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第一章

友達係

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 「はじめまして! ぼくはアンダーウッドだよ。君は?」
 
 がそう笑って見せたのは、彼女がこの麓の学校であまりに浮いていて、誰か友達になってやれという圧力を教師陣からひしひしと感じたからであるし、彼女の容姿から、いとやんごとなきその正体を確信していたからでもあった。
 もうじき十にもなるはずの同級生たちはみな彼女の血筋に恐れ慄き、友達はおろか話しかけることさえできない有様だ。であるからして、学校が終われば森に直帰という帰宅部の隠キャのような生活を地でいく、現状友達0の私に、白羽の矢が立てられたわけである。

 彼女は色味の違う双眸で私を認めた。その左眼に、彼女の出自を雄弁に語るものがあることがしっかり確認できてしまったが見ないふりをしておく。
 
「……俺はジークハルトという。どうぞ、よろしく頼む」

 (ああ、よろしく頼むなんて言われちゃった。あなたのお願いはたとえ社交辞令でも命令なんだって、わかってる?)
 
 兎も角、これで我々はお友達だ。
 白抜きの菱形を藍色の左眼に宿す、思っていたよりやや男勝りな少女を前にして、私は目を細めた。

 * * *

 この国の国旗は白の下地に藍色の菱形が等間隔で並ぶ。それに黒の縁取りが加わったのは、今から十年前のことだという。この十年前に、この国は所謂共和政になったのだそうだ。五百年ほど続いた絶対王政から。
 それって結構かなりすごいことなんじゃないかなーと思うのだけれど、皆さんその実感は薄いようで、今世十歳にも満たない私がいうのもおかしな話だが、『たった十年前』のこととは思えないほど治政は安定している。この辺り、誰かの思惑が働いてそうで怖い。
 そんな大変タイムリーな史実とは別に、まことしやかに語られている都市伝説とでもいうべき噂がある。十年前に王位を自ら廃した王は、旧王都から離れた地方の村で、妻と子と共に静かに暮らしているらしい。因みに十年前の政権交代時に血は流れていない。このことも、「王様スローライフ説」を助長していたと思われる。
 ……うん。そういうことなのだろう。ジークハルトさんが実在する以上。父王様にどうしてこの街を選んだのか小一時間問い詰めたい所存である。このお通夜のようなお昼休みをどうしてくれよう。クラスの子はみんな外に遊びに行った。不敬を働くのが怖いんだね、わかるよ。只あからさまに逃げて行くのも不敬なんだぜ。

 「アンダーウッド」
 「ひゃい」

 (げ、噛んだ! しかも敬語! 使わないようにしてたのに)
 さてここからどうごまかそうかと考えていると、彼女は言いたいことがあったようである。

 「これは純粋な疑問なのだが」
 「うん」
 「あなたはどうして俺に敬語を使わないんだ?」

 ……こんなこと聞く同級生、普通に嫌だな。
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