キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗

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日常で始まった、非日常

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 「うわ、すごい辛気くさい顔してんなぁ」
「寝不足なんすよ……あと、抑制剤の副作用的な」
 二階の休憩室に上がるなり、座っていた冬真に言われた言葉に悠人はムッと唇を尖らせて答えた。
 二階は二部屋に分かれており、一つは従業員の休憩室兼仮眠室。そしてもう一部屋の方が冬真の部屋である。
 ランチは殆ど昼の従業員に任せているため、冬真はスマホを弄りながら休憩室の方で寛いでいた。
 ため息と共に荷物を置く。いつもなら下の小さな休憩室にいるのだが、今日は上にあがることにした。
 勤務中の休憩や、荷物置き場であったりする休憩室は少し賑やかだ。店内の声やキッチンの調理器具の音などがひしめくのは、今の悠人には煩すぎると感じて上にあがることにしたのだ。
 それに発注作業もしなくてはいけないことを思い出していた。
 全体的に身体のだるさが取れない。頭の痛みは酷くないが、それでもすこし重くて仕方がない。
 仕事を休むほどではないと告げると、冬真は立ち上がった。

「じゃあとりあえず、何か飲み物を奢ってやろう。ラテでいい?」
「お願いします」
 軽やかに階段を降りていく冬真に変わって、悠人は椅子を引くと座ってため息を吐いた。
「あーそうだ……発注作業」
 今日は日曜日だ。月曜日は定休日のため、今日中に発注作業はしておかなくてはいけない。
 立ち上がって、テーブルの上に蓋を閉じて置かれているノートパソコンを手にして蓋を開けた。
 情報共有であったり、調べものであったり、サイトのお知らせ更新であったり、発注作業であったり。さまざまな用途の為に、パソコンはいつも休憩室におかれていた。
 他の時間帯のメンバーの要望やメモも共有されるようになっており、それを見ていつも悠人は発注をしていた。
 食材に関しては冬真が仕切ってくれている。消耗品とあわせて数を確認して送信すれば終わりだ。

「怠かったら、休憩多くとる?」
「あ、いや、大丈夫ですよ。大分楽になったし」
 顔を上げると、カップを手にした冬真がいた。
 テーブルの上にカップを置くと、再び自分の椅子へ戻って腰を下ろした。
「薬、増やしたの?」
「増やしましたよ。おかげで予兆はないですけど、怠さが増し増し」
 ため息交じりに悠人はパソコンの蓋を閉めるとカップを掴んで一口飲んだ。
 甘いミルクの味にほぅっと小さく息を漏らす。
「病院行けば?」
「明日、行けたら行こうかと思ってますよ。薬そろそろ変えてもらう方がいいのかなぁ」
 ぼんやりと呟いて悠人は天井を見上げた。

 薬はもちろん身体にあうものを選んでいる。医者での身体検査や生活習慣を加味して選択されたものの中から、いくつか試して、今の薬に行き着いている。
 だからあわないわけではないのだが、やはり年を重ねる毎に身体は少しずつ変わってくる。少しずつあわなくなってきている可能性もあるかもしれないと思い、病院へ行こうと思っていた。
 とりあえず、今日の仕事を無事にこなすことが大切だ。
 入れてもらったカフェラテを味わいながら、悠人は仕事のことを考えるように専念した。
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