479 / 519
雑賀重清の目標
第429話:雅も恐れる
しおりを挟む
声のした家の方へと茜が目を向けると、中から老婆が姿を現した。
腰は曲がり、杖に身を任せてフラフラと、そしてゆっくりと歩きながら出てきた老婆は、茜が少し力を込めただけでも倒れそうなほどに弱々しい印象を茜に与えた。
「おかしいねぇ。今、『まだ生きていやがった』と聞こえたような気がしたんじゃが・・・」
首を傾げながらそう言う老婆に、いつも不遜な雅の態度が一変した。
「いえいえ、滅相もございませんよ都様!『起きておられたのか』と言っただけですよ!」
そう慌てたように言う雅を、茜は驚きの目で、見つめていた。
相手が誰であろうとも、決してへりくだることの無いあの雅が、これほどまでに下手にでているのだ。
弟子の茜にとっても、雅のその姿は初めてのことなのであった。
そんな弟子の様子に気が付いた雅は、茜へと近付いてそっと耳打ちをした。
(あれは甲賀本家の先々代当主、都様だよ。齢100をゆうに超える化け物さ。それに―――)
「あれまぁ。人前で内職話だなんて関心しないねぇ。それに・・・最近耳が遠くなったかねぇ。『化け物』だなんて聞こえた気がしたけどねぇ」
弟子への耳打ちを遮るように言う都の言葉に、雅は背筋を伸ばして姿勢を正した。
「まさか!まだまだお元気そうで、何よりだと言っていただけですよ!」
「そうかい?それにしても雅ちゃん、相変わらず礼儀がなっていないねぇ。こういう場合、まずは目上である私に弟子の紹介をするのが筋ってもんじゃないかねぇ」
(バッチリ全部聞こえてんじゃないかい!このクソババアがっ!)
「『クソババア』ぁ??」
(心の声まで聞こえてんのかいっ!!)
雅の心を見透かすように鋭い視線を送る都に、雅は心の中でつっこんだ。
あの雅が、つっこんだのである。
普段の傍若無人さから恐れを知らない者につっこまれることはあっても、つっこむことは殆ど無いあの雅が、である。
そんな雅を嘲笑うかのように、都は小さく首を振った。
「まぁ、雅ちゃんの礼儀がなっていないのは、今に始まっまたことじゃないけどねぇ。それで、そっちの子があんたの初めての弟子ってわけかい?」
そう言いながら都は、茜へと視線を注いだ。
突然自身に向けられた視線に、茜は姿勢を正して一礼した。
「は、はいっ!申し遅れました!わたしは、雑賀雅の弟子、甲賀アカと申します!」
そんな茜に、満足そうに頷きながら都は茜へと微笑んだ。
「雅ちゃんの弟子にしては、しっかりした子じゃないかい。雅ちゃん、良い子を捕まえたねぇ」
そう言った都の表情が、急に厳しいものとなって雅に向けられた。
「それで雅ちゃん。ウチのバカ孫がおかしな事を言っていたようじゃが・・・」
そう言いながら睨みつける都の視線に、以蔵は身を縮こませた。
「甲賀に伝わる術が欲しいなどと、本気で言っておるわけじゃあるまいね?」
都の冷たい視線に体を強張らせながらも、雅はじっと、都を見つめ返し、
「いいえ、本気です」
そう、都へと返した。
「ほっほっほ。雅ちゃんともあろう者が、自分の力で敵を屠ろうともせず、敵の言う事をただ聞くつもりなのかい?」
「・・・・・・・・」
都の言葉に雅は押し黙り、チラリと茜に目を向けて微笑んだ。
「もう、あたしが出しゃばる時代じゃないんですよ、都様。
後のことは、弟子や孫に任せたいと、そう思っているんです」
雅がそう言うと、都はじっと雅の瞳を見つめ、笑った。
「雅ちゃん、大人になったねぇ」
大人っていうか、もう婆さんだけどな。
その場に恒久が居たならば確実にそうつっこみたくなるような事を言いながら、都は母親のような表情で雅に笑みを向けた。
「あんたがそう言うんなら、私も考えてあげなくもないけどねぇ・・・」
都はそう言って、茜へと目を向けた。
これまで1度たりとも弟子を取ろうとすらしなかった雑賀雅が初めて弟子にした少女に、都は興味が湧いていた。
出言不遜、無礼千万、高慢無礼。
そんな言葉を欲しいままにするあの雑賀雅の弟子とは思えぬほどに純粋で、礼儀正しいその少女を見つめていた都は、その眼差しを鋭いそれへと変えた。
「アカ、といったかねぇ。雅ちゃんが未来を託したあんたの力。私に見せてもらおうかねぇ」
都の相手を射殺すかのような視線に怯みながらも対峙する茜の横で、
(はぁ。そうきたかい。まぁ、あたしが相手させられなくて良かったけど)
と、雅は師とは思えぬほど身勝手なことを考えながら、小さくため息をつくのであった。
腰は曲がり、杖に身を任せてフラフラと、そしてゆっくりと歩きながら出てきた老婆は、茜が少し力を込めただけでも倒れそうなほどに弱々しい印象を茜に与えた。
「おかしいねぇ。今、『まだ生きていやがった』と聞こえたような気がしたんじゃが・・・」
首を傾げながらそう言う老婆に、いつも不遜な雅の態度が一変した。
「いえいえ、滅相もございませんよ都様!『起きておられたのか』と言っただけですよ!」
そう慌てたように言う雅を、茜は驚きの目で、見つめていた。
相手が誰であろうとも、決してへりくだることの無いあの雅が、これほどまでに下手にでているのだ。
弟子の茜にとっても、雅のその姿は初めてのことなのであった。
そんな弟子の様子に気が付いた雅は、茜へと近付いてそっと耳打ちをした。
(あれは甲賀本家の先々代当主、都様だよ。齢100をゆうに超える化け物さ。それに―――)
「あれまぁ。人前で内職話だなんて関心しないねぇ。それに・・・最近耳が遠くなったかねぇ。『化け物』だなんて聞こえた気がしたけどねぇ」
弟子への耳打ちを遮るように言う都の言葉に、雅は背筋を伸ばして姿勢を正した。
「まさか!まだまだお元気そうで、何よりだと言っていただけですよ!」
「そうかい?それにしても雅ちゃん、相変わらず礼儀がなっていないねぇ。こういう場合、まずは目上である私に弟子の紹介をするのが筋ってもんじゃないかねぇ」
(バッチリ全部聞こえてんじゃないかい!このクソババアがっ!)
「『クソババア』ぁ??」
(心の声まで聞こえてんのかいっ!!)
雅の心を見透かすように鋭い視線を送る都に、雅は心の中でつっこんだ。
あの雅が、つっこんだのである。
普段の傍若無人さから恐れを知らない者につっこまれることはあっても、つっこむことは殆ど無いあの雅が、である。
そんな雅を嘲笑うかのように、都は小さく首を振った。
「まぁ、雅ちゃんの礼儀がなっていないのは、今に始まっまたことじゃないけどねぇ。それで、そっちの子があんたの初めての弟子ってわけかい?」
そう言いながら都は、茜へと視線を注いだ。
突然自身に向けられた視線に、茜は姿勢を正して一礼した。
「は、はいっ!申し遅れました!わたしは、雑賀雅の弟子、甲賀アカと申します!」
そんな茜に、満足そうに頷きながら都は茜へと微笑んだ。
「雅ちゃんの弟子にしては、しっかりした子じゃないかい。雅ちゃん、良い子を捕まえたねぇ」
そう言った都の表情が、急に厳しいものとなって雅に向けられた。
「それで雅ちゃん。ウチのバカ孫がおかしな事を言っていたようじゃが・・・」
そう言いながら睨みつける都の視線に、以蔵は身を縮こませた。
「甲賀に伝わる術が欲しいなどと、本気で言っておるわけじゃあるまいね?」
都の冷たい視線に体を強張らせながらも、雅はじっと、都を見つめ返し、
「いいえ、本気です」
そう、都へと返した。
「ほっほっほ。雅ちゃんともあろう者が、自分の力で敵を屠ろうともせず、敵の言う事をただ聞くつもりなのかい?」
「・・・・・・・・」
都の言葉に雅は押し黙り、チラリと茜に目を向けて微笑んだ。
「もう、あたしが出しゃばる時代じゃないんですよ、都様。
後のことは、弟子や孫に任せたいと、そう思っているんです」
雅がそう言うと、都はじっと雅の瞳を見つめ、笑った。
「雅ちゃん、大人になったねぇ」
大人っていうか、もう婆さんだけどな。
その場に恒久が居たならば確実にそうつっこみたくなるような事を言いながら、都は母親のような表情で雅に笑みを向けた。
「あんたがそう言うんなら、私も考えてあげなくもないけどねぇ・・・」
都はそう言って、茜へと目を向けた。
これまで1度たりとも弟子を取ろうとすらしなかった雑賀雅が初めて弟子にした少女に、都は興味が湧いていた。
出言不遜、無礼千万、高慢無礼。
そんな言葉を欲しいままにするあの雑賀雅の弟子とは思えぬほどに純粋で、礼儀正しいその少女を見つめていた都は、その眼差しを鋭いそれへと変えた。
「アカ、といったかねぇ。雅ちゃんが未来を託したあんたの力。私に見せてもらおうかねぇ」
都の相手を射殺すかのような視線に怯みながらも対峙する茜の横で、
(はぁ。そうきたかい。まぁ、あたしが相手させられなくて良かったけど)
と、雅は師とは思えぬほど身勝手なことを考えながら、小さくため息をつくのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
〜復讐〜 精霊に愛された王女は滅亡を望む
蘧饗礪
ファンタジー
人間が大陸を統一し1000年を迎える。この記念すべき日に起こる兇変。
生命の頂点に君臨する支配者は、何故自らが滅びていくのか理解をしない。
転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。
そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。
しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。
世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。
そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。
そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。
「イシュド、学園に通ってくれねぇか」
「へ?」
そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。
※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。
国から見限られた王子が手に入れたのは万能無敵のS級魔法〜使えるのは鉱石魔法のみだけど悠々自適に旅をします〜
登龍乃月
ファンタジー
「どうしてこうなった」
十歳のある日、この日僕は死ぬ事が決定した。
地水火風四つの属性を神とする四元教、そのトップであり、四元教を母体とする神法国家エレメンタリオの法皇を父とする僕と三人の子供。
法皇の子供は必ず四ツ子であり、それぞれが四つの元素に対応した魔法の適性があり、その適性ランクはSクラスというのが、代々続く絶対不変の決まり事だった。
しかし、その決まり事はこの日破られた。
破ったのは僕、第四子である僕に出るはずだった地の適性ランクSが出なかった。
代わりに出たのは鉱石魔法という、人権の無い地の派生魔法のランクS。
王家の四子は地でなければ認められず、下位互換である派生魔法なんて以ての外。
僕は王族としてのレールを思い切り踏み外し、絶対不変のルールを逸脱した者として、この世に存在してはならない存在となった。
その時の僕の心境が冒頭のセリフである。
こうした経緯があり、僕としての存在の抹消、僕は死亡したということになった。
そしてガイアスという新しい名前を授けられた上で、僕は王族から、王宮から放逐されたのだった。
しかしながら、派生魔法と言えど、ランクSともなればとんでもない魔法だというのが分かった。
生成、複製、精錬、創造なども可能で、鉱石が含まれていればそれを操る事も出来てしまうという規格外な力を持っていた。
この話はそんな力を持ちつつも、平々凡々、のどかに生きていきたいと思いながら旅をして、片手間に女の子を助けたり、街を救ったり世界を救ったりする。
そんなありふれたお話である。
---------------------
カクヨムと小説家になろうで投稿したものを引っ張ってきました!
モチベに繋がりますので、感想や誤字報告、エールもお待ちしています〜
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情
ayame
ファンタジー
気がつけば乙女ゲームとやらに転生していた前世アラサーの私。しかもポジションはピンクの髪のおバカなヒロイン。……あの、乙女ゲームが好きだったのは私じゃなく、妹なんですけど。ゴリ押ししてくる妹から話半分に聞いていただけで私は門外漢なんだってば! え?王子?攻略対象?? 困ります、だって私、貧乏男爵家を継がなきゃならない立場ですから。嫁になんか行ってられません、欲しいのは従順な婿様です! それにしてもこの領地、特産品が何もないな。ここはひとつ、NGO職員として途上国支援をしてきた前世の知識を生かして、王国一の繁栄を築いてやろうじゃないの!
男爵家に引き取られたヒロインポジの元アラサー女が、恋より領地経営に情熱を注ぐお話。(…恋もたぶんある、かな?)
※現在10歳※攻略対象は中盤まで出番なし※領地経営メイン※コメ返は気まぐれになりますがそれでもよろしければぜひ。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる