31 / 61
三章:過去/自由
3
しおりを挟む
「おそらく生まれた時にすぐ売られてたんだろうね。それか借金でもしてたのか、よくわからないし興味も無いから聞いてもないけど、俺は最初から殺しを教えるために育てられてた。だから基礎体力作りだとか、周りとの協調性だとか? そういうなんていうだっけ、情操教育ってやつは表企業の経営してる孤児院に預けられてやってたらしいんだよね」
ユーマは少しハチの話が興味深かった。親に売られた子がいる、という事は知っているし、そういう子がどのように教育されるかも一応は理解している。だが他の組織の殺し屋とはさほど顔を合わせた事もないからよくは知らない。おそらく自分が異端であることは理解している。
「それで暫くしたら組織の方に引き取られて、今度は殺し屋としての教育を受けた。殺すことも大切だけどさ、そこに至るまでってのも大事じゃん?」
「あー……機械系とか、そういうやつ?」
「そそ。ハッキングとかも、補助ツール使って出来るぐらいには色々教えられて、まぁ、最後のテストはユーマのとこだったんだけど。そのあと組織で仕事してて、ずっと教育係みたいな人がいてさぁ。その人が引退するとかなんとかで、なんでか俺も一緒に連れて行かれたんだよね。それで俺は組織の外に出ました、おしまい」
そう言ってハチは両手を開いて、手の平をユーマに見せて言った。
「組織に居たのは十歳ぐらいまでだから、あんま記憶ないんだけどさぁ。その間に一応ナノボットの実験には使われてたわけよ。あれってほら、年齢問わずやってたじゃん?」
ユーマは頷いた。確かあの実験は様々な年代のデータが必要だということで、組織内の様々な人間を使って行われていた。だが殆どはユーマやハチのような殺し屋達であり、ある意味では替えの効くコマばかりが使われていた。主に青年と呼ばれる年代が、やはり一番使われていた気がした。だが多少の体力増強であったり、視力聴力といったものの強化はあれど、更に求めている結果は出せていなかった。
組織が得たかったのは、ナノボットによるほとんど死なない殺人者だ。さまざまな器官が強化されることも重要であるが、それ以上に重要なのは、怪我を負ってもすぐに治ること。もしくは、身体に傷を負わせられない強度を持った人間を造る事、にあった。
だからそれらのデータを書き換えるようにナノボットは投与された。しかし薬で副反応や副作用があるのと同じように。この人に効いたから自分にも効くだろうと投薬した薬が効果なかった時のように、ナノボットでの強化にも千差万別の結果が吐き出されていった。ユーマはまさに、身体的にはなにも効果のなかったタイプである。
「でもお前の成功を知っていたら、組織はそんな連れ出すなんて普通許さないだろう?」
「もちろん、許さないだろうね。俺はすぐには効果がなかった。ただ成長するにつれて効果は確かに出てたのよ。でもそれを知るのは俺と、その教育係の人だった。その人は俺を逃がそうと考えて、俺を連れ出したんだよね。でも普通に逃げ出すなんて無理じゃん? だからデータの改ざんをして、自分自身の衰えとか、そういうのを理由にして。実行に移すまで俺に世話をさせてさ。別にどこが悪いとか、病気だとかも無かったと思うんだけど。要するに芝居を打って、出る事に成功した。とはいえ、本当に組織は知らなかったのかも良くわからないけど。もしかしたら知っていて、敢えて逃がしたのかも知れないしね」
そのぐらいは確かに有り得る話だと思った。だからこそターゲットとしてハチが選ばれたという可能性は多いにある。もしかすれば、昨今のナノボットの開発などの結果において、ハチという存在が重要となったから躍起になって探したのかもしれない。そうして見つけたハチを、ユーマが連れ帰る事が今回の任務であったと考えれば納得がいく。
それに、だとすれば敵対組織であるキュリアがハチを殺そうとしたことも納得がいく。だが何故ハチがユーマを同じように連れて行くことを依頼されていたのかは分からない。
「ま、俺達は逃げて、隠れて暮らすコトになった」
「もしかして、その時住んだのがこのあたりとか?」
「そのとおり。ここじゃないけどね。郊外なんて殆ど街の人間はこないし、組織の人間もよほど仕事が絡まないと来ないから。安心安全。ってことで、俺はココで暮らす事になった。もちろんその教育係の人を俺は世話することになるんだけど、別に大きな病気してたりもなかったから、結局俺は『自由に生きろ』なんて言われてさぁ。でも分かんないわけよ、そんなの。わかんないっしょ?」
問われてユーマは曖昧に頷いた。今なら分かる気がする。だが十歳頃の自分には全く分からない話だ。それに今だって、自由という言葉に憧れてはいるが、はたしてその本質を理解しているかと問われると疑問が残る。
「そんで、名前も変えようって言われたんだけど。俺はもうずっとハチって呼ばれてたから、そっちんが楽だし? このままでイイつって、そのまま。適当に皆ほら、割り振られた番号を名前にしてたからさぁ。俺は八番でハチね」
「なるほど、そういう事だったのか」
「ユーマはどうしてその名前になったの?」
「俺? 俺は……捨てられたけど、捨てられた時に名前が書いてあったらしい。捨てるような子に名前なんてつけるなよって思うケド。まぁ、それをそのままずっと呼ばれてきて、ずっとこのままだよ」
ユーマは少しハチの話が興味深かった。親に売られた子がいる、という事は知っているし、そういう子がどのように教育されるかも一応は理解している。だが他の組織の殺し屋とはさほど顔を合わせた事もないからよくは知らない。おそらく自分が異端であることは理解している。
「それで暫くしたら組織の方に引き取られて、今度は殺し屋としての教育を受けた。殺すことも大切だけどさ、そこに至るまでってのも大事じゃん?」
「あー……機械系とか、そういうやつ?」
「そそ。ハッキングとかも、補助ツール使って出来るぐらいには色々教えられて、まぁ、最後のテストはユーマのとこだったんだけど。そのあと組織で仕事してて、ずっと教育係みたいな人がいてさぁ。その人が引退するとかなんとかで、なんでか俺も一緒に連れて行かれたんだよね。それで俺は組織の外に出ました、おしまい」
そう言ってハチは両手を開いて、手の平をユーマに見せて言った。
「組織に居たのは十歳ぐらいまでだから、あんま記憶ないんだけどさぁ。その間に一応ナノボットの実験には使われてたわけよ。あれってほら、年齢問わずやってたじゃん?」
ユーマは頷いた。確かあの実験は様々な年代のデータが必要だということで、組織内の様々な人間を使って行われていた。だが殆どはユーマやハチのような殺し屋達であり、ある意味では替えの効くコマばかりが使われていた。主に青年と呼ばれる年代が、やはり一番使われていた気がした。だが多少の体力増強であったり、視力聴力といったものの強化はあれど、更に求めている結果は出せていなかった。
組織が得たかったのは、ナノボットによるほとんど死なない殺人者だ。さまざまな器官が強化されることも重要であるが、それ以上に重要なのは、怪我を負ってもすぐに治ること。もしくは、身体に傷を負わせられない強度を持った人間を造る事、にあった。
だからそれらのデータを書き換えるようにナノボットは投与された。しかし薬で副反応や副作用があるのと同じように。この人に効いたから自分にも効くだろうと投薬した薬が効果なかった時のように、ナノボットでの強化にも千差万別の結果が吐き出されていった。ユーマはまさに、身体的にはなにも効果のなかったタイプである。
「でもお前の成功を知っていたら、組織はそんな連れ出すなんて普通許さないだろう?」
「もちろん、許さないだろうね。俺はすぐには効果がなかった。ただ成長するにつれて効果は確かに出てたのよ。でもそれを知るのは俺と、その教育係の人だった。その人は俺を逃がそうと考えて、俺を連れ出したんだよね。でも普通に逃げ出すなんて無理じゃん? だからデータの改ざんをして、自分自身の衰えとか、そういうのを理由にして。実行に移すまで俺に世話をさせてさ。別にどこが悪いとか、病気だとかも無かったと思うんだけど。要するに芝居を打って、出る事に成功した。とはいえ、本当に組織は知らなかったのかも良くわからないけど。もしかしたら知っていて、敢えて逃がしたのかも知れないしね」
そのぐらいは確かに有り得る話だと思った。だからこそターゲットとしてハチが選ばれたという可能性は多いにある。もしかすれば、昨今のナノボットの開発などの結果において、ハチという存在が重要となったから躍起になって探したのかもしれない。そうして見つけたハチを、ユーマが連れ帰る事が今回の任務であったと考えれば納得がいく。
それに、だとすれば敵対組織であるキュリアがハチを殺そうとしたことも納得がいく。だが何故ハチがユーマを同じように連れて行くことを依頼されていたのかは分からない。
「ま、俺達は逃げて、隠れて暮らすコトになった」
「もしかして、その時住んだのがこのあたりとか?」
「そのとおり。ここじゃないけどね。郊外なんて殆ど街の人間はこないし、組織の人間もよほど仕事が絡まないと来ないから。安心安全。ってことで、俺はココで暮らす事になった。もちろんその教育係の人を俺は世話することになるんだけど、別に大きな病気してたりもなかったから、結局俺は『自由に生きろ』なんて言われてさぁ。でも分かんないわけよ、そんなの。わかんないっしょ?」
問われてユーマは曖昧に頷いた。今なら分かる気がする。だが十歳頃の自分には全く分からない話だ。それに今だって、自由という言葉に憧れてはいるが、はたしてその本質を理解しているかと問われると疑問が残る。
「そんで、名前も変えようって言われたんだけど。俺はもうずっとハチって呼ばれてたから、そっちんが楽だし? このままでイイつって、そのまま。適当に皆ほら、割り振られた番号を名前にしてたからさぁ。俺は八番でハチね」
「なるほど、そういう事だったのか」
「ユーマはどうしてその名前になったの?」
「俺? 俺は……捨てられたけど、捨てられた時に名前が書いてあったらしい。捨てるような子に名前なんてつけるなよって思うケド。まぁ、それをそのままずっと呼ばれてきて、ずっとこのままだよ」
9
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
今日も武器屋は閑古鳥
桜羽根ねね
BL
凡庸な町人、アルジュは武器屋の店主である。
代わり映えのない毎日を送っていた、そんなある日、艶やかな紅い髪に金色の瞳を持つ貴族が現れて──。
謎の美形貴族×平凡町人がメインで、脇カプも多数あります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった
パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】
陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け
社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。
太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め
明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。
【あらすじ】
晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。
それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/
メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
兄のやり方には思うところがある!
野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m
■■■
特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。
無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟
コメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる