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一章:終わりの始まり
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ドアを開けると音の洪水が襲ってくる。人の会話さえ聞き取りにくい騒音に思わずユーマは顔を顰めた。
ドアが閉まると音量はぐんと上がったように感じる。単純に外に逃げ道が無くなった音がフロアの中に閉じ込められたから、そう聞こえるだけだ。
バーカウンターへ向かって歩いて行く。
その間にも多くの人たちが音に身体を揺らし、時には身体を密着させていた。
ユーマに対して値踏みするような視線を向ける男も女もいた。だがどれも気にすることもなく、ユーマは目的の場所に着くとテーブルをコンコンと指先で二回叩いた。
女性店員が近づいて来るとメニューにもあるレッドアイを注文する。その言葉の終わりにもう一度指先でテーブルを叩いた。
視線がユーマの指先に向けられる。女性店員はオーダーを受けて戻ると、手早くドリンクを作りに掛る。
その間、ユーマは周りを見ていた。
この店は街の中でも一番人が集まる人気の店だ。そして一つのフロアも広く上階もある。
上に上がれば上がるほど音は大人しくなるし、数階上はパスがなければ入れないようになっている。
下の階は一般向けだが、上の階は上がれば上がるほど、ようするに金がいる。
「お待たせいたしました」
声が聞こえて振り返ると、先ほどの女性店員が赤い液体の入ったグラスを差し出した。
そのグラスを手に取る時、ユーマは少しだけ身を乗り出した。
女性店員も顔を近づけると、耳元に唇を近づけて小さく「三階へ」と囁く。
「ありがとう」
テーブルの上にカクテルの値段よりも少し多い札を出してそのまま立ち去る。
人混みに流されながら、一口二口と喉を潤し歩いていく。時々ユーマに声をかけようとした男がいた。
声がした方を見てユーマはにこりともせずに視線をそらし先を急ぐ。
そうして向かった階段を見て、溜息を吐いて歩いて行く。
エレベーターはスタッフ用にしかなくて、客は面倒ながらも階段を上がるしかない。
一階上がると簡易のボディチェックやIDチェックがはいり、次の階へと向かう。
二階の入口でスーツをきた屈強な男がユーマを止めた。
IDスキャン用の端末を男は翳した。ユーマの顔が映るようにカメラを向けて男は表示されるデータを読み取る。
「それは意味あるの?」
ユーマが問うと、男は少しだけ笑う。
「周りへのアピールですよ」
そう言って男はユーマを通した。
このビルはユーマの所属する組織・ハデウスの経営するクラブであり、上階はバーラウンジとなっている。
賑やかで且つ人の出入りが多いクラブが入口となっているのは、上階へ入る際の目くらましともいえる。果たして本当にその役割を担えているのかユーマはよく知らないが、興味もなかった。
二階に入ってしまえばエレベーターがある。だがどうせ用があるのは三階なので、そのまま階段を登ることにした。
一段上がる前に手にしていたグラスの中身を一口飲んだ。
アルコールは得意というほどではないが、飲めないというわけではない。
それ故、このバーでの注文商品を選ぶ時に何にするか悩んだ。結局選んだのはボスであるミナトだった。
色が綺麗だからユーマに似合う。そう言ったのを不意に思い出して苦い顔をしてユーマは階段を登り始めた。
トマトジュースとビールで割ったカクテルは赤い色をしている。
それは血の色だ。
登りきってフロアに入る前にも、また男が一人居た。
ユーマは立ち止まってグラスの中身を全て飲み干すと男に渡した。
「いる?」
ユーマが短く問うと、男は小さく頷いた。
ターゲットがいる。
お膳立てはバッチリということだ。
いつもどおり、だが、殺さないように。
ユーマは仕事を始めることにした。
ドアが閉まると音量はぐんと上がったように感じる。単純に外に逃げ道が無くなった音がフロアの中に閉じ込められたから、そう聞こえるだけだ。
バーカウンターへ向かって歩いて行く。
その間にも多くの人たちが音に身体を揺らし、時には身体を密着させていた。
ユーマに対して値踏みするような視線を向ける男も女もいた。だがどれも気にすることもなく、ユーマは目的の場所に着くとテーブルをコンコンと指先で二回叩いた。
女性店員が近づいて来るとメニューにもあるレッドアイを注文する。その言葉の終わりにもう一度指先でテーブルを叩いた。
視線がユーマの指先に向けられる。女性店員はオーダーを受けて戻ると、手早くドリンクを作りに掛る。
その間、ユーマは周りを見ていた。
この店は街の中でも一番人が集まる人気の店だ。そして一つのフロアも広く上階もある。
上に上がれば上がるほど音は大人しくなるし、数階上はパスがなければ入れないようになっている。
下の階は一般向けだが、上の階は上がれば上がるほど、ようするに金がいる。
「お待たせいたしました」
声が聞こえて振り返ると、先ほどの女性店員が赤い液体の入ったグラスを差し出した。
そのグラスを手に取る時、ユーマは少しだけ身を乗り出した。
女性店員も顔を近づけると、耳元に唇を近づけて小さく「三階へ」と囁く。
「ありがとう」
テーブルの上にカクテルの値段よりも少し多い札を出してそのまま立ち去る。
人混みに流されながら、一口二口と喉を潤し歩いていく。時々ユーマに声をかけようとした男がいた。
声がした方を見てユーマはにこりともせずに視線をそらし先を急ぐ。
そうして向かった階段を見て、溜息を吐いて歩いて行く。
エレベーターはスタッフ用にしかなくて、客は面倒ながらも階段を上がるしかない。
一階上がると簡易のボディチェックやIDチェックがはいり、次の階へと向かう。
二階の入口でスーツをきた屈強な男がユーマを止めた。
IDスキャン用の端末を男は翳した。ユーマの顔が映るようにカメラを向けて男は表示されるデータを読み取る。
「それは意味あるの?」
ユーマが問うと、男は少しだけ笑う。
「周りへのアピールですよ」
そう言って男はユーマを通した。
このビルはユーマの所属する組織・ハデウスの経営するクラブであり、上階はバーラウンジとなっている。
賑やかで且つ人の出入りが多いクラブが入口となっているのは、上階へ入る際の目くらましともいえる。果たして本当にその役割を担えているのかユーマはよく知らないが、興味もなかった。
二階に入ってしまえばエレベーターがある。だがどうせ用があるのは三階なので、そのまま階段を登ることにした。
一段上がる前に手にしていたグラスの中身を一口飲んだ。
アルコールは得意というほどではないが、飲めないというわけではない。
それ故、このバーでの注文商品を選ぶ時に何にするか悩んだ。結局選んだのはボスであるミナトだった。
色が綺麗だからユーマに似合う。そう言ったのを不意に思い出して苦い顔をしてユーマは階段を登り始めた。
トマトジュースとビールで割ったカクテルは赤い色をしている。
それは血の色だ。
登りきってフロアに入る前にも、また男が一人居た。
ユーマは立ち止まってグラスの中身を全て飲み干すと男に渡した。
「いる?」
ユーマが短く問うと、男は小さく頷いた。
ターゲットがいる。
お膳立てはバッチリということだ。
いつもどおり、だが、殺さないように。
ユーマは仕事を始めることにした。
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