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第一章
真剣に効くと思った
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跳躍、驚愕、捕獲、抵抗、蹂躙、しかし無効。追撃すら無意味。その様はあたかも【状態異常無効】スキル保持者の如く。
ピクリともしない真顔の前に、私はなす術なく崩れ落ちた。
(おかしい。じじいでさえ呼吸困難必至のくすぐりが、通じないなんてあり得ない)
前世と今世で培った技なのに。私は挫折の衝撃のまま彼の懐から顔を上げ、そして結構後悔した。
彼は尻餅をついたまま、これでもかと眉を寄せている。眉間の皺は渓谷のように深く刻まれ、その深淵を覗きながら私は言いようのない身の危険を感じた。
(やべえ怒らせた)
本物の美形が怒ると恐ろしいなんてものではない。わななく口といい、ビキついた青筋といい、言葉にならない程お怒りなのは察して余りあるが、びびりあがりながらも私は叫んだ。
「我の奥義がっ……効かない……等と……嘘をつくなあ!!」
「きみが本気なのはわかった。どいてくれ」
どいた。
彼が声変わり前でよかった、と半ば現実逃避を試みる。これを地に這うような声で言われていたらもっと怖かっただろう。いや待てよ? 声変わりしたら最早この街では大人扱い、そんな成人(認定された)男性には流石に私も飛びかかれないのでは?
そう、全ては少年のくせにくすぐりの効かない彼が悪いのだ。
なんて夢のない野郎なのだ、と浮上した機嫌のまま彼を半目で見上げると、すぐさま絶対零度の藍色光線が降ってきたので顔を逸らした。
……視線が。視線が痛い。
聞き分けの悪い子供のように自分の爪先を見つめる私の旋毛にザックリ突き刺さる視線が痛い。
沈黙を破ったのは向こうだった。
「くすぐられるのなんて久しぶりだったよ」
聞いた事がない彼の猫撫で声に私は震え上がった。今なら笑えてるんじゃね? と喉まで出掛かったがなんとか飲み込む。『抹殺される』と直感が働いたのは言うまでもない。
「でも生憎、くすぐりは母ので耐性がついていてな」
徐に出てきた、滅多に聞かない彼の家の最重要機密に目を瞬く。
(てか、お母さんにくすぐられてたんだー……)
最重要機密とだけあって、溢される情報も他愛無いものだったけれど。
(お茶目な人っぽいんだよなあ)
などと呑気に思っていた為か、続く言葉に反応が遅れた。
「くすぐられる度笑い死にそうになっていた俺を、不憫に思っていたのだろうな。ある日、父が母にこう言ったんだ」
それはそれは良い笑顔で。
『私のかわいい子をこんなにいじめて……くすぐるのなら、勿論くすぐられる覚悟があるのだろうね?』
彼が高貴に目を細めた。僅かに微笑んでさえいるのだが、その笑みは百パーセント父王様のものなのだろう。
「もう私達は、くすぐりっこするような年じゃあないよね?」
私はひくりと笑みを浮かべた。身の危険を感じる。このままでは殺られる!
「確かにそのはずなんだがな。きみにとっては違ったみたいだな」
後ずさる暇もなく肩を掴まれる。やんわりと引き倒されたが、私は往生際悪くジタバタと手足を動かした。
「やだやだやだやめて、やめっ……くっ、ふふっ……ひはははっ……あっははははははは!!!!」
過ぎた刺激に身体がばたつく。身体は笑っているが心は疑問だらけだ。
おかしい。おかしいぞ。私は彼を笑わせようとした。そのはずだ。何故私が倒腹絶倒の憂き目にあっているのだ。全く面白くない。
止めさせようと彼の腕に手をかけるも力が入らず、私にできた抵抗といえば転がって逃げ回ることくらいで。
そうして、彼が「これで懲りたか」と言わんばかりのジト目で両手を離す頃には、私はしなしなのくったり、へろへろのぐんにゃぐにゃになっていた。
「これで懲りたか」
「私悪くな……わかった懲りた懲りたからっ……ひぃ!!」
翌日全身が筋肉痛になったのは言うまでもない。
ピクリともしない真顔の前に、私はなす術なく崩れ落ちた。
(おかしい。じじいでさえ呼吸困難必至のくすぐりが、通じないなんてあり得ない)
前世と今世で培った技なのに。私は挫折の衝撃のまま彼の懐から顔を上げ、そして結構後悔した。
彼は尻餅をついたまま、これでもかと眉を寄せている。眉間の皺は渓谷のように深く刻まれ、その深淵を覗きながら私は言いようのない身の危険を感じた。
(やべえ怒らせた)
本物の美形が怒ると恐ろしいなんてものではない。わななく口といい、ビキついた青筋といい、言葉にならない程お怒りなのは察して余りあるが、びびりあがりながらも私は叫んだ。
「我の奥義がっ……効かない……等と……嘘をつくなあ!!」
「きみが本気なのはわかった。どいてくれ」
どいた。
彼が声変わり前でよかった、と半ば現実逃避を試みる。これを地に這うような声で言われていたらもっと怖かっただろう。いや待てよ? 声変わりしたら最早この街では大人扱い、そんな成人(認定された)男性には流石に私も飛びかかれないのでは?
そう、全ては少年のくせにくすぐりの効かない彼が悪いのだ。
なんて夢のない野郎なのだ、と浮上した機嫌のまま彼を半目で見上げると、すぐさま絶対零度の藍色光線が降ってきたので顔を逸らした。
……視線が。視線が痛い。
聞き分けの悪い子供のように自分の爪先を見つめる私の旋毛にザックリ突き刺さる視線が痛い。
沈黙を破ったのは向こうだった。
「くすぐられるのなんて久しぶりだったよ」
聞いた事がない彼の猫撫で声に私は震え上がった。今なら笑えてるんじゃね? と喉まで出掛かったがなんとか飲み込む。『抹殺される』と直感が働いたのは言うまでもない。
「でも生憎、くすぐりは母ので耐性がついていてな」
徐に出てきた、滅多に聞かない彼の家の最重要機密に目を瞬く。
(てか、お母さんにくすぐられてたんだー……)
最重要機密とだけあって、溢される情報も他愛無いものだったけれど。
(お茶目な人っぽいんだよなあ)
などと呑気に思っていた為か、続く言葉に反応が遅れた。
「くすぐられる度笑い死にそうになっていた俺を、不憫に思っていたのだろうな。ある日、父が母にこう言ったんだ」
それはそれは良い笑顔で。
『私のかわいい子をこんなにいじめて……くすぐるのなら、勿論くすぐられる覚悟があるのだろうね?』
彼が高貴に目を細めた。僅かに微笑んでさえいるのだが、その笑みは百パーセント父王様のものなのだろう。
「もう私達は、くすぐりっこするような年じゃあないよね?」
私はひくりと笑みを浮かべた。身の危険を感じる。このままでは殺られる!
「確かにそのはずなんだがな。きみにとっては違ったみたいだな」
後ずさる暇もなく肩を掴まれる。やんわりと引き倒されたが、私は往生際悪くジタバタと手足を動かした。
「やだやだやだやめて、やめっ……くっ、ふふっ……ひはははっ……あっははははははは!!!!」
過ぎた刺激に身体がばたつく。身体は笑っているが心は疑問だらけだ。
おかしい。おかしいぞ。私は彼を笑わせようとした。そのはずだ。何故私が倒腹絶倒の憂き目にあっているのだ。全く面白くない。
止めさせようと彼の腕に手をかけるも力が入らず、私にできた抵抗といえば転がって逃げ回ることくらいで。
そうして、彼が「これで懲りたか」と言わんばかりのジト目で両手を離す頃には、私はしなしなのくったり、へろへろのぐんにゃぐにゃになっていた。
「これで懲りたか」
「私悪くな……わかった懲りた懲りたからっ……ひぃ!!」
翌日全身が筋肉痛になったのは言うまでもない。
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