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三章:過去/自由
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スマートフォンをパソコンに繋げて、そこから連絡をとる。だが直接繋げてしまうとこちらの居所が筒抜けになり、それを見つけようとしている人間にはいくらだって見つけられてしまう。
今はまだその時ではない。
パソコンのディスプレイに表示されたアプリを操作しながら、ハチは手際よく準備していく。少しだけ不安を覚えながらも、ユーマはその不安をかき消すように画面をじっと見つめていた。
「街にもあてはあるけど、どんなとこがいい?」
「どんなとこって……どんな選択肢があるんだ?」
「繁華街の中かダウンタウンなところか。オフィス街っていう選択肢もあるけど、まぁこっちは俺も見た目とか変えないといけないから面倒かな」
言いながらもハチはキーボードを叩いて操作していく。連絡はメールにした。それでも発信元を偽装する為の工程を経て送る。
準備が出来てハチは床を軽く蹴って移動した。フローリングをコロコロと走るキャスターの音がして、ユーマにキーボードが開け渡される。
ユーマはキーボードの正面に移動すると、ロス宛のメールの文面を打ち始めた。
「おすすめは?」
「繁華街。人が多いから時間稼ぎにはうってつけじゃない?」
「時間稼ぎ……ね」
指を動かしてユーマはメールを打った。ロスに無茶なお願いをする謝罪から始まって、その内容を。そして再び謝罪を書いてメールは完成する。
可能か不可能か。必要な金額やそれ以外にも必要なものがあれば準備する旨を書いて送信する。
送信したとほぼ同時に、部屋のどこからか着信音が聞こえた。何だろうとユーマが顔を上げると、椅子ごと移動したハチが充電用のコードに接続されたままのスマートフォンを手に操作していた。
しばらくすると椅子のキャスター音と共に戻ってきて、ハチは手早くパソコンのアプリを終了させて電源をオフにする。
「どうしたんだ?」
「そろそろ動いた方がよさげ」
そう言うと言葉はなく、ユーマにスマートフォンを返却した。受け取るとユーマはすぐに外に出る準備をする。上着や銃器類を手早く身につけると、再び着信音が聞こえる。
今度は立ち上がって、ハチはスマートフォンを取りに行った。すでにパソコンの類は全てシャットダウンしており、光源は天井の照明と手にしているスマートフォンだけだ。
「ねぇユーマ。俺の口座に金送れる?」
「送り先教えてくれたら」
ユーマが深く追求するとこなく答えると、ハチはアプリから表示したコードをユーマに向ける。
「そこで、いいの?」
「いいよ」
そういったハチのコードを読み取ると、ユーマは少し悩んでから金額を適当に入力して送金する。
「あ、きた。え、なにこの中途半端な金額」
ふっと笑うハチに、ユーマは肩を竦めて答える。
「街からここまでの往復のガソリン代げらい? とりあえず急いだ方がいいんじゃない?」
ユーマが言うとハチは頷いて部屋を出ていく。すぐに銃器を手にして身支度を整えると、ハチは扉を開き外に出た。それに着いてユーマも外へ出る。
外は晴れていた。青い空は広くて、ずっとこの広い空の下にいたいと思うが今は無理だ。
送金したことにより、恐らく監視しているであろうシュンにはこの情報が行くはずだ。これにより確実に居場所は掴まれる。
「猶予は?」
思わず聞いていた。
「三〇分ぐらいじゃないかな」
「意外とあるじゃん」
すぐに出たほうがいいのか、と思っていた。おそらく連絡が来たのはほかの流浪者からのものだろう。そしてシュンか、もしくは他の組織の者に嗅ぎつかれたことを教えてくれたのだろう、とユーマは理解していた。だからほとんど猶予はないとばかり思っていたが時間は案外あるようだった。
「あるけど、早く出たほうが撒けるっしょ」
そういうとハチは車に乗り込む。助手席にユーマも乗り込みながら辺りを一応警戒してみる。
「まぁ丸一日はもったから、良い方じゃない? 結果的に、ユーマが街に行ったりしたのもよかったのかもね」
「だといいけど……」
動きだす車の中、ユーマはふとスマートフォンに視線を向けた。
ロスからの返信が手短に送られてきている。そこには金額や必要なものなどが書かれているわけでもなく、ただ一言が送られていた。
『本気?』
ユーマは返信を送ろうと指を動かして、だが止まった。何と返すかすぐに浮かばなかったのだ。
「どうかした?」
少し速度を上げてまっすぐと道を進みながらハチが言った。まっすぐと続く街への道をただひたすら走るだけの数十分。
おそらく、この通信もシュンへのヒントになるだろう。内容まで読み取られるのかは分からない。彼ならそのぐらいは出来そうだと思うが、おそらく彼にとって内容は大事では無いはずだ。
「別に……」
そう言って、ユーマは『本気』と一言だけ返信した。
今はまだその時ではない。
パソコンのディスプレイに表示されたアプリを操作しながら、ハチは手際よく準備していく。少しだけ不安を覚えながらも、ユーマはその不安をかき消すように画面をじっと見つめていた。
「街にもあてはあるけど、どんなとこがいい?」
「どんなとこって……どんな選択肢があるんだ?」
「繁華街の中かダウンタウンなところか。オフィス街っていう選択肢もあるけど、まぁこっちは俺も見た目とか変えないといけないから面倒かな」
言いながらもハチはキーボードを叩いて操作していく。連絡はメールにした。それでも発信元を偽装する為の工程を経て送る。
準備が出来てハチは床を軽く蹴って移動した。フローリングをコロコロと走るキャスターの音がして、ユーマにキーボードが開け渡される。
ユーマはキーボードの正面に移動すると、ロス宛のメールの文面を打ち始めた。
「おすすめは?」
「繁華街。人が多いから時間稼ぎにはうってつけじゃない?」
「時間稼ぎ……ね」
指を動かしてユーマはメールを打った。ロスに無茶なお願いをする謝罪から始まって、その内容を。そして再び謝罪を書いてメールは完成する。
可能か不可能か。必要な金額やそれ以外にも必要なものがあれば準備する旨を書いて送信する。
送信したとほぼ同時に、部屋のどこからか着信音が聞こえた。何だろうとユーマが顔を上げると、椅子ごと移動したハチが充電用のコードに接続されたままのスマートフォンを手に操作していた。
しばらくすると椅子のキャスター音と共に戻ってきて、ハチは手早くパソコンのアプリを終了させて電源をオフにする。
「どうしたんだ?」
「そろそろ動いた方がよさげ」
そう言うと言葉はなく、ユーマにスマートフォンを返却した。受け取るとユーマはすぐに外に出る準備をする。上着や銃器類を手早く身につけると、再び着信音が聞こえる。
今度は立ち上がって、ハチはスマートフォンを取りに行った。すでにパソコンの類は全てシャットダウンしており、光源は天井の照明と手にしているスマートフォンだけだ。
「ねぇユーマ。俺の口座に金送れる?」
「送り先教えてくれたら」
ユーマが深く追求するとこなく答えると、ハチはアプリから表示したコードをユーマに向ける。
「そこで、いいの?」
「いいよ」
そういったハチのコードを読み取ると、ユーマは少し悩んでから金額を適当に入力して送金する。
「あ、きた。え、なにこの中途半端な金額」
ふっと笑うハチに、ユーマは肩を竦めて答える。
「街からここまでの往復のガソリン代げらい? とりあえず急いだ方がいいんじゃない?」
ユーマが言うとハチは頷いて部屋を出ていく。すぐに銃器を手にして身支度を整えると、ハチは扉を開き外に出た。それに着いてユーマも外へ出る。
外は晴れていた。青い空は広くて、ずっとこの広い空の下にいたいと思うが今は無理だ。
送金したことにより、恐らく監視しているであろうシュンにはこの情報が行くはずだ。これにより確実に居場所は掴まれる。
「猶予は?」
思わず聞いていた。
「三〇分ぐらいじゃないかな」
「意外とあるじゃん」
すぐに出たほうがいいのか、と思っていた。おそらく連絡が来たのはほかの流浪者からのものだろう。そしてシュンか、もしくは他の組織の者に嗅ぎつかれたことを教えてくれたのだろう、とユーマは理解していた。だからほとんど猶予はないとばかり思っていたが時間は案外あるようだった。
「あるけど、早く出たほうが撒けるっしょ」
そういうとハチは車に乗り込む。助手席にユーマも乗り込みながら辺りを一応警戒してみる。
「まぁ丸一日はもったから、良い方じゃない? 結果的に、ユーマが街に行ったりしたのもよかったのかもね」
「だといいけど……」
動きだす車の中、ユーマはふとスマートフォンに視線を向けた。
ロスからの返信が手短に送られてきている。そこには金額や必要なものなどが書かれているわけでもなく、ただ一言が送られていた。
『本気?』
ユーマは返信を送ろうと指を動かして、だが止まった。何と返すかすぐに浮かばなかったのだ。
「どうかした?」
少し速度を上げてまっすぐと道を進みながらハチが言った。まっすぐと続く街への道をただひたすら走るだけの数十分。
おそらく、この通信もシュンへのヒントになるだろう。内容まで読み取られるのかは分からない。彼ならそのぐらいは出来そうだと思うが、おそらく彼にとって内容は大事では無いはずだ。
「別に……」
そう言って、ユーマは『本気』と一言だけ返信した。
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