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新学期と
第404話:当主戦、閉幕
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平八との別れを終え、重清の視界が真っ白い光に包まれた次の瞬間、
「重清、どうしたんだ?急にぼうっとして」
重清の耳に公弘のそんな声が聞こえてきた。
「へ?」
重清が辺りを見回すと、公弘や裕二、そして両親や親戚一同と美影の視線が重清へと注がれていた。
「あ、ごめん。何か色々、驚いちゃって」
重清は誤魔化すように公弘へと答え、目の前の雅へと目を向けた。
(ふぅ。これで、私の最期の仕事は終わったかな)
雅の目の前に突然現れた朧げな姿の平八が、雅にしか見えない笑顔を妻へと向けた。
(・・・・あの術にこんな効果があるなんて、聞いていなかったんだけどね)
雅以外は誰も平八の姿に反応していないことから、雅にしか見えていないこの平八の姿が『今際の際の術』によるものだと理解した雅は、じっと平八を見つめていた。
(最後のサプライズ、かな?あの術は、1人では使えないからね。最後に、そのもう1人の術者と話せるようにしておいたんだ。嫌だったかい?)
(そんな訳ないさ。こうしてまた平八と話せるのに、嫌だなんて思うわけあるもんかい)
(それはよかった。雅のおかげで、重清ともゆっくり話すことが出来たよ。あの子、私達が思っていた以上に今後が楽しみだよ)
(平八、向こうであの子と手合わせしたね?重清の力の練度、さっきまでとは見違えてるよ)
(まぁ、ちょっとだけね)
(重清、よく心が折れなかったね)
(え?なんのこと?)
雅の言葉に、平八は不思議そうに雅を見つめていた。
(まったく。平八は少し、自分の強さを理解した方がいいよ)
(え?ちゃんと理解しているつもりなんだけどな。まぁ、それはいいか。それより雅、私はもう行くよ)
(なんだい。もう少しゆっくりしていけばいいのに)
(そういうわけにもいかなくてね。もうあの術に込めた忍力は尽きてしまったからね)
(そうかい。まぁ、あたしもそれほど長くかからず、そっちに行くから待っているんだね)
(それは困るなぁ。ちゃんと重清の、そして孫達の成長を見守ってもらわないと)
(ふん。あたしを残して先に逝ったあんたに、言われたくはないね)
(それを言われると弱いな)
平八は苦笑いを浮かべて、雅をじっと見つめた。
(雅、いつまでも愛しているよ。これからのこと、よろしく頼むね)
(あたしも、愛しているよ。向こうで浮気なんかしたら、承知しないからね?)
そう返された雅の言葉にニコリと笑い返した平八は、そのままスッと、その姿を消した。
「ばあちゃん?」
一筋の涙を流す雅に、重清が声をかける。
「あぁ、すまないね」
平八の姿を1人見送った雅は重清の声に涙をぬぐい、一同を見渡した。
「とにかく、これでウチのこれからの当主は重清に決まった。あとのことはあたしと重清で話を進めていくつもりだが、今日のところはここで解散にしようかい。皆、色々と他に予定があるみたいだからね」
「しゃぁ!じゃぁ俺、彼女にプロポーズするから帰るね!」
雅の言葉に即座に反応した裕二は、すぐに踵を返して雅の作ったこの空間の出口へと走り出した。
「あぁ、裕二、それから公弘。あんた達2人には、勝ちあがった祝いを何か渡したいんだがね」
雅の言葉を聞いた裕二は足を止めて雅へと向き直った。
「だったら俺は、『嫁入り忍術シリーズ』の命名権をくれよ」
裕二の言葉に、雅は怪訝な顔を浮かべた。
「そんなことでいいのかい?しかし、なんで―――」
「なんでじゃないよ。今の時代に『嫁入り』とか古い!今は男女関係なく家事をやる時代なんだ!今後あのシリーズは『ご家庭お助け忍術シリーズ』に変更することを希望するよ!じゃ!」
裕二はそれだけ言い放って扉に触れ、そのまま雅の作った空間を出ていくのであった。
「まったく、慌ただしいね。それで、公弘はどうするんだい?」
大事な用に向かう孫を優しい眼差しで見送った雅は、公弘へと眼を向けた。
「俺?俺はじいちゃんが教師として残した記録なんかを貰えればいいよ。個人情報抜きのやつね」
「そうかい。あんた達兄弟は、どこまでも自分のやりたい事に貪欲だね」
(ま、その辺はばあちゃんに似たんだけどな)
公弘は雅の言葉に心の中で呟きつつ、曖昧な笑みだけを返した。
「あの~、おれには?おれにはその『祝い』ってやつないの?」
重清が、そう言って雅に手を挙げた。
「何言ってるんだい。重清には、後日当主就任祝いに、あたしがたっぷり修行わつけてやるよ」
「いや、おれだけ罰ゲームなんですけど」
「何か言ったかい?」
「はいはい、なんでもないですよー。もう、ばあちゃんの修行でもなんでも、かかってこいってんだ」
「重清、頑張れよ」
いつの間にかマキネッタから猫の姿へと戻っていたプレッソが、重清にニヤニヤ顔を向けると、
「プレッソ、もちろんあんたにも修行を受けてもらうよ。末席とはいえ、当主の具現獣に相応しい強さを身に着けてもらわないといけないからね」
雅は当たり前のようにプレッソへと告げた。
「うそぉ~ん・・・」
雅の言葉に落ち込むプレッソに重清は、
(だってさ。ま、じいちゃんとの手合わせに比べたら、そんなにキツくないから大丈夫だって)
そう、心の中でプレッソに語りかけた。
(重清!?平八との手合わせって何!?)
そんな重清の言葉に、チーノが食って掛かった。
(あー、後で説明するから)
重清がチーノへと答えていると、雅が一同を見渡した。
「とにかく、今日のところはこれで解散だよ。みんな、ご苦労だったね」
そんな雅の宣言により、雑賀末席当主争奪戦は、幕を閉じるのであった。
「重清、どうしたんだ?急にぼうっとして」
重清の耳に公弘のそんな声が聞こえてきた。
「へ?」
重清が辺りを見回すと、公弘や裕二、そして両親や親戚一同と美影の視線が重清へと注がれていた。
「あ、ごめん。何か色々、驚いちゃって」
重清は誤魔化すように公弘へと答え、目の前の雅へと目を向けた。
(ふぅ。これで、私の最期の仕事は終わったかな)
雅の目の前に突然現れた朧げな姿の平八が、雅にしか見えない笑顔を妻へと向けた。
(・・・・あの術にこんな効果があるなんて、聞いていなかったんだけどね)
雅以外は誰も平八の姿に反応していないことから、雅にしか見えていないこの平八の姿が『今際の際の術』によるものだと理解した雅は、じっと平八を見つめていた。
(最後のサプライズ、かな?あの術は、1人では使えないからね。最後に、そのもう1人の術者と話せるようにしておいたんだ。嫌だったかい?)
(そんな訳ないさ。こうしてまた平八と話せるのに、嫌だなんて思うわけあるもんかい)
(それはよかった。雅のおかげで、重清ともゆっくり話すことが出来たよ。あの子、私達が思っていた以上に今後が楽しみだよ)
(平八、向こうであの子と手合わせしたね?重清の力の練度、さっきまでとは見違えてるよ)
(まぁ、ちょっとだけね)
(重清、よく心が折れなかったね)
(え?なんのこと?)
雅の言葉に、平八は不思議そうに雅を見つめていた。
(まったく。平八は少し、自分の強さを理解した方がいいよ)
(え?ちゃんと理解しているつもりなんだけどな。まぁ、それはいいか。それより雅、私はもう行くよ)
(なんだい。もう少しゆっくりしていけばいいのに)
(そういうわけにもいかなくてね。もうあの術に込めた忍力は尽きてしまったからね)
(そうかい。まぁ、あたしもそれほど長くかからず、そっちに行くから待っているんだね)
(それは困るなぁ。ちゃんと重清の、そして孫達の成長を見守ってもらわないと)
(ふん。あたしを残して先に逝ったあんたに、言われたくはないね)
(それを言われると弱いな)
平八は苦笑いを浮かべて、雅をじっと見つめた。
(雅、いつまでも愛しているよ。これからのこと、よろしく頼むね)
(あたしも、愛しているよ。向こうで浮気なんかしたら、承知しないからね?)
そう返された雅の言葉にニコリと笑い返した平八は、そのままスッと、その姿を消した。
「ばあちゃん?」
一筋の涙を流す雅に、重清が声をかける。
「あぁ、すまないね」
平八の姿を1人見送った雅は重清の声に涙をぬぐい、一同を見渡した。
「とにかく、これでウチのこれからの当主は重清に決まった。あとのことはあたしと重清で話を進めていくつもりだが、今日のところはここで解散にしようかい。皆、色々と他に予定があるみたいだからね」
「しゃぁ!じゃぁ俺、彼女にプロポーズするから帰るね!」
雅の言葉に即座に反応した裕二は、すぐに踵を返して雅の作ったこの空間の出口へと走り出した。
「あぁ、裕二、それから公弘。あんた達2人には、勝ちあがった祝いを何か渡したいんだがね」
雅の言葉を聞いた裕二は足を止めて雅へと向き直った。
「だったら俺は、『嫁入り忍術シリーズ』の命名権をくれよ」
裕二の言葉に、雅は怪訝な顔を浮かべた。
「そんなことでいいのかい?しかし、なんで―――」
「なんでじゃないよ。今の時代に『嫁入り』とか古い!今は男女関係なく家事をやる時代なんだ!今後あのシリーズは『ご家庭お助け忍術シリーズ』に変更することを希望するよ!じゃ!」
裕二はそれだけ言い放って扉に触れ、そのまま雅の作った空間を出ていくのであった。
「まったく、慌ただしいね。それで、公弘はどうするんだい?」
大事な用に向かう孫を優しい眼差しで見送った雅は、公弘へと眼を向けた。
「俺?俺はじいちゃんが教師として残した記録なんかを貰えればいいよ。個人情報抜きのやつね」
「そうかい。あんた達兄弟は、どこまでも自分のやりたい事に貪欲だね」
(ま、その辺はばあちゃんに似たんだけどな)
公弘は雅の言葉に心の中で呟きつつ、曖昧な笑みだけを返した。
「あの~、おれには?おれにはその『祝い』ってやつないの?」
重清が、そう言って雅に手を挙げた。
「何言ってるんだい。重清には、後日当主就任祝いに、あたしがたっぷり修行わつけてやるよ」
「いや、おれだけ罰ゲームなんですけど」
「何か言ったかい?」
「はいはい、なんでもないですよー。もう、ばあちゃんの修行でもなんでも、かかってこいってんだ」
「重清、頑張れよ」
いつの間にかマキネッタから猫の姿へと戻っていたプレッソが、重清にニヤニヤ顔を向けると、
「プレッソ、もちろんあんたにも修行を受けてもらうよ。末席とはいえ、当主の具現獣に相応しい強さを身に着けてもらわないといけないからね」
雅は当たり前のようにプレッソへと告げた。
「うそぉ~ん・・・」
雅の言葉に落ち込むプレッソに重清は、
(だってさ。ま、じいちゃんとの手合わせに比べたら、そんなにキツくないから大丈夫だって)
そう、心の中でプレッソに語りかけた。
(重清!?平八との手合わせって何!?)
そんな重清の言葉に、チーノが食って掛かった。
(あー、後で説明するから)
重清がチーノへと答えていると、雅が一同を見渡した。
「とにかく、今日のところはこれで解散だよ。みんな、ご苦労だったね」
そんな雅の宣言により、雑賀末席当主争奪戦は、幕を閉じるのであった。
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