礼ながら、それら全て、動機はレイズ殿に関わるものだ」
「気遣いは無用だ。我とてそう思う。詳細を教えてくれ」
ガイアは暫く押し黙ったが、やがて重そうに口を開いた。
「……レイズ殿が封印されてから三百年以上が経つが、我々は未だに、伝説の大魔王に関して多くを知らないのだ。魔族の中でも一際長命な種族を除き、当時を知るものはいなくなられた。また残された僅かな文献では、伝説の大魔王に関する記述が乏しく、その内容も極端に異なっている。侵略した側とされた側で見解が違うのは当然なのだが……」
「前置きが長い。結論を言え」
「現代に伝説の大魔王が復活されたことを快く思わない者たちがいる。この平和な世界を乱すのではないか、と恐れてな。その者らがカーネル殿の命を狙った可能性がある」
ふむ、まあ予想の範疇だな。そう思われるだけのことをしてきた自覚はある。とは言え、本人とろくに話もせぬまま、まだ一歳そこらの幼児を手にかけようとするなど、極めて愚かだと言えよう。
「逆に、伝説の大魔王を崇める者たちもおり、彼らがカーネル殿の身柄を欲した可能性もある」
「何だそれは。魂だけの存在に何を期待しておるのだ? そやつらは」
「恥ずかしい話だが、魔界では現在に至っても、かつて魔界全土に侵略したレイズ殿と同じ悪魔族に対して、良い感情を抱いてない者が多くいる。それに反発した悪魔族の一部が、伝説の大魔王の復活に沸き立っておるのだ。レイズ殿の魂を手に入れ、伝説の大魔王の下、かつての栄光を取り戻そうと、他の悪魔族を煽り立てようとしたとしても、不思議ではない」
やれやれ。栄光を取り戻そうとしているのなら、それを望む者たちだけで頑張れば良いだろうに。
「……つまり、どの種族の者でも、今回の事件を引き起こす動機があったということですね」
「その通りだ。直接手を下さないという方法も含め、主犯はほとんど情報を残さなかった。こういった手法から、目的を達するよりも特定されないことに重きを置く相手だと推測できるが、そんなもの、何もわかっていないのと同じようなものだ」
動機すら確たることは言えない、か。しかしどういったものであれ、所詮は下らぬ目的のためだと分かっただけ良しとするか。
本題はここからだ。
「それで、これからどうするのだ? まさか何事もなかったかのように、屋敷での生活に戻るわけでもあるまい?」
「うむ。今回の件で、我々の行動を知れる者の中に、カーネル殿を狙う輩が存在すると分かった。それが誰なのか明らかになっていない現状で、幼いカーネル殿をあの屋敷に留めておくのは危険すぎる」
「ちょっと待ってください。カーネルは目を覚ますまで、ここで安静に過ごさせるのではないのですか?」
ウィンが驚いたように尋ねる。我は首を振って答えた。
「違う。カーネルが目を覚ますまで、我がこの体を動かすのだ。我はそのためにこうして存在を明らかにした」
「そんな!」
「ウィン殿、申し訳ないが、私もレイズ殿と同意見だ。他ならぬ、カーネル殿のためにもな」
「カーネルのため? それはどういう……?」
「先も言った通り、カーネルがいつ目を覚ますかは分からない。それは明日かもしれぬし、十年後になるかもしれん。そしてカーネルはまだ子供だ。これから体が成長するという時期にずっと横になったままでは、目が覚めた後に困ることになる」
ウィンが口元を手で押さえた。ガイアは神妙に頷く。
「レイズ殿の言う通り、運動を全くしないまま大人になっては、自衛はおろか、日常生活にさえ支障をきたす可能性がある。そうならないためにも、レイズ殿がカーネル殿の体を借りて行動するのは賛成だ」
「……それが、カーネルに影響を与えることはありますか?」
「なんとも言えぬな。全く影響がないということは考えにくいが、運動の刺激で目覚めが早まるかもしれぬし、逆に覚醒が阻害されるやもしれん。こればかりは、やってみないと分からぬ」
「………………」
ウィンは暫く俯いた後、ゆっくりとその顔を上げ、我と目を合わせた。
「レイズさん、貴方は息子を、カーネルをどう思っておりますか?」
「カーネルはかけがえのない、我が友だ」
間髪入れずに答えると、ウィンは僅かに微笑む。
「……ありがとうございます。まだ幼いあの子を、友と呼んでくれる貴方を信頼します。あの子の体を、よろしくお願いいたします」
「確かに任された。決して粗雑に扱わぬと誓おう」
我の言葉に、ウィンは深く頭を下げた。
「して、ガイアよ。あの屋敷以上に安全な場所というのは存在するのか?」
「いや、あれ以上のものはそうあるものではない。またあまりに広い場所では、施設を維持するための人員も多くならざるを得ず、カーネル殿に害を為そうとする者が懐に入りやすくなるだろう。そもそも人員が集まらない可能性もある」
「何故です?」
「今回の事件に関わった護衛から、カーネル殿が大規模の魔法を放ったことに恐れを抱く者が出始めたのだ。それを知っている者たちには口外せぬよう伝えはしたが、噂として広まるのも時間の問題だろう。そうなる前に人を集めたところで、最悪その者らがカーネル殿の敵に回ることも考えられる」
……確かに、あの規模の魔法が使える子供の傍には居たくないだろうな。カーネルの精神年齢を知らない者たちからすれば、どんな弾みで自分に魔法を向けられるかと、気が気じゃないはずだ。あの魔法をものともしない猛者なら話は違うのだろうが、そんな大物に子守りを引き受けさせることなどできまい。それが可能ならわざわざ世話役を選ぶ必要もなかったわけだしな。
「で、では、どうするのですか?」
「身代わりを作ろうと思う」
「身代わりだと?」
「ああ。といってもただの人形だ。それを眠っているカーネル殿と思わせ、本物のカーネル殿は、カーネル殿を知る者のいない別の場所で過ごさせる」
「……可能なのか? それは」
狭い部屋に長く閉じ込められるよりかはマシだが、あまりにリスクが高過ぎないだろうか。
「実際にどうなるかは現魔王様がお決めになることだが、私は十分可能であると思っている。何よりこれは、幼くしてその将来を定められてしまったカーネル殿が、自由を手に入れる最後の機会だ」
「貴様がそれを言うか、ガイアよ」
声に怒気を滲ませた我に、ガイアは深く頭を下げる。
「許してくれとは言わない。身勝手であることは重々承知している。ウィン殿、貴女に対しても謝罪させてほしい。振り回してばかりで本当にすまない」
「……ガイアさんの立場はある程度理解しているつもりです。私はカーネルが無事ならば構いませんわ。……もうカーネルと会えなくなってしまうのでしょうか?」
「必ず会わせる。文句はないな? ガイアよ」
「勿論だ」
身代わりが存在する内は目立たぬ形で会うことになるだろうが、ウィンには必ず報いなければならない。ウィンは目頭に薄く涙を浮かべると、口元を手で押さえた。
「……お願いします。どうか、元気に成長したカーネルに会わせてください……」
「確と約束しよう」
「全力を尽くす」
「……う、ううっ……!」
それから暫く、ウィンは涙を流すまいと堪えるようにしていた。
カーネルよ、お主の帰りを待っている者がいるのだ。早く目を覚ますのだぞ。
「あまりへりくだらないでくれ。今の我はレイズだ。大魔王などではない」
「……そう言ってもらえると助かるな」
ベッドが一つあるだけにしてはやや広い部屋で、我はカーネルの体を借り、初めて直接ガイアと話す。ガイアは我の言葉に、ふっと肩の力を抜いたようだった。
「レイズさん、あの子は、カーネルは無事なんですか?」
カーネルの母ウィンは、小さく、しかしはっきりとした声で尋ねた。我は目を閉じると、確かに存在が感じ取れるカーネルの意思に語りかける。返事はない。
「診断の通りだ。大量の魔力を使ったことが原因で、カーネルの心は深き眠りについている。起きるのがいつになるかは分からぬが、生きているという意味では無事だ」
「………………」
ウィンは複雑そうな表情を浮かべる。もしこのままずっと目を覚まさなければ、などと悪い想像を浮かべているのが手に取るように伝わってきた。そんなウィンに、我は小さく笑って見せる。
「安心しろ。絶対に帰ってくると、カーネルは我と約束したのだ。このまま永遠に目を覚まさないということはない」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。カーネルは強い。我が保証しよう。ウィンもカーネルを信じてやってくれ」
「……そうですね。母親の私が一番に信じてあげませんと」
頷くウィンの顔から不安の色が消え、決意を固めた者が見せる、迷いのない表情が浮かんだ。強い女だ。恐らく誰よりもカーネルの身を案じているだろうに。
「さてガイアよ。今回の事件、誰が何の目的で行ったものなのか、知っていることを全て語れ」
ガイアに救われ医療施設に運ばれたカーネルの体は、治療後こことは別の部屋で安静にさせられていた。そしてガイアとウィンが二人きりの状況を見計らい、カーネルの体を借りた我が、秘密裏に話がしたいと持ちかけたのだった。
リスクはあったが、カーネルがいつ目を覚ますのか分からぬ以上、我が行動するのはそこしかなかった。結果カーネルの体はガイアの計らいにより、音や魔力が遮断されているという特別な部屋に移され、三人だけで話ができる状況となったのだった。
「申し訳ないが、それについては未だ調査中だ。調査に関しても、今のところ手懸かりは少なく、魔法石を仕掛けた実行犯は既に国外へ逃亡している可能性もある。カーネル殿らを襲った盗賊は、誰かから依頼を受けたというわけではなく、何者かによって流された情報に飛びついただけのようだったしな。進展はあまり期待できないだろう」
「………………」
ウィンが無言で俯く。事前に聞かされていたのか、動揺は小さいように見えた。
「ならばガイアの想像する主犯の動機を答えよ。多少の心当たりはあるはずだ」
「いくつか考えられるが、……失礼ながら、それら全て、動機はレイズ殿に関わるものだ」
「気遣いは無用だ。我とてそう思う。詳細を教えてくれ」
ガイアは暫く押し黙ったが、やがて重そうに口を開いた。
「……レイズ殿が封印されてから三百年以上が経つが、我々は未だに、伝説の大魔王に関して多くを知らないのだ。魔族の中でも一際長命な種族を除き、当時を知るものはいなくなられた。また残された僅かな文献では、伝説の大魔王に関する記述が乏しく、その内容も極端に異なっている。侵略した側とされた側で見解が違うのは当然なのだが……」
「前置きが長い。結論を言え」
「現代に伝説の大魔王が復活されたことを快く思わない者たちがいる。この平和な世界を乱すのではないか、と恐れてな。その者らがカーネル殿の命を狙った可能性がある」
ふむ、まあ予想の範疇だな。そう思われるだけのことをしてきた自覚はある。とは言え、本人とろくに話もせぬまま、まだ一歳そこらの幼児を手にかけようとするなど、極めて愚かだと言えよう。
「逆に、伝説の大魔王を崇める者たちもおり、彼らがカーネル殿の身柄を欲した可能性もある」
「何だそれは。魂だけの存在に何を期待しておるのだ? そやつらは」
「恥ずかしい話だが、魔界では現在に至っても、かつて魔界全土に侵略したレイズ殿と同じ悪魔族に対して、良い感情を抱いてない者が多くいる。それに反発した悪魔族の一部が、伝説の大魔王の復活に沸き立っておるのだ。レイズ殿の魂を手に入れ、伝説の大魔王の下、かつての栄光を取り戻そうと、他の悪魔族を煽り立てようとしたとしても、不思議ではない」
やれやれ。栄光を取り戻そうとしているのなら、それを望む者たちだけで頑張れば良いだろうに。
「……つまり、どの種族の者でも、今回の事件を引き起こす動機があったということですね」
「その通りだ。直接手を下さないという方法も含め、主犯はほとんど情報を残さなかった。こういった手法から、目的を達するよりも特定されないことに重きを置く相手だと推測できるが、そんなもの、何もわかっていないのと同じようなものだ」
動機すら確たることは言えない、か。しかしどういったものであれ、所詮は下らぬ目的のためだと分かっただけ良しとするか。
本題はここからだ。
「それで、これからどうするのだ? まさか何事もなかったかのように、屋敷での生活に戻るわけでもあるまい?」
「うむ。今回の件で、我々の行動を知れる者の中に、カーネル殿を狙う輩が存在すると分かった。それが誰なのか明らかになっていない現状で、幼いカーネル殿をあの屋敷に留めておくのは危険すぎる」
「ちょっと待ってください。カーネルは目を覚ますまで、ここで安静に過ごさせるのではないのですか?」
ウィンが驚いたように尋ねる。我は首を振って答えた。
「違う。カーネルが目を覚ますまで、我がこの体を動かすのだ。我はそのためにこうして存在を明らかにした」
「そんな!」
「ウィン殿、申し訳ないが、私もレイズ殿と同意見だ。他ならぬ、カーネル殿のためにもな」
「カーネルのため? それはどういう……?」
「先も言った通り、カーネルがいつ目を覚ますかは分からない。それは明日かもしれぬし、十年後になるかもしれん。そしてカーネルはまだ子供だ。これから体が成長するという時期にずっと横になったままでは、目が覚めた後に困ることになる」
ウィンが口元を手で押さえた。ガイアは神妙に頷く。
「レイズ殿の言う通り、運動を全くしないまま大人になっては、自衛はおろか、日常生活にさえ支障をきたす可能性がある。そうならないためにも、レイズ殿がカーネル殿の体を借りて行動するのは賛成だ」
「……それが、カーネルに影響を与えることはありますか?」
「なんとも言えぬな。全く影響がないということは考えにくいが、運動の刺激で目覚めが早まるかもしれぬし、逆に覚醒が阻害されるやもしれん。こればかりは、やってみないと分からぬ」
「………………」
ウィンは暫く俯いた後、ゆっくりとその顔を上げ、我と目を合わせた。
「レイズさん、貴方は息子を、カーネルをどう思っておりますか?」
「カーネルはかけがえのない、我が友だ」
間髪入れずに答えると、ウィンは僅かに微笑む。
「……ありがとうございます。まだ幼いあの子を、友と呼んでくれる貴方を信頼します。あの子の体を、よろしくお願いいたします」
「確かに任された。決して粗雑に扱わぬと誓おう」
我の言葉に、ウィンは深く頭を下げた。
「して、ガイアよ。あの屋敷以上に安全な場所というのは存在するのか?」
「いや、あれ以上のものはそうあるものではない。またあまりに広い場所では、施設を維持するための人員も多くならざるを得ず、カーネル殿に害を為そうとする者が懐に入りやすくなるだろう。そもそも人員が集まらない可能性もある」
「何故です?」
「今回の事件に関わった護衛から、カーネル殿が大規模の魔法を放ったことに恐れを抱く者が出始めたのだ。それを知っている者たちには口外せぬよう伝えはしたが、噂として広まるのも時間の問題だろう。そうなる前に人を集めたところで、最悪その者らがカーネル殿の敵に回ることも考えられる」
……確かに、あの規模の魔法が使える子供の傍には居たくないだろうな。カーネルの精神年齢を知らない者たちからすれば、どんな弾みで自分に魔法を向けられるかと、気が気じゃないはずだ。あの魔法をものともしない猛者なら話は違うのだろうが、そんな大物に子守りを引き受けさせることなどできまい。それが可能ならわざわざ世話役を選ぶ必要もなかったわけだしな。
「で、では、どうするのですか?」
「身代わりを作ろうと思う」
「身代わりだと?」
「ああ。といってもただの人形だ。それを眠っているカーネル殿と思わせ、本物のカーネル殿は、カーネル殿を知る者のいない別の場所で過ごさせる」
「……可能なのか? それは」
狭い部屋に長く閉じ込められるよりかはマシだが、あまりにリスクが高過ぎないだろうか。
「実際にどうなるかは現魔王様がお決めになることだが、私は十分可能であると思っている。何よりこれは、幼くしてその将来を定められてしまったカーネル殿が、自由を手に入れる最後の機会だ」
「貴様がそれを言うか、ガイアよ」
声に怒気を滲ませた我に、ガイアは深く頭を下げる。
「許してくれとは言わない。身勝手であることは重々承知している。ウィン殿、貴女に対しても謝罪させてほしい。振り回してばかりで本当にすまない」
「……ガイアさんの立場はある程度理解しているつもりです。私はカーネルが無事ならば構いませんわ。……もうカーネルと会えなくなってしまうのでしょうか?」
「必ず会わせる。文句はないな? ガイアよ」
「勿論だ」
身代わりが存在する内は目立たぬ形で会うことになるだろうが、ウィンには必ず報いなければならない。ウィンは目頭に薄く涙を浮かべると、口元を手で押さえた。
「……お願いします。どうか、元気に成長したカーネルに会わせてください……」
「確と約束しよう」
「全力を尽くす」
「……う、ううっ……!」
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