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10.エピローグ

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静寂に包まれた寝室。ベッドサイドのオレンジ色のライトだけが灯された薄暗い洋間のベッドの上で拓海は目を醒ました。
香澄との最初の交わりの後、拓海は急に全身が脱力し、そのまま倒れ込むようにして眠ってしまったのだ。
覚醒してすぐの拓海はまだ不鮮明な意識のまま、しばらくの間天井をじっと見つめていたが、ようやくここが姉のマンションの寝室であることを思い出す。ハッとして隣を見ると、そこにいるはずの香澄がいなかった。
慌てて上半身を起こして周囲を見回したが、この部屋には人の気配はまったくない。
その空虚くうきょな光景を目の当たりにした拓海は、ドクンッと心臓が跳ね上がり、不安の奔流ほんりゅうが押し寄せた。早鐘はやがねのように鼓動が激しく打ち、唇がわなわなと震え始め、悪寒が全身に広がっていく。
そして確信じみた予感が脳裏をよぎった。
香澄が自分の前から跡形もなく消えてしまった。もう彼女には一生会えないのだ。胸が内側から食い破られるような痛みと喪失感が湧き上がり、過酷な現実に耐えきれなくなった拓海は胸に手を当てて絶叫した。
「香澄!!」
海の底のような沈黙に包まれた部屋に、虚しい咆哮ほうこうが響き渡り、拓海は絶望でその場にうずくまる。
「どうしたの、拓海?」
突然、拓海の耳に困惑したような女の声が届く。
ガバっと顔を上げると、入り口のドアが開いていて、煌々こうこうとした灯りが室内に差し込んでいた。
四角く切り取られた光の扉にはバスタオルを体に巻いた香澄が怪訝な顔で立っていた。
「か、香澄、ど、どこに行ってたの?」
拓海がしどろもどろになりながら尋ねると、香澄はバスタオルが落ちないように小股で歩み寄りながら首を傾げる。
「お風呂に決まってんじゃん。この格好見てわからないの?大丈夫?なんか苦しそうだけど」
香澄はベッドに腰掛けると、苦痛に顔を歪める拓海の額に手のひらを当て、自分の額と比べた。拓海はようやくそこで自分の予感が杞憂きゆうだったことに悟り、安堵のため息を漏らす。
「香澄が僕の前からいなくなったような気がして……もう一生会えない気がして……僕は香澄を離したくない……」
節目がちにつぶやくと、拓海は香澄の華奢な背中を強く抱きしめた。香澄は肩に回された拓海の腕を撫でながら微笑む。
「ふふっ、大丈夫だよ。もうあたしは拓海だけのモノになっちゃったから……一生離れられなくなっちゃった……かも」



拓海はベッドに横たわり、ボンヤリと薄暗い天井を見つめていた。隣にはバスタオルを巻いた香澄が横たわっている。
彼女は拓海の胸板に手のひらを当てて、愛おしげに撫でながら、口を開いた。
「本当はね、過去に縛られてたのはあたしなんだ。弱虫なのもあたしなの。だから拓海からずっと逃げてた……」
「うん……」
拓海は突然の告白に驚いたが、迷いのない声音で話す香澄を邪魔しないようにただ相槌を打つ。
「あたし、不安だったの。拓海と結ばれたら将来ママみたいに拓海のことを裏切って傷つけるんじゃないかって……」
「香澄も僕と同じだったんだね……」
「うん、あたしたちは二人とも過去に縛られてた。でもあたしとはちょっと違うの……」
「違うって?」
「拓海と違ってあたしの体は我慢できないほど拓海を求めてたから……でもあたしの心は拓海を求めることはできなかった……体は拓海を求めているのに心は拓海を突き放してるって感じ。えっと、こういうのってなんていうんだっけ?」
「ジレンマかな?」
「ああ、それそれ。そう、あたしは常にジレンマを抱えてたから……男を知りたかったってのはただの口実で……本当は体のうずきをしずめるために……」
香澄は不意に口をつぐんで顔をしかめ、大きなため息をつく。拓海は彼女の思いを察し、何も言わずに天井を見つめていたが、突然何かを思いついたように、香澄のほうに視線を向けた。
「あ、そうか。それで僕にあんなメールを送ったのか……」
「うん、あたしは拓海が我慢できなくなって、あたしを求めてくれればすべてが解決すると思ってたの。でもそんなの意味がないってことも薄々わかってたんだ……」
香澄は拓海のまっすぐな視線から逃れるように視線を落とす。拓海も目を伏せ、自分の過ちを思い出しながらポツリとつぶやく。
「……それじゃあ、心が置き去りだもんね」
香澄は拓海の瞳をまっすぐに見据えながらうなずいた。
「そう、だからあたしはジレンマを終わらせるために、今日を最後に拓海のことはスッパリ諦めようと思ったの。それで拓海のいないどこか遠くに行くのもいいかなってね……」
「香澄……」
香澄の密かな決意を知り、拓海は絶句する。そんな彼を一瞥し、香澄は苦笑した。
「でもあたし、拓海としたら余計に諦められなくなっちゃた。あたし今日ね、もう一生拓海だけでいいって心から思えたの。終わった後も胸が熱いままで、冷たくならないなんて初めてだった……幸せってこういう気持ちなんだろうなって……」
香澄は拓海への想いをしみじみと語っていたが、ふいに沈んだ声になる。
「……でもあたし、まだ不安なんだ。いつかママみたいになっちゃうんじゃないかって……家族の幸せを壊しちゃう最低な女になっちゃうかもって……」
拓海は胸板に当てられた香澄の手に自分の手を重ねた。
「僕もその気持ちわかるよ。でも今は僕は香澄とずっと一緒にいたい。過去はどうであれ、結局は今の気持ちが大事だと思う。香澄は今、どう思ってる?」
「そんなの決まってんじゃん……あたしだって、拓海と……」
香澄は恥ずかしげに口ごもる。拓海は香澄の手を強く握り、もう一度自分の気持ちをハッキリと告げた。
「香澄、僕の恋人になって欲しい。そしていつか結……」
「ダメ、ちょっと待って!」
急に声を荒げて言葉を遮る香澄。拓海は険しい表情の彼女を見て、振られた男のような間の抜けた顔のまま固まってしまう。そんな彼に香澄は慌てて首を振り、弁解した。
「……拓海ったらプロポーズまでしようとするんだもん。そういうのはちゃんとムードつくって感動する場面でしないとダメなんだから!」
香澄は語気を強めてそう言うと、頬を染めて拓海の腕にしがみついた。バスタオル越しの乳房の感触に拓海が気を取られていると、思い出したように香澄が声を上げた。
「あ、でもあたしの彼氏になったら拓海、大変かも……」
「大変って何?」
拓海が問い返すと、香澄は無邪気な少女のような笑みを浮かべる。
「うふふっ、もうわかってると思うけど、あたし、性欲がすごく強いの。エッチも頻繁にしたくなると思うんだ……拓海、出しすぎて干からびちゃうかも」
「ちょっと怖いけど……一応それも覚悟してる。それに僕、香澄に負けないくらい性欲が強いみたいだから……今だって香澄にくっつかれただけで……」
拓海はゆっくりと下半身に視線を向けた。香澄は身体を起こし、嬉しそうにそこに触った。
「きゃはっ、あんなに出したのにもうこんなに元気になってるぅ。ちょうどあたしも拓海ともっとしたいなって思ってたところなの。あたしたち体の相性バッチリだね♪」
巻いていたバスタオル外して、全裸の素肌を晒しながら香澄が顔に喜色きしょくを浮かべる。拓海はその魅惑的な肢体に無意識に手を伸ばす。
「あぅん……拓海のエッチぃ、うふっ、拓海ってあたしのお尻、大好きだよね。それに、もう我慢できないって顔してるぅ」
「う、うん……我慢できないっ、香澄の中にコレを入れたくて仕方ないんだ……」
「へへへ……拓海、あたしに夢中過ぎぃ。それじゃあ、今度はあたしが上になるね♪」
嬉しそうにはにかむと、香澄は拓海に腰にまたがった。そして肉棒を握って恥裂にギュッとあてがうと、ゆっくりと腰を下ろしていく。拓海のペニスが香澄の膣口にズブズブとめり込んでいき、吐息とうめきがあふれ出る。
「うぅ……はぁっ、ん、くうぅぅ……は、入ったぁ……うふっ、やっぱり拓海のコレ、いいなあ。あたしの身体の中からあったかくしてくれる。好きだよ、拓海……あたしのそばにずっといてね……」
拓海を純粋無垢な少女のように澄んだ瞳で見下ろしながら愛の言葉を告げると、香澄は幸せそうに腰を振り始める。拓海は結合部から広がる甘やかな快感に身を委ねながら、これから一生をともに歩んでいく女の子を穏やかな顔で見守っていた。


―終わり―

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