12 / 61
二章:共助/共犯
2
しおりを挟む
『まさか出るとは思わなかった。意外だ』
「どうせ位置情報ぐらい取ってるんでしょう。出ない選択をしても意味がないです」
『それもそうだが、ターゲットの彼は元気かい?』
その言葉にユーマはハチを見た。今さら会話での心理戦なんてやるつもりはない。やったところで無駄だし、徒労に終わるだけだ。言いたいことを言ってしまって、相手の動きがある前に動くしかない。ここまで来たらやけくそだ、という気持ちもなくはない。だが少し悩む。
ハチは首を傾げてユーマを見ていた。なんだか妙な気分だが意識を通話へと戻す。
「途中で、ターゲットは襲われました。俺も少し狙われたようだったが……あれは会長の差し金ですか?」
『まさか。そんなものを差し向けて俺に利益があると?』
「俺の仕事を失敗させることはできます。でも、そうなると組織としての利益はありませんけど」
『そう分かっているなら、そのとおりだ。ターゲットがいるのなら、すぐにつれてくればいい。それで時間は遅れているが……まぁ、妥協して一応は成功とみなしてあげよう。それで次のチャンスを待てばいい』
溜息を吐いた。顔を片手で覆った。
「そう来るか」
呟いた言葉はミナトにも聞こえただろうが気にしない。それにこの手は何度も喰らっている。その度に自分の自由は遠のき、また日常に引き戻される。どれもこれも失敗ではなかった。成功していた。だがどこかで難癖をつけられた。まるでクレーマーだと業を煮やしたユーマが声を上げると、ミナトは肩を竦めて笑っていた。自覚はあるようだった。
「一つ、確認したいことがあります会長」
『そう他人行儀に呼ばなくていいよ、ユーマ』
甘ったるい声を無視してユーマはハチを見たまま続ける。
「ターゲットを狙った奴は、俺の予想ではキュリアの者じゃないかと思います」
「だけど、俺を雇ったのもキュリアだぜ?」
「え?」
唐突にハチが口を開き、ユーマは思わず声を上げて言葉を止めた。
「どういうことだ、それ」
『何を話しているんだ、ユーマ』
「あ、いや……とにかく。ターゲットを狙ったのは現在の会長の一番の狙い。ナノボットの利権争いに関するものでしょう。ならばその相手の目的まで掴んでターゲットを連れて行きます。それで成功としていただけませんかね」
『それまでターゲットと共に行動すると? 馬鹿馬鹿しい。さっさと連れてこい。それとも情が沸いた?』
「まさか。それはないですよ。とにかく、気になるならシュンでも派遣して連れ戻せばいい」
『その時は容赦なくキミを半殺しにはするように伝えるけれど?』
「ご自由にどうぞ」
そう言うとユーマは通話を終わらせた。同時にスマートフォンの電源を切る。そのままヘッドボードに投げると、ガタンと大きな音を立てた。
「さっきの、お前を雇ったのがキュリアってどういうことだ?」
「そのまま。俺はアンタを生かして連れてこいと言われた。キュリアの奴にね。でもあの時襲ってきた奴は知らない。例えばキュリアだとしても、なんで俺を襲ったのかさっぱり」
「お前はお前で使い捨てにしようとした? でもだったら最初から俺を狙ってアイツが来ればいいだけじゃないのか?」
「俺を殺すコトに意味があったとか? まぁ俺、そう簡単には死なないけど」
べっと舌をだして言うとハチはユーマに近づいてキスをした。突然のことに思わず叩いて距離を取ろうとしたが、手を掴まれそのままベッドに押し倒される。舌をねじ込まれ、搦め取られる。小さな水音を立てながら咥内を貪られて、ユーマは少しだけ頭がぼうっとした。
だがすぐに我に返り、顔を押しのけて唇を離す。どちらのものかも分からない唾液が糸を伸ばしてぷつりと切れる。
「とにかく俺は、お前を殺そうとした奴らの裏を調べたい。それにもう俺は組織に戻りたくはないんだよ、絶対。だから協力しろ」
「へぇ、突然の協力要請? じゃあ、俺の事雇う? ボディーガードにでも、性欲発散にでも」
「るさい。次変なこと言ったら頭撃ち抜いてやる。流石にお前でも頭撃ち抜かれたら死ぬだろ。それは再生が追いつかない筈だ」
「まぁそれはそうかな。流石に昔のコミックみたいな超人的回復なんて出来やしないからね」
そう言うとハチはもう一度唇に音を立ててキスをして離れた。
「とりあえず、ソレ壊す?」
ソレ、と指差されたのはヘッドボードのスマートフォンだ。電源を入れれば位置情報を取得されるだろう。電源を切っていれば安全という感じもあまりしない。とにかく今は手放してしまいたいので、壊すという選択肢はユーマにも確かにあった。
頷いて少し上を見た。シーツに髪が擦れる音がして、ユーマはヘッドボードを視界に入れて呟いた。
「確かに……お前がいったいいくら欲しがるかは知らないけど、お前を雇うっていうのはいい手かもしれない」
「金は別に必要はないよ。面白そうだし、興味あるし。とりあえず、また抱かせてくれたらチャラでいいよ」
「はぁ?」
視線をハチに戻すと同時にまたキスをして、すぐに離れられる。何を考えているのかユーマにはさっぱり分からなかった。
「それに……、俺をターゲットにしてたっていうのもちょっと興味がある。どうして俺がナノボットの実験体だったのかを知っているかってところとかね。俺も記憶がぼんやりしてるところがあるから、そこの穴埋めは多分、ユーマに着いていきゃ出来そうだ」
「お前がそれでいいなら、いいけど。お前が求めるような答えは無いかも知れないよ?」
「別にそれはそれでいいさ。別に最初から知りたいってほど必死なわけじゃないし。ただ今が面白い。その先に答えがあるかも知れないなら、サービス品みたいじゃん? 一個買ったら一個無料みたいな」
軽く答えるハチにユーマは呆れたが、それでいいならいいと思う。
「契約成立ってことでいいのか?」
「いいよ」
問いに即答したハチに対して、ユーマは溜息を吐きながらも自ら手を伸した。契約成立の同意とみなして、ユーマ自らキスをした。
「どうせ位置情報ぐらい取ってるんでしょう。出ない選択をしても意味がないです」
『それもそうだが、ターゲットの彼は元気かい?』
その言葉にユーマはハチを見た。今さら会話での心理戦なんてやるつもりはない。やったところで無駄だし、徒労に終わるだけだ。言いたいことを言ってしまって、相手の動きがある前に動くしかない。ここまで来たらやけくそだ、という気持ちもなくはない。だが少し悩む。
ハチは首を傾げてユーマを見ていた。なんだか妙な気分だが意識を通話へと戻す。
「途中で、ターゲットは襲われました。俺も少し狙われたようだったが……あれは会長の差し金ですか?」
『まさか。そんなものを差し向けて俺に利益があると?』
「俺の仕事を失敗させることはできます。でも、そうなると組織としての利益はありませんけど」
『そう分かっているなら、そのとおりだ。ターゲットがいるのなら、すぐにつれてくればいい。それで時間は遅れているが……まぁ、妥協して一応は成功とみなしてあげよう。それで次のチャンスを待てばいい』
溜息を吐いた。顔を片手で覆った。
「そう来るか」
呟いた言葉はミナトにも聞こえただろうが気にしない。それにこの手は何度も喰らっている。その度に自分の自由は遠のき、また日常に引き戻される。どれもこれも失敗ではなかった。成功していた。だがどこかで難癖をつけられた。まるでクレーマーだと業を煮やしたユーマが声を上げると、ミナトは肩を竦めて笑っていた。自覚はあるようだった。
「一つ、確認したいことがあります会長」
『そう他人行儀に呼ばなくていいよ、ユーマ』
甘ったるい声を無視してユーマはハチを見たまま続ける。
「ターゲットを狙った奴は、俺の予想ではキュリアの者じゃないかと思います」
「だけど、俺を雇ったのもキュリアだぜ?」
「え?」
唐突にハチが口を開き、ユーマは思わず声を上げて言葉を止めた。
「どういうことだ、それ」
『何を話しているんだ、ユーマ』
「あ、いや……とにかく。ターゲットを狙ったのは現在の会長の一番の狙い。ナノボットの利権争いに関するものでしょう。ならばその相手の目的まで掴んでターゲットを連れて行きます。それで成功としていただけませんかね」
『それまでターゲットと共に行動すると? 馬鹿馬鹿しい。さっさと連れてこい。それとも情が沸いた?』
「まさか。それはないですよ。とにかく、気になるならシュンでも派遣して連れ戻せばいい」
『その時は容赦なくキミを半殺しにはするように伝えるけれど?』
「ご自由にどうぞ」
そう言うとユーマは通話を終わらせた。同時にスマートフォンの電源を切る。そのままヘッドボードに投げると、ガタンと大きな音を立てた。
「さっきの、お前を雇ったのがキュリアってどういうことだ?」
「そのまま。俺はアンタを生かして連れてこいと言われた。キュリアの奴にね。でもあの時襲ってきた奴は知らない。例えばキュリアだとしても、なんで俺を襲ったのかさっぱり」
「お前はお前で使い捨てにしようとした? でもだったら最初から俺を狙ってアイツが来ればいいだけじゃないのか?」
「俺を殺すコトに意味があったとか? まぁ俺、そう簡単には死なないけど」
べっと舌をだして言うとハチはユーマに近づいてキスをした。突然のことに思わず叩いて距離を取ろうとしたが、手を掴まれそのままベッドに押し倒される。舌をねじ込まれ、搦め取られる。小さな水音を立てながら咥内を貪られて、ユーマは少しだけ頭がぼうっとした。
だがすぐに我に返り、顔を押しのけて唇を離す。どちらのものかも分からない唾液が糸を伸ばしてぷつりと切れる。
「とにかく俺は、お前を殺そうとした奴らの裏を調べたい。それにもう俺は組織に戻りたくはないんだよ、絶対。だから協力しろ」
「へぇ、突然の協力要請? じゃあ、俺の事雇う? ボディーガードにでも、性欲発散にでも」
「るさい。次変なこと言ったら頭撃ち抜いてやる。流石にお前でも頭撃ち抜かれたら死ぬだろ。それは再生が追いつかない筈だ」
「まぁそれはそうかな。流石に昔のコミックみたいな超人的回復なんて出来やしないからね」
そう言うとハチはもう一度唇に音を立ててキスをして離れた。
「とりあえず、ソレ壊す?」
ソレ、と指差されたのはヘッドボードのスマートフォンだ。電源を入れれば位置情報を取得されるだろう。電源を切っていれば安全という感じもあまりしない。とにかく今は手放してしまいたいので、壊すという選択肢はユーマにも確かにあった。
頷いて少し上を見た。シーツに髪が擦れる音がして、ユーマはヘッドボードを視界に入れて呟いた。
「確かに……お前がいったいいくら欲しがるかは知らないけど、お前を雇うっていうのはいい手かもしれない」
「金は別に必要はないよ。面白そうだし、興味あるし。とりあえず、また抱かせてくれたらチャラでいいよ」
「はぁ?」
視線をハチに戻すと同時にまたキスをして、すぐに離れられる。何を考えているのかユーマにはさっぱり分からなかった。
「それに……、俺をターゲットにしてたっていうのもちょっと興味がある。どうして俺がナノボットの実験体だったのかを知っているかってところとかね。俺も記憶がぼんやりしてるところがあるから、そこの穴埋めは多分、ユーマに着いていきゃ出来そうだ」
「お前がそれでいいなら、いいけど。お前が求めるような答えは無いかも知れないよ?」
「別にそれはそれでいいさ。別に最初から知りたいってほど必死なわけじゃないし。ただ今が面白い。その先に答えがあるかも知れないなら、サービス品みたいじゃん? 一個買ったら一個無料みたいな」
軽く答えるハチにユーマは呆れたが、それでいいならいいと思う。
「契約成立ってことでいいのか?」
「いいよ」
問いに即答したハチに対して、ユーマは溜息を吐きながらも自ら手を伸した。契約成立の同意とみなして、ユーマ自らキスをした。
12
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる