くじけ転生者な森番は、庶民殿下の友達係

郁季

文字の大きさ
上 下
23 / 27
第一章

仮面が剥がれる

しおりを挟む

 学校に、登校。やけに上機嫌な友だちと。


 ……だけであったならよかったのに。
 隣で涼しげに揺れる銀髪を横目にため息をつく。私のこの重い足取りを3トンくらい分けてやってもいいのだよ。

 「学校行きたくない」

 「俺がついてる」

 「言っとくけど嬉しくないよ」

 この国には義務教育という概念がある。もちろん教育を受ける権利の方もあるのだけど、考えてみてほしい、この国は教育が義務化してから十数年しか経っていないのだ、そしてその前は王政。
 圧倒的に義務のウエイトが重くなる。私がいた頃の日本では皆勤賞ってどうなのみたいなことも言われるようになってきていたけれど、それは無理して学校に行くのってあんまり良くないよね、という考えの元建議されたもので、つまり何が言いたいかというと、こっちの世間の考えでは、学校に行くことは紛れもなく義務である、ということで。
 元生粋の日本人としては、そこんとこの集団には同調する他ないというか。そういう圧力に対抗するほどには尖ってないつもりである。
 (まあ一番は、うんと昔にじじいと約束したからなのだけど)

 時々、じじいが、空恐ろしくなる時がある。

 「……はやく卒業したいなあ」

 「あと二年の辛抱だな」

 「ハルトは?」

 「進学したい」



 まあ、そうだろうな。

 (あーあ、学校嫌だなあ)
 砂利道を抜けると煉瓦造りの学校が見える。堂々とした佇まいは、いつ見ても時代錯誤な感じがしてしまうが、今日だけは現実感が強くて、まるで監獄のようだと妄想した。
 集合の鐘(時計のない家庭が多いため、登校時刻に鐘を鳴らす仕組み)が鳴ると同時に学校に着いた。着いてしまったなぁなんて半ば人ごとのようにぼんやり思っていると、ふいに手を握られる。誰かなんて考えるまでもない。

 (いいよ。片棒を担がせてあげる。きっと悪者の私に、味方してくれるなら)

 学校なんて箱庭だと言う人がいる。でも私たちはまだ、学校しか知らないのだ。はやくここから出てしまいたいけれど、けれど今だけは、この環境に甘んじて、そしてあなたに免じて、あげよう。

 いつものように「にっこりと」笑い返す気にはなれなくて、ただ彼の顔を見上げた。無表情のまま目尻だけ柔らかくなるから、なんだか逆に器用なのではないかと思う。どこからか花瓶の割れる音がして、誰かが足早に遠ざかっていくような足音がしていた。

 誰だか知らないが。波乱の始まりを今頃悟ったと言うのなら、これまでのあなたの人生は大層順風満帆だったのだろう。

 毒を食らわば皿までだ。逃げないでいいのかと軽く握りかえす。すると、ぱちくりと瞬いたあと、まるで鈴蘭のように少女のように顔を綻ばせるので、今度こそ誰かの悲鳴が上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

10年前の婚約破棄を取り消すことはできますか?

岡暁舟
恋愛
「フラン。私はあれから大人になった。あの時はまだ若かったから……君のことを一番に考えていなかった。もう一度やり直さないか?」 10年前、婚約破棄を突きつけて辺境送りにさせた張本人が訪ねてきました。私の答えは……そんなの初めから決まっていますね。

処理中です...