転生して一歳児の俺が未来の大魔王として担ぎ上げられたんだけどこれなんて無理ゲー?

東赤月

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一歳児編

あくまさんのあとをついていく

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「そういやまだ名乗ってなかったな。ギランだ。よろしくな、カーネル」
「ぎらん!」
「はは、そうそう。嬢ちゃんらは?」
「ヴァネッサです」
「メアリーですわ」
「……エリーゼ」
「ほぉん。ま、よろしく頼むぜ」
 前に向き直った男の人、ギランさんを先頭に、メアリー、エリーゼ、ヴァネッサと手を繋ぐ俺の順で歩きながら、自己紹介をし合った。
 折角だ。この流れでギランさんのことを聞いてみよう。
「どして、ここに?」
 俺の質問に、ギランさんは前を向いたまま答える。
「俺か? んー、まあいいや。実はこの森にお宝があるって聞いてよ」
「おたから?」
 こんな森の中に?
「ああ。青が一つに、赤が三つくらい、とか言ってたな」
「それって……!」
 エリーゼが言いかけて、口を押さえる。俺もそれを聞いた瞬間冷や汗が流れた。ヴァネッサとメアリーは意味が分からないようで、首を傾げる。
 それは、犯罪者が使う隠語だ。青が男で赤が女。最近出たばかりの小説の中で、注釈で説明されていたものだった。
 状況から考えて、明らかに俺たちのことを指している。それを狙ってきたということは、やっぱりギランさんも……!?
「けどもう諦めた。なんか宝石でもあんのかと思ったけど、全然見つかんねえし」
「………………」
 どうやら違ったようだ。考えてみれば、本当に俺たちが狙いならそれを話す必要はないよな。怖がらせる目的だったら、諦めた、なんて言わないだろうし。
「そういうお前らはどうしてここに?」
「んー……」
「……あたしが、おちてたまほうせきをひろっちゃったの」
 どう説明しようかと悩んでいたところに、ヴァネッサが答えてくれた。
「魔法石?」
「うん。そしたらきゅうにひかって、いつのまにか、ここに……」
「そのあと、もりからでようとして、あしあとをたどったのですわ」
 続くメアリーの言葉に、ギランさんは納得したように頷く。
「その足跡は、多分俺のだな。しっかし触れたら転移する魔法石が落ちてただぁ? 危ねぇことするやつがいるもんだな。爆発するようなもんじゃなくて良かったぜ」
 今度は全員の体が震えた。三人も、もしそうなっていたらと想像したんだろう。
 同時に気づいたことがある。確かに、魔法石を仕掛けた誰かが俺たちの命を奪おうとしていたのなら、わざわざ転移させなくてもいいはずだ。
(分からんぞ。お主は幼いとは言え、この我と契約を交わしたのだ。爆発ごときでは殺害しきれぬと考えたのかもしれん)
(……いや、それなら転移した先で待ち伏せでもされていたはずだ。それすらないのはおかしい)
 敵の目的は俺たちを殺めることじゃない? それとも何か理由があって、転移させるまでしかできなかった?
 分からない。情報が足らなすぎる。考えるのは、無事にここを出てからにしよう。
「ん?」
 不意に、ギランさんの足が止まる。
「どうしたんですの?」
 メアリーに倣ってギランさんの横から顔を出すと、耳が少し長いだけの男の二人組が見えた。無精髭を生やした男たちは、あまり清潔そうではない服に身を包んでいる。
 あれは、まさか――
「おいお前ら、こんなとこで何してんだ?」
「うおっ! ってなんだ、同業者か」
「驚かせやがって。……待て、その後ろに連れてるのは、もしかして……!」
「あん? 後ろに何が……おおっ!?」
 慌てて顔を引っ込めたが、遅かったようだ。さながら宝物でも見つけたかのように、男の声が震える。
「同業者ってことは、お前らもお宝を探しにきたのか?」
「お宝ぁ? ああ、そういうことか」
「へへっ、そうさ。なああんた、よければお宝を運ぶの手伝わせてくれよ」
 予想通り、この男たちは本物の犯罪者らしい。同じタイミングで気づいたエリーゼが顔に不安を浮かべて振り返る。
「カーネルさま、にげよう……!」
 小声で訴えるエリーゼに、俺は首を横に振る。今ここで逃げ出したところで、大人の足には敵わない。逆にこの場で唯一の味方であるギランさんから離れてしまうことになる。そうなっては例え逃げ切れたところで、魔物や他の犯罪者がうろつく森から出る手段を持たない俺たちの命運は尽きる。
 今俺たちに希望があるとするならば、ギランさんが男たちの誘いに乗らず、俺たちを守ってくれることだけだ。
「あ? お宝なんて持ってねぇぞ?」
「何言ってんだ。最上級の宝を持ってんじゃねぇか」
「どうやって手懐けたかは知らねぇがよ、俺たちにも一枚噛ませろや」
「……はっ、そういうことかよ」
 ギランさんが振り向く。ヴァネッサとメアリーも不穏な気配を感じ取ったのか、三人の肩が小さく震えた。それを見たギランさんが片頬を上げた。
「いいぜ、乗ってやるよ」
 ギランさんが男たちの元へと歩み寄る。
「カーネルさま……」
 ヴァネッサの言葉に、手を強く握った。
 駄目か……。こうなったら森を抜け出すまで待って、隙を見て逃げ出すしかない。けれどそれも、成功する確率は限りなく低いはずだ。
 くそ、考えろ。本当にそれしかないのか? 他に何かできることは……?
「おう、話が分かるな」
「へへ、これだけの上玉だ。暫く遊んで暮らせるぜ」
 男たちの視線がこちらを向く。
 ドゴッ!
「かっ……ぇ……?」
 その内の一人が崩れ落ちた。ギランさんがその腹に拳を沈めたからだ。唐突な展開に、状況を理解するのに時間がかかる。
「な、てめゲッ!」
 もう一人の男の喉を、ギランさんの手が締めた。三人の息を呑む音が聞こえる。
「なんて言うと思ったかよ、外道共が」
 凄みのある声でそう言うと、ギランさんは片手で男の体を持ち上げた。先に倒れた男よりも軽そうだとはいえ、大の大人を片手で浮かせるなんて……。悪魔族はそれが普通なのか?
「ガ、……ゴ……」
 男はじたばたと暴れるも逃れられず、やがて手がダランと下がる。
「ふん」
 ギランさんは鼻を鳴らすと、動かなくなった男を無造作に投げ捨てた。そこでようやく、現実に頭が追いつく。
「ぎらん、つよい! ありがと!」
「ああ、気にするな。しっかしお宝ってそういう意味かよ。胸くそりぃな」
 ギランさんは苛立たしげに舌を鳴らす。やっぱり、この人についていくという選択は間違ってなかったようだ。
「し、しんじゃったの?」
「気絶させただけだ。こんな奴ら、殺す価値もない」
「この男たちは、わ、わるいやつらなんですの?」
「だろうな。人攫いか奴隷商か。なんにしろ、ガキを物みてぇに扱う人でなしだ。まさか俺がそいつらと同列に思われるなんてな。……ったく、こんなことなら来るんじゃなかったぜ」
 嘆息するギランさんに、首を横に振って見せる。
「ぎらん、きてよかった!」
「あ? ……ああ、そうか。そうだな。こうなったら、クソ共と同じ奴だと思われねぇよう、何がなんでもお前らを連れてここから出てやる。ちゃんとついてこいよ!」
「うん!」
「はい!」
「はいですわ!」
「……はい」
 これがRPGなら、『ギランがなかまになった!』なんてメッセージが出ているところかな。俺はこんな状況にも関わらず、ふとそんなことを思った。
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