491 / 519
雑賀重清の目標
第441話:少女の決意
しおりを挟む
「琴音ちゃん!?」
入り口に立つ少女の姿に、重清が叫んだ。
(どいつもこいつも、見計らったように入り口から現れやがって)
いつもならば大声でつっこむ恒久も、このシリアスな場においては心の中でそっとつっこんでいた。
そんな恒久の気遣いなど知る由もなく、琴音は重清に小さく微笑みかけると、茜の前まで歩み寄り、じっと茜を見つめた。
「あなた・・・何しに来たのよ?」
静かに言う茜に、琴音は小さく口角を上げた。
「何って、道案内よ。あの男が呼んでいるわ。そろそろ術も揃った頃だろうってね。
ま、私を差し向けたのはそれ以外にも理由があるみたいだけど」
そう言った琴音は、自身の肩にカラスを具現化させた。
琴音の具現獣、カラスのカーちゃんは、悲しげな瞳を主へと向けていた。
「鳥の具現獣が必要なんでしょ?
私の具現獣、カーちゃんと契約させてあげるわ」
「ちょっと待ったぁっ!!」
琴音の言葉に、重清が立ち上がった。
「そのカラスは、琴音ちゃんの具現獣なんだろ!?
そいつが茜と契約したら!琴音ちゃんは忍者の力を失うんだよ!?」
「そんなこと、別に構わない」
琴音は強い意志のこもった瞳で重清を見つめ、その場にいたドウ達に目を向けた。
「私はあの人達とは違う。忍者を消したいと言いながら、自分達だけは力を残そうとするあの人達とは。
私は、忍者が居なくなるならばこんな力、惜しくもなんともない。それに―――」
そう言った琴音は、茜を見つめた。
「あなたには借りもあるし」
「借り?」
琴音の言葉に、茜は首を傾げていた。
茜にとっては貸しなどと少しも思っていない出来事ではあったが、琴音にはその出来事が鮮明に脳裏に焼き付いていた。
1年前の中忍体を終えたあの日。
琴音は、後悔していた。
1中忍者部顧問、風魔ロキの命によって重清へと近づいていた琴音は、いつしか重清の事が頭から離れなくなっていた。
そんな重清を騙し続けることに、琴音は後ろめたさを感じていた。
重清の好意を利用する、そんな最低な行為に、琴音は自身が見えなくなり始めていた。
そんな自分から逃れるように、琴音は重清を騙し続けた。
『みんなの為に』
中忍体で勝つために、自分は心に蓋をして頑張っているんだと自分に言い聞かせることで、琴音は平静を保っていた。
結果として1中は2中に勝つことができたが、琴音とってもはやそんなことはどうでも良くなっていた。
自身な好意を寄せる重清を騙し、尊敬していた先輩である麻耶からも軽蔑の眼差しを向けられた。
そんな琴音は、ただ後悔をその胸に抱えて、あの公園に向かった。
中忍体の前日、まだ騙されているとも知らない重清が、おそらく告白するために琴音を呼んでいた公園。
騙した相手に今更告白するはずなどないと、心の中では分かっていながらも、琴音の足は何故かその公園に向かっていた。
来るはずもない相手を待って、独りベンチに座っている時には目に入ったのが、茜であった。
『女を武器にした』などと言って叩かれた頬の痛みを思い出しながら、琴音はじっと茜を見つめていた。
尊敬する麻耶とすぐに意気投合していた茜に、琴音は少なからず嫉妬の念を抱いていた。
しかしそんな茜は、琴音の姿を見つけるとすぐにスマホを取り出していた。
重清君に連絡するんだ。
琴音は即座にそう思った。
連絡を受けた重清は、きっとこの場に来るだろうと、琴音は思っていた。
しかし、一体どんな顔をして重清に会えばいいのか、琴音には分からなかった。
重清君なら、きっと許してくれる。
そう思った瞬間、琴音は自身に嫌悪した。
相手が許せばそれでいいのか。
自分自身のことは許すことができるのか。
そう思った時には、琴音は茜を見つめ、首を横に振っていた。
それに気が付いた茜は、寂しそうな顔でスマホをポケットにしまうと、そのままその場を去った。
これでいいんだ。
琴音は小さく呟いた。
あの娘のおかげで重清君と会えるなんて、ううん。もしかしたら付き合えるかもしれない。
でも、そんなの絶対に嫌。
琴音の精一杯の強がりだった。
結果として琴音は、独り家路についた。
自身をこんな目に合わせた、忍者への憎しみを抱いて。
しかし後日、一度契約を破棄して記憶を無くしていた琴音は、ドウとの契約によって再び記憶を取り戻し、自身のその感情を恥じた。
ただの八つ当たりであることに気が付いたのだ。
でも・・・
琴音は考えた。
もう今までの関係のまま、重清君に会うことなんて出来ない。
だったら私は、重清君の敵になる。
そうすれば、きっと重清君とも会うことが出来る。
琴音は、味方に誘うドウの言葉に強く頷いていた。
おかげで琴音は再び、重清と何食わぬ顔で対面することが出来た。
会いたかった重清な、また会えるようにしてくれたのは、紛れもなく、あの時重清を呼ぶことを思いとどまった茜のお陰だと、琴音は思っていたのであった。
入り口に立つ少女の姿に、重清が叫んだ。
(どいつもこいつも、見計らったように入り口から現れやがって)
いつもならば大声でつっこむ恒久も、このシリアスな場においては心の中でそっとつっこんでいた。
そんな恒久の気遣いなど知る由もなく、琴音は重清に小さく微笑みかけると、茜の前まで歩み寄り、じっと茜を見つめた。
「あなた・・・何しに来たのよ?」
静かに言う茜に、琴音は小さく口角を上げた。
「何って、道案内よ。あの男が呼んでいるわ。そろそろ術も揃った頃だろうってね。
ま、私を差し向けたのはそれ以外にも理由があるみたいだけど」
そう言った琴音は、自身の肩にカラスを具現化させた。
琴音の具現獣、カラスのカーちゃんは、悲しげな瞳を主へと向けていた。
「鳥の具現獣が必要なんでしょ?
私の具現獣、カーちゃんと契約させてあげるわ」
「ちょっと待ったぁっ!!」
琴音の言葉に、重清が立ち上がった。
「そのカラスは、琴音ちゃんの具現獣なんだろ!?
そいつが茜と契約したら!琴音ちゃんは忍者の力を失うんだよ!?」
「そんなこと、別に構わない」
琴音は強い意志のこもった瞳で重清を見つめ、その場にいたドウ達に目を向けた。
「私はあの人達とは違う。忍者を消したいと言いながら、自分達だけは力を残そうとするあの人達とは。
私は、忍者が居なくなるならばこんな力、惜しくもなんともない。それに―――」
そう言った琴音は、茜を見つめた。
「あなたには借りもあるし」
「借り?」
琴音の言葉に、茜は首を傾げていた。
茜にとっては貸しなどと少しも思っていない出来事ではあったが、琴音にはその出来事が鮮明に脳裏に焼き付いていた。
1年前の中忍体を終えたあの日。
琴音は、後悔していた。
1中忍者部顧問、風魔ロキの命によって重清へと近づいていた琴音は、いつしか重清の事が頭から離れなくなっていた。
そんな重清を騙し続けることに、琴音は後ろめたさを感じていた。
重清の好意を利用する、そんな最低な行為に、琴音は自身が見えなくなり始めていた。
そんな自分から逃れるように、琴音は重清を騙し続けた。
『みんなの為に』
中忍体で勝つために、自分は心に蓋をして頑張っているんだと自分に言い聞かせることで、琴音は平静を保っていた。
結果として1中は2中に勝つことができたが、琴音とってもはやそんなことはどうでも良くなっていた。
自身な好意を寄せる重清を騙し、尊敬していた先輩である麻耶からも軽蔑の眼差しを向けられた。
そんな琴音は、ただ後悔をその胸に抱えて、あの公園に向かった。
中忍体の前日、まだ騙されているとも知らない重清が、おそらく告白するために琴音を呼んでいた公園。
騙した相手に今更告白するはずなどないと、心の中では分かっていながらも、琴音の足は何故かその公園に向かっていた。
来るはずもない相手を待って、独りベンチに座っている時には目に入ったのが、茜であった。
『女を武器にした』などと言って叩かれた頬の痛みを思い出しながら、琴音はじっと茜を見つめていた。
尊敬する麻耶とすぐに意気投合していた茜に、琴音は少なからず嫉妬の念を抱いていた。
しかしそんな茜は、琴音の姿を見つけるとすぐにスマホを取り出していた。
重清君に連絡するんだ。
琴音は即座にそう思った。
連絡を受けた重清は、きっとこの場に来るだろうと、琴音は思っていた。
しかし、一体どんな顔をして重清に会えばいいのか、琴音には分からなかった。
重清君なら、きっと許してくれる。
そう思った瞬間、琴音は自身に嫌悪した。
相手が許せばそれでいいのか。
自分自身のことは許すことができるのか。
そう思った時には、琴音は茜を見つめ、首を横に振っていた。
それに気が付いた茜は、寂しそうな顔でスマホをポケットにしまうと、そのままその場を去った。
これでいいんだ。
琴音は小さく呟いた。
あの娘のおかげで重清君と会えるなんて、ううん。もしかしたら付き合えるかもしれない。
でも、そんなの絶対に嫌。
琴音の精一杯の強がりだった。
結果として琴音は、独り家路についた。
自身をこんな目に合わせた、忍者への憎しみを抱いて。
しかし後日、一度契約を破棄して記憶を無くしていた琴音は、ドウとの契約によって再び記憶を取り戻し、自身のその感情を恥じた。
ただの八つ当たりであることに気が付いたのだ。
でも・・・
琴音は考えた。
もう今までの関係のまま、重清君に会うことなんて出来ない。
だったら私は、重清君の敵になる。
そうすれば、きっと重清君とも会うことが出来る。
琴音は、味方に誘うドウの言葉に強く頷いていた。
おかげで琴音は再び、重清と何食わぬ顔で対面することが出来た。
会いたかった重清な、また会えるようにしてくれたのは、紛れもなく、あの時重清を呼ぶことを思いとどまった茜のお陰だと、琴音は思っていたのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる