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-第ニ章-サマーオーシャン連合国-獣人の国編-

-第二章二十一節 悪い知らせと宿屋の一悶着と夜襲-

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ギルドにてミスティーの護衛依頼を受けたマサツグが色々とツッコミどころを

覚えていると、現実時間の方ではもう直ぐ夜になろうとしていた…危険な丘を

登って洞窟に行き、ゴブリンとワイバーンを相手にし…更に三日間滞在して

装備を調達。いざ町に戻って来たら誘拐犯と間違われナンパ野郎を相手にし、

指名手配と…一日のゲームでこれだけの出来事が有ったのかと改めてマサツグが

考えていると、ルンは先程の依頼の為に馬車を手配すると言っていたのだが…


「……えっ!?…あ、はい…そうなんですか…分かりました…」


__コッ…コッ…コッ…コッ…


「…はあぁ~……」


「……ッ?…如何したんだ?…」


ルンは何やらカウンターの奥で誰かと話している様なのだが、何かを伝えられた

のかその話を聞いた途端にショックを受けた様な声を挙げ出す。そして明らかに

テンションが下がった様子の声が続けて聞こえて来てはその話の主に返事をし、

カウンターの奥からトボトボと…溜息を吐きながらマサツグ達の方に戻って来る

と、その様子を見たマサツグは何が有ったのか?と困惑気味に尋ね出す。すると

その問い掛けにルンは困惑した表情でマサツグの方を振り向くと、その先程の

話の内容を話し始める。


「ッ!…い、いえ…それが…馬車乗り場の…

それもハーフリングス行きの馬車だけ車輪が外されたり壊されたりと…

何か事件が有ったらしくて…」


「え!?…」


「何でも突然の事らしくて…

馬車乗り場の人達も大急ぎで直しているみたいですが…

今日は乗れないと……明日なら行けるかもと言ってました…」


「……マジか?…」


ルンが話し始めた話の内容…それは今まさに手配しようとしていた馬車の話で、

ハーフリングス行きの馬車だけがピンポイントで壊され…現在復旧見合わせの

運休になっていると言う報告を受けたと話し出したのである。そしてそれを

聞いたマサツグが戸惑った反応を見せて居ると、その隣ではミスティーが何やら

覚えのある様子でショックを受け…ルンはルンで向こうも戸惑って居る事を

話しては復旧に時間が掛かると…その復旧の目途が明日になる事を伝えて、

手配が出来ないとマサツグに説明する。そんな話を聞いたマサツグは今日は

厄日かと言った様子で戸惑い一言呟くのだが、それよりもミスティーの様子が

何やらおかしい事に気が付く。


「………。」


__プルプルプルプル!…


「……ッ?…ミスティーさん?…如何かしましたか?…」


__ッ!?…バッ!!…ッ!?!?…


この時のミスティーの表情は何故か妙に青褪めており、小刻みに震えては何処か

目の焦点が合って居ない…まるで誰かに命を狙われているとでも言った様な

怯え方を見せていた。そんな明らかに普通じゃない様子を見せるミスティーに

マサツグは恐る恐る声を掛けるのだが、声を掛けた途端にミスティーはまるで

何処かのお嬢様の様に軽く跳ねて驚き!…ミスティーの驚く様子にマサツグだけ

でなくさすがのシロも驚いた様子を見せると、ミスティーは酷く動揺した様子で

マサツグに返事をする!…


「ふぇ!?…な、何か!?…」


「ッ!?…い、いやぁ…何か様子がおかしかったので声を掛けたんですが…

…大丈夫ですか?……顔色も悪い様に感じるのですが?…」


「だ、大丈夫です!!…問題…ありません……」


「いやいやいやいや…」


ミスティーが跳ねるとギルド内の冒険者達は何事か?と言った様子で視線を

マサツグ達の方に向け!…明らかに大丈夫そうじゃない様子にマサツグは

驚いた表情のまま丁寧にミスティーを心配すると、ミスティーはやはり動揺し

切っている様子で返事をする。その際ミスティーは反省するようマサツグに

俯いて見せるのだが、その視線は常に辺りを…人の目を気にする様に動かして

おり、マサツグもさすがに普通じゃない事に気が付くと片手を自身の顔の前に

持って来てはパタパタとさせ、ツッコミを口にしながらミスティーの様子に

考え始める。


{……ナンパ集団に絡まれてる時から何か妙に変な気は感じて居たけど…

一体何なんだ?…名前を書く際に見せたあの困惑……

襲われた際の説明も何処と無くたどたどしかった……

まぁ犯罪者とかそう言う関連のでは無さそうだし…

匿名希望に関しても別に可笑しい事じゃあない…

何ならクエストの依頼主の名前って余程切羽詰まったモンじゃ

無ければ大抵ニックネームだし……

もっと酷い物になると何か勘違いしている名前も有る!…

…これってまた何か面倒な事に足を突っ込んじゃったのかな?…}


「うぅ~ん……」


「……ッ?…ご主人様?…」


マサツグは最初ミスティーと出会った時の事から思い出し始めると色々な

疑問を覚え出す…ミスティーの物腰…依頼書作成時…自身の経緯を説明する際…

いま改めて考え出すとなぜ?疑問を感じなかったのだろうと思える位にそこそこ

疑問が出て来る!…確かに本日ゲームを始めてから結構な時間が経っており…

頭が思う様に働かなくなって来て居るのだが…とにかく犯罪と言った物は絡んで

居ないと自身の考えに基づき、ミスティーの素性について色々考察すると一人

顎に手を添えては唸り出す。そんなマサツグの様子にシロも不思議そうな表情を

見せては顔を覗き込み呼ぶのだが、マサツグは反応せず…とにかく変な雰囲気に

なりつつある現状にルンが戸惑いを覚えると、取り敢えず話が有ると言って

マサツグに声を掛ける。


「…えぇ~っと……とにかく少し良いでしょうか?…」


「……ッ!…え?…何?…」


「……ふぅ…とにかく今の現状如何しようも有りませんので

今日はもう休息を取って貰って…また後日ギルドに来て下さい!

明日になれば馬車が使えるかどうかの連絡も来ますし…

最悪ギルドの馬車を出しますので!」


「え?…あっ…あぁ…分かった…」


このままギルドに居ても仕方が無いと考えたのか?…それともまだ業務が

残っているのか?…ルンがマサツグに声を掛けるとマサツグは反応に遅れた

様子で返事をし、その様子にルンは若干呆れた表情で一息吐くと今日はもう

休む様に提案する。そして後日ギルドに来るよう話すとその時にならないと

馬車の件は分からないと言い…最終手段を取る様な事を言ってマサツグを

無理やり納得させようとすると、その勢いにマサツグは戸惑う。別にルンは

追い返すのに躍起になっている訳では無いのだが、この空気を如何にかしたい!と

言った様子で…ただマサツグはその勢いに圧倒されルンに同意をすると、

ギルドの出入り口の方へ振り返りシロの落とした麻袋を拾い、肩車している

シロに手渡すとギルドを後にしようとする。


__コッコッ…パサァ…パンッ!…パンッ!…


「ほれシロ?…折角買ったのに落とすんじゃないぞ?」


「ッ!…は、はいです?…」


__コッ…コッ…コッ…コッ……ッ!!…


さて、これで話は一旦終わり後日に向けられる筈なのだが…ここである事件が

発生する!それはマサツグがシロを肩車したままギルドを後にしようとした

瞬間!…ミスティーはハッ!と何か気付いた表情を見せると、途端にマサツグの

後を追い掛け出し!…待つよう声を掛けては咄嗟に腕へしがみ付き、切羽詰まった

表情で言った一言から始まるのであった!


「ま!…待ってください!!!…」


__バッ!!…タッタッタッタッタ!!…ガッシ!!むにゅ!…


「ッ!?…え!?…」


「い!……い!!……一緒の宿に止めて下さい!!…」


「ッ!?!?…」


マサツグの身に起きた事件!…それはミスティーが慌てた様子で言った一緒の

宿屋に泊めて欲しいと言うお願いであった!…ただでさえ水着で生地が薄いと

言うのにやわっこい物を押し付けられ!…動揺を隠し切れない状態でそんな事を

言われたモノだから、マサツグはこの状況に対し否応無しにどちらの意味で!?と

錯乱してしまう程に混乱する!…そしてシロを肩車したままその場で硬直して

しまうと、ギルド内もその発言で一気に騒めき始め!…その問い掛けにシロは

キョトンとした表情を見せると、マサツグの代わりに言った様子で返事をする。


「……ッ?…別に良いですよぉ?…

ね?…ご主人様!!!」


「ッ!?!?!?…ちょ!!…シロさん!?!?…」


__ガタガタガタガタ!!!………


まさかのOKを出した事にギルド内は音も無く騒然!…誰も声を発してはいない

ものの目と表情は雄弁に語っており、マサツグもまさかのOK…それも本人の

同意なく行われた事に驚いて居ると、ミスティーは助けを求めるようマサツグへ

視線を送り続ける。そしてそんな視線を感じてマサツグも居た堪れなくなり

始めるのだが、一度落ち着くよう軽く深呼吸をするとその理由について尋ね出す。


「……すぅ~…はぁ~……で、理由は?…

はぐれる前に予約していた宿屋は?…」


「…それが何処を予約していたか聞いて居なくて……

完全に友人達に任せ切って居たので分からず…」


「……お金の方は?…」


「それも……ッ~~~!…

も、申し訳ありません!…ですがこんな事を頼めるのは他に居なくて!…

それにまた襲われるのかと思うと!……あっ!…お金に関しては

国に戻れば直ぐに!!…倍にして返しますので!!…ですから!!…」


マサツグが深呼吸で少し落ち着きを取り戻すと、そのミスティーが友人達と

逸れる前に予約していた宿屋等について尋ねるのだが、ミスティーは首を

左右に振って分からないと答え…自分は全くこの旅行に関して何もして

いない事を頬を赤らめながら困惑の表情で伝えると、マサツグは察しながら

続けて資金について尋ね出す。しかし聞いた所で当然察した通りの答えが

帰って来るだけでミスティーは俯き申し訳なさそうにし…頼る相手が今の所

マサツグしかいない事を告げると、また襲われるかもしれないと言った不安を

語る。そしてまた顔を真っ青にしながら怯え出し!…ハッ!と思い出した様に

お金の事について弁明し出すと、その様子が不憫に見え…マサツグは顔に

手を当て溜息を吐くと、その手をミスティーの頭の上に置いてはシロの様に

扱い始める。


「……はあぁ~……」


「ッ!?…ッ~~~~~!!!…」


__…スゥ…ポン!…なでなでなでなで…


「ッ!?……え?…」


目の前でマサツグに大きく溜息を吐かれた事でミスティーは俯くと今にも

泣き出しそうになるのだが、突如自身の頭の上に手を置かれた事で

ビクッと反応し…その突然の行動に吃驚した様子でミスティーが顔を上げると、

そこには自身の頭を撫でるマサツグの姿が目に映る。その際マサツグは

苦笑いしているもののただミスティーを撫で続け…徐に撫で始められた事に

ミスティーは目に涙を若干溜めた状態で戸惑い出すのだが、マサツグは

苦笑いしながらミスティーに話し掛けると、宿代を出すと言い始める。


「分かった分かった!……何と無くそんな気はしてたが…

幸いお金の方は何とかなってるし…問題無い!…

ただグレードの方は保証しないからそのつもりで!…

それでいいなら付いて来な?…」


「ッ~~!!!!…はぁ゛い!!…ありがどうございまず!!!…」


__ガバァ!!…


「うおぉ!?……ふぅ…手の掛かる娘が増えた気分だ…」


マサツグは一応泣き出しそうなミスティーを見て宥めようと頭を撫で始めた

らしく、ただ安心させる様ミスティーに大丈夫と言った様子で声を掛ける

のだが、ミスティーは嬉しいのか感極まって涙を流し始める!感激した

様子で涙を流すとお礼の言葉を口にし、感情のままにマサツグへ縋り付くよう

抱き着き始めると、マサツグも突如抱き着かれた事に驚いた反応を見せる。

そして余程怖くて不安だったのか泣きじゃくるミスティーを見て、まるで

もう一人娘が出来た様に感じ、マサツグがとにかくミスティーが落ち着く

までそのままで居ると、辺りからは何故か妙に嫉妬に満ちた視線を感じる

のであった。


__……チッ!!!…


「ッ!?…な、何だ!?…この嫌な視線は!?……」


__ニュッ!……


「よしよし!…いい子!…いい子なのです!…」


まるで某学園アニメの底辺クラスの様な嫉妬の視線にマサツグは戸惑いつつ…

ミスティーが落ち着くのを待っていると、落ち着きを取り戻したのはゲーム

時間にして夕暮れ時の事…その間シロはまるでミスティーのお姉さんにでも

なった様にマサツグと一緒に頭を撫で続け…優しい言葉を掛ける等、シロの

優しい一面を見てマサツグは一人ホッコリするのであった。丘を降りたのが

約10時…そこから町に戻って約11時、そこから巡り巡ってこの時間と…

そろそろいい時間となった所でマサツグ達は改めてギルドを後にすると、

ミスティーを連れてシロを肩車し!…今晩泊る宿屋を探して町の中を

歩き出すのであった。


__コッ…コッ…コッ…コッ…


「……本当に申し訳ありません…宿の手配もお願いしてしまって…」


「いやいや!…確かに話を聞いた時は驚いたけど…

仕方ない仕方ない!…

それに可愛い女の子を野宿させる訳には行かないからね?…」


「ッ!…は…はい…ありがとうございます……」


宿屋を探す道すがら…ミスティーが改めてマサツグに申し訳なさそうに

謝り出すと、マサツグは笑って大丈夫と言い…ミスティーと逸れないよう

手を繋ぎながら歩いて居ると、マサツグはらしくない気障な台詞を口にする。

本人は至って弱みに付け込んで落とそうと言った事は全く考えて居らず、

ただ笑って貰おうとばかりに口にしたのだが…意外と受けが良かったのか

ミスティーは戸惑いながらも返事をし、その言葉が嬉しかったのか顔を

赤くする。そうしてマサツグはそんなミスティーの様子に気付かないまま

ギルドからそう離れていない一軒の宿屋に辿り着くとチェックインをする

のだが…


「いらっしゃいませ!…ご宿泊で?」


「はい!…二部屋お願いします。」


「…ッ?…分かりました。ではご記入を……

所でご家族様では無いので?…そちらの女性が奥さんで…

肩車している娘さんがそのお子様かとお見受けしたのですが?…

三人家族用の部屋もご用意出来ますが?…」


「ッ!?…い、いやいや……ただの冒険者と依頼主です!…」


「ッ!…これは失礼を…

……はい結構です…では少々お待ちを…」


宿屋に辿り着いて店主に話し掛けると三人分の部屋…シロとミスティーで

一部屋、マサツグは一人部屋と二部屋をお願いするのだが、それを聞いた

店主は不思議そうな表情をして了承すると、台帳に名前を記入するよう

お願いする。そして同時にマサツグ達を旅行に来た家族と誤解した様子で、

三人家族用の大きな部屋も有ると店主なりに配慮した様子でマサツグ達に

提案をするのだが…それを聞いたマサツグは突然の誤解に戸惑い店主に

事情を説明すると納得して貰うのだが、そのマサツグの隣ではミスティーが

顔を真っ赤にして俯き、今にも消えたいと言った様子で小さく縮こまり

モジモジとする。


__シュ~~~~!!!……モジモジ…モジモジ…


「……いやぁ~…驚かされた…って、如何したミスティー?…」


「ぴゃっ!?…い、いえ…別に!…何でも有りません……」


「……ッ?…」


頭から湯気が出る!…リーナといいミスティーといい…この世界の住人は

極度に恥ずかしがると頭から湯気が出るのかとツッコみたくなるところ

なのだが、マサツグが戸惑った様子で振り返るとその様子を目にして何が

有ったのかとミスティーに尋ねるのだが、ミスティーはただ恥ずかしそうに

顔を赤くしては視線を逸らし何でも無いと言い…そんな様子にマサツグが

戸惑って居ると肩の上ではシロが不服そうにし、マサツグの頭にしがみ付く

よう腕を回しては膨れっ面になっているのであった。


__ムッスゥ~~~!!!…ガッシィィン!!……


「……シロさん?…頭が締まってるのですが?……」


「………。」


「……えぇ~…」


膨れてしがみ付くシロにマサツグは声を掛けるのだが、シロは無反応で

膨れっ面のまま…マサツグがそんな様子に困惑して居るとミスティーは

依然として赤くなっており、ある意味カオス状態のこの状況に戸惑い

続ける。そうして立ち尽くして居る事数分後…宿屋の店主がマサツグ達の

前に姿を現すと、用意した部屋の鍵を持って準備が出来たと伝えに来る。


__コッ…コッ…コッ…コッ…


「……お待たせしました…まずはこちらが部屋の鍵です…

それではお部屋にご案内を……ッ?…いかが為さいましたか?…」


「え?…あぁ…いや…何でも……お願いします!…」


宿屋の店主はマサツグ達を用意した部屋へと案内しようとするのだが、

戻って来て見れば肩車の幼子は膨れっ面…奥さんと誤解した女性は

顔を真っ赤にしており、戻って来るまでの短時間で一体何があった?と

疑問を感じると、近w区の表情でマサツグに訳を聞き始める。そして

そんな問い掛けに対してマサツグも分かって居ないのか戸惑った表情を

見せ、ただ休みたいと言った様子で店主の質問を誤魔化すと、店主から

部屋の鍵を預かっては部屋まで案内される。


__コッ…コッ…コッ…コッ…


「…着きました…この部屋とあの部屋です。

両方とも部屋のベッドはダブルになってますがご心配なく…

元々料金は二部屋分とさせて居る為、料金の追加等はございません。

どうぞごゆっくり…」


「……はあぁ~…じゃ、ミスティーとはそっちの部屋に…」


__ッ!!…ガッシ!!………


店主に案内されて部屋の場所を教えて貰うと、店主は部屋のベッドの数に

関して追加の料金は掛からないと説明し…改めてゆっくり休むよう声を

掛けると、一礼してその場を後にし始める。色々有ったもののマサツグが

軽く息を吐くと自分が一人…シロとハティをもう一つの部屋に泊るよう

声を掛けるのだが、それを聞いた途端にシロはマサツグの頭を更にホールド

し始め、マサツグもシロを肩から降ろそうとするのだが抵抗を受けては

降ろせずにいた。その際マサツグはシロの腋に手を入れては降ろそうと

するのだが、何かが引っ掛かった様に動かず…シロの腋に手を入れたままの

状態で硬直し始めるとシロに声を掛け始める。


「……シロさん?…悪いけど今日はミスティーと一緒に寝てくれ…

もしもの事が有った時!…一番に動けるのはシロだけだから…な?…」


「………。」


「……はあぁ~…

朝起きたら好きなだけ攀じ登って良いから…」


「……約束ですよ?…」


シロにミスティーと一緒に寝るよう声を掛けると微かにシロはピクっと反応するが

降りようとはせず…ただ無言でマサツグの頭にしがみ付いていると、その様子に

マサツグが溜息を吐く…そうしてマサツグが折れた様にシロに約束事を口にすると、

シロはそれで良いのか渋々了承し…自分でマサツグの肩から降り始めるとまだ

若干渋い顔をしたまま、ミスティーの方へと歩き出す。その際ミスティーはシロの

様子にしているのか困惑の表情を見せ、マサツグはマサツグでそんなミスティーの

表情を見て申し訳なさそうにすると、ふとある事を思い付く。


「……はぁ~…好いていてくれる事は有り難いんだが…

好き過ぎるのも考え……ッ!…そうだ!…ミスティー!」


「ッ!…は、はい!…」


「これを君に!…」


__ガサガサ…バサァ!…


「ッ!……これは?…」


マサツグが思い付いた様子でミスティーを呼び寄せると、呼ばれたミスティーは

戸惑いつつもマサツグの方へ駆け寄り…マサツグはマサツグで自身のアイテム

ポーチから自身の着替えを取り出すと、その着替えをミスティーに手渡す。突如

マサツグの着替えを手渡された事にミスティーは戸惑いの表情を見せては恐る恐る

着替えを受け取るのだが、マサツグはミスティーに笑って見せるとその着替えを

渡した理由について説明し出す。


「いや…ミスティーずっと水着のままだからさ?…寒いだろうと思って!…

と言っても俺のお下がりで悪いけど…無いよりはマシかなって?…

……って、ついタメ口で話しちゃったな!…ゴメン…」


「ッ!…い、いえ!…寧ろのその方が!!……それと服…

ありがとうございます!…」


__タッタッタッタ!……ガチャッ!…キイィィィ…バタンッ…カチャンッ!…



マサツグはいつまでも水着のままだと風邪をひくと思ったのかそれで自身の

着替えを渡したと説明し、自身のお下がりで悪いと言っては苦笑いしながら

頭を掻き…更にため口で話して居る事にふと気付くと、ミスティーに謝る。

一応依頼主と言う事からタメ口には気を付けて居たのだが、ミスティーは

ハッ!とした様子で反応するとタメ口で構わないと慌ててマサツグに話し、

着替えを手に顔を半分隠すよう頬を赤くし始めると、着替えのお礼を口にする。

そうしてミスティーは着替えを手にシロと一緒に用意された部屋へと入って行き、

ミスティーとシロが部屋に入って居たのを見届けると、マサツグももう一つの

部屋へと入って行く。


「…はあぁ~……やれやれ…宿に泊まるのも一苦労!…

俺も今日は終わりにしよう…」


__ガチャッ!……キイィィィ…バタンッ…コッ…コッ…コッ…コッ…バフゥ!…


「はあぁぁ!!…メッケメケェ~!…

疲れたよもぉん!!……今日はこれで……あっ!…そうだ…」


自身の泊る部屋に入ると軽く腕を動かしながら大剣や刀を外し…ベッド近くの

壁にその筈した武器を立て掛けると、ベッドの前に移動しては力が抜けた様に

崩れる。そしてただ疲れたと口にしてはいつもの様に溶けた様子で横になり、

徐にログアウトの準備に入り始めるのだが…ふと思い出した様にアイテム

ポーチの画面を開き出すと、ポーチ内のアイテムを整理し始める。この時何故

アイテムポーチの整理をしようと思ったのか、自分でも不思議なのだが…

約数十分位だろうか?…辺りが静かに…更にマサツグもアイテムポーチ内の

アイテムを整頓した事で満足し、やっとログアウトしようと思った矢先!…

突如異音を耳にする。


「……さて、これで良し!……今度こそログアウトぉ~♪…」


__カチャカチャッ…


「……ん?…何この音?……部屋の外?………」


__カチャカチャッ…カチャカチャッ…


マサツグが聞いた異音は如何やら部屋の外から聞こえて来る!…誰かが鍵穴を

弄っている様な?…そんなカチャカチャと言う異音にマサツグは違和感を

覚えると、ベッドから体を起こし…耳を澄ませてもう一度その音の正体を

確かめ始めるが、やはり鍵穴を弄っている様な音にしか聞こえず…その音に

マサツグが何だか嫌な予感を感じ始めると、徐に感知サーチを発動する。


「……鍵穴を弄ってる?……ッ!…感知サーチ!…」


__ピピピ!…ヴウン!!ピコ~ン!!…


「ッ!?…ちょ!!…町の中は安全じゃなかったのかよ!?…」


__ガッ!…ダッ!!…バァン!!…


マサツグが感知サーチを発動した途端ミニマップ上に表示されたのは!…

見間違える筈も無い赤い点!…紛れもない敵性反応のアイコンであった!…

オマケにその敵性アイコンは見るからにシロとミスティーの泊っている部屋の

前に集まっており、音から察するに鍵を破ろうと!…今まさに襲われそうに

なっている事へマサツグがルンの言葉を思い出しながらベッドから飛び起きると、

慌てた様子で刀を手に部屋を出る!…するとそこには反応が有った通り

モンスターでは無いものの、怪しい格好をした集団が今やってるとばかりに

部屋の鍵をピッキングしており、マサツグが突如飛び出して来た事で怪しい連中も

吃驚した様子で作業を止めると、マサツグの方を振り向き出す!


「なっ!?…気付かれたか!…」


「テメェら何してやがる!!…」


「見つかってしまったが!?…」


「構わん、やれ!!!…始末しろ!!…」


さて…奴らは盗賊なのか暗殺者なのか?…何方とも分からないその怪しい連中は

マサツグに見つかった事で慌て出し!…始末しようと考えたのかリーダーらしき

盗賊が真っ先にダガーを抜き出すと、その他の盗賊達もダガーを抜いては

マサツグに襲い掛かろうと構え出す!…それに対してマサツグも警戒し始めると

狭い通路ながら刀を構えようとするのだが、改めてその盗賊達の構えや身の

こなしに目を向けると、その盗賊と呼ぶにはお粗末で明らかに素人臭い!…

ぎこちない動きに困惑を覚える。


{…なっ!…何なんだ?…こいつ等?…

動きがまるでなっちゃいない!…デクスターと比べているせいかもしれないが…

それにしたってこいつ等は!…あのリーダー格っぽいのはちゃんとしてるけど…

後のは全然!…ダガーを持ってる手が震えてるのが良く分かる!…

……これ位なら武器を構えんでも行けるか?…}


__……スッ…


「ッ!?…な…何だコイツ!?…構えを…解いた!?…」


「……はあぁ~……お前ら如きに刀を抜くのがアホらしくなったんだよ…

何だよそのへっぴり腰?…まるで産まれたての小鹿だぜ?」


「な!…なめやがってぇ~~!!…

やっちまえ!!…」


戦闘に関しては完全に素人なのかその構えは引け腰で…武器を構える手も

緊張しているのか目に見えて分かる程震えている!…そんな様子にマサツグも

困惑して居ると徐々に武器を構えているのが馬鹿らしく思え、刀の構えを

解いて溜め息を吐きながら…頭を掻き毟り徐に拳を構え出すと、その様子に

盗賊達は戸惑う!…そんな戸惑う様子を見せる盗賊達にマサツグは呆れた

様子で声を掛け、その言葉に盗賊達が激昂し出すとダガーを手に襲い掛かり

始める!


「シャアアァァァァァ!!!」


__フォンッ!!…ひょい!…


「なっ!?…」


「…フンッ!!!」


まずはリーダー格の盗賊が飛び出して来ると横薙ぎにダガーを振るうのだが、

マサツグはそれを紙一重で仰け反って回避するとすかさず腰を落とし!…

回避されたリーダー格の盗賊がマサツグの動きに驚いて居ると、その盗賊の

腹部目掛けてマサツグは掛け声付きで拳を突き出す!…深々と抉るよう

捻じ込んだ拳は鈍い音を立てて盗賊の体をくの字に折り曲げ、そのまま

マサツグの腕に乗っかるよう倒れ込むと音を立てて宿屋の床に崩れる。


__ドスゥ!!…メキメキメキメキ!!…


「ガッファア!!!……て…テメエ!!……」


__ズルゥッ…ドサァ!!……ッ!?!?……


「……何が目的かは知らんがもう帰ってくれないか?

おらぁ…眠いんだ……ふあぁぁ~……」


目の前でリーダー格がやられ…それもワンパンで沈んだ事から他の盗賊達が

音も無く驚き戸惑って居ると、マサツグは余裕とばかりに欠伸をし…

早くゲームを終了したい事から帰る様に呼び掛け始めるのだが、盗賊達は

その様子を目の前にしても逃げる事無くダガーを構え続ける!…そして

マサツグ達の他にもこの宿に泊まっている客は多く、部屋の外の騒ぎを

聞き付けるとその姿を現し始めるのだが…盗賊達はそれでも逃げないのか

マサツグに対してダガーを構え続ける!


__ザワザワ…ザワザワ…


「ッ!…不味い!!…視線が集まり出した!!…」


「構う事はねぇ!!…とにかく任務を最優先だ!!…

連れて帰る事さえ出来ればそれで良い!!…行くぞ!!!…」


「「「オオオオオオオォォォォォォ!!!」」」


もはや形振り構わない!…周りから視線を集めてはもう隠密も何も無いのだが、

任務を最優先するよう仲間内で話してはマサツグに向かってダガーを突き付け

ると、今度は束になって襲い掛かる!一体何をそんなに必死になっているのか?…

一斉に襲い掛かって来る盗賊達の様子にマサツグは困惑するのだが、このまま

やられる訳にも行かず…ただ向かって来る盗賊達に対しマサツグは反撃し始める!


「「「オオオオオオオォォォォォォ!!!」」」


__フォン!…フォン!…


「クッ!!…当たらない!?…」


「当たり前だろう…が!!!…」


果敢にもマサツグへ向かって攻める盗賊達ではあるのだが、やはりその攻撃の

動きは素人丸出し!…大振りも大振りで攻撃の軌道が見切り易く、マサツグは

その盗賊達の攻撃を一個一個回避しては間合いを詰め!…自身の攻撃射程圏内に

その盗賊達を入れて行く!そしてそんな自身の攻撃を回避される盗賊達は焦りの

様子を見せると、何故当たらないのかと狼狽え出し!…そんな盗賊達の様子に

マサツグはツッコミを入れるよう!…リーダー格の盗賊と同じ様に拳を握っては、

その盗賊達の腹部目掛けて拳を突き出す!


__ドガァ!!…バキィ!!…


「グフゥッ!!…」


「バウゥッ!!…」


「……お前らはどこぞのジ○ン軍かっての!…

……ふあぁぁ~……貧弱貧弱ぅ~……」


一人…また一人と盗賊達が宿屋の床に倒れると、まるで何処かのモビ〇スーツの

名前を叫ぶよう苦痛の声を挙げ…他の盗賊達もその様子を見て慌て出すと、

マサツグはそんな盗賊達の様子にツッコミを入れてはやる気の無いテンションで

某吸血鬼のセリフを言う。そうしてさすがにリーダー格を含めて盗賊の三人が

その場に倒れると、分が悪いと感じたのか残りの者達は苦虫を噛み潰した様な

表情を見せ!…その場から逃げるよう宿屋の窓から飛び出すとそのまま闇夜に

紛れて姿を隠す。


「ッ!?……チッ!!…止むを得まい!!…」


__ガタッ!!…バッ!!…


「ッ!?…あぁ!!…おい待て!!」


__ガッ!!……はあぁ~…クルッ…


窓から逃げて行った盗賊達を追い駆ける様に窓へ近付くが、やはり

その姿を追う事は出来ず…残りを取り逃してしまった事に溜息を吐きながら

闇夜を見詰め、マサツグは一体何だったんだ?と考えてはその場に寝転がる

盗賊達の方を振り向くと、その倒れている姿を見て如何しようか?と悩む…

このままここに寝かせて置く訳にも行かないし、かと言って何処に引き渡せば

良いのかも分からない!…ゲーム時間にして夜の11時…そんな真夜中扱いに

困る盗賊達を目の前にしてはマサツグは困惑し続け、対処に困っていると

この騒ぎを漸く聞き付けたのか、宿屋の店主が慌ててマサツグの居る方へと

駆け付ける!そしてその光景を見るなり戸惑い始める!…


「一体何事ですか!?…喧嘩は止して!……ッ!?…こ、これは!?…

お…お客様!?…如何なされましたか!?…これは一体!?…」


「ッ!…丁度良い所に!…

店主、悪いんだがそこに寝ている盗賊もどきを衛兵に突き出してくれないか?

うちの仲間が泊まっている部屋に無断で侵入しようとしていたから……

一応そこの鍵穴が証拠ね…」


「え!?……ッ!?…確かに!…

と言う事は本当に!!……しょ、少々お待ちを!!…

今すぐ呼んで参ります!!…」


宿屋の店主は到着するなりその盗賊達が倒れている様子を見ては酷く戸惑い…

マサツグに何が有ったのかを尋ね出すと、マサツグは丁度良いとばかりに店主に

事後処理をお願いする。その際自身の正当性を訴える為にシロとミスティーが

泊まっている部屋の扉を指差しピッキングの跡を確認させ、宿屋の店主も

言われるままに扉の鍵穴に何かが擦れた跡を確認すると、納得したのかマサツグに

同意するよう返事をする。そして店主はその倒れている盗賊達を従業員と共に

縄で縛り!…他の従業員に衛兵を呼びに行かせると、そのまま宿屋に夜這いを

掛けに来た馬鹿な盗賊達は敢え無く御用となった訳なのだが…マサツグにはまだ

奇妙な違和感が残っており、事件が終わっていない様な気がしては仕方が無い

のであった。


{……ひたすらに変だ…何でこんなにミスティーが狙われる?…

何か有るのか?…あの子には?……どうやらこの依頼……

一筋縄では行かない様に思える!……この手の依頼を引き当てる俺もそうだが…

本当に俺には超幸運が付いているのだろうか?…}


思わずそう考えながらもマサツグは店主にマスターキーを借りると、

ミスティー達の泊る部屋の鍵を開けてはミスティーとシロの安否を

確認する。すると部屋の中では外での出来事に全く気付いていない

様子でシロとミスティーが抱き合う様に…ベッドの上で何事も無いよう

二人揃って丸まって寝息を立てて居り、それを確認したマサツグは

一人ホッと安心すると鍵を閉め直してはマスターキーを店主に返す。

そうして自身の部屋に戻りもう一度感知サーチを発動して今度こそ敵性反応が

無い事を確認すると、慌てて手にした刀を壁に立て掛け…疲れた様子で

またベッドへ大の字になるよう倒れると、漸くゲームをログアウトする。

そうしてこの依頼を受けた事にマサツグは今後どうなるのか?と考えながら、

現実に戻るとその後も唸りながら考え続け…その様子に家族から五月蝿いと

怒られ、マサツグは一人ショボンとするのであった。

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