悲しみのバット

中村雨歩

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バットを持って校門を出るの計

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 ここは、偏差値低めの某野球がメチャクチャ強い男子校である。その高校は最寄駅から徒歩1~2分で、駅を出れば、すぐに校門が見える。そんな場所にあった。


 野球が非常に強いこの学校の野球部はとにかくモテた。校門の前には毎日のように女子が待機していて、野球部員が出て来るのを待ち構えている。高校生にして芸能人さながらである。何とも羨ましかった。


 今でこそ進学校のような顔をしているこの学校は、当時は運動部とヤンキーが幅を利かせている偏差値低めの学校で、僕は当時『三国志』にハマっていた。僕は自称、諸葛亮孔明だった。誰にも言ったことはない。


 僕はモテたかった。いや、そこまでは望んでいない。女子と話したかった。あわよくば、お付き合いしたかった。そして、同じ部活の同輩も同じ想いを持っていた。僕たちは柔道部だった。


 軍師、孔明は考えた。


 野球部はモテる。柔道部はモテない。しかし、高校は同じ。制服は同じ。さらに、同じ坊主頭。答えは出た。


「バットを持って校門を出るの計」

「皆の者、バットを持てい!」


 校門の前には今日も女子高生が10人ほど待ち伏せしている。予定通り、運動部の倉庫にあったバットを一人一本持って校門を出た。


 女子高生たちは誰も声をかけてくれない。道を開けてくれた。僕たちは目も合わせられず、真っ直ぐに駅の方に歩いて行った。とりあえず、女子高生から見えなくなる所まで何事もないように歩いて行こうと思った。


「ちょっと待って」


 後ろから呼び止めるその声は、女子高生などではなく、おじさんの声であった。駅前の交番から出てきたお巡りさんに呼び止められたのだ。


「何やってんだ。ちょっと来て」と二人のお巡りさんに交番まで連れて行かれた。


「お前たち、どこに喧嘩に行くんだ?」


「え、いえ、喧嘩でなく、練習に・・・」喧嘩ではないが、女子にモテたくてとも言えず、変な言い訳をしようとした。


「野球部でもないのに、何の練習だ?嘘つくな!」と、なぜか野球部でない事を完全に見破られていた。なぜだかは分からない。同じ制服で、同じ坊主頭なのに・・・。


「もう、先生呼んだから。迎えに来るまで、反省していなさい」と言われ、交番の前に立たせられた。間も無く、生徒指導のおっかない先生が来て、お巡りさんに謝り、僕らを学校まで連れ帰った。


 当然、お説教が始まったが、一緒にバットを持って行った奴らが、一斉に僕の立案した計をばらし、自分たちは被害者だと訴えた。首謀者の僕は先生に一発引っ叩かれて、解放された。


 コイツらとは天下は取れないと確信した。劉備玄徳からのお誘いはまだ来ない・・・。
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