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一歳児編
現状を確認しよう
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乳幼児でも意外と世界って知れるんだなあ。この世界の母親、ウィンさんに絵本を読み聞かせてもらいながら、俺はなんとなくそう思った。
完全に絵本からの受け売りだけど、この世界はカンナルイスというらしい。昔は人間と他の種族が手を取り合って魔族と争っていたらしいんだけど、勇者と大魔王が一騎打ちをして、勇者側の勝利に終わってからは、和平条約が結ばれて平和になったみたいだ。
「―――――――」
というのは全て絵から分かったことである。ウィンさんの言葉は未だにほとんど分からないし、文字も暗号の羅列にしか見えない。しかし赤ん坊に対する読み聞かせということもあって、ウィンさんはゆっくり読んでくれるし、絵は分かりやすいし、文字も少ない。そこからなんとなく読み解いたのだった。
それらを踏まえて、俺はついに一つの結論に達した!
……これ、転生ってやつじゃね?
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
叫び声がおぎゃあ変換される。くそう、やっぱりもう認めるしかないのか!? 幼児退行したこの体も、純日本人のものとは思えない緑色の髪も、なんか若干尖っているような気がする耳も、今まで夢だの妄想だの幻覚だのと自分を騙してきたけれど、体感で一か月も経ったんじゃ諦めるしかないのか!?
「――――――!」
俺の声に驚いたウィンさんが困り顔であやしてくれくれる。しまった、またつい大声を出してしまった。心は十六歳でも、どこか幼い体に引きずられるみたいだ。感覚もまだ曖昧だし、そこは年相応ってことなんだろう。初めはとても不思議な気分だったけど、今ではそこそこ慣れることができていた。いや、慣れていいのか?
「―――――」
ウィンさんは絵本を閉じて、俺の頭を撫でて何かを言った。多分、お休み、だと思う。寝るときはいつも同じような言葉に聞こえるし。
そのあと、ウィンさんが淡い光を発するランプに手をかざすと、その光が消えた。どう考えても魔法だよな、これ。まあ地球でも似たような道具はあったけれど、ここで過ごして一ヶ月にもなれば、技術力がそこまで進歩してないであろうことは推察することができた。代わりに別の分野が進歩してるみたいだけど。
さてと。俺は目を閉じて考え始める。
転生ってことは、俺死んだのかな? もはや遠い昔のことのようにさえ思えるけれど、ゲーム部と化していた文芸部で部長から聞いた話を思い出す。
『誰かを守って死んだりすると神様が都合よく現れて、お詫びとかなんとか言ってすごい能力と記憶を持たせたまま新たな人生を始めさせてくれるんだって』
『強くてニューゲームですか』
『だね。あーあ、そんな風になれたら逆ハーレムも作れるのになあ』
『逆ハー作りたいんですか?』
『そりゃそうよ。しかも異世界だからお咎めなし。夢が広がるわー』
『けどそれ死ぬ前提ですよね』
『細かいことはいいの。で、兼くんはもし転生したらどうしたい?』
……それになんて答えたかは覚えてないな。
とにかく、転生だろうとなんだろうと、今俺がここに赤ん坊の状態でいるという現実とはそろそろ向き合わないといけなさそうだ。となれば――
思いっきり楽しむしかない!
地球での自分がどうなったかはものすごく気になるところだけど、ここで悩んで答えが出るものとは思えない。だったら今はこの状況を思う存分満喫するのが一番だろう。
今も見た通り、どうやらこの世界には魔法が存在するらしい。魔法! ああ、なんて素敵な響きだろう。何の装備もなしに火を出したり、自由自在に空を飛びまわったり、並み居る軍勢を一撃で戦闘不能にさせたり、ゲームの中で幾度となく見て憧れたものが、今まさに現実として存在しているなんて夢のようだ。ノーゲームノーライフが信条だけど、ある意味でこれは、ゲームの中の世界に飛び込んだともとれるわけで、毎日ゲーム漬けの生活を約束されたようなものである。
気分は夏休み、いや、それよりももっとわくわくしていた。頭の中では、成長した俺が剣を携え、魔法を使いながら立ちはだかる魔物を倒す光景が鮮明に浮かび上がる。
これから一体、どんな生活が待っているんだろう? 俺は高揚する気持ちを抑えながら眠りについた。
完全に絵本からの受け売りだけど、この世界はカンナルイスというらしい。昔は人間と他の種族が手を取り合って魔族と争っていたらしいんだけど、勇者と大魔王が一騎打ちをして、勇者側の勝利に終わってからは、和平条約が結ばれて平和になったみたいだ。
「―――――――」
というのは全て絵から分かったことである。ウィンさんの言葉は未だにほとんど分からないし、文字も暗号の羅列にしか見えない。しかし赤ん坊に対する読み聞かせということもあって、ウィンさんはゆっくり読んでくれるし、絵は分かりやすいし、文字も少ない。そこからなんとなく読み解いたのだった。
それらを踏まえて、俺はついに一つの結論に達した!
……これ、転生ってやつじゃね?
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
叫び声がおぎゃあ変換される。くそう、やっぱりもう認めるしかないのか!? 幼児退行したこの体も、純日本人のものとは思えない緑色の髪も、なんか若干尖っているような気がする耳も、今まで夢だの妄想だの幻覚だのと自分を騙してきたけれど、体感で一か月も経ったんじゃ諦めるしかないのか!?
「――――――!」
俺の声に驚いたウィンさんが困り顔であやしてくれくれる。しまった、またつい大声を出してしまった。心は十六歳でも、どこか幼い体に引きずられるみたいだ。感覚もまだ曖昧だし、そこは年相応ってことなんだろう。初めはとても不思議な気分だったけど、今ではそこそこ慣れることができていた。いや、慣れていいのか?
「―――――」
ウィンさんは絵本を閉じて、俺の頭を撫でて何かを言った。多分、お休み、だと思う。寝るときはいつも同じような言葉に聞こえるし。
そのあと、ウィンさんが淡い光を発するランプに手をかざすと、その光が消えた。どう考えても魔法だよな、これ。まあ地球でも似たような道具はあったけれど、ここで過ごして一ヶ月にもなれば、技術力がそこまで進歩してないであろうことは推察することができた。代わりに別の分野が進歩してるみたいだけど。
さてと。俺は目を閉じて考え始める。
転生ってことは、俺死んだのかな? もはや遠い昔のことのようにさえ思えるけれど、ゲーム部と化していた文芸部で部長から聞いた話を思い出す。
『誰かを守って死んだりすると神様が都合よく現れて、お詫びとかなんとか言ってすごい能力と記憶を持たせたまま新たな人生を始めさせてくれるんだって』
『強くてニューゲームですか』
『だね。あーあ、そんな風になれたら逆ハーレムも作れるのになあ』
『逆ハー作りたいんですか?』
『そりゃそうよ。しかも異世界だからお咎めなし。夢が広がるわー』
『けどそれ死ぬ前提ですよね』
『細かいことはいいの。で、兼くんはもし転生したらどうしたい?』
……それになんて答えたかは覚えてないな。
とにかく、転生だろうとなんだろうと、今俺がここに赤ん坊の状態でいるという現実とはそろそろ向き合わないといけなさそうだ。となれば――
思いっきり楽しむしかない!
地球での自分がどうなったかはものすごく気になるところだけど、ここで悩んで答えが出るものとは思えない。だったら今はこの状況を思う存分満喫するのが一番だろう。
今も見た通り、どうやらこの世界には魔法が存在するらしい。魔法! ああ、なんて素敵な響きだろう。何の装備もなしに火を出したり、自由自在に空を飛びまわったり、並み居る軍勢を一撃で戦闘不能にさせたり、ゲームの中で幾度となく見て憧れたものが、今まさに現実として存在しているなんて夢のようだ。ノーゲームノーライフが信条だけど、ある意味でこれは、ゲームの中の世界に飛び込んだともとれるわけで、毎日ゲーム漬けの生活を約束されたようなものである。
気分は夏休み、いや、それよりももっとわくわくしていた。頭の中では、成長した俺が剣を携え、魔法を使いながら立ちはだかる魔物を倒す光景が鮮明に浮かび上がる。
これから一体、どんな生活が待っているんだろう? 俺は高揚する気持ちを抑えながら眠りについた。
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