390 / 519
新学期と
第341話:廊下での出来事
しおりを挟む
始業式の2日後。
昼休みにたまたま出会った重清と聡太、そして恒久は、廊下の隅で周りに聞こえないような小声で話していた。
「しかしユウのやつ。まさか1日目で試験を全部クリアしちまうとはな」
恒久がそう言うと、重清と聡太は苦笑いを浮かべて頷き返していた。
恒久の言う試験とは、1年前にノリが彼らに課したものと同じ、心・技・体の力を使った試験のことである。
重清達4人は、その試験クリアに散々手こずっていたが、それを優希は、初日に全てクリアしたのである。
「シンさん達、ショック受けてたね」
聡太はそう言って、笑っていた。
シン達は、1年前同様今年もそれぞれ、心・技・体の力の指導に当たる予定であったのだが、優希が初日で全ての試験をクリアしたことにより、全く出番がなかったのだった。
「先輩らしさを発揮できる唯一の場だったのに」
とは、シンの言葉。
重清達がそんな雑談をしていると、
「おい芥川。お前なんで、女子の制服なんて着てるんだよ?」
そんな声が、重清達の耳に届いた。
重清達が声のした方に目を向けると、優希が何人かの男子生徒達に囲まれているようであった。
重清達は互いに視線を交わし、頷き合ってそちらへと向かった。
「なんか揉め事?」
重清が優希を囲む輪に声をかけると、
「はぁ?」
1人生徒がそう言って重清を睨んでいた。
「おっ、ユウ。やっと制服届いたんだな。似合うじゃねぇか」
それを無視して、恒久は優希へと笑いかけた。
ちなみに優希、自身の性の不一致を兄であるショウと両親に相談したのがショウの卒業式の日であり、すぐにそれを受け入れた両親が急いで女子生徒の制服を注文するも、あまりにも急であったことから入学式に制服が間に合っていなかったのだ。
それを知っていた恒久が言ったその言葉に、優希は答えることなく、ただその場で俯いていた。
「なんだよお前ら。俺らに何か用かよ」
1人の生徒が、恒久の前に出てきた。
「お前ら、1年だよな?俺は気にしないけど、先輩への言葉使いには気をつけろよ?
俺がこいつのいとこだったら、お前今頃、壁にめり込んでんぞ?」
恒久は重清を指しながら目の前の少年に告げた。
「いや、意味わかんないんですけど?」
しかし恒久に立ちはだかった少年は、それに臆することなくヘラヘラと笑いながら恒久へとそう返した。
少年の態度にため息をついて、恒久は優希を取り囲む一団を睨みつけた。
「で、お前ら、なにウチの可愛い後輩イジメてくれちゃってんの?」
「だってこいつ、男のくせに女の制服なんて着てるんだぜ?」
恒久の言葉に、別の生徒が優希を指さして笑っていた。
「ねぇ君たち。多様性って言葉、知ってる?」
聡太が、そう言って少年達に笑顔を向けた。
「きっと知らないんだよね。あっ、ちょうど先生来たから、聞いてみたら?」
そう言って聡太は、廊下の向うに目を向けた。
「ちっ。行こうぜ!」
初めに恒久に突っかかった少年がそう言うと、優希を取り囲んでいた輪がまたたく間に消えていった。
「ソウ、相変わらず良い性格してんな」
聡太の視線の先に誰もいないことを確認した恒久は、そう聡太に言うと、
「ユウ、大丈夫か?」
心配そうに優希に声をかけた。
優希は今にも泣きそうな顔を上げて、無理矢理作った笑顔を返した。
「はい。こうなることは、覚悟してたので・・・って痛いっ!」
優希は突然おでこに走った微かな痛みに、声を上げた。
「無理してんじゃねぇよ。辛かったら泣いていいんだぞ?
まぁ、俺が胸貸すわけにもいかねぇから、いつでも茜の胸使えばいいさ」
優希にデコピンを仕掛けた恒久は、そう言って優希へと笑いかけていた。
「おぉ~。なんか今日のツネ、かっこいいね」
「うん。多分、まともに話してくれる女の子相手だから、頑張ってるんだよ」
「おいお前ら、聞こえてんだぞ?」
コソコソと話す重清と聡太に、恒久が声をかけていると、2人の女子生徒がオズオズと優希へと近づいた。
「優希ちゃん、ごめん・・・私、助けてあげられなくて」
「ごめんね。あんなに男子がいたら、怖くて・・・」
そう申し訳無さそうにいう2人に、
「ううん。あんなに男子がいたら、怖いの当たり前だもん。優しい先輩達が助けてくれたから、私は平気っ」
優希はそう言って微笑みかけた。
「あのっ!優希ちゃんを助けてくれて、ありがとうございました!」
1人の少女がそう言って恒久に頭を下げると、もう一方の少女がその袖をグイと引っ張った。
(ちょっと。あの人、噂のムッツリ先輩よ!)
(えっ、この人が?良い人そうなのに・・・)
「あぁ・・・ツネ、あれだけカッコよくても、あの扱いなんだ」
「みたいだね。なんだか、ツネが不憫だよ」
「まっ、気にすんな!ウチの後輩と、仲良くしてやってくれよっ!」
重清と聡太の悲しい囁きに気付いていない恒久は、そう言って颯爽とその場を後にした。
「おぉ~、去り際もカッコいいな」
重清はそう呟きながら聡太と共に恒久を追っていると、
「優希ちゃん、大丈夫だった!?あの人に、いやらしいことされなかった!?」
優希の友人である少女が、優希に心配そうに声をかけていた。
「「・・・・・・」」
重清と聡太は互いに視線を合わせ、肩をすくめて恒久を追った。
「うん、大丈夫」
優希は友人にそう返しながら、去りゆく恒久の背を見つめていた。
その目に、助けてくれた感謝以外の熱い想いが込められていることに、その場の誰も、気付くことはなかったのであった。
昼休みにたまたま出会った重清と聡太、そして恒久は、廊下の隅で周りに聞こえないような小声で話していた。
「しかしユウのやつ。まさか1日目で試験を全部クリアしちまうとはな」
恒久がそう言うと、重清と聡太は苦笑いを浮かべて頷き返していた。
恒久の言う試験とは、1年前にノリが彼らに課したものと同じ、心・技・体の力を使った試験のことである。
重清達4人は、その試験クリアに散々手こずっていたが、それを優希は、初日に全てクリアしたのである。
「シンさん達、ショック受けてたね」
聡太はそう言って、笑っていた。
シン達は、1年前同様今年もそれぞれ、心・技・体の力の指導に当たる予定であったのだが、優希が初日で全ての試験をクリアしたことにより、全く出番がなかったのだった。
「先輩らしさを発揮できる唯一の場だったのに」
とは、シンの言葉。
重清達がそんな雑談をしていると、
「おい芥川。お前なんで、女子の制服なんて着てるんだよ?」
そんな声が、重清達の耳に届いた。
重清達が声のした方に目を向けると、優希が何人かの男子生徒達に囲まれているようであった。
重清達は互いに視線を交わし、頷き合ってそちらへと向かった。
「なんか揉め事?」
重清が優希を囲む輪に声をかけると、
「はぁ?」
1人生徒がそう言って重清を睨んでいた。
「おっ、ユウ。やっと制服届いたんだな。似合うじゃねぇか」
それを無視して、恒久は優希へと笑いかけた。
ちなみに優希、自身の性の不一致を兄であるショウと両親に相談したのがショウの卒業式の日であり、すぐにそれを受け入れた両親が急いで女子生徒の制服を注文するも、あまりにも急であったことから入学式に制服が間に合っていなかったのだ。
それを知っていた恒久が言ったその言葉に、優希は答えることなく、ただその場で俯いていた。
「なんだよお前ら。俺らに何か用かよ」
1人の生徒が、恒久の前に出てきた。
「お前ら、1年だよな?俺は気にしないけど、先輩への言葉使いには気をつけろよ?
俺がこいつのいとこだったら、お前今頃、壁にめり込んでんぞ?」
恒久は重清を指しながら目の前の少年に告げた。
「いや、意味わかんないんですけど?」
しかし恒久に立ちはだかった少年は、それに臆することなくヘラヘラと笑いながら恒久へとそう返した。
少年の態度にため息をついて、恒久は優希を取り囲む一団を睨みつけた。
「で、お前ら、なにウチの可愛い後輩イジメてくれちゃってんの?」
「だってこいつ、男のくせに女の制服なんて着てるんだぜ?」
恒久の言葉に、別の生徒が優希を指さして笑っていた。
「ねぇ君たち。多様性って言葉、知ってる?」
聡太が、そう言って少年達に笑顔を向けた。
「きっと知らないんだよね。あっ、ちょうど先生来たから、聞いてみたら?」
そう言って聡太は、廊下の向うに目を向けた。
「ちっ。行こうぜ!」
初めに恒久に突っかかった少年がそう言うと、優希を取り囲んでいた輪がまたたく間に消えていった。
「ソウ、相変わらず良い性格してんな」
聡太の視線の先に誰もいないことを確認した恒久は、そう聡太に言うと、
「ユウ、大丈夫か?」
心配そうに優希に声をかけた。
優希は今にも泣きそうな顔を上げて、無理矢理作った笑顔を返した。
「はい。こうなることは、覚悟してたので・・・って痛いっ!」
優希は突然おでこに走った微かな痛みに、声を上げた。
「無理してんじゃねぇよ。辛かったら泣いていいんだぞ?
まぁ、俺が胸貸すわけにもいかねぇから、いつでも茜の胸使えばいいさ」
優希にデコピンを仕掛けた恒久は、そう言って優希へと笑いかけていた。
「おぉ~。なんか今日のツネ、かっこいいね」
「うん。多分、まともに話してくれる女の子相手だから、頑張ってるんだよ」
「おいお前ら、聞こえてんだぞ?」
コソコソと話す重清と聡太に、恒久が声をかけていると、2人の女子生徒がオズオズと優希へと近づいた。
「優希ちゃん、ごめん・・・私、助けてあげられなくて」
「ごめんね。あんなに男子がいたら、怖くて・・・」
そう申し訳無さそうにいう2人に、
「ううん。あんなに男子がいたら、怖いの当たり前だもん。優しい先輩達が助けてくれたから、私は平気っ」
優希はそう言って微笑みかけた。
「あのっ!優希ちゃんを助けてくれて、ありがとうございました!」
1人の少女がそう言って恒久に頭を下げると、もう一方の少女がその袖をグイと引っ張った。
(ちょっと。あの人、噂のムッツリ先輩よ!)
(えっ、この人が?良い人そうなのに・・・)
「あぁ・・・ツネ、あれだけカッコよくても、あの扱いなんだ」
「みたいだね。なんだか、ツネが不憫だよ」
「まっ、気にすんな!ウチの後輩と、仲良くしてやってくれよっ!」
重清と聡太の悲しい囁きに気付いていない恒久は、そう言って颯爽とその場を後にした。
「おぉ~、去り際もカッコいいな」
重清はそう呟きながら聡太と共に恒久を追っていると、
「優希ちゃん、大丈夫だった!?あの人に、いやらしいことされなかった!?」
優希の友人である少女が、優希に心配そうに声をかけていた。
「「・・・・・・」」
重清と聡太は互いに視線を合わせ、肩をすくめて恒久を追った。
「うん、大丈夫」
優希は友人にそう返しながら、去りゆく恒久の背を見つめていた。
その目に、助けてくれた感謝以外の熱い想いが込められていることに、その場の誰も、気付くことはなかったのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件
九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。
勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。
S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。
そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。
五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。
魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。
S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!?
「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」
落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる