おれは忍者の子孫

メバ

文字の大きさ
上 下
494 / 519
雑賀重清の目標

第444話:青臭い討論

しおりを挟む
「何をそんなに驚いている?」
足元に倒れる美影に、允行は目を落とした。

「お父様が、契約忍者を―――」
「何を言うか。貴様も以前は、そうであったではないか。
よく思い出してみろ。貴様が、貴様ら姉弟が、なぜ雑賀日立の思想を素直に受け入れたのかを。
貴様らの父、雑賀兵衛蔵がいたからではないのか?」 
允行の言葉に、美影は沈黙した。

美影には、父の記憶は僅かしか残ってはいない。
いつも優しげに微笑む父の顔を思い出しながらも、美影は必死に記憶の糸を辿っていた。

確かにあの優しかった父が、日立の激しい思想を否定するとこはなかった。
父自身がその思想について語ったことは無かったが、それでも父は、よく美影達姉弟を日立の元へと向かわせていた。

それは、日立の思想を美影達に刷り込むためだったのではないか。

そんな想いが、美影の中に渦巻いていた。

「だからって!!」
その時、重清が叫んだ。

「仮にそうだったとしても、殺す必要なんてなかったじゃないか!」
そう言った重清は、美影へと視線を向けた。

「美影!お前のお父さんがどんな考えだったかなんておれは知らない!
だけど、どんな思想を持っていたからって、殺されていいヤツなんているわけないんだよ!」
「重清・・・」
重清の言葉に、美影は涙を浮かべて頷いた。

「あんたもあんただよ!」
美影に笑いかけた重清は、允行を睨みつけた。

「いくらなんでも、殺さなくてもいいじゃないか!
忍者は他にもたくさんいる!
みんなで止めれば、どんな悪い思想だってきっと―――」

「お前は何も分かっていない」
重清の言葉を、允行は遮った。

「たかだか十数年しか生きておらんお前に何が分かる?
数百年。私は数百年もの間、貴様ら忍者と、人を見てきた」
「・・・数百年・・・」
允行の言葉に、聡太が小さく呟いていた。

「根来トウに代わって学び舎に足を運ぶようになって、さらに強く感じた。人は、弱いものだと。
学校というのは、本当に面白い。あれはまさに、世の縮図だ。
弱い者同士が群れ、そしてさらに弱い者をいじめる。

弱いからこそ群れをなして多数派マジョリティとなり、自身よりも弱い少数派マイノリティを見つけ出し、徒党を組んでイジメ抜き、それによって自身が強者だと勘違いする。
その勘違いに縋ろうとすることこそが、人の弱さを色濃く表している。

人とは、本当に弱い者だ」
允行はそう言って、小さく笑っていた。

「本当に、そうでしょうか」
その時、聡太が蚊の鳴くような声で呟いた。

「・・・聡太と言ったか。何が言いたい?」
允行の鋭い視線をものともせず、聡太は強い眼差しで允行を見つめ返した。

「人は、それほど弱くはないと思います。
ぼくも、昔はいじめられていました。
多分、母親が居なかったから。だけど、そんなぼくを、シゲは助けてくれました!」
そう叫んだ聡太に、恒久が言葉を続けた。

「シゲはバカだからな。多数派とか少数派とか関係ねぇんだよ」
「え、おれ褒められてるの?貶されてるの?」
恒久の言葉に不満そうに呟く重清を無視して、恒久は続ける。

「それになぁ、あんたの言う少数派だって、いいもんだぜ?
俺らの中学には1人、いわゆる少数派ってやつがいるんだけどよぉ」
そう言いながら恒久は、2中忍者部1年生でありショウの妹、ユウの顔を思い描いた。

「あいつは、確かに少し、みんなとは違う。だけどなぁ、そんなことなんか気にせずに、あいつは逞しく生きてんだ。
あんなに強いヤツ、そうそういねぇんだよ!」
恒久は允行へと叫んだ。

「それに―――」
恒久を押しのけて、茜が前へと進み出た。

「わたしたちは、そんなあの子を決して見放したりなんかしない!むしろ、女として見習うべきところがあるくらいよ!
いくら長く生きてるからって、あんたの尺度で人を語らないで!」
「いや、むしろお前はもっとユウから女のなんたるかを学べよ」
ボソリとつっこむ恒久を盛大にぶん殴る茜を見つめ、允行が笑みを浮かべた。

「若い。若いな、お前たちは。やはりなにも分かってはいない」
允行はじっと茜を見据えた。

「確かに、人の中にはお前たちのような強い心を持つ者がいることは認めよう。
しかし、それはごく僅かだ。
少数派は、決して多数派には敵わない。
短い生しか過ごしておらぬお前たちには、そのことが分からないだけだ」

「あぁもうっ!!」
允行の言葉を聞いていた重清が、突然叫んだ。

「多数派とか少数派とか、バカじゃないの!?
悪いことを考えるやつが多数派なんだったら、それを少数派にするのが、教育なんじゃないの!?
そのためにノリさんやじいちゃん達は頑張ってるんだろ!?
あんただって教師やってんだから、それくらい分かるだろ!?」
重清のその言葉に、允行は僅かながら沈黙した。

「・・・ふっ」
そして小さく笑った允行は、重清達を見つめた。

「もう良い。ここへお前達を呼んだのは、こんな青臭い討論をするためではない」
允行はそう言って、足元の美影の襟を掴み、持ち上げた。

「さっさと始めようではないか。忍者終焉の儀を」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

処理中です...