おれは忍者の子孫

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雑賀重清の目標

第441話:少女の決意

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「琴音ちゃん!?」
入り口に立つ少女の姿に、重清が叫んだ。

(どいつもこいつも、見計らったように入り口から現れやがって)
いつもならば大声でつっこむ恒久も、このシリアスな場においては心の中でそっとつっこんでいた。

そんな恒久の気遣いなど知る由もなく、琴音は重清に小さく微笑みかけると、茜の前まで歩み寄り、じっと茜を見つめた。

「あなた・・・何しに来たのよ?」
静かに言う茜に、琴音は小さく口角を上げた。

「何って、道案内よ。あの男允行が呼んでいるわ。そろそろ術も揃った頃だろうってね。
ま、私を差し向けたのはそれ以外にも理由があるみたいだけど」
そう言った琴音は、自身の肩にカラスを具現化させた。

琴音の具現獣、カラスのカーちゃんは、悲しげな瞳を主へと向けていた。

「鳥の具現獣が必要なんでしょ?
私の具現獣、カーちゃんと契約させてあげるわ」
「ちょっと待ったぁっ!!」
琴音の言葉に、重清が立ち上がった。

「そのカラスは、琴音ちゃんの具現獣なんだろ!?
そいつが茜と契約したら!琴音ちゃんは忍者の力を失うんだよ!?」
「そんなこと、別に構わない」
琴音は強い意志のこもった瞳で重清を見つめ、その場にいたドウ達に目を向けた。

「私はあの人達とは違う。忍者を消したいと言いながら、自分達だけは力を残そうとするあの人達とは。
私は、忍者が居なくなるならばこんな力、惜しくもなんともない。それに―――」
そう言った琴音は、茜を見つめた。

「あなたには借りもあるし」
「借り?」
琴音の言葉に、茜は首を傾げていた。

茜にとっては貸しなどと少しも思っていない出来事ではあったが、琴音にはその出来事が鮮明に脳裏に焼き付いていた。

1年前の中忍体を終えたあの日。

琴音は、後悔していた。

1中忍者部顧問、風魔ロキの命によって重清へと近づいていた琴音は、いつしか重清の事が頭から離れなくなっていた。

そんな重清を騙し続けることに、琴音は後ろめたさを感じていた。
重清の好意を利用する、そんな最低な行為に、琴音は自身が見えなくなり始めていた。

そんな自分から逃れるように、琴音は重清を騙し続けた。

『みんなの為に』

中忍体で勝つために、自分は心に蓋をして頑張っているんだと自分に言い聞かせることで、琴音は平静を保っていた。

結果として1中は2中に勝つことができたが、琴音とってもはやそんなことはどうでも良くなっていた。

自身な好意を寄せる重清を騙し、尊敬していた先輩である麻耶からも軽蔑の眼差しを向けられた。

そんな琴音は、ただ後悔をその胸に抱えて、あの公園に向かった。

中忍体の前日、まだ騙されているとも知らない重清が、おそらく告白するために琴音を呼んでいた公園。

騙した相手に今更告白するはずなどないと、心の中では分かっていながらも、琴音の足は何故かその公園に向かっていた。

来るはずもない相手を待って、独りベンチに座っている時には目に入ったのが、茜であった。

『女を武器にした』などと言って叩かれた頬の痛みを思い出しながら、琴音はじっと茜を見つめていた。

尊敬する麻耶とすぐに意気投合していた茜に、琴音は少なからず嫉妬の念を抱いていた。

しかしそんな茜は、琴音の姿を見つけるとすぐにスマホを取り出していた。

重清君に連絡するんだ。

琴音は即座にそう思った。

連絡を受けた重清は、きっとこの場に来るだろうと、琴音は思っていた。

しかし、一体どんな顔をして重清に会えばいいのか、琴音には分からなかった。

重清君なら、きっと許してくれる。

そう思った瞬間、琴音は自身に嫌悪した。

相手が許せばそれでいいのか。
自分自身のことは許すことができるのか。

そう思った時には、琴音は茜を見つめ、首を横に振っていた。

それに気が付いた茜は、寂しそうな顔でスマホをポケットにしまうと、そのままその場を去った。

これでいいんだ。

琴音は小さく呟いた。

あの娘のおかげで重清君と会えるなんて、ううん。もしかしたら付き合えるかもしれない。
でも、そんなの絶対に嫌。

琴音の精一杯の強がりだった。

結果として琴音は、独り家路についた。

自身をこんな目に合わせた、忍者への憎しみを抱いて。

しかし後日、一度契約を破棄して記憶を無くしていた琴音は、ドウとの契約によって再び記憶を取り戻し、自身のその感情を恥じた。

ただの八つ当たりであることに気が付いたのだ。

でも・・・

琴音は考えた。
もう今までの関係のまま、重清君に会うことなんて出来ない。

だったら私は、重清君の敵になる。

そうすれば、きっと重清君とも会うことが出来る。

琴音は、味方に誘うドウの言葉に強く頷いていた。

おかげで琴音は再び、重清と何食わぬ顔で対面することが出来た。

会いたかった重清な、また会えるようにしてくれたのは、紛れもなく、あの時重清を呼ぶことを思いとどまった茜のお陰だと、琴音は思っていたのであった。
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