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執着/愛着
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最後の一粒を飲んで悠人はほっとため息をついた。
一人取り残された純一の部屋にいても今は何も不安にならない。もちろん、この部屋自体が彼の匂いに満たされていることもあるし、先日作った香水を手元のブレスレットに仕込んであることもある。
自分の服を持っても来ていたが、純一に手渡された彼の服を着て部屋で過ごしていた。
それが心地よく安心する。
薬のおかげもあって、ヒートになってしまった当日を除けばそれなりに理性的であった、と思う。だが純一はやはり良い匂いがすごいした、といつものように目を細めて微笑んだ。
思い出して思わずぞくりとして、悠人は首を振った。
大きな目を細めて笑うのは、純一の昔からのクセだ。そういう風に笑うのが彼だし、別段なにもおかしくはない。
だが何度も抱かれていて、何度も見ていると、別の感情がわき上がる。
あの瞳に見つめられると、じくじくと胸の奥から苦しくなる。締め付けられるような感覚は、息の根を止められるような気さえする。
唇に触れて悠人は視線を泳がせる。
いつから彼はあんな風に自分を見るようになったのだろうか考える。
しかし答えは出ることもなく、飲み終わった薬の殻をゴミ箱に捨てた。
冬真が用意してくれていた薬は五日分だった。身体の異常は三日もすれば落ち着いたが、念のため飲んでおけと純一にも言われてすべて飲みきった。
やはり仕事は休めるわけもなく、純一は三日目には渋々昼過ぎに家を出て行った。
その時はさすがに一人で居るのがつらくて、ほんの数時間だったがずっと寝室にこもって丸くなっていた。純一が帰ってきたのは物音以上に匂いで分かり、すぐに身体が熱くなって驚いた。
戻ってきた純一はその時もやはり、目を細めて微笑み見つめた。
満足げに、満たされたように。
四日目には一人で留守番をしても平気だった。やっと平常に戻ったと正直ほっとして、まだ少し痛む喉をいたわるように飴をなめたり、紅茶に蜂蜜を溶かして飲むことをした。
そうしながら冬真に連絡をした。次の店休日まで休んでいいといわれ、その間の埋め合わせはきっちりと晴樹がしていると言われて驚いた。
今度彼には礼をしなくてはならないだろう。というか、なぜ晴樹が埋め合わせをしているのかと問うたら、冬真が笑いながら「暇そうだったから」と言った。
暇、なのだろうか。
彼は彼で仕事があるはずだがと問えば、気分転換に外で働くのは悪くないとのことで了承したのだという。
やはり今度晴樹には礼をしなくてはいけないと思う。
純一の部屋ですごすのは心地良かった。他の匂いがしない。今一番ほしい匂いだけがある。
この部屋自体がまるで巣のようで安心する。
薬を飲みきった今ならば、この部屋を出ようとすることは容易い。だが、ヒートの只中にあったときは、この部屋から出るなんて恐怖でしかないと思った。
薬を飲み、落ち着いていて、香水を作ろうと出かけた時でさえ、帰宅したらどっと疲れていたのだ。
シャツを掴んで鼻を近づけた。すんと嗅ぐと、嗅ぎ慣れた純一の香りがする。
認めてしまえば、ずっとこの香りだけを求めていたと思える。あの時からずっと。
自分はそれでいい。それがいい。このままずっと側にいてくれればいい。あの細めた瞳で見つめてくれるなら文句はない。
だが、彼は本当にいいのだろうか。
そう不安は未だに拭いきれない。
しかしそれでも、過去の話をしたときに純一はいつものように目を細めたが、その奥にある感情はいつもと少し毛色が違ったように思えた。
後ろから貫かれた時、その前の甘さは少しだけなりを潜めていた。
目を細めて微笑み、他人とキスをしたことに腹立ていた。
もちろん悠人が望んだことではない。あれは不可抗力であったし、それ以上はさせなかった。気持ち悪かった。
あの細めた瞳の奥にあるのは多分独占欲だ。
ずっと彼はそれを抱いていたのだろうか。それとも、ヒートになった自分に感化されてなのだろうか。
唇を指先で弄びながら、悠人は聞いてみようと思った。
自分は、言葉にしてもらわなきゃわからない。
一人取り残された純一の部屋にいても今は何も不安にならない。もちろん、この部屋自体が彼の匂いに満たされていることもあるし、先日作った香水を手元のブレスレットに仕込んであることもある。
自分の服を持っても来ていたが、純一に手渡された彼の服を着て部屋で過ごしていた。
それが心地よく安心する。
薬のおかげもあって、ヒートになってしまった当日を除けばそれなりに理性的であった、と思う。だが純一はやはり良い匂いがすごいした、といつものように目を細めて微笑んだ。
思い出して思わずぞくりとして、悠人は首を振った。
大きな目を細めて笑うのは、純一の昔からのクセだ。そういう風に笑うのが彼だし、別段なにもおかしくはない。
だが何度も抱かれていて、何度も見ていると、別の感情がわき上がる。
あの瞳に見つめられると、じくじくと胸の奥から苦しくなる。締め付けられるような感覚は、息の根を止められるような気さえする。
唇に触れて悠人は視線を泳がせる。
いつから彼はあんな風に自分を見るようになったのだろうか考える。
しかし答えは出ることもなく、飲み終わった薬の殻をゴミ箱に捨てた。
冬真が用意してくれていた薬は五日分だった。身体の異常は三日もすれば落ち着いたが、念のため飲んでおけと純一にも言われてすべて飲みきった。
やはり仕事は休めるわけもなく、純一は三日目には渋々昼過ぎに家を出て行った。
その時はさすがに一人で居るのがつらくて、ほんの数時間だったがずっと寝室にこもって丸くなっていた。純一が帰ってきたのは物音以上に匂いで分かり、すぐに身体が熱くなって驚いた。
戻ってきた純一はその時もやはり、目を細めて微笑み見つめた。
満足げに、満たされたように。
四日目には一人で留守番をしても平気だった。やっと平常に戻ったと正直ほっとして、まだ少し痛む喉をいたわるように飴をなめたり、紅茶に蜂蜜を溶かして飲むことをした。
そうしながら冬真に連絡をした。次の店休日まで休んでいいといわれ、その間の埋め合わせはきっちりと晴樹がしていると言われて驚いた。
今度彼には礼をしなくてはならないだろう。というか、なぜ晴樹が埋め合わせをしているのかと問うたら、冬真が笑いながら「暇そうだったから」と言った。
暇、なのだろうか。
彼は彼で仕事があるはずだがと問えば、気分転換に外で働くのは悪くないとのことで了承したのだという。
やはり今度晴樹には礼をしなくてはいけないと思う。
純一の部屋ですごすのは心地良かった。他の匂いがしない。今一番ほしい匂いだけがある。
この部屋自体がまるで巣のようで安心する。
薬を飲みきった今ならば、この部屋を出ようとすることは容易い。だが、ヒートの只中にあったときは、この部屋から出るなんて恐怖でしかないと思った。
薬を飲み、落ち着いていて、香水を作ろうと出かけた時でさえ、帰宅したらどっと疲れていたのだ。
シャツを掴んで鼻を近づけた。すんと嗅ぐと、嗅ぎ慣れた純一の香りがする。
認めてしまえば、ずっとこの香りだけを求めていたと思える。あの時からずっと。
自分はそれでいい。それがいい。このままずっと側にいてくれればいい。あの細めた瞳で見つめてくれるなら文句はない。
だが、彼は本当にいいのだろうか。
そう不安は未だに拭いきれない。
しかしそれでも、過去の話をしたときに純一はいつものように目を細めたが、その奥にある感情はいつもと少し毛色が違ったように思えた。
後ろから貫かれた時、その前の甘さは少しだけなりを潜めていた。
目を細めて微笑み、他人とキスをしたことに腹立ていた。
もちろん悠人が望んだことではない。あれは不可抗力であったし、それ以上はさせなかった。気持ち悪かった。
あの細めた瞳の奥にあるのは多分独占欲だ。
ずっと彼はそれを抱いていたのだろうか。それとも、ヒートになった自分に感化されてなのだろうか。
唇を指先で弄びながら、悠人は聞いてみようと思った。
自分は、言葉にしてもらわなきゃわからない。
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