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一歳児編
お世話役を決めろと言われても
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「カーネル殿には、今後の行動を共にする世話役を決めて頂こうと思う」
うん、よく分からない提案だ。俺はお披露目から何日もしないうちに我が家を訪れたガイアさんに半目を向ける。
「世話役、ですか?」
「うむ。といっても教育係のようなものではなく、カーネル殿と共に帝王学などを学びつつ、幅広い面でカーネル殿が不自由しないよう支える、未来の側近候補といったところだ」
「カーネルはまだ一歳になったばかりなのですよ? あまりに早すぎるのでは……?」
そうだそうだ、と声を上げたくなるけど、この年にして話が理解できると思われても面倒なので黙っておく。
(良いではないか。実際理解しておるのだから)
(前も言ったけど、俺は大魔王なんかになりたくないんだ。目立つようなことはしたくない)
(ふん、つまらぬな)
なんとでも言えばいい。この世界がどれだけ広いか知らないけれど、世界の半分を治めるだなんて、科学技術があれだけ発展した地球でさえ成し遂げた人間はいないんだ。今は違うけど、俺みたいな普通の高校生には荷が重すぎるどころじゃない。無理ゲーだ。
心の中でレイズと話している間に、ガイアさんとウィンさんの会話が続く。
「いいや、寧ろ早いほど良いのだ。幼い時分から共に過ごすことで、お互いに対する信頼がより強固なものとなる。主従の関係における信頼の重要性は、ウィン殿も良く理解しているはずだ」
「それは分かりますけれど、でも……」
ウィンさんはまだ納得しきれていないようだ。そりゃそうだろう。幼いどころか、まだ自分の意志すら確立していない子供相手に世話役をつけるなんて、あまりに性急すぎると思う。まず記憶に残らないだろうに。
そもそも俺が大魔王になる前提で話が進んでいることがおかしいんだ。物心つく前に未来を決めるんじゃない。
(もうついているだろうに)
(向こうはそれを知らないんだから同じことだろ)
(何も珍しいことではあるまい。貴族の子は生まれながらにして貴族としての将来を定められるものだろう。それが大魔王に変わっただけだ。喜びこそすれ、嘆くことはなかろうに)
(嘆くわ! 魔族は長命みたいだし、俺がこの家を継ぐまでにはかなり猶予があったはずなんだ。それまでは自由を謳歌しようと思っていたのに、未来の大魔王だなんて祭り上げられたら、その時間もなくなりそうじゃないか!)
(ふむ、この時代の大魔王がどのようなものかは知らぬが、我の時代では大魔王ほど自由な者はまずおらんかったぞ。大抵のことは願えば叶うし、気に食わん奴は叩きのめせる。面倒事は全て配下の者がやってくれおるしな)
(そんな自由いらない)
(なんだと? お主は何が言いたいのだ?)
(なんて説明したらいいかな……)
レイズの言う自由は、確かに相当気ままに行動することができるだろう。けれどそれは、生活の大部分を他人に依存するものだ。最初からそれが当然だと思い込んでいれば楽だったかもしれないけど、そうじゃない俺にとっては、自分の自由の代償を払う人に対して申し訳なさを感じてしまうに違いない。こういう前世から引き継いだ価値観も、大魔王になれない理由の一つだった。
それに、大体のことが思い通りになるなんて、なんだかつまらないじゃないか。何かを手に入れるにしても、そこに至る過程があっさりしたものだったら感動も小さくなる。強くてニューゲームも、弱かった頃を知っているからこその爽快感がいいんだ。
俺の求める自由っていうのは、旅人のような自由だ。気が向くまま一人旅を続けて、訪れた町で起こっている問題なんかを解決したり、誰も行ったことのないような秘境を探訪したり、そんなゲームでしかできなかったことをできるような自由が欲しい。
それが大魔王になってみろ。町の問題を解決するのも、開拓地を求めて秘境を探索するのも全て部下の仕事になる。俺は玉座に縛り付けられて、一日中報告を受けては指示を出すことを繰り返し、外で何をするにしても側近だの護衛だのが付いて回ることになる。自由とはかけ離れた生活だ!
(それはあくまでお主の想像であろう? 実際はお主の想像が及ばぬほど自由な生活かもしれぬぞ?)
(あるいは、想像以上に縛られる生活かもしれないな。とにかく、この世界のことについてもまだ全然知らない状況で、将来のレールを敷かれるのはまっぴらごめんだ!)
(……確かに我も、他人に何かを押し付けられるのは気に食わんな)
(おお、分かってくれたか!)
ようやくレイズが納得してくれたことに感動する。
(しかし、それを止める手段がない以上、どうしようもなかろう)
「では、近いうちに何人か候補を連れてくる。そちらでも何か要望があれば遠慮なくいってほしい」
「……分かりました」
いつの間にか二人の会話は終わったらしい。どうやら世話役をつけるという話で決まったみたいだ。
(……もしかしてレイズ、しめしめって思ってたりするか?)
(何を言うか。我の大事な契約相手が望まぬ事態に発展しておるというのに、我が内心でほくそ笑んでいるはずがない)
絶対ほくそ笑んでるな。俺はため息をついた。
うん、よく分からない提案だ。俺はお披露目から何日もしないうちに我が家を訪れたガイアさんに半目を向ける。
「世話役、ですか?」
「うむ。といっても教育係のようなものではなく、カーネル殿と共に帝王学などを学びつつ、幅広い面でカーネル殿が不自由しないよう支える、未来の側近候補といったところだ」
「カーネルはまだ一歳になったばかりなのですよ? あまりに早すぎるのでは……?」
そうだそうだ、と声を上げたくなるけど、この年にして話が理解できると思われても面倒なので黙っておく。
(良いではないか。実際理解しておるのだから)
(前も言ったけど、俺は大魔王なんかになりたくないんだ。目立つようなことはしたくない)
(ふん、つまらぬな)
なんとでも言えばいい。この世界がどれだけ広いか知らないけれど、世界の半分を治めるだなんて、科学技術があれだけ発展した地球でさえ成し遂げた人間はいないんだ。今は違うけど、俺みたいな普通の高校生には荷が重すぎるどころじゃない。無理ゲーだ。
心の中でレイズと話している間に、ガイアさんとウィンさんの会話が続く。
「いいや、寧ろ早いほど良いのだ。幼い時分から共に過ごすことで、お互いに対する信頼がより強固なものとなる。主従の関係における信頼の重要性は、ウィン殿も良く理解しているはずだ」
「それは分かりますけれど、でも……」
ウィンさんはまだ納得しきれていないようだ。そりゃそうだろう。幼いどころか、まだ自分の意志すら確立していない子供相手に世話役をつけるなんて、あまりに性急すぎると思う。まず記憶に残らないだろうに。
そもそも俺が大魔王になる前提で話が進んでいることがおかしいんだ。物心つく前に未来を決めるんじゃない。
(もうついているだろうに)
(向こうはそれを知らないんだから同じことだろ)
(何も珍しいことではあるまい。貴族の子は生まれながらにして貴族としての将来を定められるものだろう。それが大魔王に変わっただけだ。喜びこそすれ、嘆くことはなかろうに)
(嘆くわ! 魔族は長命みたいだし、俺がこの家を継ぐまでにはかなり猶予があったはずなんだ。それまでは自由を謳歌しようと思っていたのに、未来の大魔王だなんて祭り上げられたら、その時間もなくなりそうじゃないか!)
(ふむ、この時代の大魔王がどのようなものかは知らぬが、我の時代では大魔王ほど自由な者はまずおらんかったぞ。大抵のことは願えば叶うし、気に食わん奴は叩きのめせる。面倒事は全て配下の者がやってくれおるしな)
(そんな自由いらない)
(なんだと? お主は何が言いたいのだ?)
(なんて説明したらいいかな……)
レイズの言う自由は、確かに相当気ままに行動することができるだろう。けれどそれは、生活の大部分を他人に依存するものだ。最初からそれが当然だと思い込んでいれば楽だったかもしれないけど、そうじゃない俺にとっては、自分の自由の代償を払う人に対して申し訳なさを感じてしまうに違いない。こういう前世から引き継いだ価値観も、大魔王になれない理由の一つだった。
それに、大体のことが思い通りになるなんて、なんだかつまらないじゃないか。何かを手に入れるにしても、そこに至る過程があっさりしたものだったら感動も小さくなる。強くてニューゲームも、弱かった頃を知っているからこその爽快感がいいんだ。
俺の求める自由っていうのは、旅人のような自由だ。気が向くまま一人旅を続けて、訪れた町で起こっている問題なんかを解決したり、誰も行ったことのないような秘境を探訪したり、そんなゲームでしかできなかったことをできるような自由が欲しい。
それが大魔王になってみろ。町の問題を解決するのも、開拓地を求めて秘境を探索するのも全て部下の仕事になる。俺は玉座に縛り付けられて、一日中報告を受けては指示を出すことを繰り返し、外で何をするにしても側近だの護衛だのが付いて回ることになる。自由とはかけ離れた生活だ!
(それはあくまでお主の想像であろう? 実際はお主の想像が及ばぬほど自由な生活かもしれぬぞ?)
(あるいは、想像以上に縛られる生活かもしれないな。とにかく、この世界のことについてもまだ全然知らない状況で、将来のレールを敷かれるのはまっぴらごめんだ!)
(……確かに我も、他人に何かを押し付けられるのは気に食わんな)
(おお、分かってくれたか!)
ようやくレイズが納得してくれたことに感動する。
(しかし、それを止める手段がない以上、どうしようもなかろう)
「では、近いうちに何人か候補を連れてくる。そちらでも何か要望があれば遠慮なくいってほしい」
「……分かりました」
いつの間にか二人の会話は終わったらしい。どうやら世話役をつけるという話で決まったみたいだ。
(……もしかしてレイズ、しめしめって思ってたりするか?)
(何を言うか。我の大事な契約相手が望まぬ事態に発展しておるというのに、我が内心でほくそ笑んでいるはずがない)
絶対ほくそ笑んでるな。俺はため息をついた。
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