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新学期と
第376話:アカとシンと結婚
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「何も聞こえねぇな」
シンは小さく茜へと語りかけた。
現在シンと茜は、図書室の内部にある社会科研究部の部室から、図書室を覗き込んでいた。
理由はもちろん、2中七不思議の1つ、『図書室ですすり泣く声』の正体を探るためなのであるが、待てども待てどもそのような声は聞こえることなく、シンと茜は不毛な時を過ごしていた。
「もう、他の所に行かない?」
もう完全にシンへの敬語を使わなくなって久しい茜は、シンの言葉にそう返した。
「だな。あと残っているのは・・・『少女の名を呼び続ける気味の悪い声』、か」
「これって、場所が特定されてないのよね?」
「っていうか、色んな所で聞こえるらしい」
「なにそれ。決まった場所じゃない分、他のより怖いんですけど」
「確かにな。どうする?『茜~』とか聞こえてきたら」
「何が出てきても、全部この拳で打ち砕くんだけどね」
「師匠ならマジで幽霊でもぶん殴りそうだもんな」
いつの頃からか茜を師匠と呼ぶようになっていたシンは、納得したように頷いてみせた。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行くわよ」
「へぇ~い」
そんなこんなで、2人は社会科研究部の部室を離れ、校舎を歩き回ることになった。
夜の校内とはいえ、この日は何故か何人もの教師達が、懐中電灯片手に歩き回っていた。
そんななかを、シンと茜は身を隠しながら進んでいた。
「先生達、なにしてるんだろうな」
廊下を進む教師が通り過ぎるのを待って、シンは呟いた。
「何か探しているみたいだけど・・・」
「もしかして、俺達と同じキーホルダーだったりして」
「まさか。いくらなんでも、そのためにわざわざ暗い中で探しものなんてしないでしょ」
「だったら、師匠は何を探してると思うんだよ」
「何か、無くしたのがバレるとまずいもの、とか?」
「なんだよそれ」
「私にだってわからないわよ、そんなの。
それよりもほら、さっさと―――」
「※▲ね~~」
「おい、今の・・・」
「しっ!」
突然聞こえてきたその声に、2人はじっと耳を傾けた。
「※▲ね~~」
「なぁ。あれマジで『あかね~』って言ってないか?」
「いや、違うわ。よく聞いて」
「※とね~~」
「なんだろ。1年前くらいにはよく聞かされた言葉のような・・・」
聞こえてくる声に、シンがそう言って首を傾げていると。
「ことね~」
そう呟きながら、1人の男がフラフラと歩いていた。
「あれは、2年連続でシゲ達の担任になった、田中先生ね。
シゲが大好きな、『琴音ちゃん』のお父さんの」
「師匠、なんで若干説明口調なんだ?」
「色々あるのよ」
そう。色々あるのだ。
「ことね~、パパのこと避けないでくれよ~。
たまには休みの日に、パパの相手もしてくれよぉ~~」
田中は、涙を流してそう言いながら、暗がりの中を明かりも灯さずに彷徨っていた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
シンと茜は、その田中の様子を見守ることしかできなかった。
そのまま押し黙る2人のそばをゾンビの如く歩く田中は、それでも時々思い出したようにきょろきょろと何かを探しながらそのまま歩き続け、やがて2人の視界から消えていった。
「とりあえず、これで1つ解決ね」
「いやあれ、ある意味怪談話より怖いだろ。俺、娘より息子が欲しいわ」
「シンさんの場合、そんな心配以前の問題だけどね」
「うるせぇわ」
(私も、もう少しパパに優しくしなきゃな。職場であんなふうになったら困るわ)
田中の姿を思い出し、茜は囁くように呟いた。
「師匠、なんか言った?」
「なんでもない。それより、そろそろ図書室に戻ってみない?」
「だな。もしかしたら、すすり泣く声の主がいるかもしれねぇしな」
茜の言葉にシンが頷くと、2人は再び図書室へと向かった。
「師匠、ホントにまた何か聞こえてくるぞ」
図書室の扉に差し掛かった2人の耳に、女のすすり泣く声が届いた。
2人が扉から中を覗くと、女が1人、図書室のカウンターに突っ伏して泣いていた。
「私がアレを失くしちゃったせいで、みんなに迷惑かけちゃった~~。
私なんて、私なんて・・・・・」
「島田さんだな」
そう。声の主は、図書室の主でもある島田さんその人であった。
「まぁ、予想はついてたんだけどね」
シンの言葉に、茜は苦笑いを返していた。
「なんか、島田さんのせいで先生達が何か探してるってふうにも聞こえるな・・・」
「でも、それだと今日だけの話なんじゃない?それじゃ、噂にはならないわよ」
「待て、他にも何か言ってるぞ」
「こんな私なんて、どうせ一生結婚できないのよ・・・
結婚したいよぉ~~。
もう親に結婚急かされたくないよぉ~~。
友達の結婚式に呼ばれてばかりなんてやだよぉ~~」
「さっきの歎きよりも、気持ちこもってんな」
「多分、噂の正体はこっちね」
「「・・・・・・・・・・・・」」
結婚したことにより、娘に涙する田中。
結婚できない事により、夜な夜な図書室で涙する島田さん。
そんな相対する2人を、この短時間で見せつけられた2人の心境はいかなるものか。
「結婚って、なんなんだろうな」
シンのその言葉だけが、すすり泣きの溢れる図書室に、吸い込まれて行くのであった。
シンは小さく茜へと語りかけた。
現在シンと茜は、図書室の内部にある社会科研究部の部室から、図書室を覗き込んでいた。
理由はもちろん、2中七不思議の1つ、『図書室ですすり泣く声』の正体を探るためなのであるが、待てども待てどもそのような声は聞こえることなく、シンと茜は不毛な時を過ごしていた。
「もう、他の所に行かない?」
もう完全にシンへの敬語を使わなくなって久しい茜は、シンの言葉にそう返した。
「だな。あと残っているのは・・・『少女の名を呼び続ける気味の悪い声』、か」
「これって、場所が特定されてないのよね?」
「っていうか、色んな所で聞こえるらしい」
「なにそれ。決まった場所じゃない分、他のより怖いんですけど」
「確かにな。どうする?『茜~』とか聞こえてきたら」
「何が出てきても、全部この拳で打ち砕くんだけどね」
「師匠ならマジで幽霊でもぶん殴りそうだもんな」
いつの頃からか茜を師匠と呼ぶようになっていたシンは、納得したように頷いてみせた。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行くわよ」
「へぇ~い」
そんなこんなで、2人は社会科研究部の部室を離れ、校舎を歩き回ることになった。
夜の校内とはいえ、この日は何故か何人もの教師達が、懐中電灯片手に歩き回っていた。
そんななかを、シンと茜は身を隠しながら進んでいた。
「先生達、なにしてるんだろうな」
廊下を進む教師が通り過ぎるのを待って、シンは呟いた。
「何か探しているみたいだけど・・・」
「もしかして、俺達と同じキーホルダーだったりして」
「まさか。いくらなんでも、そのためにわざわざ暗い中で探しものなんてしないでしょ」
「だったら、師匠は何を探してると思うんだよ」
「何か、無くしたのがバレるとまずいもの、とか?」
「なんだよそれ」
「私にだってわからないわよ、そんなの。
それよりもほら、さっさと―――」
「※▲ね~~」
「おい、今の・・・」
「しっ!」
突然聞こえてきたその声に、2人はじっと耳を傾けた。
「※▲ね~~」
「なぁ。あれマジで『あかね~』って言ってないか?」
「いや、違うわ。よく聞いて」
「※とね~~」
「なんだろ。1年前くらいにはよく聞かされた言葉のような・・・」
聞こえてくる声に、シンがそう言って首を傾げていると。
「ことね~」
そう呟きながら、1人の男がフラフラと歩いていた。
「あれは、2年連続でシゲ達の担任になった、田中先生ね。
シゲが大好きな、『琴音ちゃん』のお父さんの」
「師匠、なんで若干説明口調なんだ?」
「色々あるのよ」
そう。色々あるのだ。
「ことね~、パパのこと避けないでくれよ~。
たまには休みの日に、パパの相手もしてくれよぉ~~」
田中は、涙を流してそう言いながら、暗がりの中を明かりも灯さずに彷徨っていた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
シンと茜は、その田中の様子を見守ることしかできなかった。
そのまま押し黙る2人のそばをゾンビの如く歩く田中は、それでも時々思い出したようにきょろきょろと何かを探しながらそのまま歩き続け、やがて2人の視界から消えていった。
「とりあえず、これで1つ解決ね」
「いやあれ、ある意味怪談話より怖いだろ。俺、娘より息子が欲しいわ」
「シンさんの場合、そんな心配以前の問題だけどね」
「うるせぇわ」
(私も、もう少しパパに優しくしなきゃな。職場であんなふうになったら困るわ)
田中の姿を思い出し、茜は囁くように呟いた。
「師匠、なんか言った?」
「なんでもない。それより、そろそろ図書室に戻ってみない?」
「だな。もしかしたら、すすり泣く声の主がいるかもしれねぇしな」
茜の言葉にシンが頷くと、2人は再び図書室へと向かった。
「師匠、ホントにまた何か聞こえてくるぞ」
図書室の扉に差し掛かった2人の耳に、女のすすり泣く声が届いた。
2人が扉から中を覗くと、女が1人、図書室のカウンターに突っ伏して泣いていた。
「私がアレを失くしちゃったせいで、みんなに迷惑かけちゃった~~。
私なんて、私なんて・・・・・」
「島田さんだな」
そう。声の主は、図書室の主でもある島田さんその人であった。
「まぁ、予想はついてたんだけどね」
シンの言葉に、茜は苦笑いを返していた。
「なんか、島田さんのせいで先生達が何か探してるってふうにも聞こえるな・・・」
「でも、それだと今日だけの話なんじゃない?それじゃ、噂にはならないわよ」
「待て、他にも何か言ってるぞ」
「こんな私なんて、どうせ一生結婚できないのよ・・・
結婚したいよぉ~~。
もう親に結婚急かされたくないよぉ~~。
友達の結婚式に呼ばれてばかりなんてやだよぉ~~」
「さっきの歎きよりも、気持ちこもってんな」
「多分、噂の正体はこっちね」
「「・・・・・・・・・・・・」」
結婚したことにより、娘に涙する田中。
結婚できない事により、夜な夜な図書室で涙する島田さん。
そんな相対する2人を、この短時間で見せつけられた2人の心境はいかなるものか。
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