おれは忍者の子孫

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雑賀重清の目標

第462話:おかえりなさい

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「ねぇあんた。大丈夫?」
ボロボロの体で横たわる美影に、琴音は声をかけた。

言葉からはそうと感じられないが、その声からは自身に対する優しさに似たものを美影は感じていた。

「えぇ、一応ね。まさか、あなたに心配されるとは思っていなかったけど」
美影は強がりながらも痛む体を無理に起こして小さく琴音へと笑っていた。

「その・・・なんか、色々とごめんね」
琴音はそう言いながら、美影へと頭を下げた。

「なによ、それ。男の『ゴメン』じゃあるまいし。
謝りたいなら、ちゃんと謝りなさい」
頭を下げる琴音に、美影は冷たくそう言って琴音を見つめていた。

「あなたを襲って、ごめんなさい」
「それでいいわ。許してあげる」

「え、そ、そんな簡単に許していいの?」
美影の言葉に、琴音は狼狽えてそう返していた。

「あなたも重清のことが好きなんでしょう?
それならばあれは、女同士のいくさ。負けた私が弱かっただけよ。まぁ、今ならばあなたとも十分に戦える自信はあるけれど」
「残念ね。私にはもう、あなたと戦える力は無いわ。もう、忍者ではないから」

「そのようね」
琴音からほとんど忍力を感じられないことに気付いていた美影は、そう言ってその美しい顔に小さな笑みを浮かべていた。

「それにしても―――」
美影の美しい微笑みにしばし目を奪われた琴音は、気を取り直して口を開いた。

「まさかあの男允行があなたを襲うなんて思わなかった。それも、謝るわ」
「いいえ。あれは私から仕掛けたから」

「お父さんの仇、だったわね」
琴音の言葉に、美影は小さく頷く。

「もう過去のものになりつつあった父の死のことを聞かされて、冷静ではいられなかったわ」
「まぁ、あの男のことなら、きっと重清君達が代わりに復讐してくれるわよ」

「えぇ、そうね・・・」
美影が琴音にそう答えながら浮かべる曖昧な表情に、琴音が首を傾げていると。

「あ、元の場所だ」
そんな呑気な声と同時に、先程まで居なかった重清達が、突如その場に姿を現した。

「美影っ!大丈夫!?」
呑気な声を出していた重清は、傷を負った美影を目にして駆け寄った。

「えぇ、なんとかね。それより重清、おかえりなさい」
「あ、うん。ただいま。良かったよ、美影が無事で」
そう言って小さく笑った重清は、琴音へと目を向ける。

「えっと・・・琴音ちゃんは、大丈夫?」
「心配してくれてありがとう、重清君。私も大丈夫。
それよりも、あいつは?」
重清へと答えた琴音は、その場に唯一戻っていない允行を探すように辺りを見回していた。

「あの人は・・・」
聡太が呟くように言いながら美影へと目を向け、言葉をつまらせた。

「死んじゃったよ」
聡太の言葉に続くように、重清があっけらかんと琴音の言葉へと答えた。

「そう。もしかして、あなた達が?」
不安気な表情を浮かべる美影の言葉に重清は、

「ううん。あの人、自分で契約破棄したんだ。不老不死の力を失ったあの人は、そのまま・・・」
ゴメン、という言葉を出しそうになりながらもそれだけを答えていた。

美影にとっては父の仇である允行に一矢報いることなく、ただその死を見送った重清は、美影にどんな言葉を投げかけていいのか分からなかったのだ。

しかしそんな重清の想いは、美影の言葉によって救われることとなった。

「・・・良かった。あなた達があの男を殺したわけじゃないのね」
「良かった?」
美影が小さく微笑むと、重清は不思議そうに美影を見つめていた。

「あの男の言うことがどこまで事実かはわからない。お父様は、私にとっては優しい父だったから。
もちろん、今もそんな父を殺したあの男は憎いわ。
だけど、それであなた達が、重清がその手を血に染めることも、私には耐えられない」
肩を小さく震えさせながらも強い眼差しで重清を、美影は見つめ返していた。

「美影・・・・」

自身の允行に対する強い想いがあるにも関わらず自分たちのことまで考えていた美影に、重清は心を打たれていた。

それは、聡太や恒久、茜も同様であった。

近藤だけは、

(もう終わったんだから帰ってもいいよな?
ってか、あの美影って女、可愛いな)
と、1人呟いていた。

チー(だからモテないのね、この近藤って子)
カー(女心ってもんがわかってねぇよな)
プレ(え、オイラももう帰りたいんだけど?)
ロイ(ほっほっほ。プレッソもまだまだ子どもじゃのう)
プレ(まぁ、ジジババほど長く生きてねぇからな)
チーロイ(ジジババ言うなっ!!)

具現獣達の会話など知る由もない重清達は、美影の想いに心打たれながらも、同時に罪悪感にも似た感情を抱いていた。

((((言えない。允行の最期がどうたったかなんて、言えないっ!!))))

彼らの心は、1つになっていた。

允行の最期

それは、重清達が美影琴音の元へと戻ってくる少し前のことであった。
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