転生して一歳児の俺が未来の大魔王として担ぎ上げられたんだけどこれなんて無理ゲー?

東赤月

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一歳児編

無理ゲー

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 フォン!
 やがて、不意にそんな風の音が聞こえたかと思うと、車酔いのような気分の悪さを感じてから、目の前が暗くなった。どうやら光は収まったようだ。辺りも静まり返って――
 静まり返って?
 考えるより先に体が動いていた。腕を下ろして目を開ける。
「……どこ?」
 思わず呟いてしまったのは、目の前に広がる景色が一変していたからだ。つい先程まであった見晴らしのいい草原の風景は嘘のように消え去り、代わりにあったのは閉塞感が漂う森の風景だった。まだ昼間のはずなのに、背の高い木々が光を遮っているせいか辺りは薄暗い。空気もジメジメとしていて、どこか淀んでいるように感じた。
「あれ? ここどこ?」
「さっきまでそうげんにいましたのに……」
「……大人の人たちも、いない……」
 三人も現状を認識し始めたみたいだ。その表情には不安の色が浮かんでいる。
(やれやれ、まんまと転移させられてしまったな)
(転移……ってことは、やっぱり俺たちだけ別の場所に飛ばされたってことだよな? あの石が原因で)
(うむ。あれは魔法石といってな。特殊な鉱石に魔法を込めたものだ。そこに転移魔法を仕込まれていたのだろう)
(なるほどな。あれ? けどヴァネッサはそれを拾っただけだよな。それだけで魔法が使われるのか?)
(ああ。魔法が発動する条件をある程度決められるのも、魔法石の利点の一つだ。一定量の魔力を持つ何かに数秒間触れられていたら発動する、といった具合にな。そのため、様々な罠や仕掛けに利用されることが多い)
(へぇー、便利だなー)
「あなたのせいよ!」
 俺が魔法石に関心を寄せているところに、エリーゼの声が響く。
「あ、あたし!?」
「どういうことですの?」
「まほう石よ! ほら、色がきえてる!」
 エリーゼが指さしたのは、ヴァネッサの持つ魔法石だ。さっきまで宝石みたいに赤かったのに、今は灰色にくすんでいる。
(あれって、魔法を使ったから?)
(その通りだ。大抵の魔法石は使い捨てのものだからな。一度魔法が発動してしまうと、ただの石ころとなる。しかしお主、先程からやけに鋭いな)
(ああいうのに似たもの、よく知ってるんだ)
 ただしそれはゲームの中での話で、実際に目にするのは初めてだ。魔法のすごさを体感したことも相まって、ぞくぞくと感動が湧いてくる。
 いやあ、やっぱりこの世界って素晴らしいな! リアル魔法石があって、しかも空間転移までできるなんて!
(感動するのは良いが、先にこの場を収めてくれぬか?)
(ん?)
「まほう石……。きいたことはありましたけど……」
「この石のせいでこうなっちゃったのよ! どうしてくれるの!?」
「あ、あたしは、ただきれいないしをみせたくて……」
「なんでそんなけいそつなの!? あなたはいつもそう! おせわやくしっかくよ!」
「あ、あたし……だって……!」
「なきたいのはこっちよ! あなたのせいで、生きてかえれなくなるかもしれないんだから!」
「そんな! もうお父さまやお母さまにあえませんの!?」
「パパ、ママ……!」
 あ、これはまずい。
「おちつて! だいじょぶ!」
 俺は胸を張って大きな声を出した。今にも泣き出しそうだった三人の視線が集まる。
「かねるがまもるから!」
「カーネルさま……」
「……やっぱり、カーネルさまは、すごい」
「……じぶんがはずかしいですわ……」
 自分たちよりも幼い俺の言葉に奮い立ったのか、三人は目元を拭う。
「ごめんね、カーネルさま。なさけないところをみせちゃった」
「うん、わたしも。とりあえず今は、カーネルさまをまもることをかんがえよう」
「そうですわね。ないているばあいじゃありませんわ」
 三人が頷き合う。ふう、どうにか収まったみたいだ。
(よくやった。さて、問題はここからだな)
(え、レイズって転移魔法使えないのか?)
 それですぐ戻れると思ってたのに。
(うむ、使えぬな。それに例え使えたとて、離れた場所に転移するには、あらかじめそこに魔法を施しておく必要がある。どちらにせよ脱出はできん)
(そうなのか)
 まあ確かに、何の準備もせずに転移なんてできたら都合が良すぎるってものか。それでもちょっとショックだ。
(じゃあ例えば、ここがどこか遠くの、未踏のジャングルだとしたら、もう帰れないってことか?)
(いいや、転移にはかなりの魔力が必要だからな。あの石の大きさからして、そこまで離れた場所ではないだろう。我が封印されてから暫く経つが、お主の周りを見る限り、そこまで魔法石の性能が良くなったわけではなさそうだしな)
 ということは、早いうちに助けがくる可能性もあるってことか。それを聞いて安心する。
(加えて、ここに魔法を仕込んだ者は足を踏み入れているはずだから、未踏ではない。探せばそやつの足跡でも残っておるやもしれぬぞ)
「見て、足あとがある」
 丁度その話を心の中でしていた時に、エリーゼが足跡を見つけたようだ。
「どれですの?」
「あ、ほんとだ! くさをふんづけたあとがある!」
「これをたどっていけば、きっと出られる。いこう」
「ええ」
「うしろはあたしがまもるね!」
 エリーゼに続いて、メアリー、俺、ヴァネッサの順で森の中を歩き出す。気分は新たなダンジョンに潜った時のようだった。どんな危険が潜んでいるか分からない中、慎重に前に進んでいく緊張感にドキドキしながら、同時にかなりワクワクしている俺だった。
 リアルダンジョン……! まさかこんな早くに体験できるなんて思わなかった。しかも五歳の子ども三人を連れてとなると、難度も相当高い。クリア条件はこの子たちを守りながら、安全な場所まで移動するといったところか。これはやりごたえがあるぞ!
(お主、こんな状況だというのにやけに余裕があるな。秘策でも持っておるのか?)
(そんなものないよ。けれど俺にはレイズがついているからな)
 こちらには元大魔王様がいるんだ。大抵の脅威は問題ない。そう思っていたのに、
(我には何もできぬぞ)
 レイズはそんなことを言い出した。
(またまたぁ。いつもしつこいくらいに武勇伝を語ってくれるじゃないか)
(あれはあくまで過去の話だ。今はできん)
(いやいやいや、今でも魔法は使えるって、この前言ってただろ!?)
 あれはヴァネッサがやって来た日の夜だった。ヴァネッサの兄が魔法で炎を出せると聞いて、俺でもできるかと尋ねたら、屋敷を吹き飛ばす程度の爆炎なら放てると自信満々に答えていた。あれが嘘だとは言わせないぞ!
(ああ、嘘ではない。しかし問題があったのだ)
(問題?)
(我の想像以上に、お主の魔力が少なすぎた。二人目の世話役が来た日の夜、少しばかり聴力を向上させる魔法を使っただけで軽く魔力欠乏症を起こし、次の日にまで影響を及ぼすほどにな)
(なぁっ!?)
 そう言えばメアリーが来た日の朝、寝起きからやけに気分が良くなかったけど、それが原因か!
(あの程度の魔法でそんな有様では、小さな爆発を起こすだけで昏倒するだろうな)
(……つまり、レイズの助けは期待できないってことか?)
(うむ。故に、問題はここからだと言ったのだ)
 成る程。良く分かった。
(……無理ゲーだ)
 さっきまでは感じることのなかった絶望が、俺の両肩に重くのしかかった。
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