転生して一歳児の俺が未来の大魔王として担ぎ上げられたんだけどこれなんて無理ゲー?

東赤月

文字の大きさ
上 下
15 / 72
一歳児編

初めての外出

しおりを挟む
「わあぁ! ひろーい!」
「きれい……」
「かぜが気もちいいですわね」
 新生活が始まって一ヶ月ほど経った頃、俺たちは広々とした丘の上の草原へと遠足に来ていた。
 馬車から出た三人は浮き足立っているようだが、かくいう俺もかなりテンションが上がっていた。なんといっても、あの屋敷での生活が始まってから初となる外出なのだ。狭くはないとはいえ、周囲を壁に囲まれた敷地の中でずっと過ごしてきた俺にとって、遥か彼方の山まで見通せる景色、それから得られる解放感は最早感涙ものだった。
 ああ、暗い牢獄から外に出られた囚人ってこんな気分なのかな?
「さあカーネル殿、あまり長くはいられませぬが、思う存分楽しんでください」
 護衛の人に続いて、最後に馬車から降りたガイアさんの言葉に、大きく頷いて見せる。
「みんな、いこ!」
「うん!」
「まって!」
「わたくしも!」
 まだ走ったりはしないけど、俺たちは穏やかな風の中を歩いたり、草の上に転がってみたりして、体全部で自然と触れあった。
「あはははは! こんなばしょなら、いくらでもはしれちゃいそう!」
「走るのはいいけど、カーネルさまにぶつからないでよ」
「けれど、本とうにいいところですわね」
 三人も久しぶりの外の世界を満喫しているようだった。最初はどうなることかと思っていたこの三人も、最近は衝突することもなくなった。けれどまだお互いに思うところはあるみたいで、たまに嫌な空気になったりもする。今日のことで多少関係が良くなってくれるといいんだけど。
(ふっ、すっかり保護者ではないか)
 レイズがからかうように言う。否定できなかった。
(だって相手は五歳児だぞ? ほとんど俺たち四人で過ごしていて、他に頼れる大人もいないんだし、どうしたってそういう気になるさ)
 向こうからしたら俺の方が心配なのかもしれないが、精神年齢十七歳の俺も相当三人に気を遣っていた。例えば、俺の手が届かない程度の高い場所から物を下ろしたりだとか、食器を重ねて運んだりだとか、そういったちょっと危なそうな行動一つひとつがどうにも気になってしまい、つい手を貸したくなってしまう。かといって今の俺じゃほとんどどうしようもできず、歯痒い思いをするだけで終わるのだが。
 我ながらこういった心境になっていることに驚きつつも、不思議と気遣いをやめようという気は起こらなかった。自分が一番年長なんだという自覚が、父性のようなものを呼び起こしたのかもしれない。それにしてもまさかこの年にして、子どもの自主性と安全のバランスについて考えるとは思わなかった。
(しかし良いのか? 何か手を打たねば、あの三人は今後もお主の世話役として居座ることになるぞ)
(それについては色々と考えたけどな……)
 今は下手に動くべきじゃない、というのが俺の出した結論だった。そもそも今の段階でこの三人にお世話役を止めさせても、一度ウィンさんから離されている以上、また別のお世話役が付く可能性の方が高い。ならば不確実でリターンも少ない行動を起こすよりかは、大人しくしている方が得策だ。
 そう、今はRPGでいうところのレベル1の状態なんだ。ろくに技も覚えてないのに大魔王(になるという未来)を打ち破れるはずもない。タイムリミットはまだ先だろうし、現状ですべきことは、コツコツとレベルアップすることなんだ。
(悠長にしている内に、好機を逃すかもしれぬぞ?)
(違うよ。好機を逃さないための準備をしているんだ)
 別に俺は諦めたわけじゃない。チャンスがいつ来てもいいように、牙を研いでいるだけだ。全ては自由な生活のために!
「カーネルさま、みてみて!」
 とその時、少し離れた場所まで走っていたヴァネッサが、何かを見つけたのか、嬉しそうな顔で戻ってくる。その無邪気な表情に、思わずこちらまで笑みが浮かびそうになる。
 うん。今は大人しくしているって決めたんだし、こういう時くらい気を緩めてもいいだろ。気を張り続けてたら長続きしないもんな。
(……こやつ、このまま流されるな)
 レイズが何か言っているようだけど、完全に無視する。
「なにを見つけましたの?」
「あぶないものじゃないよね?」
「ちがうよ! ほらみて、すっごいきれいないし!」
「あら、本とうにきれいですわね」
「……まって、これって……」
 綺麗な石? まさかこんなところに宝石なんて落ちてないだろうけど、レアアイテムでも見つけたのかな?
 俺はのほほんと考えながら、しゃがんだ二人の肩越しにそれを見る。それは形の整った、滑らかな赤い石だった。へえ、まさか本物の宝石だったりして。
(っ! いかん、離れろ!)
(え?)
 レイズが警告するのと同時に、ヴァネッサの手の上にある赤い石が眩い光を放った。
「え? え?」
「なんですの!?」
「やっぱり、これ……!」
 三人が慌てる中、光はどんどん強くなり、目を開けることすらできなくなる。強すぎる光は目蓋すら突き抜けてきて、俺はたまらず腕で顔を庇った。
「カーネル殿!」
 ガイアさんが異変に気づいたらしい。焦ったような声と足音が近づいてくる。
 訳がわからない中、満足に走ることもできない俺は、下手に動いて状況を悪くしないようその場に留まった。すぐに助けがくると分かっていたから、それを待つ選択をとった。
 レイズが、離れろと言ってくれたのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...