転生して一歳児の俺が未来の大魔王として担ぎ上げられたんだけどこれなんて無理ゲー?

東赤月

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一歳児編

初めての外出

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「わあぁ! ひろーい!」
「きれい……」
「かぜが気もちいいですわね」
 新生活が始まって一ヶ月ほど経った頃、俺たちは広々とした丘の上の草原へと遠足に来ていた。
 馬車から出た三人は浮き足立っているようだが、かくいう俺もかなりテンションが上がっていた。なんといっても、あの屋敷での生活が始まってから初となる外出なのだ。狭くはないとはいえ、周囲を壁に囲まれた敷地の中でずっと過ごしてきた俺にとって、遥か彼方の山まで見通せる景色、それから得られる解放感は最早感涙ものだった。
 ああ、暗い牢獄から外に出られた囚人ってこんな気分なのかな?
「さあカーネル殿、あまり長くはいられませぬが、思う存分楽しんでください」
 護衛の人に続いて、最後に馬車から降りたガイアさんの言葉に、大きく頷いて見せる。
「みんな、いこ!」
「うん!」
「まって!」
「わたくしも!」
 まだ走ったりはしないけど、俺たちは穏やかな風の中を歩いたり、草の上に転がってみたりして、体全部で自然と触れあった。
「あはははは! こんなばしょなら、いくらでもはしれちゃいそう!」
「走るのはいいけど、カーネルさまにぶつからないでよ」
「けれど、本とうにいいところですわね」
 三人も久しぶりの外の世界を満喫しているようだった。最初はどうなることかと思っていたこの三人も、最近は衝突することもなくなった。けれどまだお互いに思うところはあるみたいで、たまに嫌な空気になったりもする。今日のことで多少関係が良くなってくれるといいんだけど。
(ふっ、すっかり保護者ではないか)
 レイズがからかうように言う。否定できなかった。
(だって相手は五歳児だぞ? ほとんど俺たち四人で過ごしていて、他に頼れる大人もいないんだし、どうしたってそういう気になるさ)
 向こうからしたら俺の方が心配なのかもしれないが、精神年齢十七歳の俺も相当三人に気を遣っていた。例えば、俺の手が届かない程度の高い場所から物を下ろしたりだとか、食器を重ねて運んだりだとか、そういったちょっと危なそうな行動一つひとつがどうにも気になってしまい、つい手を貸したくなってしまう。かといって今の俺じゃほとんどどうしようもできず、歯痒い思いをするだけで終わるのだが。
 我ながらこういった心境になっていることに驚きつつも、不思議と気遣いをやめようという気は起こらなかった。自分が一番年長なんだという自覚が、父性のようなものを呼び起こしたのかもしれない。それにしてもまさかこの年にして、子どもの自主性と安全のバランスについて考えるとは思わなかった。
(しかし良いのか? 何か手を打たねば、あの三人は今後もお主の世話役として居座ることになるぞ)
(それについては色々と考えたけどな……)
 今は下手に動くべきじゃない、というのが俺の出した結論だった。そもそも今の段階でこの三人にお世話役を止めさせても、一度ウィンさんから離されている以上、また別のお世話役が付く可能性の方が高い。ならば不確実でリターンも少ない行動を起こすよりかは、大人しくしている方が得策だ。
 そう、今はRPGでいうところのレベル1の状態なんだ。ろくに技も覚えてないのに大魔王(になるという未来)を打ち破れるはずもない。タイムリミットはまだ先だろうし、現状ですべきことは、コツコツとレベルアップすることなんだ。
(悠長にしている内に、好機を逃すかもしれぬぞ?)
(違うよ。好機を逃さないための準備をしているんだ)
 別に俺は諦めたわけじゃない。チャンスがいつ来てもいいように、牙を研いでいるだけだ。全ては自由な生活のために!
「カーネルさま、みてみて!」
 とその時、少し離れた場所まで走っていたヴァネッサが、何かを見つけたのか、嬉しそうな顔で戻ってくる。その無邪気な表情に、思わずこちらまで笑みが浮かびそうになる。
 うん。今は大人しくしているって決めたんだし、こういう時くらい気を緩めてもいいだろ。気を張り続けてたら長続きしないもんな。
(……こやつ、このまま流されるな)
 レイズが何か言っているようだけど、完全に無視する。
「なにを見つけましたの?」
「あぶないものじゃないよね?」
「ちがうよ! ほらみて、すっごいきれいないし!」
「あら、本とうにきれいですわね」
「……まって、これって……」
 綺麗な石? まさかこんなところに宝石なんて落ちてないだろうけど、レアアイテムでも見つけたのかな?
 俺はのほほんと考えながら、しゃがんだ二人の肩越しにそれを見る。それは形の整った、滑らかな赤い石だった。へえ、まさか本物の宝石だったりして。
(っ! いかん、離れろ!)
(え?)
 レイズが警告するのと同時に、ヴァネッサの手の上にある赤い石が眩い光を放った。
「え? え?」
「なんですの!?」
「やっぱり、これ……!」
 三人が慌てる中、光はどんどん強くなり、目を開けることすらできなくなる。強すぎる光は目蓋すら突き抜けてきて、俺はたまらず腕で顔を庇った。
「カーネル殿!」
 ガイアさんが異変に気づいたらしい。焦ったような声と足音が近づいてくる。
 訳がわからない中、満足に走ることもできない俺は、下手に動いて状況を悪くしないようその場に留まった。すぐに助けがくると分かっていたから、それを待つ選択をとった。
 レイズが、離れろと言ってくれたのに。
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