326 / 519
一息ついて
第289話:重清、クラスメイトの部屋に上がり込む
しおりを挟む
初めて今泉の家に行った翌日から、重清は事あるごとに今泉宅にお邪魔していた。
「お前、こんなとこに来て楽しいのか?」
ある日、今泉が扉越しに重清へと尋ねた。
「え?あぁ、楽しいよ。おれの周り、煩い奴らばっかでさ。こんなに聞き上手なやつ、なかなかいないんだよ」
重清は、見えもしないのに今泉へと笑いかけた。
「・・・・・こんな顔もわからない様なやつに、よくもまぁこれだけ話せるもんだ」
「そんなに言うんなら、そろそろ顔くらい見せてくれてもいいじゃん」
「・・・・・・・・」
再び沈黙を守る今泉に、重清は苦笑いして立ち上がった。
「じゃ、今日はそろそろ―――」
「ガチャッ」
重清が口を開くのと同時に、今泉の部屋の扉が僅かに開いた。
「「・・・・・・・・」」
扉の隙間から除く今泉の視線が、重清のそれと重なった。
その一瞬ののち、扉は再び閉じようとした。
「うぉっと!って、いってぇ!!!」
咄嗟に締まりそうな扉の隙間に手を突っ込んだ重清は、見事に指を挟まれて叫び声をあげた。
「鈴木君、大丈夫~?」
階下から今泉の母親が心配そうにかけてきた声に、
「あ、大丈夫です!うるさくしてすみません!」
重清はそう声を返して扉の隙間を覗き込んだ。
「開けてくれたよね!?今、心の扉開けてくれたよね!?」
「いや、心の扉は開いていない」
重清が目を輝かせて言った言葉に、扉の隙間から今泉はそう返し、諦めたようにため息をついた。
重清の指が、扉から解放された。
「入れよ」
今泉はそれだけ言うと踵を返し、部屋の奥へと進んでいった。
「おじゃましまーす」
今泉の後を追った重清は、そう言って部屋の中へと入っていった。
「うわぁ・・・すっげー本の量・・・」
重清は、部屋の壁一面の本棚に整然と並ぶ本に、声を漏らした。
「顔見せろっていうから部屋に入れたのに、最初の言葉がそれかよ」
「あ、ごめんごめん」
重清は本棚から視線を外し、今泉へと向き直った。
「・・・・・・・・・・なんていうか、普通だな」
今泉の顔を見た重清は、ボソリと言った。
「なんだよ普通って。どんな顔想像してたんだよ」
「どうって・・・なんかこう、髪ボサボサで、髭ボーボー的な?」
「お前、引きこもりにどんな偏見持ってんだよ」
「あ、引きこもりとか自分で言っちゃうんだ」
「1日中部屋んなかにいるんだ。これが引きこもりじゃなかったらなんなんだよ」
「自宅警備員とか?」
「部屋の中で警備なんて、クソの役にも立つかよ」
「なはは。確かに~」
重清が笑うと、その場に微妙な空気が流れた。
「「・・・・・・」」
しばしの間2人の間に流れた沈黙を破ったのは、意外にも今泉であった。
「聞かねえのかよ。なんで学校行かないのか」
「あー、そう言うのって、聞いていいか迷うじゃん?聞いていいなら聞くけど」
「なんかそう言われると、言いたくなくなるな」
「あっ、今の無し!今泉様!どうか理由を聞かせてください!」
重清はそう言いながら今泉に手を合わせて頭を下げた。
「って言っても、大した理由じゃないんだけどな」
そう言いながら今泉は、気怠そうに言葉をつづけた。
「特に無いんだよ。やりたいことが。学校に行ったってそれは変わらねぇ。だから、行くだけ無駄なんだよ、学校なんて」
今泉の言葉を聞いた重清は、少しの間口を開けて呆気にとられた後、目を輝かせた。
「今泉君、凄いな!」
「は?」
今度は今泉が呆気にとられたように声を漏らした。
「お前、何言ってんの?俺が凄い?意味わかんねぇ。こういう時は普通、『学校、楽しいところだよ!今泉君も一緒に学校に行こうよ!』とかいうとこなんじゃないのか?」
「いや、まぁおれにとっては学校って、そこそこ楽しくはあるよ?でもそれっておれの主観じゃん。おれが楽しいことが今泉君にも楽しいかわからないのに、無責任にそんなこと言えるわけないじゃん」
「お前、意外と人のこと考えてるんだな」
「うん、意外と、は余計だけどね」
「で、なんで俺が凄いんだよ」
「だって、凄いじゃん!ちゃんと自分のこと考えて、『やりたいことが学校にないから行かない』って決めてんじゃん。
おれもさ、別に何が楽しくて学校に行ってるかなんて、ほんとはわかんないんだよね。まぁ、部活は結構楽しいんだけどさ。それ以外は別に、普通なんだよね、普通。ただ、行かなきゃいけないから行ってるってだけ。それなのに今泉君は、そんなのに流されず、ちゃんと自分で考えて行動してんじゃん。それって、凄いことだと思うよ」
「・・・・お前、やっぱ変な奴だな」
「引きこもりには言われたくないね」
「うるせぇよ。っていうかお前、部活楽しいとか言ってたけど、何部なんだよ?」
「あれ、言ってなかったっけ?社会科研究部だよ」
「いや、それ逆に何が面白いのか聞かせて欲しいわ」
「なはは~、色々あるんだよ」
「なんだよそれ」
2人はそう言いあいながら、笑っていた。
「お前、こんなとこに来て楽しいのか?」
ある日、今泉が扉越しに重清へと尋ねた。
「え?あぁ、楽しいよ。おれの周り、煩い奴らばっかでさ。こんなに聞き上手なやつ、なかなかいないんだよ」
重清は、見えもしないのに今泉へと笑いかけた。
「・・・・・こんな顔もわからない様なやつに、よくもまぁこれだけ話せるもんだ」
「そんなに言うんなら、そろそろ顔くらい見せてくれてもいいじゃん」
「・・・・・・・・」
再び沈黙を守る今泉に、重清は苦笑いして立ち上がった。
「じゃ、今日はそろそろ―――」
「ガチャッ」
重清が口を開くのと同時に、今泉の部屋の扉が僅かに開いた。
「「・・・・・・・・」」
扉の隙間から除く今泉の視線が、重清のそれと重なった。
その一瞬ののち、扉は再び閉じようとした。
「うぉっと!って、いってぇ!!!」
咄嗟に締まりそうな扉の隙間に手を突っ込んだ重清は、見事に指を挟まれて叫び声をあげた。
「鈴木君、大丈夫~?」
階下から今泉の母親が心配そうにかけてきた声に、
「あ、大丈夫です!うるさくしてすみません!」
重清はそう声を返して扉の隙間を覗き込んだ。
「開けてくれたよね!?今、心の扉開けてくれたよね!?」
「いや、心の扉は開いていない」
重清が目を輝かせて言った言葉に、扉の隙間から今泉はそう返し、諦めたようにため息をついた。
重清の指が、扉から解放された。
「入れよ」
今泉はそれだけ言うと踵を返し、部屋の奥へと進んでいった。
「おじゃましまーす」
今泉の後を追った重清は、そう言って部屋の中へと入っていった。
「うわぁ・・・すっげー本の量・・・」
重清は、部屋の壁一面の本棚に整然と並ぶ本に、声を漏らした。
「顔見せろっていうから部屋に入れたのに、最初の言葉がそれかよ」
「あ、ごめんごめん」
重清は本棚から視線を外し、今泉へと向き直った。
「・・・・・・・・・・なんていうか、普通だな」
今泉の顔を見た重清は、ボソリと言った。
「なんだよ普通って。どんな顔想像してたんだよ」
「どうって・・・なんかこう、髪ボサボサで、髭ボーボー的な?」
「お前、引きこもりにどんな偏見持ってんだよ」
「あ、引きこもりとか自分で言っちゃうんだ」
「1日中部屋んなかにいるんだ。これが引きこもりじゃなかったらなんなんだよ」
「自宅警備員とか?」
「部屋の中で警備なんて、クソの役にも立つかよ」
「なはは。確かに~」
重清が笑うと、その場に微妙な空気が流れた。
「「・・・・・・」」
しばしの間2人の間に流れた沈黙を破ったのは、意外にも今泉であった。
「聞かねえのかよ。なんで学校行かないのか」
「あー、そう言うのって、聞いていいか迷うじゃん?聞いていいなら聞くけど」
「なんかそう言われると、言いたくなくなるな」
「あっ、今の無し!今泉様!どうか理由を聞かせてください!」
重清はそう言いながら今泉に手を合わせて頭を下げた。
「って言っても、大した理由じゃないんだけどな」
そう言いながら今泉は、気怠そうに言葉をつづけた。
「特に無いんだよ。やりたいことが。学校に行ったってそれは変わらねぇ。だから、行くだけ無駄なんだよ、学校なんて」
今泉の言葉を聞いた重清は、少しの間口を開けて呆気にとられた後、目を輝かせた。
「今泉君、凄いな!」
「は?」
今度は今泉が呆気にとられたように声を漏らした。
「お前、何言ってんの?俺が凄い?意味わかんねぇ。こういう時は普通、『学校、楽しいところだよ!今泉君も一緒に学校に行こうよ!』とかいうとこなんじゃないのか?」
「いや、まぁおれにとっては学校って、そこそこ楽しくはあるよ?でもそれっておれの主観じゃん。おれが楽しいことが今泉君にも楽しいかわからないのに、無責任にそんなこと言えるわけないじゃん」
「お前、意外と人のこと考えてるんだな」
「うん、意外と、は余計だけどね」
「で、なんで俺が凄いんだよ」
「だって、凄いじゃん!ちゃんと自分のこと考えて、『やりたいことが学校にないから行かない』って決めてんじゃん。
おれもさ、別に何が楽しくて学校に行ってるかなんて、ほんとはわかんないんだよね。まぁ、部活は結構楽しいんだけどさ。それ以外は別に、普通なんだよね、普通。ただ、行かなきゃいけないから行ってるってだけ。それなのに今泉君は、そんなのに流されず、ちゃんと自分で考えて行動してんじゃん。それって、凄いことだと思うよ」
「・・・・お前、やっぱ変な奴だな」
「引きこもりには言われたくないね」
「うるせぇよ。っていうかお前、部活楽しいとか言ってたけど、何部なんだよ?」
「あれ、言ってなかったっけ?社会科研究部だよ」
「いや、それ逆に何が面白いのか聞かせて欲しいわ」
「なはは~、色々あるんだよ」
「なんだよそれ」
2人はそう言いあいながら、笑っていた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる