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第一章
少女、かく語りき
しおりを挟むこの国には、五百年続く森がある。
あ、今、たった五百年? って思ったでしょ。
正直、気持ちはわかる。森ってのは得てして永い時間、それこそ悠久の時なんていう修飾がつくくらいには長く続いてるものだもの。炭素年代法が教科書に載って久しい時代の人間からすると、五百年なんてアナログ記録も長いものではないよね。だけどね、アナログ記録、という名の歴史書に名前の載った旧い場所ってね、ここでは特別なんだよ。賢明な諸君なら、察してくれるね?
だから正確には、建国以来、五百年護られた、森だ。この国の初代国王が、そうだなあ、日本で言う元寇防塁みたいな役割を負わせていたって言えば、わかってもらえる? まあそんな伝説もあって、国民は皆一様に森を大事にする。ご先祖様を守ってくれた森だから。
そんな森で、あるとき大規模な山火事が起きた。五十年ぐらい前のこと。そのときには国は大きくなって、保全に予算を割けるくらいの国力はあったから、森番っていう職が王命で新設された。
その森番の中にひとり物好きな人がいて、巡回の進言をしては巡回当番を全部自分にして、森の植生を調べ上げ、新種の薬草を見つけて、いくつもの論文を国王に献上した。とにかくとっても森が好きな人だった。
でも、同僚からすれば迷惑だっただろうな。何しろ、彼は研究の報償金を山ほどもらった後、『森に』隠居して――私に言わせればあれは最早隠棲だけれど――森番の存在意義を取り上げてしまったわけだから。
そうして、森番の職がなくなって、「森番」が彼を指す言葉になって久しい頃、葉っぱ色の髪の女の子が森番に保護されたという噂が、麓の町に流れた。
まあ、私のことである。
私は、いわゆる転生者だ。
……たぶん。認めたくはないけど、どうやらそうらしい。
というのも、現実は物語のように美しくもなければ、誰かの意思や道筋が見えるわけでもないからだ。転生者といったって、証明するすべもなく。前世の記憶は生々しくあるけれど死んだつもりもなくて、気づいたらここにいた。
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何もかもが怖くて、必死で聞いても言葉はわからなくて、自分の身体は借りもので。……ずっと帰れないまま、私は森にいる。
まあそんなかんじだよ。話を聞いてくれてありがとう。
……ああ、ひとつだけ言い忘れてた。
葉っぱ色の髪なんて、この国には存在しないんだって。
意味わかんないよね?
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