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一歳児編
残されたコマンド
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(本当にやるのだな?)
(ああ。やる。もうすぐ魔力は溜まるんだろ?)
(先に断っておくが、成功するとは限らんぞ。成功したところで、逃げ切れない可能性の方が高い。そしてどちらにしろ、大量の魔力を使いきったお主は昏睡状態に陥る。最悪、二度と目を覚まさないかもしれん)
(……構わないさ)
(……我としては、このまま捕まるという選択肢も考えてほしいのだがな)
(それはできない。絶対に)
(落ち着いて考えてみてくれ。奴らも狂人ではない。お主を捕らえはするだろうが、殺したりすることはないはずだ。そして生き延びさえすれば、いつかは逃げられる機会も巡ってくるだろう。わざわざここで死ぬ危険を冒さずとも――)
(俺以外の四人はどうなる?)
(……世話役の娘どもも、殺されはすまい。一緒にいれるとは限らぬが。男の方は、……諦めるのだな)
(ありがとう。正直に答えてくれて)
お陰で、迷いはなくなった。
(……どうしても、やるというのだな。死ぬのが恐ろしくないのか?)
(自分でも不思議なんだ。少なくともこんな自爆みたいな技、ゲームじゃまず使わないのに)
ああ、でもそうか。残されたほうは馬鹿野郎って思うけど、使ったほうはこんな気持ちだったのかな。
(案外、どうにかなると思ってるのかもな)
(真似るでない。……だが、そうだな。どうにかなってもらわねば困る。お主はようやく現れた、我の話し相手なのだからな)
(はは。……なあ、もし俺が消えたら、その時は――)
(それ以上言ったら、魔法を使わせぬぞ。良いか、お主は一時気絶するだけで、暫くすれば当たり前のように目を覚ますのだ)
(……そうだな)
(良し。さて、魔力の準備はできたぞ。魔法の名前と用途は教えたとおりだ。あとはお主の望むように使うがよい)
(分かった)
俺は五指をそれぞれ合わせると、小指から順に左右から押し合って、指先の感覚に集中する。これは俺なりの、頭を切り替える際の儀式のようなものだった。目を閉じ、頭の中でカウントダウンを始める。
5、4、3、2、1――
0! 俺はバッと手を離すと、広げた両腕を指揮者のように前に振り、魔法を唱えた。
「『ファイア・ウォール』!」
(ああ。やる。もうすぐ魔力は溜まるんだろ?)
(先に断っておくが、成功するとは限らんぞ。成功したところで、逃げ切れない可能性の方が高い。そしてどちらにしろ、大量の魔力を使いきったお主は昏睡状態に陥る。最悪、二度と目を覚まさないかもしれん)
(……構わないさ)
(……我としては、このまま捕まるという選択肢も考えてほしいのだがな)
(それはできない。絶対に)
(落ち着いて考えてみてくれ。奴らも狂人ではない。お主を捕らえはするだろうが、殺したりすることはないはずだ。そして生き延びさえすれば、いつかは逃げられる機会も巡ってくるだろう。わざわざここで死ぬ危険を冒さずとも――)
(俺以外の四人はどうなる?)
(……世話役の娘どもも、殺されはすまい。一緒にいれるとは限らぬが。男の方は、……諦めるのだな)
(ありがとう。正直に答えてくれて)
お陰で、迷いはなくなった。
(……どうしても、やるというのだな。死ぬのが恐ろしくないのか?)
(自分でも不思議なんだ。少なくともこんな自爆みたいな技、ゲームじゃまず使わないのに)
ああ、でもそうか。残されたほうは馬鹿野郎って思うけど、使ったほうはこんな気持ちだったのかな。
(案外、どうにかなると思ってるのかもな)
(真似るでない。……だが、そうだな。どうにかなってもらわねば困る。お主はようやく現れた、我の話し相手なのだからな)
(はは。……なあ、もし俺が消えたら、その時は――)
(それ以上言ったら、魔法を使わせぬぞ。良いか、お主は一時気絶するだけで、暫くすれば当たり前のように目を覚ますのだ)
(……そうだな)
(良し。さて、魔力の準備はできたぞ。魔法の名前と用途は教えたとおりだ。あとはお主の望むように使うがよい)
(分かった)
俺は五指をそれぞれ合わせると、小指から順に左右から押し合って、指先の感覚に集中する。これは俺なりの、頭を切り替える際の儀式のようなものだった。目を閉じ、頭の中でカウントダウンを始める。
5、4、3、2、1――
0! 俺はバッと手を離すと、広げた両腕を指揮者のように前に振り、魔法を唱えた。
「『ファイア・ウォール』!」
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