不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

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二章:共助/共犯

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『まさか出るとは思わなかった。意外だ』
「どうせ位置情報ぐらい取ってるんでしょう。出ない選択をしても意味がないです」
『それもそうだが、ターゲットの彼は元気かい?』
 その言葉にユーマはハチを見た。今さら会話での心理戦なんてやるつもりはない。やったところで無駄だし、徒労に終わるだけだ。言いたいことを言ってしまって、相手の動きがある前に動くしかない。ここまで来たらやけくそだ、という気持ちもなくはない。だが少し悩む。
 ハチは首を傾げてユーマを見ていた。なんだか妙な気分だが意識を通話へと戻す。
「途中で、ターゲットは襲われました。俺も少し狙われたようだったが……あれは会長の差し金ですか?」
『まさか。そんなものを差し向けて俺に利益があると?』
「俺の仕事を失敗させることはできます。でも、そうなると組織としての利益はありませんけど」
『そう分かっているなら、そのとおりだ。ターゲットがいるのなら、すぐにつれてくればいい。それで時間は遅れているが……まぁ、妥協して一応は成功とみなしてあげよう。それで次のチャンスを待てばいい』

 溜息を吐いた。顔を片手で覆った。
「そう来るか」
 呟いた言葉はミナトにも聞こえただろうが気にしない。それにこの手は何度も喰らっている。その度に自分の自由は遠のき、また日常に引き戻される。どれもこれも失敗ではなかった。成功していた。だがどこかで難癖をつけられた。まるでクレーマーだと業を煮やしたユーマが声を上げると、ミナトは肩を竦めて笑っていた。自覚はあるようだった。
「一つ、確認したいことがあります会長」
『そう他人行儀に呼ばなくていいよ、ユーマ』
 甘ったるい声を無視してユーマはハチを見たまま続ける。
「ターゲットを狙った奴は、俺の予想ではキュリアの者じゃないかと思います」
「だけど、俺を雇ったのもキュリアだぜ?」
「え?」

 唐突にハチが口を開き、ユーマは思わず声を上げて言葉を止めた。
「どういうことだ、それ」
『何を話しているんだ、ユーマ』
「あ、いや……とにかく。ターゲットを狙ったのは現在の会長の一番の狙い。ナノボットの利権争いに関するものでしょう。ならばその相手の目的まで掴んでターゲットを連れて行きます。それで成功としていただけませんかね」
『それまでターゲットと共に行動すると? 馬鹿馬鹿しい。さっさと連れてこい。それとも情が沸いた?』
「まさか。それはないですよ。とにかく、気になるならシュンでも派遣して連れ戻せばいい」
『その時は容赦なくキミを半殺しにはするように伝えるけれど?』
「ご自由にどうぞ」
 そう言うとユーマは通話を終わらせた。同時にスマートフォンの電源を切る。そのままヘッドボードに投げると、ガタンと大きな音を立てた。

「さっきの、お前を雇ったのがキュリアってどういうことだ?」
「そのまま。俺はアンタを生かして連れてこいと言われた。キュリアの奴にね。でもあの時襲ってきた奴は知らない。例えばキュリアだとしても、なんで俺を襲ったのかさっぱり」
「お前はお前で使い捨てにしようとした? でもだったら最初から俺を狙ってアイツが来ればいいだけじゃないのか?」
「俺を殺すコトに意味があったとか? まぁ俺、そう簡単には死なないけど」
 べっと舌をだして言うとハチはユーマに近づいてキスをした。突然のことに思わず叩いて距離を取ろうとしたが、手を掴まれそのままベッドに押し倒される。舌をねじ込まれ、搦め取られる。小さな水音を立てながら咥内を貪られて、ユーマは少しだけ頭がぼうっとした。
 だがすぐに我に返り、顔を押しのけて唇を離す。どちらのものかも分からない唾液が糸を伸ばしてぷつりと切れる。
「とにかく俺は、お前を殺そうとした奴らの裏を調べたい。それにもう俺は組織に戻りたくはないんだよ、絶対。だから協力しろ」
「へぇ、突然の協力要請? じゃあ、俺の事雇う? ボディーガードにでも、性欲発散にでも」
「るさい。次変なこと言ったら頭撃ち抜いてやる。流石にお前でも頭撃ち抜かれたら死ぬだろ。それは再生が追いつかない筈だ」
「まぁそれはそうかな。流石に昔のコミックみたいな超人的回復なんて出来やしないからね」
 そう言うとハチはもう一度唇に音を立ててキスをして離れた。

「とりあえず、ソレ壊す?」
 ソレ、と指差されたのはヘッドボードのスマートフォンだ。電源を入れれば位置情報を取得されるだろう。電源を切っていれば安全という感じもあまりしない。とにかく今は手放してしまいたいので、壊すという選択肢はユーマにも確かにあった。
 頷いて少し上を見た。シーツに髪が擦れる音がして、ユーマはヘッドボードを視界に入れて呟いた。
「確かに……お前がいったいいくら欲しがるかは知らないけど、お前を雇うっていうのはいい手かもしれない」
「金は別に必要はないよ。面白そうだし、興味あるし。とりあえず、また抱かせてくれたらチャラでいいよ」
「はぁ?」
 視線をハチに戻すと同時にまたキスをして、すぐに離れられる。何を考えているのかユーマにはさっぱり分からなかった。
「それに……、俺をターゲットにしてたっていうのもちょっと興味がある。どうして俺がナノボットの実験体だったのかを知っているかってところとかね。俺も記憶がぼんやりしてるところがあるから、そこの穴埋めは多分、ユーマに着いていきゃ出来そうだ」
「お前がそれでいいなら、いいけど。お前が求めるような答えは無いかも知れないよ?」
「別にそれはそれでいいさ。別に最初から知りたいってほど必死なわけじゃないし。ただ今が面白い。その先に答えがあるかも知れないなら、サービス品みたいじゃん? 一個買ったら一個無料みたいな」
 軽く答えるハチにユーマは呆れたが、それでいいならいいと思う。
「契約成立ってことでいいのか?」
「いいよ」
 問いに即答したハチに対して、ユーマは溜息を吐きながらも自ら手を伸した。契約成立の同意とみなして、ユーマ自らキスをした。
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