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執着/愛着
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眠りにつこうとしたが、不安が押し寄せてきて眠れない。
布団を握りしめたぐり寄せ、匂いを吸い込む。
それでも落ち着かず、上半身を起こした。
純一がベッドに置いてくれていたスマートフォンを掴みスリープを解除する。
そしてたまっていた通知をみてうんざりとした。
もっとも、その最初の方はスマートフォンをどこに置いたかさえ分からないぐらい混乱していた時、純一が送ってきていたものだった。
とりあえず、と冬真の連絡先を出して電話をする。仕事中でもスマートフォンを彼は肌身離さず持っている。
バイトからの連絡はほとんどそこにくるようになっていたので、私用というよりほとんど仕事用だ。
『もしもし。具合はどうよ』
「ぐ……」
具合は大丈夫です。
と、言いたかったのだが喉がつっかえてうまく言葉が出ない。咳払いをしてもう一度気を取り直して声をだす。
「具合は、大丈夫……です」
『やっばいじゃん、喉』
「……」
言い返したい気持ちはあったが、主に喉に余裕がない。
冬真は小さく笑いながら、今週は休めばどうかと言った。
有給もあるしと言われると頭が上がらなくなる。実際、申し訳なさ過ぎてベッドの上でうなだれていた。
『えっと、ちょっとまってよ』
そう言って移動するような物音がしてから、冬真が再び口を開く。
『もしもし。そういや薬は飲んだの?』
「あ、はぃ……あり、がとうございます」
『まぁ、市販薬だけどね、一応あれ。ただ抑えるってより、どちらかというとアレ、Ω向けの避妊剤入りのだから』
「ぁ?」
『部屋に行って、悠人一人だったら、あの幼なじみくんを呼び出せって言おうと思ってたんだけどさぁ。まぁ彼が偶然いたから手間が省けたってところですよ。ってなわけで、ゆっくりしろ。とりあえず、喉がましになたらまた電話してよ』
じゃあね、と笑いながら一方的に通話は切られた。
ちょうどその時玄関が開いて、服を着た純一が部屋に入ってくる。
「あ、起きられたの? 大丈夫?」
「……お前、薬のこと聞いてたの?」
「あ? 何が?」
コンビニの袋の中から大きなスポーツ飲料水のペットボトルを一つドンと取りだした。
流しの方へと向かうとグラスを二つ持ってきて、先に一つにそれを注ぐと悠人に手渡した。
だが悠人はそれを受け取らずに顔を真っ赤にして言う。
「と、冬真さんから、薬のこと……っ」
「あー、うん。抑制剤だけど、避妊剤入りだから安心してっていわれた」
「あ……安心……?」
「俺は別にそんなことしたいわけじゃないし。てか順序があるし」
「順序? どこに、どんな?」
「言ったじゃん。素面の状態で話ししてから噛むって。そういう感じの順序」
言っていた、確かに。
思い出して悠人はため息をつくとグラスを受け取った。礼を口にして飲むと身体の乾きが一気に癒える気がした。
あれからどのぐらい時間が経ったのか。と、時計を見ても純一が来たのがいつ頃かもさっぱり分からない。
ただ分かるのは、すでに日付が変わっていて、今は昼ということだ。
何度も執拗なほど抱かれて身体は悦んでいた。事実、一人でどうしようもなく何度も吐精したあの時間よりも、身体は満たされたし心も同じだった。
ただ、疲れたと言っても離してくれるわけもなく、身体が素直に反応するに従い何度も何度も抱かれた。
結局は疲れ切った悠人が意識を手放して終わったらしく、目を覚ますと抱きしめられたまま狭いベッドに寝ていた。
何があったのか記憶はすべてある。もちろん、ヒートになった自分がどういうふうに彼にねだったかも分かっている。
今更ながら、それは本心であるが素面の状態になると恥ずかしくてたまらない。羞恥で死ねると思うし、穴があったらさらに深く掘って入りたい。
目を覚ました純一は体調を心配し、浴室まで運び、シャワーを浴びせ、戻ってくるまでしてくれた。もちろんすべて抱えられて。
実際のところ悠人はうまく身体に力が入らなかった。まだ余韻があるような気がして、自ら動くのも少し怖かったといえる。
素面といえば素面だ。
だが今の一瞬の間、コンビニに純一が向かったほんの数十分程度の時間でさえ、離れたことに不安を感じた。
まだ余韻はそういうところにも残っている。
「おま……お前の、仕事はいいの?」
咳払いをして悠人が言うと、純一はうなずいて袋の中から小さいパックに入ったのど飴を取り出した。
「今は落ち着いてるし。慎二がほとんどしてるし。最悪、道具さえあればなんとかなるし……あ、そっか」
「あ?」
飴に手を伸ばすと、純一はソレを悠人に手渡した。だがすぐに気がついて、袋の切り込みから一線に開封してもう一度手渡す。
「ウチに来ない?」
「純一の家に?」
「そう。そしたら仕事もなんかあっても対応出来るし。お風呂もゆっくり入れるし。着替えとか持って行けばいいし。そうしよう?」
「いや……え、ちょっとまって」
「ん? なに?」
「う、ウチじゃだめなの」
「別に良いけど……ウチの方が落ち着くんじゃないかな、悠人も」
「俺がぁ? なんで」
のど飴を一つつまむと口の中に放り込んだ。
甘い蜂蜜の味と梅の味が広がる。
「だって、ウチは俺の匂いしかしないから。さっきみたいに、ちょっと買い物行くにしても不安にはならないでしょ」
そう言われて、悠人は純一を見つめていた視線を少しずつ横に逸らした。
「なんで……バレてんの、それぇ……」
「んー、本に書いてあったし。俺が帰ってきた時に見せた顔みたら、すぐわかったよ?」
嬉しそうに、優しく目を蕩けさせて笑う姿に悠人は俯いて、真っ赤になった顔を隠した。
布団を握りしめたぐり寄せ、匂いを吸い込む。
それでも落ち着かず、上半身を起こした。
純一がベッドに置いてくれていたスマートフォンを掴みスリープを解除する。
そしてたまっていた通知をみてうんざりとした。
もっとも、その最初の方はスマートフォンをどこに置いたかさえ分からないぐらい混乱していた時、純一が送ってきていたものだった。
とりあえず、と冬真の連絡先を出して電話をする。仕事中でもスマートフォンを彼は肌身離さず持っている。
バイトからの連絡はほとんどそこにくるようになっていたので、私用というよりほとんど仕事用だ。
『もしもし。具合はどうよ』
「ぐ……」
具合は大丈夫です。
と、言いたかったのだが喉がつっかえてうまく言葉が出ない。咳払いをしてもう一度気を取り直して声をだす。
「具合は、大丈夫……です」
『やっばいじゃん、喉』
「……」
言い返したい気持ちはあったが、主に喉に余裕がない。
冬真は小さく笑いながら、今週は休めばどうかと言った。
有給もあるしと言われると頭が上がらなくなる。実際、申し訳なさ過ぎてベッドの上でうなだれていた。
『えっと、ちょっとまってよ』
そう言って移動するような物音がしてから、冬真が再び口を開く。
『もしもし。そういや薬は飲んだの?』
「あ、はぃ……あり、がとうございます」
『まぁ、市販薬だけどね、一応あれ。ただ抑えるってより、どちらかというとアレ、Ω向けの避妊剤入りのだから』
「ぁ?」
『部屋に行って、悠人一人だったら、あの幼なじみくんを呼び出せって言おうと思ってたんだけどさぁ。まぁ彼が偶然いたから手間が省けたってところですよ。ってなわけで、ゆっくりしろ。とりあえず、喉がましになたらまた電話してよ』
じゃあね、と笑いながら一方的に通話は切られた。
ちょうどその時玄関が開いて、服を着た純一が部屋に入ってくる。
「あ、起きられたの? 大丈夫?」
「……お前、薬のこと聞いてたの?」
「あ? 何が?」
コンビニの袋の中から大きなスポーツ飲料水のペットボトルを一つドンと取りだした。
流しの方へと向かうとグラスを二つ持ってきて、先に一つにそれを注ぐと悠人に手渡した。
だが悠人はそれを受け取らずに顔を真っ赤にして言う。
「と、冬真さんから、薬のこと……っ」
「あー、うん。抑制剤だけど、避妊剤入りだから安心してっていわれた」
「あ……安心……?」
「俺は別にそんなことしたいわけじゃないし。てか順序があるし」
「順序? どこに、どんな?」
「言ったじゃん。素面の状態で話ししてから噛むって。そういう感じの順序」
言っていた、確かに。
思い出して悠人はため息をつくとグラスを受け取った。礼を口にして飲むと身体の乾きが一気に癒える気がした。
あれからどのぐらい時間が経ったのか。と、時計を見ても純一が来たのがいつ頃かもさっぱり分からない。
ただ分かるのは、すでに日付が変わっていて、今は昼ということだ。
何度も執拗なほど抱かれて身体は悦んでいた。事実、一人でどうしようもなく何度も吐精したあの時間よりも、身体は満たされたし心も同じだった。
ただ、疲れたと言っても離してくれるわけもなく、身体が素直に反応するに従い何度も何度も抱かれた。
結局は疲れ切った悠人が意識を手放して終わったらしく、目を覚ますと抱きしめられたまま狭いベッドに寝ていた。
何があったのか記憶はすべてある。もちろん、ヒートになった自分がどういうふうに彼にねだったかも分かっている。
今更ながら、それは本心であるが素面の状態になると恥ずかしくてたまらない。羞恥で死ねると思うし、穴があったらさらに深く掘って入りたい。
目を覚ました純一は体調を心配し、浴室まで運び、シャワーを浴びせ、戻ってくるまでしてくれた。もちろんすべて抱えられて。
実際のところ悠人はうまく身体に力が入らなかった。まだ余韻があるような気がして、自ら動くのも少し怖かったといえる。
素面といえば素面だ。
だが今の一瞬の間、コンビニに純一が向かったほんの数十分程度の時間でさえ、離れたことに不安を感じた。
まだ余韻はそういうところにも残っている。
「おま……お前の、仕事はいいの?」
咳払いをして悠人が言うと、純一はうなずいて袋の中から小さいパックに入ったのど飴を取り出した。
「今は落ち着いてるし。慎二がほとんどしてるし。最悪、道具さえあればなんとかなるし……あ、そっか」
「あ?」
飴に手を伸ばすと、純一はソレを悠人に手渡した。だがすぐに気がついて、袋の切り込みから一線に開封してもう一度手渡す。
「ウチに来ない?」
「純一の家に?」
「そう。そしたら仕事もなんかあっても対応出来るし。お風呂もゆっくり入れるし。着替えとか持って行けばいいし。そうしよう?」
「いや……え、ちょっとまって」
「ん? なに?」
「う、ウチじゃだめなの」
「別に良いけど……ウチの方が落ち着くんじゃないかな、悠人も」
「俺がぁ? なんで」
のど飴を一つつまむと口の中に放り込んだ。
甘い蜂蜜の味と梅の味が広がる。
「だって、ウチは俺の匂いしかしないから。さっきみたいに、ちょっと買い物行くにしても不安にはならないでしょ」
そう言われて、悠人は純一を見つめていた視線を少しずつ横に逸らした。
「なんで……バレてんの、それぇ……」
「んー、本に書いてあったし。俺が帰ってきた時に見せた顔みたら、すぐわかったよ?」
嬉しそうに、優しく目を蕩けさせて笑う姿に悠人は俯いて、真っ赤になった顔を隠した。
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