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-第二章-サマーオーシャン連合国-前編
-第二章十三節 フェンリルの実力と尋問-
しおりを挟む馬車の両側面に別れて盗賊達と睨みあっていると盗賊達が痺れを切らしたのか、
右側で戦っているマサツグに襲い掛かる!しかし、マサツグは刹那を発動した
ままなので襲い掛かる盗賊がスローモーションに見える。勿論の事ながらマサツグは
刀を納刀状態でゆっくり上段に構えると飛んで来る三人の盗賊達を真正面から
刀を振り下ろす。
「御免!」
__ガイーーーン!…
「次!!」
__ゴイーーーン!!…
「もいっちょ!!」
__ゲイーーーン!!!…
夜に鈍い音が響くとマサツグに飛び掛ってきた盗賊三人がマサツグの足元に倒れる
それも頭に漫画のようなタンコブをこさえて。更に酷い事にマサツグの放った三撃
はどれもクリティカルヒット、盗賊は死んでいないにしてもその場からピクリとも
動かなくなる。それを目の当たりにした残りの盗賊がたじろぐとマサツグは刀で肩
をトントンとドレッグの様に叩くのであった。
「さぁ~て…お次はどう来るかな?」
「クッ!!コイツ!!…」
「クソッ!!
話が違うぞ!!あの馬車に居る姫さんを誘拐して終わりの簡単な仕事じゃ
なかったのか!!……」
「ば…馬鹿!!
それを言うんじゃない!!」
盗賊達がマサツグを目の前に口論をし始めると昨日も同じ様に盗賊達が言っていた
言葉が頭に残る。そして、マサツグが言い合いをしている盗賊達を尻目に考え事を
しているとシロの方からも何かが刺さる音が聞える。しかし、その音は肉を切る音
では無く、まるで木製の柱に手裏剣などの鋭利なナイフが刺さるカッと言う音が
後方より聞えてくる。
「よっ!と、ほ!っと…
それじゃあシロは捕まえられないです!」
シロが盗賊達に両手を腰に当てて胸を張る。それを見て、盗賊達もムキになった
のか、仕切りに投げナイフをシロに向かい投げるも、やはりシロはまるで遊ぶ様に
ひらりひらり回避してキャッキャッと笑う。
「クソッ!!
何なんだあのガキは!!全然当たらねぇ!!」
「落ち着け!!
無駄に痕跡を残すな!!ナイフも無限じゃないんだぞ!!」
「ガキ?……」
シロにナイフを回避され、完全に頭に血が上っているとシロが突如くるっと盗賊達
の方を向くとシロの事をガキと言った盗賊に向かい大きく足を後ろに振りかぶり、
ピタッとそのままの体勢で止まってみせる。それをチャンスと思ったのか盗賊が
ニヤリとマスク越しに笑うと投げナイフをシロ目掛けて投げつける!
「ッ!?止まったのがお前のミスだ!!
ガキィ!!」
「またガキって言いましたね?……」
__ゴウ!!!
「え?」
次の瞬間、ナイフを投げつけた盗賊の目の前に自身の身長くらい有る横向きの
竜巻が現れる。勿論の事ながら、盗賊が投げたナイフはその竜巻に巻き込まれると
そのまま投げた本人に向かい、返される。
「ギャ!……」
それと同時に竜巻が盗賊を巻き込むと盗賊ごと後方に飛んで行き、盗賊達の後ろに
あった岩に竜巻が接触すると竜巻がガリガリと岩を削る。そして、竜巻が晴れて
その巻き込まれた盗賊を見てみると盗賊は無残な姿で見つかる。服がボロボロは
当たり前で体中が鋭い刃物で切り刻まれた様にザクザク、しかし、不思議な事に
出血は全く見られず血は一滴も何処からも出てはいない。
「あ…あぁ……ハッ!!……」
それを見た残りの盗賊がゾッとし、慌ててシロの方を向くが振り向いた時にはその姿
は無く、盗賊達が慌て始める。そして、自身の足元に違和感を感じ、下を見るとそこ
に屈んだ状態で盗賊を見つめるシロの姿があった。
「うわあぁ!!!」
「遅いです!!」
盗賊が慌てて持っていたダガーで自身の足元に居たシロに斬り掛かるがシロは
しゃがんだ状態で一気に起き上がると盗賊の腹部に向けてアッパーを繰り出す。
その一撃は盗賊の腹部を抉り込む様に入るとシロの風の力で盗賊を上空に吹き
飛ばす!
「ガハッ!…」
「知らない人を馬鹿にする言葉は言っちゃ駄目なんですよ!!」
言っている事は可愛らしいのだが、そのシロから繰り出された一撃は余りに凶悪で
一瞬で二人を戦闘不能にされた盗賊達がシロに戸惑いを覚え始める。最初は小さい
子供でミスティーのお付きとでも思っていたのだろう、しかし蓋を開けてみたら
全然違う立派なモンスター。シロが二人を倒した所で盗賊が慌てて闇夜に姿を隠す
が、シロは腕をブンと草むらの方に空振りすると草むらから隠れた盗賊が姿を現す。
「ほっ!!」
__サクーン……
「なっ!…なぁっ!!」
「バレバレです!」
シロが見つけた盗賊の方に向かい歩き始める。盗賊は自分が見つかった事に大股
開きで酷く驚くがもう一人の盗賊がシロの後ろに回りこむとそのまま音をたてずに
静かに襲い掛かる!
{やはり、子供は子供!!
後ろががら空きだぜ!!……}
{よし!入った!!……}
が、シロはそれをも知っていたのかシロは後ろを見ずに向ってくる盗賊を間合い
まで引き付けるとその場で軽くその場で踏み込み、突っ込んで来た盗賊に後ろ
回し蹴りを浴びせる。その回し蹴りは盗賊の左頬を捉えるとそのまま蹴り飛ばす!
「言った筈ですよ?…バレバレです!」
盗賊を蹴飛ばした後スッとバランス良く元の体勢に戻ると最初に見つけた盗賊に
ドヤ顔をしてみせる。最後に残った盗賊はまともに動けるのが自分だけと辺りを
見渡し、たった一人のお子様にやられた盗賊達を見ると夢だと思い込み始める。
しかし、何度自身の体をつねろうとも叩こうとも覚めない事に更に恐怖する。
「う…嘘だ!?…これは…夢だ!?
あ…あぁ!……」
「……?
何を言っているのですか?
そんな事よりもうシロ達に関わらないで下さいね!!」
本能的にシロが相手の戦意喪失を感じ取るとその盗賊に背中を見せ、マサツグの
居る右側面に行こうと歩き始める。しかし、シロが背中を見せた事に盗賊が気が
付くとシロに気付かれない様にダガーを握り締めるとその場から立ち上がろうと
する。だが、次の瞬間その考えは悪手と思い知らされる。
{い…今なら!……今なら!!…}
「止めた方が良いですよ?」
「ッ!?」
盗賊に背を見せ、馬車の方に歩いていたシロが立ち止まると自身の後ろでダガーを
握り締め、奇襲を掛けようとした盗賊に話しかける。盗賊もシロに突如話し掛けら
れ、驚き動けなくなるとシロは盗賊の方にチラっと振り向くと悪い顔でニヤッと
笑い、盗賊に脅しをかける。
「折角見逃してあげたのにまだ命を粗末にするのですか?……」
「ヒッ!!!……」
シロのその悪い微笑みに盗賊が完全に恐怖を植え付けられるとその場で失禁する。
その時の盗賊にはシロの月夜に照らされて見えた影は明らかにシロより大きな狼
の他にも狼が写り、赤い目を光らせながらこちらをジッと見つめて居る様に見える。
そして、スッと前を向き、マサツグの元へと再度歩き始める。
「ば…化物……」
「ムッ!!誰が化物ですか!!
シロはシロです!!ってあれ?…」
シロが盗賊に化物呼ばわりされて振り返ると泡を吹いて倒れた盗賊が草むらで
見つける。それを見てシロの中で化物呼ばわりされた事が飛んで行き、盗賊が
見せた姿が余程珍しかったのか棒切れを拾うとその盗賊を突いて遊び始める。
一方、マサツグの方はと言うと最初五人居た盗賊の三人が伸された事で盗賊達が
慎重になり、マサツグとの睨み合いが続いていた。そして反対側で時たま派手な
音が聞えていたのが聞えなくなり、シロの心配をしたのかマサツグがシロに呼び
かけるのであった。
「シロ!そっちは大丈夫か~!」
「ッ!?は~い!!
だいじょ~ぶで~す!!」
「じゃあ、静かになったって事は向こうはもう片付けたのか……
本当にオーバースペックな子を拾ったなぁ…俺……
言ってる間に何か主従関係が逆転しそう……」
反対側から元気な声でシロの返事が返って来た事と静かになった事からシロが無事に
盗賊達を倒した事を推測していると仲間割れを起こしていた盗賊達がダガーを
構え直すとジリジリとマサツグとの距離を詰め始める。
「おっと!そろそろこっちも終わらせないとな……」
「クソ!!
向こうの連中は何をやっているんだ!!
あんなガキ一人に!!」
「向こうは全滅したと考えないとな……
他のプランも最低3~4人を想定してだしな……」
マサツグに聞えない様にぼそぼそと盗賊が喋っているとマサツグがはぁ~…っと
溜め息を吐きながら肩を叩いているとぼそぼそと喋っている盗賊達に軽い斬撃を
飛ばし威嚇する。
「うおあッ!!!」
「何ッ!!!」
「なぁ…いい加減こっちから動いていいかな?
多分このままだとそっちがジリ貧でこっちはシロが一人で遊び始めるんだが?」
二人揃って驚いている盗賊相手に余裕を見せるマサツグ。暇そうに肩を刀で叩くと
盗賊を急かす。それと同時に反対側で気絶した盗賊を棒切れで突いて遊んでいるシロ
がビクッとする。そして、マサツグに挑発された盗賊達がぶち切れたのか漸く、
マサツグに襲い掛かる!
もんだな!!」
「舐められた
ものだな!」
「はあぁ~…漸く事が動いた……さて、お前達には聞きたい事が沢山あってな!!」
マサツグが納刀状態で牽制代わりで雷撃刃を放つと盗賊が左右に別れて、マサツグの
雷撃刃を回避する。そして地面に着弾と同時に砂埃が立つと口の悪い方の盗賊が
マサツグに一直線に向ってくるとダガーを突き出す!そして、この時マサツグの
刹那はとうに切れて普通の状態に戻っていた。
「懐に入った!!」
「攻撃してくるなら……」
「何ッ!!」
マサツグが攻撃してきた盗賊の腕を掴むと動きを止める。ダガーはマサツグの顔の前
で止まり、顔まで残り数センチ。盗賊が腕を更に突き出そうが引き抜こうが盗賊の
腕は抜けず、口の悪い盗賊はマスク越しでも分かる位に戸惑いを顔に出す。
「攻撃をしてくるなら…お前が先だと考えていたがまさかこうも読みが
的中するとは……
もう少し考えて動かないと駄目だぞ?」
「クソッタレ!!…」
焦る盗賊にマサツグが砂埃に隠れて後続で来たもう一人の盗賊に向かい投げつける。
砂埃から飛び出した盗賊は視界が晴れると同時に目の前にいる仲間に動揺し、動きを
一瞬止めるも仲間を避けてマサツグに斬り掛かりに行く!しかし、その一瞬は
マサツグにとっては重要で盗賊が一瞬止まった瞬間に納刀状態の刀を上段に構えると
構わず斬り掛かりに来た盗賊の頭に上から垂直に刀で叩き落される。
__ゴゴイーーーン!!!……
「グハッ!」
「あれ、何か二発位入ったような感覚が?…
まぁ、いいか…」
__チラッ
「チッ!!クソが!!」
そうして、残る盗賊が一人になるとマサツグが残った盗賊に向って行く。盗賊も
残りが自分だけと感じたのか、分が悪いと感じたか、後退りし始めると
意を決した様にマサツグに背を向け逃げ始める。
「そんな簡単に相手に背中を見せていいものかね?」
しかし、マサツグはその盗賊の後を追う様に走り出すとあっという間に追いつく。
盗賊は追いつかれた事に驚くが次の瞬間マサツグに0距離雷撃刃を喰らってその場に
勢い良く倒れるのであった。
「……ふぅ~…ここでまさかのシロを背負って丘を走った事が生きるとは……
案外良かったのかも知れんな……しんどかったけど。」
マサツグがその倒した盗賊達を集めると縄で一まとめに縛り上げると盗賊達が持って
いる武器やアイテムを一切合財取り上げると感知を使い他に盗賊達が
居ない事を確認する。すると、馬車の反対側から盗賊を棒切れで突いて遊ぶのに
飽きたのかシロがマサツグの所に駆けて戻ってくる。
「ご主人様!」
「おぉ!シロ大丈夫だったか?
怪我は無いか?」
マサツグがシロの頭を撫でて気遣うとシロはマサツグに撫でられて嬉しそうに顔を
緩ませると元気良く手を上げて答える。マサツグも自身の目でシロが怪我をして
いないかを見ると安心するのであった。
「よしよし!ご苦労さん!後は俺が後始末するからシロはもう休んでくれ。
俺はまだやる事があるから…」
「……何ですか?シロもお手伝いしますよ?」
「あ~っと…こっからは大人の世界だから…な?
良い子は寝てなさい。」
マサツグがシロに休む様に伝えるとシロは疑問を持ちながらも馬車に戻ると
ミスティーの傍で眠り始める。そしてマサツグはと言うと自身が処理した盗賊を
引き摺りながらシロの戦った場所へと移動する。その際、マサツグが縛った盗賊の
数人が気絶から復帰するが縛られている事とアイテム、武器が無い事に気が付くと
抵抗する事無く、その場で黙って諦める。そして、目の前にはシロが倒した盗賊と
気絶させた盗賊が倒れていた。
「これはひどい…」
マサツグがどこかで聞いた事有る棒読みツールの様に喋り、惨状を見るとマサツグに
縛られた盗賊達も言葉を失う。何故ならそこに居たのは泡を吹き失禁し倒れる盗賊や
岩に張り付く様に切り刻まれた盗賊、腹部から直角に折れ曲がった盗賊がそこに倒れ
ていた。幸いにもR指定が掛からない位の描写と言うか惨いのは惨いがまだ黒い影で
隠されない位に収まっていた。
「シロちゃん…偉く派手に暴れたな……
これ後始末が大変だぞ……」
マサツグがシロが倒した盗賊達でまだ息の有る者を捕まえては先ほどと同じ様に縄で
縛り上げ、先に縛り上げた盗賊達と一固めにする。そして縛り上げた盗賊達に
マサツグがしゃがみ込むと尋問を始める。
「さぁて……もはやお約束の尋問タイムだよ~っと……
単刀直入に聞くぞ?お前達の雇い主は誰だ?目的は?……」
「………」
マサツグが盗賊に誰の指示で動き、その理由を尋ねるが勿論の事ながら盗賊達は黙秘
をし始める。只黙りマサツグを真っ直ぐに睨みつけるとマサツグはうな垂れる様に首
をカクンと落とすと渋々アイテムポーチから有るアイテムを取り出す。
「そらそうだよな……
そら簡単に口を割る訳ないか……
え~っと…有った。」
「何をしても無駄だ!俺達は何も喋らんぞ!!」
「別にいいよ?
ただあんた達の意思とか関係無しに聞くだけだから…」
__プスッ
マサツグがアイテムポーチから取り出したアイテムを一人の盗賊に使うと突如、その
アイテムを使われた盗賊が苦しみ始める。マサツグが何を使われたのか分からない
盗賊達が慌て始めるのを見るとマサツグは盗賊の一人に使ったアイテムを盗賊達の目
の前に置く。
「ッ!!な…何を!?……グッ!…
グアアアアアアアアアア!!!!」
「な…ど、如何したんだ!?一体何を!!」
「これ、何か知ってるか?
とある商人の店で扱われてる自白薬ってやつだ。
しかも、扱いを間違えると正気に戻れなくなるらしい…」
盗賊達の目の前には小さな小瓶が置かれ、その小瓶のラベルには毒薬を表示する
ようなどくろマークが書かれある。それを見て他の盗賊達がどよめき始めると
マサツグはその小瓶を手に取ると縛った盗賊達の周りを歩き始める。それも不気味
にいろは歌を歌いながら一人一人を指差しながらニヤッと笑う。
「い~ろ~は~に~ほ~へ~と……」
「ク…クソ!!やるなら俺にやれ!!
他の奴には手を出すな!!」
「か~み~さ~ま~の~い~う~と~お~り!!」
自身を犠牲にして他の盗賊を庇おうとする盗賊がマサツグに懇願するがマサツグは
その言葉を無視すると楽しげに悪そうにいろは歌を歌っていくそして、マサツグが
歌い終え、マサツグの指差す方に居たのはシロにトラウマを植え付けられた盗賊で
あった。その盗賊も完全に精神崩壊を起こし、まともに考える力を失っていた。
「あ…あぁ!…や…やめてくれ!!……」
「おい!俺にやれって言ってるだろ!!
無視すんじゃねぇ!!」
「おいおい…お前達に決定権は無いんだぜ?これは尋問であって、
罰ゲームじゃないんだぜ?」
マサツグが盗賊にそう答えるとマサツグは小瓶から薬を注射器に似た容器で取り出す
とその自身が決めた盗賊に不敵な笑みを浮かべてジリジリと歩み寄る。そして、
指定された盗賊はシロの時とは違う錯乱状態に入るとひたすらにマサツグに許しを
請い始める。
「た!…頼む!!……助けてくれ!!
まだ…まだ!…死にたくない!!……」
「死にはしないよ~
ただ、廃人になるかも知れないだけだよ~」
「う…うわぁ!!…ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そうしてマサツグが錯乱する盗賊の前に立つとニヤリと笑い薬を投与しようとする。
その姿光景はもはやマッドサイエンティストとモルモットにされた被験者。そんな
被験者の悲鳴に限界が先ほどまで自分のを犠牲にしようとしていた盗賊が遂に口を
割る。
「わ…わかった!
話す!話すから待て!!」
「……ほぅ…で、何を話すって?」
マサツグの狂気に満ちた行動に盗賊達の心が折れるとガックリと肩と頭を落とすと
雇い主と理由を話し始める。その会話には聞き覚えの有る名前が出てくると同時に
マサツグの中の疑問が一つの真実になる。
「…ゲステウス…ゲステウスだよ!
何でもアンタが守っている姫様を捕まえてきたら報酬を弾むって言ってたんだ!
理由については深くは聞いていないから分からんが……あいつの依頼を受ける際に
アイツの屋敷で依頼内容を聞いたが……アイツは異常だ!!……
何を考えているのか分からない!!
俺達は只のやとわれの盗賊だ!!」
「ほぅ…どう異常なのかな?」
「それはお前等自身の目で見たらいい…人目でアイツの異常さが分かる筈だ!…」
盗賊達の必死の説明に嘘をついている様子は見えない、マサツグがそう感じると
一人黙々と盗賊達を前に考え始める。
{……これで大体は把握出来た……
まず、ミスティーがポップリングスのお姫様って事……
そして、ゲステウスってのがミスティーを人質に何かを企んでいる……
今までの偽装に夜襲に奇襲はそれだけ必死って事で、たまたま俺が護衛の任務を
受ける事になって……と言うかじゃあ、俺が指名手配されたのは関係者と勘違い
されたって事か?…だとしたら傍迷惑この上ないな!!……}
「……おい…おい!…おい!!
知っている事は全て話したんだ!!
その薬を早く引っ込めてくれ!!
ソイツが薬を投与する前に駄目になっちまう!!」」
マサツグが考え事をしていると盗賊がマサツグの事を大声で呼ぶ。その事にマサツグ
が五月蝿いと思いながらも盗賊の方を見ると盗賊達はマサツグが持っている薬を
仕舞う様に訴え始める。しかし、マサツグは解放する気を見せるどころか溜め息一つ
吐くと手にしていた薬の入った容器をその錯乱していた盗賊に投与する。
__プスッ
「う…うぎゃああああああああ!!!」
「なッ!……」
マサツグの行動に盗賊達が絶句し、マサツグを見ているとマサツグは盗賊達に見える
様に小瓶を見せると小瓶に貼ってあるラベルを剥がしてみせる。すると、剥がした
ラベルの下から更にラベルが貼られていた。そして、そこに書かれていた言葉は…
「……かな~り沁みる傷薬(塗布薬)?」
「自白薬なんて代物を一介の冒険者が持っている訳無いじゃないですか~!ヤダ~!」
マサツグが持っていた薬が自白薬ではないと分かり、更に薬の中身が只の傷薬と分かる
と盗賊達がポカンとする。そして、ポカンとする盗賊達を尻目にマサツグが煽る様に
盗賊達を馬鹿にすると盗賊達が一斉にマサツグに怒り出す。
「て…テメ!…嵌めやがったな!!」
「勝手に引っかかったのはお前らだろ?
いや~それにしても傷薬一つで盗賊達を騙す事が出来た俺ってなかなかの演技派だろ?」
「ふざけやがって!!
さっさとこの縄を解け!!クソが!!!」
必死にもがく盗賊達にマサツグが後ろを向くと用意したもう一つのアイテムを取り出す。
それは騙す用の傷薬と一緒に出して置いた物であった。ちなみに最初に投与した盗賊が
呻き始めたのはマサツグが薬を注入するフリをして傷口に薬を吹き付けた為、それも
適量以上に……そうして盗賊達がひたすらにもがいているとマサツグがもう一つの
アイテムを盗賊達に振りかける。
「うわ!
ペッ!ペッ!ペッ!…今度は何だ!?」
「お前たちが持っていた確か…ネムリテングダケの粉末だっけ?
それをぶっかけてだけだ。お前らにはそのままの状態で暫くの間寝てて貰うぞ。」
「ふ!ざけ…る…な…
zzz……」
盗賊達にネムリテングダケの粉末を振り掛けると先ほどまで騒いでいた盗賊達が一瞬で
落ち着き、眠りに付く。その粉末の即効性にマサツグが驚いているといつの間にか馬車
には逃げた筈の御者が戻り、マサツグに隠れていた時同様に身振り手振りで合図を送る
とマサツグに馬車に乗るように伝える。しかし、マサツグには御者のその行動が分から
ず直接御者に尋ねてみる。
「あ~っと…何を?」
「旦那!早く乗ってください!!
折角寝かしつけたのにまた起きて襲われたら面倒ですぞ!!」
「…と言うかいつの間にか馬車に戻っていたなアンタ…」
「それはそうです!!
こいつが無ければ商売上がったりですからな!!」
{商魂逞しいと言うかなんと言うか……こんな話を聞いていると
クランベルズを思い出すな……}
マサツグが御者に急かされ馬車に乗ると馬車はまたポップリングスに向けて
進み出す。そうして二日目の盗賊達の奇襲もやり過ごし、三日目の朝を迎える。
三日目、馬車を夜間も走らせた為、昼頃に馬車を引く馬を休ませる。
幾ら盗賊達に襲われたとは言え、休まずに走らせて事により馬がへばり走るどころか
歩く事すら出来なくなる。幸いにも近くに湖があった為、暫く馬とマサツグ達を
休ませる為に休息を取っている。シロが徐にマサツグの前に立つと盗賊にトラウマを
与えた、悪い笑顔をしてみせる。
「………?
どうしたんだ?急にそんな悪い顔をして?」
「……あれ?」
「シロちゃん!!その技は相手が自分より強いと思わせないと聞かないし、
それにマサツグさんはシロちゃんに一切恐怖心は持っていないよ!!」
「へ?…」
ミスティーに教えて貰った威嚇方法がどうやら昨日の盗賊に通じたのを手応えに
マサツグに試した様だが見事に空振り。マサツグはミスティーの説明を聞くと
後ろからシロを捕まえてジャイアントスイングをする。しかし、シロは構って
貰っていると勘違いしてかキャッキャッと喜ぶのであった。そうして、夕方頃、
漸く、マサツグ達はポップリングスに辿り着くもポップリングスに入るゲート
前で、ポップリングスの衛兵に検閲されるのであった。
「そこの馬車!!止まれ!!今ポップリングスは如何なる異人も立ち入りを
禁止している!!それでも用があるならばわれわれが用件を聞こう!!」
馬車を止め、御者に用件を尋ねる衛兵に他の衛兵が馬車の中にいる人や物を
見に馬車に乗り込む。そして、馬車にミスティーが乗っている事が分かると
馬車の中で騒ぎが巻き起こるのであった。
「ミ…ミスティア姫!!
これは一体!!
貴様!これはどういうことだ!!」
衛兵が一緒に乗っていたマサツグ達に槍を突きつけるとマサツグは手を挙げ、
抵抗する意思を見せない。それを真似する様にシロもチラッとマサツグを見ると
同じ様に万歳をするのであった。しかし、ミスティーはその衛兵の行動が
許せなかったのかスッと立ち上がると衛兵達を一喝する。
「おやめなさい!!
この方は私の命の恩人です!
この方への無礼はこの「ミスティアナ・レオ・レヴナント」が許しません!!」
そうして、ミスティーが衛兵に命令するもこの後、ミスティーとシロを除いて
マサツグだけの波乱がまだ有る事をマサツグ達は全く知らないのであった。
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神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
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