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第一章
仮面が剥がれる
しおりを挟む学校に、登校。やけに上機嫌な友だちと。
……だけであったならよかったのに。
隣で涼しげに揺れる銀髪を横目にため息をつく。私のこの重い足取りを3トンくらい分けてやってもいいのだよ。
「学校行きたくない」
「俺がついてる」
「言っとくけど嬉しくないよ」
この国には義務教育という概念がある。もちろん教育を受ける権利の方もあるのだけど、考えてみてほしい、この国は教育が義務化してから十数年しか経っていないのだ、そしてその前は王政。
圧倒的に義務のウエイトが重くなる。私がいた頃の日本では皆勤賞ってどうなのみたいなことも言われるようになってきていたけれど、それは無理して学校に行くのってあんまり良くないよね、という考えの元建議されたもので、つまり何が言いたいかというと、こっちの世間の考えでは、学校に行くことは紛れもなく義務である、ということで。
元生粋の日本人としては、そこんとこの集団には同調する他ないというか。そういう圧力に対抗するほどには尖ってないつもりである。
(まあ一番は、うんと昔にじじいと約束したからなのだけど)
時々、じじいがどこまで見えていたのか、空恐ろしくなる時がある。
「……はやく卒業したいなあ」
「あと二年の辛抱だな」
「ハルトは?」
「進学したい」
まあ、そうだろうな。
(あーあ、学校嫌だなあ)
砂利道を抜けると煉瓦造りの学校が見える。堂々とした佇まいは、いつ見ても時代錯誤な感じがしてしまうが、今日だけは現実感が強くて、まるで監獄のようだと妄想した。
集合の鐘(時計のない家庭が多いため、登校時刻に鐘を鳴らす仕組み)が鳴ると同時に学校に着いた。着いてしまったなぁなんて半ば人ごとのようにぼんやり思っていると、ふいに手を握られる。誰かなんて考えるまでもない。
(いいよ。片棒を担がせてあげる。きっと悪者の私に、味方してくれるなら)
学校なんて箱庭だと言う人がいる。でも私たちはまだ、学校しか知らないのだ。はやくここから出てしまいたいけれど、けれど今だけは、この環境に甘んじて、そしてあなたに免じて、あげよう。
いつものように「にっこりと」笑い返す気にはなれなくて、ただ彼の顔を見上げた。無表情のまま目尻だけ柔らかくなるから、なんだか逆に器用なのではないかと思う。どこからか花瓶の割れる音がして、誰かが足早に遠ざかっていくような足音がしていた。
誰だか知らないが。波乱の始まりを今頃悟ったと言うのなら、これまでのあなたの人生は大層順風満帆だったのだろう。
毒を食らわば皿までだ。逃げないでいいのかと軽く握りかえす。すると、ぱちくりと瞬いたあと、まるで鈴蘭のように少女のように顔を綻ばせるので、今度こそ誰かの悲鳴が上がった。
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